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第二章 ~『優良不人気株』~


 株の世界には優良不人気株というものが存在する。


 会社の業績や財務は優れているのに、流動性が低いために人気がない株のことを指すのだが、外資系投資銀行ではこういった株は敬遠されていた。


 というのも人気がないため、株が市場に出回ることが少なく、買い手も少ない。だから売りたいときに売れず、買いたいときに買えないリスクがあるからだ。


 だが会社そのものは良い会社なのだ。毎年きちんと配当を運んでくれる。だからかそんな株だけを狙って買うマニアも存在する。そしてイリスに結婚を申し込んだ山田も、変わり者扱いされていた。


「まさか三国一のブス姫と揶揄されるイリスに結婚を申し込む男がいるとはのぉ……」


 王は葡萄酒片手に機嫌良く笑う。酒の進みが止まらないのか、顔が真っ赤になっていた。


「う、うぅ、嬉しいです。こんな私に求婚してくれる殿方がいるなんて……」

「イリス姉様には悪いけれど、一生独身なのではと心の中で心配していたのよ」

「ワシも、ワシも!」


(こいつら本当にイリスの家族かよ。普通に酷いこと言うなぁ)


「正直、ワシは孫の顔を見るのを半分諦めておった。アリアは美人だから結婚できるじゃろうが、イリスはブスだからのぉ」

「待て待て、イリスは美人だろ」


 山田が真剣な口調でそう告げると、王は葡萄酒の入ったグラスを彼の前に差し出す。サラリーマン時代の癖で、彼も手元のワイングラスを持ち上げた。


「山田君の腐った魚のような瞳に乾杯♪」


 グラスを合わせると、王は機嫌良くワインをガブガブと飲んでいく。山田はなんだか馬鹿にされている気さえしていた。


「隣国の王子にも見習わせてやりたいのぉ」

「隣国の王子?」

「イリスの元婚約者でな。酷い男だった」

「浮気でもしたのか?」

「いや、イリスの顔を見た瞬間、嘔吐しよった。あまりのブスさに耐えられなかったらしい」

「最低なやつだな」

「そう思うじゃろ。詳しく聞いてみたら、結婚し、誓いの接吻をする場面を想像したら、我慢できなかったそうじゃ」

「それで婚約はどうなったんだ?」

「もちろん破棄じゃ。仕方あるまい。隣国の王子の言い分も理解できる。ワシも娘とキスしろと言われても無理じゃもん」

「ひでぇ」


(本当にイリスの親なのかよ)


「だが待ってくれ。アリアは美人なんだよな。イリスと目鼻立ちはそう変わらんだろ」

「顔はそうかもしれん。だが顔なんぞオマケじゃろ」

「ならどうやって美醜を判断するんだ」

「当然髪の色に決まっておる」


 王が語る美醜の感覚は、山田の価値観とかけ離れていた。この世界では顔や身長よりも髪の色が異性に対する強い魅力となるのだ。


(奈良時代の女性は眉が太くて二重顎が理想とされていたし、時代が変わるだけでも美醜が変化するんだ。異世界で美的感覚が異なることも、さほど不思議ではないか……)


 ちなみにこの世界では黒髪が一番人気であり、数も少ない希少種である。次に金髪と茶髪はこの世界の平均的な髪色で、髪の色だけで評価されることはないが、逆に落ちることもない。


 だがイリスのような銀髪は神話の悪魔と同じ髪色であるため、この世界で最も醜いと揶揄されている。容姿が整っていても、お金持ちでも、性格が温和でも、男たちはこぞって避けるのだそうだ。


 姉妹なのに黒髪であるアリアは美人で、銀髪のイリスがブス姫扱いされる。しかも二人の髪色は濃い。アリアはより一層美人だと褒めたたえられ、イリスは三国一のブスだと貶される。銀髪にとっては地獄のような世界だった。


「髪なんて染めればいいのに」

「それはできん。ファミレ神への侮辱になるじゃろ」


 髪を染めるのも宗教的な理由で難しく、銀髪にとってはなんとも世知辛い世界である。


「黒髪が美形なんだよな。なら俺も美形なのか?」

「当然じゃ。お主がモテないのなら誰がモテるんじゃ」

「俺がイケメンかぁ~フフフッ、最高だな、異世界」

「容姿が優れていることを鼻にかけおって。嫌味な奴だのぉ」


(貶されたけど、すげえ嬉しい♪)


「イリスとの結婚を途中でやめるのはなしじゃぞ」

「分かっているさ」


 この世界の住人はイリスの魅力に気づいていない。優良株が捨て値で売られているのを発見したような気分に、山田は舞い上がっていた。


 イリスは一国の姫だから金はあるし、性格も真面目だし、なにより顔が良い。元の世界にいたならば、高嶺の華すぎて手を伸ばそうとも思わない美人だ。イリスという不人気優良株は、山田にとっては最高に価値ある存在だった。


「さて明日が楽しみだのぉ」

「明日何かあるのか?」

「戴冠式と結婚式を行う。善は急げじゃ」


 王は狙った獲物は逃がさないと、血走った眼でそう告げた。


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