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第二章 ~『魔法購入』~


 結婚式が終わった後、山田は一週間自室に引き籠もっていた。大臣たちからはマリッジブルーかとも心配された。


 だが心配すべきは山田ではなく、この国の方だった。部屋に引き籠もり、彼がこの国の情報を整理するに連れて、王国が窮地に立たされていることが鮮明になっていく。


「さてどうするかな……」


 コンソールを開いて情報を漁る。めぼしい情報はほとんどチェック済みだが、何かしていないと落ち着かなかった。


「それにしても不思議な世界だ」


 この世界ではステータスを金で買える。魔法やスキルや能力値を金さえあればいくらでも手に入れることができるのだ。


 それ故に、この世界で金は絶対的な価値観となっていた。金があれば有能な人間を何人も生み出せるし、強力な戦士も育成可能だ。つまりは軍事力を含めた国力が金の力で決まるのだ。


「試しに魔法でも買ってみるか」


 この国の窮地をどう脱するか考えるのにも少し疲れた山田は、暇つぶしがてらにステータス購入画面を開く。購入可能な魔法の項目がずらっと並んでいた。


「子供の頃に遊んだゲームそっくりだな」


 この世界に魔法は三種類存在する。


 戦闘魔法。他人に危害を加える魔法が多く、比較的価格は高い。魔力量に応じて性能が向上する特性を持つ。また外敵から身を守る魔法やキズを癒す回復魔法もここにカテゴライズされている。


 生活魔法。生活をしていく上で役立つ便利な魔法。暗い部屋を照らしたり、濡れた服を乾かしたりなど効果は千差万別。値段もピンキリ。最も保持者が多い魔法。


 特殊魔法。適性のない者が購入するには国家予算レベルの金が必要になるため、同じ魔法の持ち主が世界で数人もいない特殊な力。習得した者の中には国家の軍事力に匹敵する力を手にする者もいる。


「とりあえず、この『炎弾』を買ってみるか」


『炎弾。魔力を炎の弾丸として発射する。着弾と同時に爆発させることも可能であり、威力は魔力量に応じて変化する』


 魔法の説明に目を通す。基本的な魔法らしく、戦闘魔法の中では比較的値段も安い。購入ボタンを押すと、ステータス欄に『炎弾』が追加されていた。


「これで俺も炎の魔法使いか」


 山田はニヤニヤが止まらなかった。自分もゲームやアニメの世界の住人のように、手から炎を生み出せるのだ。しかも修行や経験値稼ぎをせずに、課金で一発購入できるゆとりに優しい世界だった。


 山田は他に良い魔法がないかと項目一覧をチェックしていると、ドアをノックする音が響く。


「入っていいかしら」


 アリアの声だ。引き籠もっている山田を心配して様子を見に来たのだろうと、山田はコンソールを閉じた。


「どうぞ、入ってくれ」

「失礼するわね」


 アリアが部屋に入ってくると、ベッドと机しかない殺風景な室内に、彼女は固まってしまう。


「どうかしたのか?」

「……この部屋、こんなに質素だったかしら?」

「調度品なんて必要ないからな。全部売った」

「売ったですって!」

「ああ。ユリウス、つまりはアリアの親父にも許可を取ったぞ。国宝も含まれていたらしいからな。高く売れたぞ」

「信じられない」


 アリアは呆れたと、ため息を漏らす。


「本当に売っても良かったの?」

「家具なんて使えれば何でもいいからな。それよりも何か用事があったんだろ」

「ええ。今更だけどお礼を言いたくてね」

「お礼?」

「イリス姉様と結婚してくれてありがとう」

「あんな美人と結婚できたんだ。むしろ俺が礼を言いたいくらいだ」


 金持ちだが、心根の暗い山田は、異性から好かれる性格ではなかった。元の世界でも金目当ての女性なら結婚はできたかもしれないが、イリスのように無償の愛を向けてくれる美人とは結婚できなかっただろう。


「一つお願いがあるの」

「なんだ?」

「例え国王の地位が目的だったとしても構わないわ。だからイリス姉様を捨てないであげてね」

「俺は国王になるのが目的でイリスと結婚したわけじゃないからな」

「それは山田君の性格を知っているから良く分かるわ。けれど人の心は変わるものよ。これからどんなことが起きても、イリス姉様を裏切らないと誓ってほしいの」

「誓うよ」

「本当に?」

「ああ。元より結婚した時点で一生を共にすると誓っている」


 山田も生半可な気持ちで結婚を決意したわけではない。彼は労働意欲こそ低いが、責任感まで低い男ではなかった。


「それにしてもアリアはイリスのことが本当に好きなんだな?」

「家族だもの、当然よ。それに私はイリス姉様がどんな酷い人生を送ってきたか知っているわ。だからこそ、イリス姉様には幸せになってほしいの」


 アリアはイリスのことを心から心配していた。山田はアリアが誘拐された日のことを思い出す。イリスが彼女を必死に助けようとした理由が分かった気がした。


「旦那様、そろそろ休憩しませ――」


 イリスが扉を開けて山田の部屋に入ってくる。彼女は室内の山田とアリアに視線を巡らせると、固まったように黙り込む。


「イリス姉様、これは違うの。別に浮気とかではないのよ」

「そ、そうだぞ」

「そもそも私がこんな死んだ目をした男に惚れるはずないわ。それに山田君もイリス姉様と結婚したばかりなのだから、浮気なんてするはずがないでしょ」


 イリスはアリアの言葉に黙って耳を傾けているが、固まった表情は解れない。


「浮気なんて最初から疑っていませんよ」

「それなら良か――」

「ただ……旦那様に捨てられたら、私、部屋の窓から飛び降りますから♪」

「ひぃっ!」


(この娘、怖くなるほどに重い!)


 山田は誤解を解くために、イリスに浮気が冤罪であることを説明する。彼女の疑念を払拭する頃には、日が沈んでいた。



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