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第三章 ~『甘すぎるケーキ』~


 コスコ公国の城下町は石造りの街並みが広がり、戦争直前だというのに活気に満ちていた。近くに森があるため、空気も澄んでおり、空も抜けるような青さが広がっていた。


「空気が美味しいですね」

「空気だけでなく水も旨いそうだ。さすがはアリアの認めた国だな」


 空気と水が美味しいのはミネラルなどの栄養素が過分に含まれているからで、だからこそ栽培される小麦は旨味成分を多く含んでいる。


「これからどこへ行きましょうか?」

「そうだな~観光地を巡るのもいいが、まずはアリアのために敵情視察といこう」


 城下町の目抜き通りを歩いていると、クリームと果実で彩られたケーキの看板を張り出している店を見つける。山田たちが店内に入ると、甘い果実の匂いに食欲を刺激された。


「店内にお客は誰もいませんね」

「五月蠅いよりはいいさ。ドーナツのライバルになりうるケーキの味、存分に堪能してやろう」


 山田が名物のケーキを注文すると、数分後に看板に描かれた絵を現実にしたようなケーキが運ばれてくる。


「美味しそうですね」

「ライバルは手強そうだな」


 山田はフォークを手に取ると、恐る恐るケーキを一口サイズに切り出す。それを口の中に含めると、舌一杯に甘さが広がった。


「甘いな……」

「甘いですね……」

「だがこれはいくらなんでも甘すぎる」


 ケーキの味はお世辞にも美味しいとはいえなかった。折角のフルーツが大量に投入された砂糖のせいで、味が分からなくなり、ケーキより甘味料を食べているような気持ちにさせられる。


「コスコ公国は食材が優れていても、調理技術が高くないですからね」

「文化人の粛正が原因だな」


 コスコ公国の二世代前の公爵は、文化が悪だと信じ、知識人や技術を持つ文化人を粛正して、技術を伝承するための本までを燃やし尽くした。これにより調理技術も失われ、素材はコスコ公国の方が遥かに上であるにも関わらず、エスティア王国で作られた菓子の方が品質に勝る逆転現象が起きていた。


「これからこのケーキを完食しないといけない俺たちには悲報だが、アリアにとっては朗報かもな」


 有力な競合他社がいないなら、アリアの二号店計画が上手くいく可能性は高い。嬉しいのか悲しいのか不明慮なままに、山田は黙々とケーキを口にしていった。


「旦那様、あの壁紙……」

「強い兵士求むか……戦争が始まるのだから当然か」


 戦争ともなれば人手がいて困ることはない。特にこの世界では強力な個人が、数千の兵と同じだけの戦果を挙げることもあるのだから、募集するのも当然だった。


「強者を探すための審査会も行われるそうですよ」

「勝利すると公爵と謁見か……どうでもいいな」

「旦那様。それだけではないようですよ」

「副賞として神秘の秘薬も与えられるのか」


 神秘の秘薬とは公爵が所有する泉からのみ採れる貴重品で、重度の外傷や魔法による呪いを飲むだけで治すことのできる代物だった。


「秘薬を賞品にするんだ。必死さが伝わってくるな」

「旦那様はどうされますか?」

「俺は落ちている金と秘薬は拾う主義だ」

「それでこそ旦那様です」


 山田は審査会への参加を決意する。この決定が運命を大きく変えることを、彼はまだ気づいていなかった。



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