その男、侍女の苦労を知る 其の3
お掃除編はこれでラストです。
めんど……キリ良く終わらせたいので今回は短いです。
「あ~……終わったぁ~」
屋敷の全ての掃除が終わったのは、日が沈んでからそこそこ時間が経った後だった。けど、何とか今日中に終わらせる事ができたからよしとするか。
最初のホールから全体をぐるりと見回すと、最初よりも空気が綺麗になった気がする。これが漫画とかだったら、周囲にキラキラと星っぽいのが煌めいているだろう。
「うわ……本当に全部終わらせてるし……」
またもやリンゴが背後に立ち、驚きとも呆れともつかないような溜め息を漏らした。それよか、ここの警備緩すぎだろ。
「しかーし! 本当に綺麗に掃除ができたかな?! かな?!」
急にテンションを上げ、とてとてと階段に近付いていった。あ~……そういうことか。
「ふむふむ……」
つつー……と、階段の手すりに指を這わせ、舐めるように掬い上げる。
「む、まだまだですわ。やり直しですわね」
と、貴婦人(だと本人は思っている)口調で、指先に着いた埃を見せつけてきた。埃といったって、微々たる量だし目を凝らさなければ気付かない程度だが。
「いや、ここを掃除したのは数時間前だし。それはどうしようもないからな」
俺もまだまだ役所では若手のほうだが、一日ぶっ続けで働いた後のリンゴのテンションはキツイ。なんせリンゴはまだ十代。何から何まで一番ピークの時期だ。おまけに、ここまでド田舎の役所だと仕事が殆どこない。体力が有り余っているのだろう。
「ふ~ん……まあ、いいや。ユウイチ疲れてるでしょ? ご飯くらいなら奢るよ?」
そんな俺の、"はやくどっか行ってくれ"オーラを感じ取ったのか、珍しく引き下がり、そしてあろうことか飯まで奢ると言い出した。
「な……なんだ急に、珍しいな」
普段なら、奢るどころか奢らさせるリンゴだ。先週も、魔法使い(真)に渡す用にとっておいたお菓子をかっさらい、役所の村長が慌てて街まで買いに行くという、有り得ない事態を発生させた張本人だ。
……ホント、よく解雇されないな。
「ま、まあたまにはこういうのも良いかなって! ......で、どうするの? ご飯食べに行くの?」
「まあ、こんな機会そうそう無いだろうし、ご馳走になろうかな」
他人の払うお金で食べる飯ほど旨いものはないしな。
こんな田舎だから、飯屋も一つしかない。だからリンゴの悪戯に嵌まってゲテモノを食わされる心配をする必要もない。
「じゃあ早速行こー!」