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今回が初投稿です。よろしくお願いします。
大きな岩を中だけくりぬきでもしたのかと言いたくなるような、四方八方が石でできた薄暗い部屋に、剣同士がぶつかり合う音が響いている。音を奏でているのは3つの人影、いや、2体の人型のモンスターと1人の男だ。
男の目に映るのは『オーガ』という魔物の名前と『Lv41』『Lv40』という数値。
その体は鍛え上げられた筋肉で編まれ、口には鋭い牙、額からは角が生えている。手に持つ大剣を振り回し、その目は対峙する男への殺意で彩られていた。
男は迫る大剣をかわし、いなし、相手の隙を窺っている。
2対1という状況にも関わらず、男の顔には焦りの色が見えない。
彼の名はオレガノ・ハナハッカ。その短い銀の髪は部屋の暗さと相まって鈍く光り、鋭い目付きはオーガ達に注がれている。麻でできた長袖のシャツにズボンという身軽な格好をしており、手甲と脛当てがなければ、普通に街で生活している人間と変わらない格好だ。魔物と戦う冒険者にしては身軽過ぎる。
更に言葉を重ねるなら、オーガの腕力は素手で金属製の鎧を凹ませる程の破壊力を持ち、武器を持ったオーガは十分な訓練を受けた兵士が互角に戦える相手だ。それを碌な装備もないまま2体同時に相手をしているオレガノが異常なのであり、良識のある方は決して真似をしないように注意して欲しい。
さて、2体同時という離れ業をこなしている彼は、戦い方も曲芸染みている。
2方向からの攻撃を確実に捌いていき、大きく振りかぶっている間に1撃。振り下ろしを間一髪で避け、できた隙にまた1撃。この間にも片方から攻撃が飛んできているのだが、それも避けるか手甲で捌いている。
「くそ…さすがに固いな」
そう言うと敵の大振りな攻撃を避け、思い切り体当たりをする。
普段は岩のようにびくともしないオーガなのだが、攻撃を空振りして体勢が崩れたところを狙われては踏ん張りもきかず、たたらを踏んで倒れてしまう。これで一時的に1対1となった。
意図的に作りだした好機を逃すはずもなく、残った1体に猛攻撃を仕掛ける。
突き、袈裟切り。敵の攻撃は回り込むように避けて敵の背後を取る。
剣を青白く光らせてすれ違いざまに2連続攻撃。「花霞・満開!」
剣を持つ手とは反対側に流れた腕を引き戻すように回転切り。「もう1つ…花霞・散華!」
このスキルは2つで1つのスキル言われている。すれ違う距離で攻撃回数が最低2回から最大8回まで変化する『花霞・満開』その後間髪いれずに繋ぐことができ、STRが高いほど威力が高まる回転切り『花霞・散華』。
彼が冒険者となってから今まで、強敵相手に何百回と使われ続けたスキルだ。
「!!!」
硬い筋肉で覆われたオーガといえども流れるような連続攻撃をもろにくらえばたまらないらしく、数歩後ろによろめき口からは血が流れる。だが生命力はかなりのもので、今までに創られた切り傷を負い満身創痍ながらも戦意は失っていない。
怒りの炎を更にたぎらせ敵の息の音を止めるべく、大剣を大きく振りかぶる。
その少し前からは先程転がせたもう1体のオーガが起き上がっていた。軽くあしらわれて怒ったのか、咆哮を上げながら大剣を振りかぶりオレガノへと突っ込んで行く。
「分かりやすい奴らだ…バックステップ」
どうやら彼は技名を口にするタイプのようだ。
技名と同時にオレガノの足が先程の様に光り、普通の人間ではありえないほどの速さで後ろへ下がる。突然目の前から消えた獲物に驚きながらも、2体のオーガの攻撃はすでに止める事などできない速度となり、互いの刃が互いの体へと吸い込まれていく。
片方は頭に直撃し絶命。もう片方は右肩から袈裟切りにされている。同じオーガの攻撃をもろにくらえば無事ではいられない。まだ死んではいないが、虫の息だ。
「まったく、この生命力の高さはやっかいだな」
ため息1つ吐くと、開いた傷口に剣を突き入れ止めを刺す。するとオーガの体が白く光りだし、体が徐々に薄く透明になっていきやがて何もなかったかの様に消えてしまった。先に絶命していた方の姿も既になく、そこには彼らの額にあった角に酷似した物と何故か瓶詰された赤黒い血液だけが残るのみである。床や壁に残る新しい切り傷がなければ直前に激しい戦闘があったと信じる者はいないだろう。
「オーガ1体分持ってかれたか…」
オーガから得たアイテムを回収した後、金属の板の様な物を取り出し呟く。
この金属板は『ステータスプレート』と言い、そこからは『オレガノ・ハナハッカ』という名前と『Lv29』という数値、その下には『STR 103』などの様々な数値の羅列が読み取れる。
「中に入って3日か。そろそろ戻らないとまずいかもしれん…確か帰還装置はあっちだったな…ソニックウォーク」
オーガ2体を相手にしながら眉一つ動かさなかったオレガノだが、急に慌てたようなソワソワしたような態度を見せると青い光を置き去りにするかのように部屋から飛び出していった。
◆ ◆ ◆
ここはホイップ王国北部に浮かぶ島、メイラード島。島の中心から少し北に位置するのは異様なほどに高い塔。南端に整備された港湾から塔まで東西を分断するように幅広い道が貫いている。
港には何隻もの船が停泊し、大通りは馬車や人通りが絶えない。空を見上げれば空飛ぶ船、飛空船が浮かんでおりどうやら島の東側にある広場に停泊しようとしているみたいだ。
このメイラード島だが決して大きな島でもなく、離島でもあるので王都とのアクセスの悪さは否めない。しかし、これほどまでの発展を遂げているのには大きく2つの理由がある。
