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何なんだ、あいつは!?
エリアボスであるトロルに一人で立ち向かう奴がいた。もうここからしておかしい。
エリアボスはそこら辺のモンスターとは一線を画すモンスターだ。恐ろしい程に強く、4~5人のパーティーで挑んでも倒せるかどうかだ。
そんじょそこらの雑魚パーティーとは違って少数精鋭で華々しい活躍をしていた俺のパーティーでも苦戦は免れないだろう。
くれぐれも言うが苦戦するだけであって倒せないとは言ってないことに注意して欲しい。特に俺は昔からよく『やればできる』と言われ続けてきて、才能の塊と言っても過言ではない男だからな。仲間だった(ここ重要)奴らと連携すれば負けはしないだろう。
もしかすると俺より遥か上の階層で戦っている冒険者であれば一人でも相手取れるのかも知れない。
だがそいつは違う。逃げ遅れて死を覚悟した時に乱入してきたそいつを、俺は知っている。
一人で塔に潜る自殺志願者であり、格上の俺に生意気な態度をとった常識の欠片もない男だ。
そいつがふらりと現れてわけの分からない攻撃でトロルを倒してしまった。
一体何なんだ、あいつは!?
あいつは俺よりも弱かったんじゃなかったのか!?…いや、その筈だ。この前会った時もろくな装備も着けていなかった。それに、レベルが低いままで塔をうろつくという、塔に潜る冒険者にあるまじき行為までしていたんだ。こんな冒険者見習いみたいな奴に、この俺が劣る筈ない。
だがあいつはやった。腰を抜かして動けない俺とは違って、あいつはトロルを倒せるだけの実力を示してしまった。
――もしかして俺よりも、いや、俺達よりも強い?
そんな考えが脳裏を過る。
いつからだ?いつからあいつは俺よりも強くなった?もしかして初めて会った時からか?それを俺は弱いと勘違いしてたのか?
そんな筈はない!冒険者の強さはレベルと装備で決まる。そんな事は誰にでも分かる当たり前の事だ。あいつと出会った時、俺よりもレベルは下だった。加えて装備の差は歴然。その後の事は知らないが、装備を見る限り俺とそう違いはない筈だ。だからあいつが俺より強いなんてあり得ない。あり得ないんだ!
でも、とあの光景が甦ってくる。あいつがトロルを倒す光景が。あれもまた紛れもない事実だ。そしてそれは、俺よりも強いことを意味している。
以前がどうだったかというのは置いておくにしても、今のあいつは確実に強い。そう、俺が冒険者生活の中で絶対に敵わないと思い知らされた格上のような――
俺がそんな風に考えている間に体力を回復したのか、あいつ――オレガノがムクリと起き上がった。そして立ち去ろうとしたところで、ばっちりと目が合ってしまった。
眉間に皺を寄せ、眼光鋭く睨んでいる。その目を見ただけで身が竦んでしまった。
あれは、人殺しの目だ。今まで受けた仕打ちに対する、復讐の目だ。
オレガノが、ゆっくりと近付いてくる。しっかりと俺を見据えて、絶対に逃がさないという意志が透けて見える。
彼が一歩、一歩と歩みを進める度に体が震え、ガチガチと奥歯を鳴らす音が強くなる。十分に近付いて歩みを止めた頃にはもう、少し前まで感じていた敵対心は綺麗さっぱりなくなって、築き上げてきた自尊心はガラガラと音を立てて崩れ落ちていた。
ヒイイイイイイ!こ、殺される!
「……動けるか?」
「ヒイイイイイイ!…………へっ?」
今のはどういう意味だ?『抵抗されると面倒なんだが、動けるか?』という意味なのか『あっさり殺したんじゃつまらないから、動けるか?』という意味なのか、それともまた別の意味なのか。どれにしたって碌でもない意味に決まっている。今にも斬りかかりそうな形相をしているのが何よりの証拠だ。
「……ん?お前、どこかで会ったか?」
「もう忘れてるのかよ!」
しまった!反射的に突っ込んでしまった!ついこの間一悶着あったのにもう記憶の彼方に吹っ飛んでたこいつの頭の残念さについ突っ込んでしまった!
あれか?格下の俺の事なんて覚える必要もないってか?だがこれはチャンスでもあるぞ!覚えられてないのなら上手く誤魔化して他人のふりをすれば切り抜けられる…!
「やはりそうか……こういうところも直した方がいいんだったな……」
何で頑張って思い出そうとするんだよおおおおおおおお!その心境の変化、今はいいよ!変わるならもう少し後で変わってくれよ!
「いいいいい、いやー?おお俺は会った事ないですけけけけけどぉー?今のもただ言い間違ったでして、そうっ!遠くから見たとかそんな感じだから覚えてなくても大丈夫っすよー!いやマジで!」
嫌な汗は止まらず、体は肝まで冷えてブルブルと震えるのを何とか押さえ込み、精一杯の他人のフリをする。今、正体がバレると殺されかねない。ここは卑屈に、卑屈に……
「ああ、思い出した」
何で思い出すんだよおおおおおおおお!もう記憶の彼方にすっこんでろよおおおおおおおお!
「確かズドンの光――」
「紫電の光だよ!ズドンってなんだよ!馬鹿にしてんのか!
…………あっ」
ししし、しまったあああああっ!他人のフリしようと思ってたのに自分から名乗ってしまったああああ!でもしょうがないだろ!ズドンってなんだよ!?擬音語か!?それともスリの主犯が分け前をはねるって意味か!?『ピンハネの光』ってなんだよ!?おかしいだろ!
「そうか。他にも仲間がいた……よな?」
マズイ……今の状況は本当にマズイ。助けてくれる仲間もなく、逃げ出したとしてこんな開けた場所じゃあすぐに追い付かれる。他の冒険者が通りかかってくれるのを期待しようにも運よく来てくれるなんてそうそうない。正に絶望的な状況だ。
「お前たちには借りがあったがしょうがない――」
もうダメだおしまいだ。俺の命はここで尽きてしまうんだ。
オレガノの言葉はまだ続いていたが、最後まで聞くことは叶わず、俺の意識は闇へと落ちていった。
「――トロルから助けたってことでチャラにしていいよな?
………………気絶してる」
次に俺が目を覚ましたのは、帰還装置の近くだった。
最近になって知った事がわんさかあります。例えば最新話の投稿の仕方とか。全く予備知識なしで書き始めたんですがそれじゃダメだとやっとこさ気付きましたよ。もう笑ってくれよ
今からでも挽回は可能なのかどうか、いやーわかんないっすねー(笑)
追記:次回以降ですが、試験的に一区切り(主観)まで書いた後、一気にどぱーってやろうと思ってます。なのでちょっと間があくことをご了承ください




