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10・四夜むすび

「いきなりやって来て家来になれ? どういうことだ。政治家みたいに説明が不足しすぎているぞ」

「そのままの意味だ」


 むすびは近くのテーブルに腰をかける。

 足を組んだせいで、細くて白い太股が露わになる。

 それは窓から差し込む月光を反射して、白光しているように見えた。


「お前はウンコレイナに勝ったらしいじゃないか」

「そんな排出物みたいな名前をしたヤツと知り合いになった覚えはないが?」

「桜乱華玲菜のことだ。奇しくもボクと同じ《四大財閥フォースサミット》で、ずーっと二番手のウンコレイナ」


 そう語るむすびの口調は、レイナを敵視しているように感じた。


「ボクハシラナイヨ。ヒトチガイダダカラ、デテイッテ」

「レイナとボクは三歳からの腐れ縁であり、いっつも張り合ってくる愚かなヤツで……」


 無視かよ。

 むすびは立ち上がり、部屋をグルグルと周りながら語り出した。


「桜乱華家と四夜家は元々、仲が悪い一族であったが、それは桜乱華家の性格の悪さにある。あいつらは政治家の護衛や、魔術道具の貿易によって栄えてきたわけだが、四夜家の場合は暗殺を生業としている一族で……」


 表情を見ると、悦に入っているようであり、俺が返事をしなくても桜乱華家と四夜家について説明を続けた。

 こんな退屈な話、真面目に聞いてやる道理もないので、俺は天井のシミを数えながら「早く、帰ってくれないかな……」と思っていた。


 時間が無為に流れていく。


「――というわけで、四夜家は崇高なる理念。実力派の一族であって、桜乱華家などウンコみたいなもので、相手にならず」

「あのー、もう遅い時間だしな。親御さんとか、怒るんじゃないの?」

「ボクは友達の家で長居する鬱陶しいヤツか」

「……というか、さ。桜乱華が二番手? どういうことだ。桜乱華は《四大財閥フォースサミット》の中でも、出来た時から一番手のはず」

「そんなわけがない!」


 むすびは目を見開いて、壁をドンと叩いた。

 隣の住民が怒り狂わないか心配である。


「確かに! 世間的には四夜家は永遠の二番手。桜乱華を追い越せない一族だ、という評判は受けているかもしれない」

「そこまでかはどうか分からないが」

「しかし! それは桜乱華の歴史があるからだ。例えばバカレイナとボクが戦ってみろ。けちょんけちょんにやっつけてやるんだからな!」


 どうやらむすびは桜乱華に対して――いや、レイナに必要以上の敵愾心を抱いているらしい。

 それは同じ《四大財閥フォースサミット》として当然のことは分からないし、特に興味もなかった。


「それで……だ。お前がレイナのことを意識していることは分かった」

「嫌っているのだ! その言い方だと、おかしな意味になるだろう!」

「それで……《四大財閥フォースサミット》の一族でもあり、《黄金の双星ゴールデンルーキー》という恥ずかしい異名を貰った四夜さんは……」

「むすびで良いぞ。そんな他人行儀で呼ばなくていい」

「他人だからな」


 まあ、レイナの時と同じように、四夜の名前を呼ぶのもあまり良い気分はしないので助かる。


「……むすびはどうして、俺のことを家来にしようとしているんだ。俺はそこんとこの説明が欲しかったわけだな」

「そうだったな! アサトが聞き上手だったから、話が脱糞してしまったじゃないか」

「脱線だろ。どんだけウンコ好きなんだ」


 コホン、とむすびは一度咳払いをして、


「――レイナはボクより弱い。だからボクはレイナのことを恐れる必要はないのだ。

 しかしあいつの魔術師としての才能は、ボク程ではないが、人より突出している……ことは認める」


 憎まれ口を叩いているものの、心の底では実力を認めている、ということか。


 お前は少年漫画でいう主人公のライバルかよ。

 なんてことは話がまた長くなりそうなので、お口にチャックで心の内へ。


「百回戦ったら九十九回はボクが勝つだろう――しかし、もしレイナと戦う時に強烈な下痢がきたら負けてしまうかもしれない」

「下痢止めでも飲んどけ」

「そこで、だ。弱くて弱くてウンコをちびっているレイナとはいえ、あいつに勝利したアサトを家来にするとどうなるだろうか?

 ここまで言ったら分かるよな。一に一をかければ無限大とまって、パワーがマックスに引き出されるのだ!」

「一に一をかけても一だけどな」


 何だよ。そのガバガバ理論。

 改めてむすびは俺に手を差し出して、


「アサト――ボクの手を取れ。ボクの家来になれ。ボクと一緒に学園の頂点を目指そうではないか」


 ――つまりこいつは万が一にでも、レイナに負けるのは嫌だから、一緒に戦おうと言っているわけか。

 レイナといい、一方的に自分の考えを述べるヤツだ。


 そんなヤツに返せることなんて、最初から一つだけしかなかった。


「断る――俺は誰とも組む気なんてねえよ」

「ふふん。やはりそう答えるか」


 この答えを予想していたかのように鼻を鳴らすむすび。

 まだ体は上から抑え付けられているかのように動かない。

 ずっと同じ体勢をとり続けていると、どんどんと関節の節々が痛くなってきた。


「というわけで帰ってくれるか? お茶漬けは出せないけど、お湯くらいなら出せるぜ」

「いやそんな爽やかな笑顔を見せられても困るのだが」

「眠くなってきたしな。もう金縛りの状態のまま、寝ようかと考えているくらいだ」

「豪気だな」


 そこでむすびはクルッと背中を向けて、


「アサトに断られることは何となく予想は出来ていた」


 手を後ろに回して、服のチャックを下ろ――って下ろしっ?


「だからボクにも考えがある。言うことを聞かない男を服従させるためにはどうすればいいのか? 四夜家に伝わる秘術があるのだ」


 そのまま一繋ぎになっている服を床まで降ろす。

 華奢な後ろ姿。抱きしめれば折れてしまいそうだった。


「――男を服従させる方法。それは女の色気を使うこと。そうすれば男は女にメロメロになって、服従を誓うという」

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