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塔に願いを  作者: みかた
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3/6 参加人数を変更。あとその他もろもろ

 オレガノ達が馬鹿騒ぎをしている間も時間は過ぎる。

 先ほどまで談笑をしていた冒険者達も真剣な表情になり、フロアボスに挑む前の最終チェックをしているみたいだ。


「昨日言った対処法は覚えていますか?最悪覚えていなくても、今回のフロアボスは自分の動きさえ間違わなければ十分対処可能です。焦らずに挑みましょう。

では各班に分かれ次第出発します!」


 コウズクの発言で、張り詰めていた空気が解れ程よい緊張感が辺りを包み、冒険者達はそれぞれの班同士に分かれ始める。

 集まった28人の内10人が2つある攻撃班に別れ、10人が防御班、残り8人が遠距離攻撃や回復などの後衛班という構成みたいだ。

 この内オレガノとアニスは攻撃班の1つに、クローブとローリエのいる騎士団はもう1つの攻撃班、攻撃魔法が使えるサフラン、攻撃魔法に加え回復魔法も使えるエシャロットは後衛班に配属されていた。


「私、こんなに大規模な戦闘は始めてです。緊張でドキドキしてます…オレガノさんはどうですか?」

「さあな」

「オレガノさんはこういうことに動じない人ですもんね。私もそうありたいです…」

「…ただ目の前の戦いに集中するだけだ」

「え…?…はいっ!」


 珍しくアドバイスを送るオレガノ。アニスは一瞬何を言われたのか分からないという顔をしていたが、すぐにオレガノの言葉を理解して満面の笑みを浮かべた。

 そうこうしている内に班の編成が終わり冒険者達はフロアボスのいる50階へと歩を進める。

 そこは階層1つが丸ごと部屋になっている場所であった。


 部屋は何か感知機能があるのか冒険者が入った途端に、中央の空間が歪み白い光を吐き出す。そして光の奔流が収まった時、そこには大きな蜘蛛型モンスターがいた。

 その足は平らで板状の形をとっており、そこから無数の小さな棘が生えていることが大きな特徴だろう。


 この一連の現象は冒険者の間で『ポップ』と呼ばれており、塔などの魔素が集まりやすい場所を探索する時は注意する必要がある。


「総員配置に付け!」


 コウズクの号令に従い冒険者達は決められた場所へ移動し始める。


「…よし。戦闘開始!」


 こうして配置の完了を確認したコウズクによって戦いの幕が切って落とされた。

 初めに防御班が敵に接触する。班のリーダーが『タウント』を使い敵の注意を引き付ける。

 防御班の役目は1人が敵の攻撃を引き受け、2人がサポートに回るという3人1組を3組で交代していき、他の組が相手をしている間に回復魔法を使える者が傷を癒す手はずになっている。


「…注意があちらに向いたな。俺達も戦闘に参加する!続け!」


 オレガノのいる攻撃班のリーダーの掛け声で、防御班の後に続くように敵に向かって行く。

 この班は大きく迂回して敵の後ろをつき、その大きな腹にダメージを与えていくのが目的だ。

 もう1つの班は防御班のそばにおり、やや側面から攻撃を開始している。

 前後からの挟み撃ちだ。


「くっ…!このっ…!だめだ、硬いよぉ」


 アニスがあまりの硬さに弱音を吐く。

 このモンスターの足は勿論だが他の部位も硬く、剣や槍などでは大きなダメージを与えるのは難しい。

 必然的に弱点である頭と比較的柔らかい腹の裏側を狙うしかないのだが、大きな足が邪魔をして上手く狙えないというのがこのソーンスパイダーというモンスターの厄介なところだ。


