14・喧嘩
「ご飯を奢ってやるぞ」
「よし。行く」
やれやれ。
背に腹は変えられないのよね。
「ちょっと! アサト。わたしもご飯くらいなら奢ってあげるんだから!」
むすびとレイナが両側から俺を引っ張り合う。
「痛たたた……お前等、俺の体を離せ……というか喧嘩をするな! どっちとも行かねえぞ!」
怒鳴り声を離すと、やっと解放される。
ぜえぜえと意気を整えていると、名案を思いついた。
「お前等、二人で一緒に俺を案内してくれよ」
「「二人で?」」
「案内が優れていた方と《盟友》を組んでやんよ」
勿論、レイナともむすびとも《盟友》を組む気なんてさらさらない。
こうすれば二人からご飯を奢ってもらえると考えたためだ。
俺って頭良いー!
「面白いわね……むすび! 勝負よ」
「望むところだ!」
腕まくりするむすび。
「……といっても今日のところは眠いから帰る。そうだな。次の休日なんかはどうだ?」
提案すると、二人共おとなしく首肯してくれた。
これで一件落着。
やっと話がまとまって帰られそうだ。
そう思い安堵の息を吐くと、
「おい」
野太い声。
……どうやらまだしばらく帰れないらしい。
「何、いちゃついてやがんだ。ここはそういうヤツがいていい場所じゃないぞ」
体格の良い男であった。
魔術師である以外に、何か格闘技をしていたのだろうか?
《センター》の制服であるブレザーを脱いで、白シャツ一枚になっている。
凄んでいるつもりなのか、眉間に皺を寄せて俺が座っている机をドンと蹴った。
「何だ何だ? もしかして嫉妬か。俺がモテるから嫉妬してやがんのかよ」
「なっ……!」
男の表情がさらに怒りを増してくる。
「おい! お前誰に口を利いてんと思ってんだ」
「鷺山さんは由緒正しき魔術師一族の正統後継者。お前みたいな雑草が簡単に喋りかけてはいけない方なんだぞ」
「お前達から話しかけてきたんだろうが」
どうやら、この体格だけが取り柄の男は鷺山と言うらしい。
鷺山の周囲にいるのは何の特徴もない二人の男だ。
どうやら鷺山を中心とした取り巻き連中らしい。
「鷺山がどんな一族かは知らない。だが、《四大財閥》でない時点で大した一族じゃないんだろうな」
「て、てめぇ……!」
胸倉を掴まんばかりに、鷺山が顔を接近させる。
しかし「フン」と鼻を鳴らし、余裕を演出して、
「てめぇは、《四大財閥》の一人でもある桜乱華に決闘で勝利したらしいな」
「まあな。レイナ曰く接戦だったらしい」
「しかし! お前みたいな、聞いたことのない家名のヤツが《黄金の双星》に勝てるとは思えねえ。どうせ八百長か何かだろうが」
「そう思いたいなら、思っておいて……」
良いよ、と優しく言葉を続けようとした。
実際、決闘の勝敗なんて気にしてないしな。例え相手が《四大財閥》だろうが、《黄金の双星》だろうが。
しかし――代わって怒りの声を上げたのが、
「あ、あんた! わたしが八百長に荷担したって言うの?」
言わなくても分かるだろう。
触覚みたいなツインテールを逆立たせているレイナである。
「もし八百長じゃなくても、てめぇも大したことねえんだろ? どうせ《黄金の双星》なんて呼ばれているのも、家名が桜乱華だから。親が凄いだけで、てめぇは凄くないんだろうが」
「あんた……わたしが虹の七光りって言うのっ?」
親の七光りな、と呟き声でツッコむ。
「それに――桜乱華が一番手っていうのも、今となっては……」
「おい。そこのどうでもいい村人A」
静かな重低音の声はむすび。
「お前が《四大財閥》にどういう感情を抱いているのかは分からん。しかしレイナはボクよりも圧倒的に弱いものの、お前みたいな人の悪口しか言えないヤツよりは強いぞ」
「それ、お前が言うのかよっ!」
あれ?
腕を組んで、低い位置から睨みを利かせているむすび。
もしかして……レイナがバカにされたことを怒っている?
さっきまで口汚く罵り合っていたのに?
「チッ……まあいい。てめぇ等とはいつか決着を付けてやるからな」
むすびの視線に怯んだのか、顔を歪ませて鷺山達は教室から出て行った。
「何よ。今の連中は」
「まあ屈折した嫉妬心っていうヤツだろうな。普通、小学生くらいの男児にはよく見られる傾向であるが、この歳であれ程度の精神レベルしか所持していないのは同じ人類として恥ずかしい」
「負け犬。という言葉がよく似合うようなヤツだったな」
まあそれ程、《黄金の双星》二人、そしてレイナに勝利した俺は悪い意味で注目されているということか。
どうやら俺が期待していた炬燵で丸くなるような安穏な生活はまだまだ遠いらしい。ネコかよ。
眠気で頭がクラクラする。
俺はもう一度、大きな欠伸をするのであった。




