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第五章 ~『敵対すると決意したエネロア』~


「ではキルリスは連れて帰るぞ」

「うちの馬鹿娘をよろしくね」


 山田はキルリスがエスティア王国にいることの了承を得ると、フォックス家の屋敷を後にする。キルリスの戦争への参加義務も免れることに成功し、シーザーは事が上手く運んだと心の中でガッツポーズを作る。しかし順調に進む事態と反するかのように、フォックス家の屋敷から立ち去る山田たちに怨嗟の視線を向ける存在がいた。


 桃色の髪をした最強の剣闘士エネロアである。彼女は悔しさで涙を流しながら、自分の中の嫉妬と羨望の感情と向き合い、一つの結論を出す。


(許さない……山田様もキルリスも絶対に潰す)


 憧れが人に奪われたことにより憎悪へと変わる。エネロアは山田たちの敵になると決意すると、再び公爵の住む城を訪れた。


「また私を殴りに来たのか?」


 公爵は薄暗闇の中で、パチパチと燃える暖炉の薪木を眺めていた。背中に感じる気配から来訪者がエネロアだと察し、訪問の理由を訊ねる。


「前回の発言を訂正するわ。山田様を潰す」

「随分と意見が変わったが、私を罠に嵌めるつもりか?」

「あら? そんなことしなくてもあなた既に終わっているじゃない」

「ぐっ……」

「私が力を貸してあげる。二人で山田様とキルリスを完膚なきまでに潰すわよ」

「キルリス?」

「こちらの話よ。それで文句ないわね?」

「文句ならある……なにせこのままだと私は殴られ損だ。せめて謝罪を――」

「あら? また殴られたいのかしら?」

「……最強の剣闘士に不満なんてあるはずがなかったな……なら早速暗殺をお願い――」

「馬鹿ね、暗殺なんてしないわよ」

「え?」

「暗殺なんて邪道に手を染めるほど落ちぶれてはいないわ」

「だがそれでは君を雇った意味が……」


 公爵がエネロアに期待していたのは、彼女の持つ圧倒的な武力を利用して山田を排除することである。ならば確実に一対一の戦いに持ち込める暗殺こそが最善策だと、彼は信じていた。


「私はね、正面から戦うことで勝利したいの」

「決闘ですか……ですがエドガーの時とは事情が違う。受けるはずがない……」

「いいえ、決闘もしないわ。今回あなたが受けている攻撃を正面からやり返すのよ」


 公爵の受けている攻撃とは、新都市アリアドネに人や金を吸い取られていることである。その攻撃を防ぎつつ、やり返す手立てならあると彼女は続ける。


「どんな方法を使うのだ?」

「簡単よ。新都市アリアドネに人が集まる理由はたくさんあるけど、一番はパン屋の存在よ。あれを潰せばいいのよ」

「なるほど。パン屋に火を付けるのですね」

「そんな馬鹿な手段使わないわよ。それにそんなことをしても、新しい建物が建てられて、警備が厳重になっておしまいよ」

「ならどのように?」

「ふふふ、見てなさい。できる女はね、頭を使って戦うのよ」


 エネロアは自分の頭を指差しながら、公爵に策を説明する。彼の目はその説明を聞くたびに、強く輝いていくのだった。


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