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17・いちゃもん

「あそこのハンバーガーショップでバイトをするのはどうなのよ」

「パスだ。飲食店の接客は難しそうだし、忙しそうだろ? それに店内にバイト募集の張り紙が貼ってあったが、時給もあまり高くなかった」

「意外にえり好みが激しいのね」

「俺のクリエイティブな才能を活かすことが出来て、やりがいもあって、且つ時給が高くて休みも多いところが良いな」

「バブル期の就活生みたいなことを言うのね」


 少し予想とは違ったが、お腹も一杯になって自然と上機嫌になってしまう。

 右手にレイナ、左手にはむすびを携えて、俺達は《イザナミ》内を目的もなく彷徨っていた。


《イザナミ》は北区、中央区、南区という三つの区分によって分けられている。

 北区には学園ウィズダム――南区には学園サーフェスがあり、俺達が通う《センター》は中央区にあるためだ。

 魔術師の都市ではあるが、そこまで特区外と風景が違っているわけではない。

 広い道路には車が行き交い、俺達の横を人々が早足で通り過ぎていく。

 ガラス張りの高層ビルが所狭しと並べられており、大型モニターからは流行りのミュージシャンの曲が流れている。


 魔術師の養成所、という側面もある以上、《魔敵エネミー》も多く出現して狙ってくる。

 破壊されては再生、と繰り返される都市はまるで不死身の生物を思わせた。


「アサト。ボクは歩き疲れたぞ。このままじゃ足に犬が当たってきそうだ」

「足が棒になっている、っていう意味か。分かりにくい」

「わたしも、ちょっと休憩したいかも……そうだ。アサト。あそこで休みましょうよ」


 レイナが指差したのは緑が多い公園であった。

 中央には噴水があり、取り囲むようにしてベンチが備えられている。


「まあ晩飯までにはまだ時間があるからな」

「アサトは食べることしか頭にないのか?」


 むすびが疑問を発する。


 日光が公園に降り注ぎ、小鳥の囀りさえ聞こえる極楽の空間。

 俺達はそこに足を踏み入れ、ベンチに座った。


「……何でそんなに密着してくるんだ?」


 ベンチはそこまで小さいわけではない。

 木製のベンチは五人くらいまでなら、並んで座ることが出来るだろう。


「むすび。アサトからさっさと離れなさいよ。お得意の重力系魔術で大気圏を突破したら?」

「ゴミレイナこそ、宇宙空間に放り出されて寂しくて死ね!」


 ――両隣からレイナとむすびが引っ付いてくるのだ。


 二人共、両手で俺の腕を掴んでくる。

 ハンバーガーを引きずるわけではないが、俺は中に入れられた肉のような気分になっていた。


「アサトもこんな子どもみたいなむすびじゃあ、興奮しないわよね? アサトはわたしみたいな大人の女性が似合うんだから」

「Aカップのくせに何を言ってるんだ」

「あんたも貧乳のくせに」

「ククク……何を言っているレイナ。ボクは新たなステージに足を踏み入れたぞ」

「まさかあんた……Bの領域にっ!」


 俺を挟んで何て会話をしてやがる。

 レイナもむすびも子どもみたいな体つきをしていて、巨乳好きの俺から見ればどちらも興奮しない。


 しかし――それは見ているだけに限る。

 口論が熱中していくのに比例して、どんどんと二人の体の密着度が増していく。

 そのせいで、柔らかな感触が俺の腕で躍動しているのである。


「嘘を吐きなさい! 見た目は全く変わらないじゃない」

「それは先入観のせいだ。アサトとキスして、起きたら胸が膨らんでいたんだぞ」

「へ、変態! アサトにそんな趣味があったなんて!」


 俺はいままで、女の子の胸の感触って大きいからこそ実現するものだ、と思い込んでいたんだ。

 もしかしたら今日でそれを改めなければならないかもしれない。

 確かに圧倒的ボリュームは感じさせない。


 しかし――微かではあるものの、どちらも男にはない柔らかさを感じるのだ。

 それは二人の体から『女』が産声を上げているみたいで――、


「さっさとアサトから離れなさい! 破廉恥な女とアサトは似合わないわ」

「お前みたいな経験不足のお子様は家で魔法使いのアニメでも見ておけ」

「何よ!」

「お前こそ!」


 二人に詰められ、このままでは爆発してしまいそうだった。

 顔の前には二人の頭。

 女の子のシャンプーの匂いだ。

 嗅いでいるだけで頭が可笑しくなってしまいそうな……。

 脳内にピンク色の靄がかかり、風景が歪んでいく――、


「おい!」


 ――そんな俺の異常な内面を。

 一発で元に戻したのは、不躾なそんな男の声であった。



 顔を上げると、見覚えのある男三人組が肩を揺らして歩いてきた。


「お前等は……確かジョン?」

「鷺山だ! 外人みたいな名前じゃねえよ」


 眉間に皺を寄せる鷺山。


 ああ……確か、俺がレイナとむすびと話している時にイチャモンを付けてきた男だっけな。

 鷺山の周りには、あの時と同じように二人の男も立っている。


「こんなところまで、俺達を監視するなんて、ホント尊敬するよ。もしかして俺の追っかけ?」

「たまたま街を歩いていたら、お前等の姿が見えただけだ!」


 声を荒げる鷺山。

 そうは言っているものの、今日に俺達三人が街中を出歩くことは、あの時の会話を聞いていれば知っているはずだ。

 ならば俺達の後を付けてきたのは明白であろう。


「はあ……一体、お前等は何が気にくわないんだ」


 鷺山達も制服ではなく、ラフな格好になっている。

 白シャツの第二ボタンまで外し、鎖骨の膨らみが暴力をも感じさせる。


「お前みたいな雑草が《四大財閥フォースサミット》と仲良くしているのが気にくわないんだ。なあ桜乱華。お前、《盟友チーム》を組んでくれる人を探しているんだろ? 俺と組もうじゃねえか」


 鷺山がそう言って、レイナに手を差し伸べる。


「嫌よ。わたし、知能が猿以下の人間と組む気はないの」


 俺の腕をさらに強く掴むレイナ。

 むすびと話している時とは別種の不機嫌さが漂っている。


「さ、猿以下……俺の頭が猿以下だとぉっ?」

「お前! 鷺山さんは魔術学園の入学試験でも五十位以内に入った秀才なんだぞ! お前等なんか足元にも及ばないんだ」

「そうだそうだ!」

「また微妙な成績で威張るんだな」


 取り巻き連中は鷺山の背中に隠れて声を上げる。

 入学試験でいくら点数を取っても、魔術師として優れている、ということにはならない。


 俺なんか生徒会長に気に入られただけだから、入学試験〇点だったらしいしな。

 後から聞かされた話なわけだが。


「とにかくどっか行けよ。俺はこの後、ご飯を食べに行かないとダメなんだ」

「やっぱりご飯のことしか頭にないじゃないか」


 むすびが唇を尖らせる。


「て、てめぇ……」


 歯軋りをして、顔が大きく歪む鷺山。


「俺をないがしろにするつもりか?」

「仲間の輪に入れなかった子どもか。そんなんで、いちいち嫉妬してたら社会に出たら苦労するぞ」

「認めさせてやる……」


 拳を強く握っているためか、ギギギッという音が聞こえる。


「俺が……将来の大魔術師ってことをな!」


 鷺山が目の前で手を掲げ、魔術式が展開されていく!

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