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第四章 ~『シーザーと博打の才能』~


 金は人を狂わせる。シーザーはコンソールに表示された所持金を見て、ニヤニヤと笑いを漏らす。その表情には狂気さえ混じっていた。


「キルリス。俺にはやっぱり博打の才能がある」


 サブプライムローンを組んで家を買い、右から左に流す作戦は見事に的中していた。やればやるほどに金を稼げる快感に、シーザーは溺れていた。


「あんまり調子に乗ると、手痛い目にあうよ」

「大丈夫、心配するな」

「そうは言うけど、以前にも確実に勝てると闘技場で賭けをして、全財産を失ったことあるじゃない」

「あの時は運が悪かったんだ。だが今回は運の要素が絡まない。俺の実力がそのまま発揮されるんだ」

「でも……」

「その証拠に三年は遊んで暮らせるだけの金を手に入れた……キルリス、俺はもっともっと稼ぐぞ」


 シーザーのやる気に満ちた目に、キルリスは仕方ないと、ふぅと一息吐く。


「兄さんはすぐに無理をするから……時には手を抜くことも重要だよ」

「ありがとうな、キルリス。さすがは俺の妹だ」

「私はお金のことは分からないけど、兄さんが無理をしないならそれだけで十分だよ……頑張ってね」


 キルリスはシーザーの行動を心配していたが、それと同じくらい応援したいとも考えていた。


「キルリス、俺はやるぜっ」


 シーザーはキルリスを安心させるように微笑む。彼がこれからやろうとしていることは、サブプライムローンを貸し出す側に回ることだった。


 サブプライムローンは高金利だ。金を貸し出せば、莫大な利息が何もしなくとも懐に入ってくる。しかも債務者が借金を貸せなくとも、家を売れば元金を回収できるのだ。


 絶対に損をせずに金を稼げる魔法のローン。そのローンを利用する権利をエスティア王国のファンドから購入し、商売をする準備は既に整えていた。


「それにしても金に敏感な奴らは動くのも早いな」


 シーザーがエスティア王国ファンドに契約したい旨の手紙を送ると、すぐに契約書を手紙で返してきた。その反応の速さは手慣れていることを感じさせ、サブプライムローンを貸し出す側に回ろうと考える人間が如何に多いかを証明していた。


「逆にそれが安全の証拠でもあるか」


 多くの人間が手を出しているビジネスは、儲かると多くの人間が判断した証左でもある。


「兄さん、サブプライムローンは本当に儲かるんだよね?」

「儲かる。その証拠にサブプライムローンを最初に導入したブルース銀行は、創業以来最高益を達成したそうだ」

「でもそれなら兄さんではなく、ブルース銀行からお金を借りるんじゃないの?」

「そこについては差別化の方法を考えてある」

「差別化?」

「他の奴らは銀行よりも低金利にすることで差別化を図っているが、俺は別のアプローチ、保証による差別化を行う」


 シーザーの提案するサブプライムローンは、債務者が借金を返せなくなり、担保にした家を売り払った場合、借金額に届かない残りの借金をシーザーが背負うというものだ。


 ちなみに家さえ売れば借金がチャラになる制度は日本だと考えられないが、アメリカだと一般的である。金融工学の用語では日本形式をリコースローン、アメリカ形式をノンリコースローンと呼ぶ。


「保証があるから奴隷に堕ちることを恐れていた奴らも契約するはずだ」


 もちろん保証する代わりに利息は銀行より高く設定するがと、シーザーは続ける。


「貸し出すための金は既に金主たちから集めている。その金を高い金利で貸せば、俺たちはすぐに大金持ちだ。やってやる。俺はビッグな男になるんだ!」


 シーザーは成功するビジョンしか描いていなかった。なぜなら魔王領建国から住宅価格は上がり続けているのだから。根拠のない自信がこの時のシーザーの行動を支えていた。


 しかしシーザーの提案したリスクを貸し出し側が背負う住宅ローンは破滅へと突き進む第一歩であると、彼は知らない。この住宅ローンの仕組みこそ、リー〇ンブラザーズの負債総額六十兆円を生み出した原因だった。



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