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12/35

12・授業のお時間です

「魔術には種類がある――という基礎知識の復習が今日のメインだったわけだが、それでは神小町」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 浄徳に指名されて、慌てて立ち上がる神小町。


「魔術は何系統に分かれているか答えよ」

「えーっと……」


 神小町が必死に記憶を手繰り寄せるようにして、両手の指を折る。


「『火炎系魔術』『雷撃系魔術』『水害系魔術』『土砂系魔術』『生体系魔術』『光系魔術』『重力系魔術』……それから『操作系魔術』の八つ。や、八つです!」

「よし正解だ」


 浄徳の口角が吊り上がる。


「今、神小町が答えたのは基本の九系統。そこに『特殊系魔術』を加えて九系統で分類する方法もある。

 さらにここから同じ系統の魔術であっても『威力』『有益さ』『応用力』『展開難易度』『危険度』の五つの総合評価によって第一〜第十三級に分かれる。

 例えば基本的な魔術《炎球フレイム》であるが、これは第一級の火炎系魔術だからそのまま『第一級火炎系魔術』と言うわけだ。よし神小町。よく出来た。座っていいぞ」

「えへへ……褒められちゃった」


 神小町が照れくさそうに、隣に座る俺に対して笑みを向ける。

 その笑顔を守るために俺は魔術学園に入学したと言ったら過言を超えて妄想になる。


「まあこれくらい答えないとな。魔術師を志……ふわぁ」


 ――昨日。


 むすびの襲来により、部屋を散らかされその後片付けで徹夜してしまった。

 どちらにせよ、むすびの下着姿。そして唇の感触を思い出して、鼓動が高速になって眠ることが出来なかったわけだが。

 なので、油断して欠伸をしてしまう。


「痛ぇっ!」


 欠伸をした瞬間。

 額に向かって高速なものが飛んできて、直撃し激痛が発生する。


「竜頭司。私の授業で欠伸をするなんて大した度胸だな――このように第三級操作系魔術《操り人形》(パペット)を使えば、ただチョークを投擲するだけでも必殺の一撃となる」


 額を押さえながら下を見ると、粉々になった白チョークが落ちていた。

 教室を包むクスクスとした笑い。


「どうしてこうなるんだ……」


 恥ずかしさよりも先に、自分の不幸を呪い五寸釘を打ちたくなる衝動にかられた。


「第十三級特殊系魔術に《異世界入口》(アリストンネル)というものがあるが、これは《魔敵エネミー》がこちらの世界にやって来る際に使われる魔術とされ、その仕組みは未だ解明されておらず――」


 浄徳は黒板に振り返って、変わらず授業を続けている。

 チョークの一撃を受けても、頭を支配する甘い眠気は完全には取れなかった。



 放課後を報せる鐘の音が響き渡る。

 さっさと帰って寝ようと、席を立とうとしたら、


「ちょっと、昨日のこと考えてくれた?」


 と――後ろから聞き覚えのある高い声が聞こえて首だけで振り返る。


「お前は……近所のスーパーの店員?」

「わたしはそんなところで働いたことないわよ!」

「じゃあきっと三歳くらいに路地裏で出逢ったスーツ姿の男か」

「そもそも男に見えるっ?」

「確か『願いを叶えてあげよう』とか言ってたな」

「悪魔じゃない!」

「冗談だ。お前の名前は――そう。同じクラスの佐藤さんだよな」

「結局、辿り着いた解答も間違ってる?」


 女はいきなり激昂して、机をバンと叩いてくれる。


「桜乱華玲菜! いい加減、覚えなさいよ」

「いや流石に覚えてたけどさ」


 記憶力が皆無に等しい俺でも、レイナくらい個性的な人間だったら脳に刻まれている。


「それで……わたしの盾になってくれる話。結論が出たわよね」

「ああ、結論は出た。というか考えるまでもなかったんだよな」

「そう! じゃあ決まりね」


 指をパチンと鳴らすレイナ。


「今日からあんたはわたしの盾で――」

「他の人を探してください」


 丁重に断り、今度こそ立ち上がろうとする。


「ちょ、ちょっと! どうしてよ!」


 髪を逆立たせて怒るレイナ。

 キンキン声が鼓膜に響く。


 それに、ほら。レイナが大声を上げるものだから、教室にいる連中から注目されているじゃねえか。

 俺は耳に指を突っ込んで、


「うるせぇ。というか何で俺がお前の盾にならねえといけねぇんだよ」

「あんた! わたしの盾になれるのよ? わたしは近々、常勝無敗の女と呼ばれる予定だわ」

「その計画は俺に負けた時点で破綻だな」

「キーッ!」


 だからそんなに声を大きくするな。

 眠気と合成されて頭がガンガン痛む。

 レイナは怒りの表情のまま、


「……どうして、こんなヤツにわたしが負けたのかしら」

「そうだ。お前が俺と組むメリットはあるかもしれん。自分より強いヤツと組めるんだからな。だが、俺側のメリットがねえじゃないか。どうして自分より弱いヤツと組まなきゃならん」

「キーッ! あんたがわたしに勝てたのは変な剣のおかげなんだからね」

「ごもっとも」


 今、聖剣は机に立て掛けている。

 こうして通学する際にも、聖剣は必ず持ってくるようにしているのだ。


「そんな変な剣がなかったら、あんたなんて……」

「じゃあお前にくれてやるよ」


 剣を持って、レイナに放り投げる。


「えっ? くれる? ホ、ホント?」


 慌てた動作で、聖剣を両手で抱えるレイナ。


「ああ、本当だ。俺は狼少年くらいに嘘は吐かない」

「やっぱり嘘じゃない」

「本当だ――ただし。その聖剣を鞘から抜き放つことが出来ればな」

「これくらい簡単じゃない! わたしのことをバカにしすぎよ!」


 そう言って、レイナは左手で鞘の部分を。

 右手で柄を握り、一気に引き抜こうとする。


「えっ? 固い?」


 しかしレイナがいくら力を入れても、聖剣は鞘から抜かれる気配がない。


「まず一つ。変な剣なんかじゃない。そいつには聖剣《オルファント》っていう名前が付いてるんだ」

「何で中二病みたいな名前が付いてんのよ」

「知るか。そう言って、その聖剣を渡されたんだ」


 レイナが両足で鞘を挟み、両手を使って抜こうとする。

 だが、そんなことで抜けるはずもなく。


「キャッ!」


 鞘から手が離れてしまい、豪快に後ろへと倒れてしまう。


「何でよ……何で抜けないのよ」


 床に倒れて、後頭部を手で触っているレイナ。

 無造作に倒れているものだから、スカートが捲れて白色のパンツが見えたが、それをいちいち指摘するはずもない。


「その聖剣はな、何か知らんけど俺以外の人間が使うことが出来ないんだ」

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