表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/53

後日談:ある街の老技師

注:この物語は異世界に流されたGGYの魂の一部のその後が描かれた物語です。

 賛否両論ある設定ですので、「ゲームの爺が見たいんだよっ!」「異世界転生とか舐めてんのかっ! 死ねっ!」「懲りていなかったか。よろしい。ならば戦争だ!」という方々はお気を付けください。


 読まれる方も、どうか寛大なお心で、正月特有の穏やかな心情でお読みください。

 テクノギア共和国。

 鉄と油と、機械の国。

 魔法王国マギノアークと戦うこの国は、日夜最新鋭の兵器と武装を生産しており、職人たちは互いにシノギを削り合いながら、前線の兵士のため少しでも強力な兵器の生産に従事していた。

 そんな職人たちの一人に、老人の姿はあった。


「爺さんっ! 来たぞっ!!」

「またお前か……」


 駆動音が響き渡るパワードスーツを足に付け、ため息とともに小さな店の奥から現れる老人――GGYは、熱いということで上着を脱ぎ捨て、ランニングシャツだけになった姿で、店先で大声を上げた巨漢を睨み付けた。


「今度はどこをやったクロコイダー! つい先日シャフト折れを直したばかりじゃというのにっ!!」

「がははは! すまんすまん! 敵の大導師と一騎打ちをする羽目になってな!! いや厄介な相手だった……パワードスーツのアシストなしに、敏捷600越えの速度で動くのだから、魔法使いという連中はやはり化物だな!」

「ふん。どうせ勝ってきた癖によく抜かすわい!」

「ばれたか? くははははは! 爺さんの義手は良い性能をしているからな!」


 そういうと、巨漢の男は、右肩の部分に触れる。

 それによって軍服に包まれていた腕がゴトリと落ち、GGYは盛大に顔をしかめた。

 落ちた腕は全身鋼鉄の腕。内部にはガトリング銃やレーザーブレード、反重力シールドに高火力フォトンレーザー砲が搭載されているGGY渾身の義手なのだが……やっぱりというかなんというか、装甲の隙間から黒々とした煙が上がっていた。


「こんな状態でよく今までもったな……。いつ爆発してもおかしくないぞ?」

「そのあたりの安全装置が優秀なのもGGYの作品ならではだな!」

「褒めても代金は安くせんぞ、この破壊魔!」

「おふっ!」

 

 どの世界でも軍人というものは安月給だ。性能相応の値段をとるGGYの義手は修理を依頼するだけでかなりの値段になる。

 その事実に先ほどまで快活に笑っていたクロコイダーがはじめて崩れ落ちる中、GGYは鼻を鳴らして工房の奥へと姿を消した。



…†…†…………†…†…



 ワシ――GGYがこの世界に来て大体一年ほどじゃろうか?

 初めはリセットされたステータスとスキルに四苦八苦したものの、ゲーム時代のシステムが残っていたおかげで、今は何とかやっていける程度には実力がついた。

 新しくとったスキル――《機械工学》のおかげで、いままでは手に入らなかった機械兵器武装(銃・チェーンソー等の無数のパーツによって組み上げられる武器)などの生産・製図も可能となり、現代ではワシもテクノギアの前線都市であるこの街で、ひとかどの職人として認められる程度の腕は付けておった。

 とはいえ……とはいえである。


「やはりこのままでいいとは思えんな……」


 あいにくなことに、この世界はゲームではなく、リアルじゃった。

 ワシの作品を気に入ってくれた若者が、翌日の戦場で死んだことを知り、

 同じ酒屋で酔いつぶれるまで飲んだ女将校が、捕虜としてとらえられ変わり果てた姿で戦場にさらされたという話を聞いた。

 あぁ、なんという無情な世界。ゲームでは笑い話で済んだ人死にも、この世界では笑い話ではすまん。

 本平和な国の出身であるワシが、早くこの戦争を止めないとと奮起するのも、当然のことだと言えた。

 というわけで、


「御老公」

「久しぶりじゃのう? どうじゃ、地下世界の方は?」

「いまだに探索は進んでいません。何分異形共しかいない都市ですので、潜入するのも一苦労です」

「じゃろうな」


 クロコイダーの壊れた腕を持って工房に入ったワシは、そこでたたずんでいた黒装束の男を見て、特に驚くことなく話し掛ける。

 この男は、両国に潜入して戦争を止めようと活動する《調停組織》の隠密じゃ。

 戦争の悲惨さを知り、死んだふりをして軍を抜けた両国の精鋭たちが集うこの組織とワシは早い段階から接触し、ゲーム時代は攻略対象となっていた存在を、総力を挙げて調査しておった。

 この世界の戦争を裏からあやつる存在――地下国家イビルトール支国を統治する、十傑魔将なる存在のことを。


「ところで御老公。お話があります」

「なんじゃ。依頼されている武装ならいつもの倉庫に揃えてあるぞ?」

「それもありますが、本当に目指されるおつもりなのですか?」


 男の一言に、ワシはそいつが何を言いたいのかを悟り、苦笑いを浮かべた。


「この都市の市長はダメじゃ。戦争が生み出す兵器特需と、それが生み出す莫大な利益に味を占めておる。こうなってはもう戦争をやめようとはせんじゃろう。なんとしてでも、新たな市長を立てる必要がある」

