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16・ハンバーガー

 休日。


「おぃーっす、待ったか」

「遅いわね。三分前から待っていたのよ」

「『わたしも今、来たところ』っていう台詞を期待してたんだけどなっ? というか三分は誤差だろうが」

「なっ、何でわたしがデートみたいなことを言わないといけないのよ」

「いや、そこは、ノリで」

「あんたなんか酢豚に入ったパイナップルくらいにしか思ってないんだからね!」


 プイッ、とレイナが不機嫌そうに顔を背けてしまう。

 今日は《イザナミ》を案内してもらうグルメツアーである。

 というわけで俺は急ぐわけでもなく、待ち合わせ場所の路面電車のターミナルへと向かった。


「というかレイナ。お前、休日でも学校の制服かよ。色気の欠片もねえな」


 ――レイナならすぐに見つけることが出来た。

 だってこいつ、魔術学園の制服着てるんだぜ?

 ツインテールの髪型、不機嫌そうな面も一緒だしな。


「うっさいわね。学園規則を暗記してないの?」

「そんなもん、暗記してるヤツなんてこの世にいないよ」

「学園規則――第一章生活規則第六条服装の規定で『休日でも制服を着用することが好ましい』って記述されてるじゃない」

「ここにいたーっ!」


 こいつ、超真面目じゃねえか。

 そんなもん、浄徳先生辺りに聞いたら「規則ってもんは、破るためにあるもんだ」とロックなことを言いそうなのに。


「それに比べ……あんたの服。何よそれ。ゴミ袋で作ったの?」

「結構、ハイセンスだろうが」


 建物の窓に映る自分の姿を見る。

 全身黒色の服装。勿論、腰に聖剣《オルファント》を帯刀している。

 前髪を指で捻りながら、


「どうだ? 自分で言うのも何だが、今日の俺イケてねえか?」

「頭ならイッテると思うけどね」


 ジト目のレイナ。

 さあて、無駄話もこれくらいにして昼飯を喰いに行くか。

 と右足を前に差し出すと、


「やっぱりレイナは服装のセンスもダサダサだな!」


 上空から声が落ちてきた。

 周囲にいる人々も一斉に空を見上げる。


「むすび……」

「よっと」


 俺の頭より三メートル上空くらいから、四夜むすびがこちらを見下げていた。

 空中で浮遊していたむすびの体がゆっくりと降下し、やがて地面へと着地した。

 本来、人間一人が空中で浮いていたのだから驚愕する場面だ。

 しかし俺もレイナ、さらには周囲にいる人間もすぐに興味をなくしたようで視線を外した。


「第五級重力系魔術《空中散歩》(ウィング)か」

「そうだ!」

「今、思えば俺の部屋に侵入してきた時もその魔術も使ったんだな」


 腰に手を当てたまま肯くむすび。

 ここは魔術師の卵が多く住んでいる魔術特区。

 これくらいの魔術によって行使される奇跡など見慣れているためだ。


 今――むすびが使った《空中散歩》という魔術は、重力定数を弄くって浮遊することが出来る魔術である。

 この魔術を使うことが出来れば五階建てのマンションの屋上にも上がることは出来るが、ここまで安定して魔術を使えるとは。


「わたしも使えるんだから!」


 そんな俺とむすびを見て、レイナの体を魔術式が包む。

 むすびと同じ《空中散歩》の魔術式である。

 すると地面から足が離れていき、俺の頭も飛び越えて浮遊した。


「どう? アサト。これくらいなら、誰でも使えるのよ!」

「分かった分かった。お前が凄いことは分かったから、さっさと降りてこい。パンツ丸見えだぞ」

「え、えっ?」


 すぐにレイナが赤面してスカートを押さえる。


「変態変態変態! わたしもパンツを見るなんて」

「見えてしまったものは仕方ねえだろうが!」


 ポコポコと頭を殴られる。

 世の中ってのは理不尽だ。


「こんな時にも学校の制服なんてな! お前にはお洒落という概念はないのか!」


 そう罵倒するむすびの格好は、あの夜の時と同じゴスロリ衣装。

 トレードマークのシルクハットの鍔を触った。


「いぃ〜! あんたみたいな不良じゃないのよ」

「それに比べアサトは――う、うん。カ、カッコ良いと思うぞ」

「なら何ですぐに視線を逸らすんだ」


 気まずそうに体をモジモジとさせるむすび。

 レイナとむすび、二大怪獣が同じ場所にいるだけでこんなにも賑やかになるとはな。


「とにかくさっさと行くぞ。そういえば、今日はどっちが上手く案内出来るかの勝負だったはずだな?」


 まあ俺は美味しいご飯を食べられればそれで良いわけだが。


「先行は……まあどっちでも良いが、レイナからにしようか」

「分かったわ。わたしの案内に感涙しないでね」


 ただの情緒不安定な人だろうが。

 そういうわけで、何だかんだで大変な休日が開始したのであった。



「ここよ」


 到着。

 とある店舗の入り口で、レイナは誇らしげに手を広げた。


「……って! ここはハンバーガーショップじゃねえか!」

「そうよ? 何か問題でもあるの?」


《イザナミ》外にも、そこら中にあるチェーン店であった。

 身長が足りていないのか、自動扉の前に立っているのに反応していない。


