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第四章 ~『キルリスの願い』~


「もうこれっきりにしてくださいよ」


 キルリスは山田と共に食い逃げしたことを謝罪する。代金を山田が肩代わりしたこともあり、店員の男はすんなりと帰っていった。


「聞き分けの良い店員で助かったな」

「私の髪のおかげだと思う……」


 店員の男はキルリスの赤い髪に恐怖の眼差しを向けていた。恨まれるのが怖いから許したのだと彼女は自嘲するように笑う。


「キルリスはどうしてお金がないんだ?」


 キルリスは派手な和服を着ており、とても貧困層の生まれのようには思えなかった。


「事情があって家と縁を切ったの。それでお金がなくて……」

「実家は金持ちだったのか?」

「うん。魔王領でも有数の金持ち……フォックス家という名前を聞いたことない?」

「フォックス家……まさか十六貴族のか?」

「うん。私、こう見えてもお嬢様なの」


 魔界十六貴族に良い思い出のなかった山田は苦い表情を浮かべる。何か面倒事に巻き込まれるのではと危惧しながらも、詳しい話を聞き出す。


「キルリスは一人で家を飛び出したのか?」

「兄さんも一緒。でも逸れちゃって……」


 キルリスは目尻に涙を貯める。こちらが悪いわけでもないのに、何だか居たたまれなくなる。


「旦那様、お兄さんを一緒に探してあげましょう」

「いいのか?」


 折角の新婚旅行が台無しになる。だがイリスは首をゆっくりと縦に振る。


「放り出しては楽しめるものも楽しめなくなります」

「だな……よし、俺たちが協力してやる」

「ほ、本当!?」

「ただ探すと言っても手掛かりがないとな……キルリスの兄はどんな男なんだ?」

「外見は私と同じ赤髪。内面は……う~ん、優しい人かな?」

「なぜ悩むんだ?」

「私以外の人は兄さんのことをクズだと言うから……」

「評価が天と地ほども差があるな。性格を知れるエピソードは何かないのか?」

「いつも遊びに出かけると私にお土産を買ってきてくれるかな」

「良いお兄さんじゃないか」

「でも家のお金を無断で持ちだして、賭博で遊ぶのはクズだって皆は言うの。どんな手段で手に入れたお金でも、お土産の味は変わらないのに……」

「すまん。擁護する余地もないほどのクズだわ」


 山田はかつて同僚の一人が会社の金を横領し、その金を個人的に投資することで得た利益を着服していたことを思い出した。銀行員は他の仕事以上に職業倫理を求められる。間違った手段で得た金は必ず身を亡ぼす。


「居所が分かるような手掛かりがあればなぁ……」

「そういえば兄さん、一発当ててやると話していたの」

「簡単に居場所を特定できそうだな……イリス、ブルース地区にも賭博場はあったよな?」

「はい。魔王闘技場が運営する支店がいくつか」

「なら手分けして探そう」


 三人はそれぞれ散ってキルリスの兄を探す。早く見つけて、イリスとの新婚旅行を再開するべく、山田は駆け足で目的の賭博場へと向かうのだった。



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