1つ目は何といっても島にそびえる塔だろう。塔の中にはオレガノが相手をしていたオーガの他、様々な魔物が生息しており毎日何百人もの冒険者が魔物の素材や魔石を求め、あるいは塔の頂上まで登り制覇しようと挑みにくる。
2つ目はそこに目を付けた、商業ギルドの中でも最大手の『ストーチカ』の存在だ。ギルドは大昔、国から塔と島のほぼ全ての権利を勝ち取ることに成功し、莫大な財産の全てをつぎ込みインフラを整備することで街を造ったと言われている。
この2つの要素のどちらでも欠けていたらここまでの規模に成長しなかったと言うのは、今や王国内に住む者なら誰もが知っていることだろう。
塔に関しては他にも特徴があるのだが、ここでは中でもかなり変わっている点を紹介しよう。
それは、『魔物と戦い続けるとレベルが下がっていく』という点だ。このおかげで塔の頂上へ到達するのは至難を極め、制覇できる者は十数年に1回現れるかどうかという頻度なので、どれほどの難易度か想像できるだろう。だが安心してほしい。塔の右隣にある教会で手続きをすると、中で下がったレベルが戻り、戦って上がったであろう分だけレベルが上がる。これにより更に奥へ挑戦できるようになる。
手続きには銀貨1枚が必要であり、そこから毎日少なくない利益を生んでいる。
貨幣は銅貨、銀貨、金貨の3種類あり、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚の価値がある。銅貨20枚もあれば1日の食費を賄えるので銀貨1枚はそれなりの金額なのだが、出し渋るものはいない。
ちなみに、教会は国の管轄である。
他にも、塔やそれ以外に関して説明が必要なものがあるが、それはまた追々述べていくことにしよう。
長々と説明をしている間にオレガノは教会で手続きを済ませ、塔を挟むように向かい合っている商業ギルド『ストーチカ』で素材を換金しているところだった。
「いらっしゃいませ…あら、今回は早かったんですね。何かあったんですか?」
「い、いや、特に何もない。それより換金してほしい」
「また1人にしては随分な量ですね…空の魔石は必要ですか?」
「2個もらおう」
「では少々お待ちください」
明らかに腰に提げているポーチの容量では入りきらないであろう数々のアイテムがカウンターの上に並んでいく。
受付嬢はそれを受け取り、別室に消える。しばらくして戻ってくると、銀貨3枚、銅貨46枚と空の魔石を手渡した。
空の魔石とは文字通り、魔力の元である魔素がない状態の魔石を指す。『そら』ではない。
モンスターを狩ると体内に保有していた魔素が放出される。これを魔石に吸収させ続けると魔素が充填された魔石となる。充填された魔石は、魔法を使いすぎてなくなった魔素を補充したり、魔道具と呼ばれる機材に取り付けたりすることで魔素を消費し、再び空の魔石となるのだ。
「何度も言うけど、ちゃんとした防具を着なさい。あと、1人で中に入るのもやめること。
1人分で考えたら十分に稼げてるんでしょうけど、何かあった時にその装備じゃ助からないわよ?
それに、フォローしてくれる人がいるのといないのじゃ安全性が全然違うんだから。
妹さんも心配してるでしょ?」
手続きが終わったためか窓口に来る者がいないのか、女性の口調が一変して親しげなものに変わる。
「い、妹を利用するのはずるいぞ!」
そう言いながら手甲と脛当てを外していくオレガノ。塔の外では防具を付けないようにしているみたいだ。この習慣は、同じことを他の人にも言われ続けるのに辟易しているからかそれとも別の理由か。
彼の心の内は知りようもない。
「利用なんかしてないでしょ…そうだ。今メンバーを募集しているパーティーがあって、レベル的にもあなたと同じくらいだからちょうどいいと思うんだけど……」
「いや、中で協力することはあっても、パーティーを組む気はない」
彼の頑なな言葉にはあ、と溜め息を吐く受付嬢。
「それ、1人で塔を制覇できたら何でも1つだけ願いが叶うっていうやつでしょ?
最初に制覇した人の日記に書いてあったってだけで、もう信じてる人なんていないわよ?」
「……何を言われようと可能性があるなら諦める気はない」
「何を叶えたいのかは知らないけど、帰ったらちゃんと妹さんを安心させてあげるのよ?」
「わ、分かってる」
他の客が来たからと彼女は軽く挨拶をして接客に戻る。用もなくなったオレガノはギルドを出て、宿泊している宿へと足を向けた。
「おう、お前も今帰りか?今回も1人で中に入ってよく無事でいられたな。俺が若い頃…ておーい!」
声をかけられた方には、4人連れの冒険者の集団が1歩前に出ていた。彼はそれなりに有名な人物だ。主に語りはじめると長いという理由で。
だがオレガノには関係ないと言いたげに男を無視して走っていく。
この男に対しては誰もがこんな風なのだが、オレガノは誰に対してもこんな風だ。
引き留める男の言葉には聞く耳を持たずに走る足取りは軽く、心なしかスキップをしているようにも感じる。おそらく彼が向かう先に楽しみが待っているようだ。
友達に見てもらって誤字脱字はチェックしましたが、何分拙い文章かと思います。どこかおかしいところがありましたら「間違ってるよ(ハート)」と優しく教えてください。
尚、読んでもらったら分かったかと思いますが、時々ナレーターがふざけます。これは作品上の演出ではなく作者の発作です。長々と真面目なことを書いているとふざけたくなる病気です。これはもう慣れてもらうしかなさそうです。