(12) 4-4.エステラトランスポート事務所
相も変わらず、エステラトランスポートは零細中小運輸会社のまま。
セシルからの報酬は、以前からの借金に、トラックとグライダーの修理費用を合わせて、瞬く間に消えた。
一億クレジットは、エステラトランスポートの口座を経由し、いずこかへと移動しただけである。
しかしお陰様で、エステラは社長のままだし、スタッフも誰一人欠けていない。
レオ爺はまだまだ元気だ。エステラの良きアドバイザーとして活躍してくれている。
パオラのオネエ言葉は変わらない。それでいて、しっかりと仕事を取ってくる。
アリーチェは本人の謝罪を受け入れ、引き続き雇用している。運転の腕は一流であるし、パトリシアさえ関係しなければ、特に問題ない。
そんなある日のこと。
エステラトランスポートの事務所に、セシルからの小包が届いた。
内容物は、一通の手紙と、一枚のパスカードとメモ。
手紙の内容は、セシルが言っていた例の件だった。
『……さて、お約束していた内部事情ですが。
ラヴィニアの悪事、とでも言いますか。
たまたまその街に赴任していた彼女の夫が、街の女性実業家と間で浮気の噂を立てられた事がありました。
よくあるゴシップ記事でしたが、恐らくは、それが彼女の逆鱗に触れたのです。
真実かどうかは問題ではありませんでした。『実際にあってもおかしくない』と思われたことが、屈辱だったのです。
『入り婿の夫に飽きられた女』と、自分の評判が落ちることこそ、耐えられなかったのです。
彼女は被害者となることを認めませんでした。
シンプルに、ただ行動を起こしました。
彼女によって、経済と情報を封鎖され、あらゆるリソースを絞り上げられた地方の街は、女性実業家とともに、経済的に死にました。他、二件は隣接していた二つの街が、連鎖的に影響を受け、潰れたものです。
動機の真実は、本人しか分からないでしょう。しかし他に理由が見当たらないのも事実なのです。
ま、もっとも恐ろしいのは、これが八年前の出来事ということですが。
あのお婆さんの歳が幾つか分かりますか?
ここでは秘密にしておきましょう。
さて、この国の報道メディアは企業体に抱き込まれ、監査の要をなしていません。
企業体と同じく、力で制するしかないのが現状です。
力とは資本という暴力で、行使するのは司法です。
これがこの国のバランスです。
一族の汚点となる悪質な事件は、これからも一定数起こるでしょう。
それでも、オードナンスグループは全体としては平和を目指しているのです。
また機会があれば、ご依頼するかもしれません。
その際はよろしくお願いしますね』
エステラは、ペーパーメディアの手紙を折り畳むと、机に静かに置いた。
「やめてよね、もう。後で念入りに燃やしておこう……」
隣に置いてあるパスカードには、『遺跡用』と表面に書いてあった。
メモには、『自ら探索してもよし。売ってもよし。好きに使ってください』。
真偽の程は定かではないが、扱いに困る物品であることは確かだ。
さて、どうしたものか?
さしあたって、活用する先がないので放置がいいだろう。
日常業務だけでも、エステラの悩みは尽きない。
煩わされるのは勘弁して欲しいところ。
エステラトランスポート。
エルバ大渓谷を往復する日々は続いていく。
<終わり>




