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俺が生まれた村は最低の村だった。王国の辺境にあるせいで、領主はやりたい放題。村の皆はギリギリの生活を送るしかなく、周りを気に掛ける余裕はなかった。
というより周りを蹴落とそうと、奪おうとばかり考えてる奴しかいない。
こんなクソみたいな村で俺達兄妹はよく生きられたものだ。親には感謝しかない。
そんな両親は俺が15歳になった時、正義感から村の現状を王国へ密告しに行った。
だが領主の放った兵に捕らわれ、村へ連れ戻された両親は…見せしめに…
いや、これ以上思い出すのはやめよう。あの時の怒りが蘇って狂ってしまいそうだ。
その事件があって俺は妹を連れて村を捨てることに決めた。
領主は怖いが村から出るアテはある。子供の頃に作った秘密基地だ。
基地には俺が掘ったトンネルがあり、基地の後ろにある森を通り抜けた先まで続いている。
あの頃は目をきらきらさせた妹におだてられ、気が付いたらトンネルになっていた。…当時の俺が恐ろしい。
トンネルに近づくと、モンスターがそこに住み込んだことが分かった。何年も放置していたんだ。当たり前だろう。
モンスターの頭上に表示されている名前は『ランドドラゴン』ドラゴンとあるがただのデカいモグラだ。
とはいえ当時の俺が敵う相手ではなく、どうにか外におびき寄せてからこっそり侵入した。
こうして無事村を出た俺達は近くの町へと辿り着いた。
今から思えばあのモンスターがいたお陰で、追っ手が来る時間を稼げたのだろう。
しかし前の村よりかはマシだったがこの町での生活も過酷だった。
15歳といえばある程度責任能力のある大人だが、まだまだひよっこ。さらにどこの馬の骨とも知れない奴がパーティーやギルドに入れてもらえるわけもなく、町にあった商業ギルド『ストラッパーレ』の使いっぱしりくらいしか、働く場所がなかったのだ。
こうして俺達は休むことなく働き続け、たまの休みには剣をひたすら振った。
妹にこんな過酷な仕事はさせたくなかったが、あの時はそうするしかなかった。
それでも妹は村を出てからずっと文句1つ零さずに付いてきてくれた。本当にいい子だ。
俺の剣の腕はからっきしだった。剣を振れば何故か俺の体に当たる。木で出来てなかったら何回死んでたことか…
槍は更に酷かった。体に当たるのはもちろん、これまた何故か狙ってない木には当たり、狙っている木にはどうやっても当たらない。
これでは妹を守ることなど出来ない。他の武器もそれほど変わるものではなかった。何故だ…
そうして生活を続けていると、1人の冒険者と仲良くなった。
彼は旅を続ける冒険者で、彼の冒険譚は俺達の唯一の娯楽だった。
彼には魔法も教えて貰った。俺は全く適正がなかったが妹はいくつか適正があったらしく、デバイスを胸に抱きながら「これでおにーちゃんといっしょにたたかえるね」と微笑んでいた。
超可愛い…何この可愛い生き物!?
他にはトンファーという武器も教えて貰った。遠い国で伝わる武器だそうだ。
剣、槍、棍棒、斧、弓、投げナイフ…色々試したがこの武器は今までより遥かにマシだった。といっても振っていたらすっぽ抜けて狙っている方向に飛んでいくが。
「これはこれで攻撃になるのでは?」と冒険者に問うと、苦笑いされてしまった。
だがここで閃くものがあった。「武器が使えないなら使わなければいいじゃない」
この瞬間、クローブ、つまり俺の戦い方は決まったのだった。
旅の冒険者は引退をするつもりだったらしい。冒険者をやめて、この町に根を張るのだという。
もうそろそろ移動しないと、村から追っ手がやってくるかもしれない。だから彼に付いていってもいいか、頼むつもりだったのに…
そう零すと、仲良くなった印と言ってデバイスとメモリーズコアを譲ってくれた。
冒険者をやめるからいいとは言っていたが、もしかしたら使うかもしれないしどちらも決して安いものではない。
「それでもお前達には必要だろう」と半ば押し付けられる様に譲ってもらえた。
彼がいる方向には足を向けて眠れない。あの人今も元気かな…
生活費を切り詰めて貯めたなけなしの資金と彼のデバイスを持った俺達は、こうして旅に出ることにした。
あの領主の手が届かない所に、あの領主に屈さない力を身につける為に。
まずは腕を磨こう。妹を守れるくらい強くなろう。
そして仲間を集めよう。決して道連れにするんじゃなく、信じあえる仲間を探そう。
そしていつか、俺達兄妹が安心して過ごせる『栄光の地』を見つけよう。
……………あれから何年経っただろうか、風の噂であの領主の横暴が発覚し、処刑されたらしい。
…え?…ってことは俺達はもう安全なのか…?俺の今までの努力っていったい…