「敵の大技が来ます!DPS上げてください!」


 『DPS』とは瞬間火力と言う意味だ。冒険者は専門用語を作りたがるから覚えるのに苦労する。

 ソーンスパイダーが黄色い光を纏いながら体を大きく捻る。冒険者達に大技を予感させた。

 モンスターの生態を研究している者の発表により、一部のモンスターはスキルのようなものを使うという報告がされている。

 ただし、敵がスキルを使う時は大きな予備動作が必要なようで今のがそれに当たるのだ。


「「「うおおおおっ!」」」


 攻撃班の冒険者達が一斉に雄たけびを上げスキル特有の青い光が舞い踊った。

 ある者は弱点を狙い、ある者は足を狙って体勢を崩そうとしている。

 後方からは炎や氷などが乱れ飛び、他の冒険者の邪魔にならないような場所を狙っているようだ。

 こうして予備動作中に弱点を攻撃したり態勢を崩させたりすることで、敵のスキルを潰すことが可能になるのだ。


「ギャギャッ!?」


 現に今、頭と腹に大きなダメージを受け動きを止めるソーンスパイダー。

 全てのモンスターが今のように簡単に動きを止めるというわけではないのだが、スキルを潰すことができてしまえば戦闘はかなり楽になる。


「………ブレイク!」

「おっ?これが例の妨害魔法か?急に刃が通るようになった!」

「本当だ!これで随分とやりやすくなったぞ!」

「きた!妨害魔法きた!これで勝てる!」


 コウズクが魔法を発動させた途端に前衛の冒険者達から歓声が起こる。敵の防御力を一時的に下げさせる効果がある妨害魔法だ。

 妨害魔法はスキルの種類も少なければ数自体も少ない。そのため適正を持つ者達は1人に付き1つだけスキルを所持しているのが現状だ。

 しかしその1つで戦局を傾けさせることができるのだから、このスキルの有用性が分かるというものだ。


 コウズクが魔法を使う間も絶えず後衛の攻撃魔法や弓矢が飛んでいく。

 相対的に攻撃力が上がった冒険者達も水を得た魚のように苛烈な攻撃を繰り出し敵のスキルを止め続ける。


「いやー、壁役がいるから攻撃するときに反撃を気にしないでいいって楽だわー…ふん!」


 クローブは暖気に感想を漏らしながらも強烈な拳打をソーンスパイダーに浴びせかけている。


「はっ!………ファイアーボール!」


 ローリエはレイピアを敵に突き立てながら詠唱し、魔法を発動させる。

 これは『ムービングキャスト』と呼ばれるスキルとはまた別の技術で、移動あるいは戦闘をしながら正確に詠唱をするという高等技術だ。

 この技術は主に近接をしながら魔法も使う者に多く見られ、戦いながら大魔法の発動に成功させた者も過去にはいるらしい。

 彼女は短い詠唱で済む魔法を発動させるので精一杯といったところだが、『ムービングキャスト』を習得しているだけでも十分な実力の高さが伺える。


 ローリエをはじめ、コウズクがフロアボスのために連れてきたメンバー以外にも優秀な冒険者達がいるようで、敵の通常攻撃も防御班によって完全に受け止められている。

 誰もが勝ちを確信した、そんな時だった。

 冒険者達の猛攻撃に命の炎が燃え尽きようとしたところでソーンスパイダーの行動に変化が起きたのだ。


「なんだ、あの動きは…?」


 ソーンスパイダーの行動はただ単に板状の足で体を取り囲んだだけ。敵の体を包む黄色い光からスキルを使っているのは分かる。だが攻撃スキルにしては発光している時間が長い。

 今までの戦闘ではなかった動きなのか、単なる身を守る行為にコウズクは防御スキルかと見当を付けながらも首を傾げる。

 その間も更なる攻撃を加えようと敵に殺到する冒険者達。

 と、そこで敵が動いた。

 ソーンスパイダーは足に生えている棘を四方八方に勢いよく飛ばしたのだ。

 ちょうど攻撃をしようとしていた冒険者達は対応が遅れ、次々と倒れていく。防御が間に合った冒険者も全てを受け止めることはできずに少なくないダメージを受けているようだ。


「ふん…」


 そんな中でもオレガノは迫り来る棘を避け、避けきれないものは剣や篭手で弾いていき未だ無傷であるのは、さすがと言ったところか。

 だが敵の行動は終わっていない。すぐに次弾を装填したソーンスパイダーはまたもや棘を飛ばした。

 先ほどの攻撃で傷ついた者達が倒れ、後衛にも被害が及ぶ。今、前衛で立っている者はそう多くない。


「くっ…まだこんな技が残っていたなんて!」


 これまでの戦いで全ての攻撃を見たと思っていたコウズクは悔しそうに吐き捨てる。

 だが見たことがなかったのも無理はない。あのソーンスパイダーの攻撃はある程度弱った状態で、尚且つ気力や体力あるいはスタミナと呼ばれるものが大きく残っていた場合にのみ使用される。

 これまでの戦いでは、スキルを使いすぎて瀕死の状態になっても先ほどのスキルを使うスタミナがなく、使われずに死んでしまっていたのだ。今回敵のスキルを潰し続けたせいで招いた結果だと言えるが、災難だったと言うしかない。


「わっ…きゃっ!」


 第二波もなんとか防いだアニスだが、堪えきれずに尻餅をついてしまう。

 だがそんな彼女を嘲笑うかの様にまた次弾が装填されてしまった。体勢が崩れた彼女にはもう攻撃を防ぐ術などない。無慈悲にも体を貫く棘を想像してぎゅっと目を瞑り身を強張らせるアニス。

 だが来るはずの痛みはいつまで経っても訪れなかった。


「え…?」


 恐る恐る開いた目に映るのはオレガノの後ろ姿であった。

 オレガノはアニスの前に立ち、全ての攻撃を弾こうとしていたようだ。だがいかにオレガノといえど避けずに攻撃を受けることなどできようはずもなく、肩、脇腹、太ももに深い傷を負っている。防御を捨てた代償がここに来て現れてしまった。

 ようやく敵の攻撃が止み、膝を屈するオレガノ。アニスは慌ててオレガノの元へと駆け寄り抱きとめる。見ると、オレガノの顔は苦悶の表情に彩られていた。


「なんで…なんでですか!?私を助けようとしなかったらこんな怪我しなくてすんだのに…!」

「なんでだろうな…くっ…」

「もう…ほんとに…馬鹿なんじゃないですか。私なんかのために…こんな…ぐすっ」

「馬鹿とは酷いな…」


 堪えようとして堪えきれず、アニスの目に溜まった涙があふれ出す。


「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いんですか…オレガノさん…?オレガノさん!?」


 軽口に軽口を返そうとしたが反応がなく最悪の状況が脳裏を過ぎるアニス。


 楽だと思われた戦いは、一転して苦しい戦いを強いられることになった。

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