帰って下さい
「こんばんは、先日助けていただいたムカデです。」
「帰れ」
昔からおばあちゃん子だった私はおばあちゃんかいうことはなんでも信じていた。嘘をつくとバチが当たるとか早く寝ない子はお化けに食べられてしまうとか。
今思えば子供騙しな部分もありバチが当たるはずもないしお化けが出るわけもないと思っている。
おばあちゃんは優しい人で人に対してはもちろん動物にも優しかった。むやみに殺生することはいけない。生き物に優しくするとその恩が帰ってくるよ、と言っていた。
…だからと言ってこんなことがあり得るだろうか、いやあり得るわけない。
ドアを開けたら自分がムカデと名乗る男が立っているのだ。よく見ると整った顔立ちをしているがそれが余計に気持ち悪くさせて私は勢いよく閉めようと思ったがドアを男に止められてしまった。
「待って下さいって、怪しい者ではありません。」
「怪しすぎるでしょ、誰ですかあなた、警察呼びますよ。」
ドアを動かそうとしても全く動かない。結構腕力があるみたいだ。まずい逃げようがない。
「さっきも言ったじゃないですか。先日助けていただいたムカデです。恩返しに来ました。」
「ムカデなんか助けた覚えないです。」
可哀想に頭がおかしい人なんだ。警察じゃなくて救急車を呼んだ方がいいのだろうか。
「本当に覚えてないんですか?カエルから食べられそうになった所を助けてくれたじゃないですか。」
3日前に大学で生物の実験をするからといって先生にカエルを捕まえて来いと命令されてあぜ道でカエルを捕まえていた。ムカデは助けてないが、
「その時カエルに食べられそうになった所を美緒様に救われたのです。」
思い出してくれましたか!と男はへらへと笑い出した。てかなんで名前知ってるんだよ。助けたつもりないよ。
「仮にあなたがムカデだとして何の用ですか。別に恩返しとかそういうのいいです。」
男が喜んでる隙にドアを閉めようとしたがまたもや止められてしまった。こいつ、隙がない。
「そんなこと言わず、美緒様は命の恩人です。恩返しさせていただきます。」
なんでムカデなんだろう出来れば蝶々かカブト虫じゃダメなのだろうか。これではムカデ人間じゃないか。いや、この男をムカデと認めた訳ではないが、
「何ができるんですか、恩返しって。機織でもするつもりですか、うち機織り機なんてないですよ。」
「ぜひ夜伽させてください。」
目眩がした。こいつ今なんて言った?夜伽?
「いやいやいや、おかしいでしょう、見ず知らずの男性と寝るなんて、もっと違う恩返しの仕方があるでしょ。」
「いろいろ考えたんですが私があげられるものは体しかなくて。」
まさかの貞操の危機。初めての相手がムカデとか無理がありすぎる。顔赤らめんな気持ち悪い。
「ちょ、近ずいて来ないでよ!」
男は家の中に入いってきて無理矢理私の腕を掴み抱き上げお姫様抱っこの状態になってしまった。
「ぎゃー‼︎助けて!」
「大丈夫、優しくしますよ。夜はまだ長いです。ゆっくりしましょ。」
私の叫び声は虚しく寝室へと消えムカデと一夜を過ごす失態をしてしまった。もう生き物は助けないと心に決めた。
ちなみにムカデは何故か私の家に居座り続けている。いい加減帰って欲しい。
読んでいただきありがとうございました。
こんなの書きましたが、私はムカデと人は相容れない関係だと思います。