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第二章 ~『闘技場買収』~


 山田たちはエスティア王国内の闘技場へと訪れていた。闘技場はエスタウンの町外れにあり、観客たちの歓声が外にまで広がっている。


「旦那様、もしかして買収する企業とは闘技場ですか?」

「その通りだ」


 エスティア王国の賭博場で最も人気のあるのが闘技場であり、そのビジネスは魔王闘技場という企業が経営している。


「闘技場の買収はどのように? おそらく簡単には売らないかと」

「この世界でも株券の仕組みがあるだろ。それを利用する」


 異世界においても資金を集めるために株券を発行し、会社の経営権と利益を分配する仕組みが構築されていた。山田が元いた世界でも、株式制度は一六〇〇年には採用されていたし、日本では坂本龍馬が亀山社中という会社を作るために、株式会社の仕組みを取り入れており、考え方は古くからあるものだ。異世界で採用されていたとしても不思議ではなかった。


「詳しい話は闘技場を観戦しながらにしよう」


 山田たちが闘技場の中に入ると、国王と王女を一般客と同じ席にするはずもなく、警護の兵士によって貴賓席へと案内される。


 楕円形の約三万人を収容可能な闘技場の中で、もっとも目立つ最上段の貴賓客しか座れない席に二人は腰かける。闘技場の中心で戦う戦士たちが良く見える配置でありながら、直射日光が当たらないような設計になっていた。


「話の続きだが、もしこの闘技場が手に入れば、賭博で得た利益がそのまま国庫へと入ることになる」

「不必要な出費を避けることができるのですね」

「それにこの闘技場のスタッフは魔王領の人間ばかりだ。そこをエスティア王国の国民に変えるだけで雇用を生むことができる」


 三万人を収容可能な施設のスタッフだ。大規模な人手が必要になることは間違いない。


「さらにだ。本当の狙いは別にあるんだ」

「別の狙いですか?」

「俺はエドガーの経営する魔王放送局を買収する。そしてあの社長を追い出してやるつもりだ」


 イリスは闘技場を買収することが、魔王放送局を買収することにどう繋がるのかピンと来ていないのか、不思議そうに首を傾げている。


「俺の世界では『将を射んと欲せばまず馬を射よ』という諺がある。今回の買収を一言で表現するとその諺通りになる」

「う~ん? やっぱり分かりませんね」

「正解を教えよう。魔王放送局は魔王闘技場の子会社なのさ。だから親会社さえ手に入れれば、まとめて手に入る」


 魔王闘技場は魔王放送局と比べると事業規模がかなり小さい。それにも関わらず、親子関係が逆転している歪な関係を築いていた。


 実は日本企業でもこういった現象が生じていたことがある。有名なのはイトー〇ーカ堂とセブン〇レブンだ。企業規模はセブン〇レブンの方が上だが、イトー〇ーカ堂が親会社となっている。


 今ではセブン&ア〇ホールディングスとして事業再編する際に、この親子関係と企業規模の歪な関係は修繕されている。だがなぜ親子関係と企業規模が逆転すると問題なのか。それは安い企業を買われると、値が高い子会社もついでに買収されてしまうからである。


 さらに魔王闘技場の場合は魔王放送局以外にも、有力な子会社を多数抱えており、不動産もいくつも保有している。


 時価総額の算出方法は様々だが、企業買収の際に使われることが多い、純利益に二十五倍を掛ける算出方法で見ると、魔王闘技場は時価総額がかなり高いことが分かる。


 それにも関わらず、魔王闘技場の株価は安い。賭博場という国の規制の有無により収益が左右されるビジネスモデルが原因で、投資家が避けているからだ。


 つまり安価な魔王闘技場の株を買い占めれば、高価な資産が手に入るのだ。海老で鯛を釣る。それが山田の目的だった。


「不安が一つあります」

「なんだ?」

「魔王放送局が魔王領の会社だということです」


 政府系ファンドが他国の企業を買収する。もしかすると国際問題に発展するかもしれないと、イリスは不安を感じていた。


「正当な経済活動なんだ、文句は言わせないさ」

「だとしてもです。わざわざ魔王領の会社に手を出さなくても良いのでは?」

「違うよ、イリス。わざと魔王領の会社に狙いを絞っているんだ」


 魔王領は他国への侵略を繰り返している。そんな国の会社を買収しようというのだ。魔王領以外の国民感情はどうなるだろうか。


 当然応援の気持ちに傾くだろう。そうなれば援助という形で広く資金を集めることが可能だ。また放送局に狙いを付けたのは、名前を売る目的もあった。どうせ名前を売るなら悪名より、魔王領に立ち向かう正義のファンドとして名前を売った方が良い。


「それにイリスの心配する国際問題への発展については対策を考えている。心配するな」


 山田はニヤリと笑う。結末への道筋が彼の頭には描かれていた。


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