「……いや。《四大財閥フォースサミット》ってお金持ちなんだろ? もっと高級な店に連れて行かれる、と期待していたわけだが」

「あら? 前、テレビで見たわよ。何でも、外国からハンバーガーショップが進出してきて騒ぎになってる、って」

「いつの話をしてんだよ」


 ……まあお腹が膨れるなら問題はない。

 俺とレイナ、むすび。三人で店内に入り、食べ物を注文する。


「アサトの隣はボクが座るんだ!」

「わたしに決まってるじゃない!」

「おい。何、やってんだ。ここに座るぞ」


 ハンバーガーを載せたトレイを持ったまま、喧嘩している二人を放って、俺は丸いテーブルのところへと腰を下ろす。


「うぅー、折角アサトの隣に座って太股をナデナデしようと思ってたのに」

「やっぱり邪なことを考えてるじゃない!」


 納得はしていないのか、渋い顔でレイナもむすびも椅子に座る。

 店内には若者が多く、それに比例して容姿が整っているヤツも多いように見えた。

 そんなヤツ等が物珍しそうな表情で俺達のテーブルを見ていた。


 ここは魔術学園の敷地外だ。《イザナミ》には魔術師以外の人間も多く住居を構えている。

 なので「おいおい。あれは《黄金の双星ゴールデンルーキー》じゃねえか」なんてことではなく……、


「レイナはもっと気の利いた店を紹介出来ないのか! ボクなんて、こんな店に来たのなんて初めてだぞ!」

「黙って食べられないのかしら。美味しく食べられるならそれで良いじゃない」

「ボクなんて一食が五桁以下の店には行かないようにしているんだぞ。こんな低俗な店の食べ物が美味しいわけがない!」

「じゃああんたのポテト貰うわね。ごちで〜す」

「おい、何をしているんだ! そのポテトはボクのだ!」


 ……いやレイナとむすびの容姿に引かれて、視線を注いでいるのは分かるよ?

 こいつら、高校生にしては貧相な体をしているが、見てくれだけは一級品だしな。

 この二人がいるだけで、こんな有り触れたお店も豪華なパーティー会場のような雰囲気になる。


 しかし……唾を飛ばし合いながら、こうやって低レベルなことを言い争っているのを見ているとな……、


「お前、床にポテトを落としているぞ。キレイに食べられもしないのか」

「わざとよ。慈悲深いわたしは虫とかゴキブリにも食べ物を恵んであげてるの」

「ただの営業妨害じゃないか」


 黙っていれば美少女、っていう幻想を体現してやがるな。

 ハンバーガーにかぶりついて口元にケチャップを付けているレイナを見ていると、とても可愛い女の子なんかには見えない。


「……お前はおとなしく出来ないのかよ」


 ポテトを囓りながら、ボソッと呟く。


「レイナが全て悪いのだ! ウンコレイナが汚くて臭いから」

「あんた、自分の口臭と勘違いしていないかしら。あんたが喋る度に車の排気ガスみたいな臭いがするわよ」

「……一つ思うんだが、どうしてお前等はそんなに仲が悪いんだ?」


 こいつ等を見てから疑問であった。

 出逢えば悪口を言わずにいられない関係。

 それでいて、鷺山に絡まれた時のように心の底では実力を認めているような節。


 桜乱華家と四夜家は元々仲が悪い……と言っていたな。

 だが、それだけが原因なのだろうか?


「むすびとは幼稚園の頃からの腐れ縁でね」


 乱暴にペーパーナプキンで口元を拭きながらレイナが続ける。


「昔っから、事あるごとにわたしに勝負を挑んできて……どうせ負けるのに……鬱陶しいのよ」

「お前から勝負を挑んできているんだろうが! 今のところ、ボクが大きく勝ち越しているんだがな」

「変なことをアサトに教えないで! 現在、百二十三勝百二十三敗十二引き分けでしょうが」

「なんなら今、勝負して一勝だけでも勝ち越してやろうか?」

「幼稚園からずっと同じ学校だったのかよ」


 最早、仲の良い幼馴染みみたいなもんじゃねえか。

 レイナはストローでオレンジジュースを吸い上げてから、


「中学校の時は大変だったわね」

「ああ。まさか校舎が一つ潰れるとはな」

「あの時はヤバかったわ……流石のわたしでも反省したわ。《四大財閥フォースサミット》の権力がなければ、今頃牢屋の中だったかもしれないわね」

「……あれは悲惨な事故だったな」


 ずしーん、と肩を落とす二人。

 こいつ等、過去にどんな重犯罪を犯してやがんだよ。

 基本的に《魔敵エネミー》に討伐以外で魔術を使用することは禁じられている。おそらく、話を聞く限り勝負をして魔術を使ってしまい、さらに中学校を破壊してしまったのだろう。


 話を聞き終わり、トレイを返却口まで持っていってテーブルに帰ってくると、


「良いわ! あんたとここで決着を付けてあげる」

「どっちが早くこの残ったハンバーガーを食べられるか勝負だ」

「アサト! 早く合図をして」

「……はいはい。スタートスタート」


 何やら勝手に勝負が勃発していた。

 珍獣を眺めるような目線して、俺は手をパンパンと叩く。

 そうすると飲まんばかりの勢いでハンバーガーに齧り付きだした猛獣二匹。


 こいつ等との知り合いとは思われたくない。

 勝負の行く末を見届ける訳もないまま、俺はそのまま店内を後にして外で待っておくことにした。

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