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オレガノの休暇最終日。今は繁華街を見て回っているところだ。
「うふふ。あそこのお店のケーキ、おいしかったです!また行きましょうね、兄さん!」
「そうだな」
「あっ、あそこのアクセサリー可愛いです!見てみましょう!」
「あまりはしゃぐと危ないぞ」
「もうっ!また子供扱いして…!私は子供じゃないんだから、大丈夫です!」
ここで、はしゃいだシナモンが強面の冒険者とぶつかり冒険者が怒鳴る。そこへオレガノが颯爽と登場し、ひと睨みで冒険者を追い払う。
…なんて展開にはならず、むしろ絡まれたのはオレガノの方だった。
「あれ、オレガノさんじゃん。よー」
「オレガノか。あの時は助太刀感謝いたす」
「気にするな」
「あっはっは!あんたら固すぎ!もっと肩の力抜けよー」
「こやつ程ではないわ。それに、お主は力を抜きすぎだ」
声をかけてきたのは2人の男女。彼らの言葉通り、塔内でオレガノが助けたパーティーの一員だ。意外に感じるかも知れないが、実際のところは少し違う。彼らが戦っていたところはメレンゲの花が咲く場所だったのだ。
このまま戦いが続けば花が踏み潰されかねないと感じたオレガノは、仕方なく手を貸したというわけだ。
「さすが兄さんです!」
「う…まあな」
しかし、真相を知る者はおらず、都合のいい解釈になっている。
「おろ?この子オレガノさんの妹?可愛いーじゃん!」
「はい。シナモン・ハナハッカと言います。兄さんは言葉足らずな人なので、
何か失礼はありませんでしたか?」
「お、おう。全然大丈夫でございまするよ?」
「お主、言葉遣いがおかしくなっておるぞ」
「うっ、うっせーよー!」
いきなり丁寧な言葉を投げかけられ、面食らってしまう女性。
普段丁寧な言葉を聞く機会もない者達からすれば、驚いてしまうのも無理はないのだろう。
とりあえずオレガノは誇らしげな顔をするのを止めろ。
「なるほど、兄妹水入らずであったか。では我々は失礼するとしよう」
「うーい。じゃーねーシナモンちゃーん」
「はい。ではまた」
空気を呼んで退散していく2人。彼らを見送りながらなぜか誇らしげなシナモン。
「うふふ。塔の中のことは教えてくれませんけど、他の冒険者にも気を配れるなんて、やっぱり兄さんはすごいです!」
「た、大したことではない…」
寡黙がいいように働きすぎである。
この後も兄妹の兄妹らしからぬやりとりは続くわけだが全て書くとキリがないので、彼らに倣って退散することにしよう。
ただ、あえて述べなかった部分を言うならば、蜂蜜を濃縮したような甘さであったとだけ記しておく。