24・復讐
「復讐?」
「ああ――レイナは元々《四大財閥》はもう一つを加えた《五大財閥》だった、っていうことは知っているか?」
「……聞いたことはあるわね。でもそうだったのは一瞬だけ。すぐに《五大財閥》に名を連ねた一族は滅びたんじゃなかったの?」
「その幻の一族の名は――竜頭司」
「竜頭司……え、まさかあんたっ!」
驚愕によってレイナの瞳孔が開いた。
「そうだ。俺は元々、《五大財閥》の一つだった」
だからこそ――レイナやむすびのことを家名で呼びたくなかった。
この感情は嫉妬心かもしれない。
元々は竜頭司も《五大財閥》として、名を連ねていた、という誇りからだったかもしれない。
「それで……どうして、竜頭司が財閥から抜けることになったのか。その理由について知っているか?」
「……確か理由は不明のはず。だけど新興の財閥だったからね。どうせ《魔敵》か何かにやられて、一族が壊滅したんでしょ?」
それこそ、今の桜乱華みたいに。
とレイナは皮肉げに続けた。
「《魔敵》にやられた。成る程。それは部分的には正解かもしれない」
「どういうこと?」
「竜頭司一族は一人の男によって滅ぼされたんだ。その一人の男とは――俺の兄貴。名を竜頭司夜枷と言う」
「夜枷? 何処かで聞いたことがあるような……って」
レイナの声がさらに大きくなった。
「夜枷ってあのヨカセっ? 現在、関東魔術軍で最年少で師団になったヨカセ師団長? 一人で《魔神》レベルの《魔敵》とも張り合えるとも言える、生ける伝説ヨカセ師団長っ? それがあんたのお兄さんって言うの?」
「そうだ……信じられないのも無理はない。何故なら兄貴は過去を全て消したからだ」
「ヨカセ師団長の経歴は全て謎に包まれている、と言われているわ。唯一分かっているのは、学園《センター》に在学したことがある、ってことだけらしいけど……まさか、竜頭司一族で、アサトのお兄さんだなんて……とてもじゃないけど信じられないわ」
「だけど――真実なんだ」
レイナの目を見て言葉をぶつける。
透き通ったキレイな瞳に背後の三日月が浮かんでいた。
そんなレイナは俺の言葉を信じてくれたのか、
「まあ良いわ……ここで嘘を吐いても仕方ないから信じてあげる。でも、どうしてヨカセ師団長が一族を滅ぼさないといけなかったのよ?」
「それは――分からない」
「分からない?」
十年前を思い出す。
今まで優しかった兄貴。
しかし突如、牙を向いて屋敷を魔術で全部焼き払った。
さらには俺以外の父さんや母さん――皆殺しにしたのだ。
あの時の血液と火炎の赤色だけが今でも瞳に焼き付いている。
「その時に、兄貴が俺だけを殺さずに聖剣《オルファント》だけを渡したんだ」
「だから、聖剣で魔術が消滅される理由もよく分かっていないのね」
腰に差してある聖剣の柄を握る。
こうしていると、冷静な自分に戻れるからだ。
「兄貴がどうして一族を皆殺しにしたのか。どうしてこんな聖剣を持っていたのか。そして――何故、こんな貴重なものを俺に渡したのか。全ての行動原理が不明だ。
そうするためには、兄貴に問い質さなくてはならない。だけど兄貴は遠い場所に行ってしまった。
だから俺は関東魔術軍に入隊してやる、って決めたんだ。遠い場所に行ってるなら、その高みまで俺が行ってやればいい」
そんな決意を秘めて――魔術師としての才能が伽藍としたまま、俺はここ《イザナミ》に入区することになったのだ。
全てを語り終えると同時に、ティーカップ内の紅茶がなくなった。
「そう。あんたにも辛い過去っていうのがあったのね」
全て嘘だって断定することも可能だっただろう。
だけどレイナは信じてくれた。
真摯な表情で話に耳を傾けてくれていた。
「アサト――やっぱりわたしの盾はあんたしかいないわ」
レイナの顔がさらに近付いてくる。
レイナが俺の体に覆い被さるようにして、床に手を付いた。
「ちょっと、レイナ?」
「だってわたし達似てるじゃない。わたしは《魔敵》に。アサトはお兄さんに大切なものを殺された。
だからわたし達、きっと良い《盟友》になれると思うのよ。だからアサト……わたしの手を取って」
――唇がどんどん接近していく。
静謐の空間。
まるで時間が停止しているように感じられて。
ただ近付いてくる唇を見ていることしか出来なかった。
――だってわたし達似てるじゃない。
――わたしの手を取って。
……ダメだ。やっぱり俺は……っ!
唇と唇が触れ合おうとした瞬間。
俺はレイナの両肩を掴んで引き離した。
「……ごめん。やっぱりレイナの気持ちには応えられない。
俺はきっと失うことが怖いのだと思う。失うことが怖いから臆病になってしまう。そういうもんがあるヤツは、きっと弱いし兄貴には辿り着けない」
俺が魔術的《無神経》であっても、可愛がってくれた兄貴。
そんな兄貴でも俺のことを裏切った。
兄貴、という大切な人間を――その瞬間、失ったのである。
「何よ!」
そう言うと、レイナが怒り立ち上がった。




