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第三章 ~『ダンジョン攻略と金髪の少女』~


 ダンジョンは火山岩を含んだ赤茶色の岩肌に覆われた洞窟で、水滴の滴る音が反響している。少し肌寒く、視界も薄暗く、鮮明ではない。


 山田たちはダンジョンボスのいる最下層へ向かうため、地下へと降りる階段を探す。すると彼の目の前に小さな子供の龍が姿を現す。


「キッズドラゴンですね」

「強いのか?」

「いいえ。火を噴くことはできますが、火傷で済むくらいの威力しかありません」

「魔物との初めての戦いだ。相手としては手頃かもな」


 山田はキッズドラゴンの頭をデコピンで吹き飛ばす。指から放たれた衝撃で、キッズドラゴンは土壁に激突し、金貨となって散る。


「魔物を倒すと硬貨に変わるんだったな」


 山田は落ちている金貨を拾うと、硬貨は彼の指先に吸い込まれるように消える。


「コンソールの所持金はしっかりと更新されているようだな」


 山田は空中に所持金を表示したコンソールを出現させて、念のために消えた硬貨の行方を確認する。履歴には金貨一枚を手に入れました、と表示されていた。


「正直、相手が弱すぎるな」

「旦那様はお強いですからね。それにダンジョン内に巣食う魔物は階層が下になるほど強くなります。まだ期待を捨てるには早いかと」

「そうだな……まだ地下一階層だもんな」


 山田はさらなる強敵を求めて、地下の階段を探しては、迷うことなく下の階層へと降りていく。地下二階層ではキッズドラゴンより一回り大きいドラゴンが現れ、地下三階では魔法を使うドラゴンが出現した。これは期待できそうだと山田は下の階層へと進み、そして地下十五回層に辿り着く。


「正直、地下十四階層までは楽勝だったな」


 山田は落胆して小さなため息を零す。彼はもっと強力な魔物が現れ、緊張感のある戦いができると期待していたのだ。


「気を落とさないでください。きっとまだ見ぬ強敵が――だ、旦那様! ひ、火龍が現れましたよ!」


 山田の前に赤い鱗で覆われた大型の龍が姿を現す。鋭い牙を剥き、彼らを威嚇するように唸り声をあげる。


 しかし山田は動じることなく、いつものようにデコピンを火龍の額に放つ。巨体は吹き飛ばされて、地面を転がると、やがて勢いをなくして硬貨へと姿を変えた。


「デコピンで瞬殺か。冒険者も案外楽な仕事だな」

「旦那様が特別なだけだと思いますよ」

「そうなの?」

「火龍は、討伐隊を結成し、数十名の騎士が力を合わせてようやく倒せるほどの強敵ですから」


 山田は能力値がカンストしているからデコピンで倒せるのであり、一般的な冒険者は地下一階層でキッズドラゴンを討伐し、そこで得た金で強くなることでより下の階層へと進むことができる。そのように地道に攻略するのがダンジョンなのだ。


「この調子なら最下層まですぐだな」


 山田たちは最下層を目指して進む。結局彼が最下層にたどり着くまで、すべての魔物をデコピンだけで倒すことができた。


「ダンジョンボスはどんな魔物なんだろうな?」

「このダンジョンは龍種が多いですから、きっとボスも龍の魔物でしょうね」

「ならドロップアイテムにも期待できそうだな」


 龍種は他の種族よりも強力な力を持つことが多い。もしダンジョンボスが健在なら、このダンジョンの資産価値は測り知れないものになる。


「旦那様。ここがダンジョンボスのいる場所ですね」


 土壁に挟み込まれた鉄扉が姿を現す。山田はボスのいるエリアへ進もうと、扉を軽く押してみるが、カギがかけられているようで動く気配がない。


「変ですね……ダンジョンボスへの扉に鍵が掛かっているなど聞いたことがありません」

「悪い予想は的中しているかもな」


 山田はどちらにしても、扉を開けて中を確認してみないことには話が進まないと、腕を振り上げ、拳を扉に叩き付ける。衝撃音と共に、鉄扉が吹き飛ばされた。


 鉄扉の向こう側は土壁で覆われた広い空間が広がっていた。だが龍の巨体はどこにも見当たらない。


「旦那様、この扉の鍵を見てください」

「人工的な鍵だな」


 自然物ではない、人の加工した跡が鍵には残っていた。ここからある結論を導き出す。


「ボスエリアに入られることを嫌った奴の仕業だな」

「まさか……」

「このダンジョンが攻略済みだと知られたくない人間、コスコ公国の公爵の仕業だ」


 冒険者たちはダンジョンボスを倒すことを目的に高難易度のダンジョンに挑戦する。そのため未攻略のダンジョンの方が値段は高く、コスコ公国は攻略済みのダンジョンを、あたかも攻略されていないように装い、山田に売りつけようとしたのだ。


「もし冒険者がここまでたどり着いていたら、どうするつもりだったのでしょうか?」

「ドラゴンを倒せる冒険者がいないと高を括っていたか、扉が開かないからばれないとでも考えたんだろうな」


 能力値がカンストしている山田が殴ることでようやく開いた扉だ。並みの冒険者では扉に傷一つすら付けることができないだろう。


「さて公爵が俺を騙そうとした確証を得ることができたし、戻るとするか」

「だ、旦那様……あれを……」


 イリスの視線の先では、金髪の少女が蹲っていた。


「あの公爵、子供の監禁までしていたのか」


 山田は少女に近づくと、そっと手を差し伸べる。不器用ながらも彼なりの優しさを込めた笑みで「大丈夫か?」と問いかける。


「………」


 金髪の少女は顔を上げて、山田の顔をマジマジと見つめる。


「あなたは誰?」

「俺は山田。こっちはイリスだ」

「私はレイン……人と話すのは久しぶりなの……」

「レインはどうしてこんな場所に?」

「覚えてないの」

「覚えてないなんてことがあるはず……もしかして公爵に魔法をかけられているのか?」

「分からないの。何も思い出せないの」


 山田はイリスに視線を送ると、彼女は頭を悩ませ、記憶喪失の理由について考察する。


「記憶を消す魔法は存在しますが、無条件、かつ永続的に発動することはできません。何かの条件を満たした場合や、時間の経過で記憶を取り戻すことは可能です。ただしそれがどんな条件か、いつ解除されるのかは術者にしか分かりません」

「仕方ないか……こんな場所に一人残すこともできないし。ひとまずは俺たちで保護するか。それでいいよな?」

「付いていくの」


 レインは山田たちと共にこの場を後にする。彼女の存在が山田に大きな影響を及ぼすとは、この時の彼は想像さえしていなかった。


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