「そこで、次の市長選にあなたが立候補すると。ですが、私としては承服しかねます」


 そういうと、男はホログラム用の端末を取出し、今の市長の姿を映した。

 顎鬚をきれいに整えた、紳士然とした立ち姿をする男じゃったが、ワシは知っておる。そのこぎれいな立ち居振る舞いを隠れ蓑に、つい先日起こった終戦を視野に入れた両国の交渉の場に、極秘で雇った私兵を送り込み御破算にさせたことを。


「その節は、ご迷惑をおかけしました」

「かまわん。ワシとしても、あの事件は関わってよかったと思える物じゃった」


 命を狙われた首都の女外交官と共に、この町中を駆け巡った冒険は、年甲斐もなく心が躍ったものじゃ。

 とはいえ、それとこれとは話が別。

 たとえ心躍る冒険ができようが、戦争などというものが長く続いていいわけがない。終戦を急がねば、今度はあの常連であるクロコイダーが死ぬかもしれんのじゃから……。


 そう。決してわしはあの冒険みたいなことをもう一度したいとか、考えていないのじゃ。だから婆さん! 浮気じゃないから! あくまで年寄りのおせっかいで、美人の若いねーちゃんに鼻の下伸ばしてないからっ!? チラチラ半透明になってこっちを監視しに来るのやめてっ!?


……死にかけて転生してからここ最近、死んだ婆さんが若い姿になって視界の端をちらつくようになった。魂があの世に近いということなのじゃろうか? 生前はさんざん恐怖させられた、綺麗な笑顔を浮かべているのがまた何とも、ワシの恐怖をかきたてる。


 は、早く戦争を終わらせよう! 今終わらせよう! すぐ終わらせようっ! そのためには!


「あの市長が邪魔じゃ。なんとしてでも、次の市長選に勝たねばならない!」

「勝算はあるのですか?」

「幸いなことに、この町の人々は皆戦争で家族の誰かを失っておる。通常ならば復讐だのなんだの考えるのじゃろうが、目と鼻の先には以前の前線の跡が残っておるからな」


 そう。町から出て数キロ行くと、そこにはかつて前線だった荒野が広がっている。

 そこを埋め尽くしておるのは、白骨化した人の死体じゃ。

 今でもわずかに腐臭が漂うこの荒野を、街の人々はいつも見ておる。

 敵味方入り乱れた戦場であったがゆえに、戦時はだれにも供養されることなく、そして荒野が戦場で無くなった今でも、誰かわからないからという理由で死体が放置されている、あの死の荒野を。


「何のために戦っているかも今はもうわからん。大義名分はすでに忘れ去られ、戦時下の特別徴税や徴兵で、街の人々はもう限界じゃ。戦争を終わらせるというマニフェストを掲げれば、それにすがりたいと思う者は少なくないはず」

「ですが……」

「その通り。あれほどの大騒動起こす市長が、黙ってそれを見過ごすとは思えん。ワシもあの暗部連中に命を狙われることになるじゃろう」


 ワシがそう言った瞬間じゃった。

 店先がにわかに騒がしくなる。

 それにワシが目を細める中、黒い男は店の中から姿をけし、渡しておいた通信機越しにワシの外の様子を伝えてくる。


『あの市長、早速動いたようですよ? あの黒装束たちが魔法を使いながら町をあらし、御老公の店へと接近しています。おそらくマギノアークの奇襲を装い、どさくさに紛れて御老公を暗殺するのが目的かと』

「やはりきよったか」


 ワシはそう言って立ち上がり、脱いでおった上半身のパワードスーツを装着。クロコイダーの予備義手と、壁に立てかけておったウォーハンマーを担ぐ。

 そして、第一世界と変わらぬ筋力・器用値特化のステータスに物をいわせ、その重量兵器を軽々と持ちながら店先へと顔をだし、


「クロコイダー!」

「爺さん! マギノアークの奇襲だそうだが」

「とりあえずこれを持っておけ。間に合わせの作品じゃが、無いよりはましじゃろう」

「忝い!」


 ガション! という音を響かせながら、義手を装着するクロコイダーをしり目に、ワシは悲鳴を上げ逃げてくる街の人たちの奥にいる奴らを睨み付けた。

 ついでとばかりに魔法を用い、ワシら職人が命よりも大事にしている店を粉砕しながら、ワシめがけて一直線に駆けてくる不届き者達を。

 数は全部で五人。マギノアークの死神部隊と同じ装束に身を包んでおり、悲鳴を上げる客達を追い立てるように、こちらに向かってきておる。

 少ないということなかれ。上級魔法を覚えたプレイヤーに匹敵する実力者たちならば、五人でも街に致命的な打撃を与えることはたやすい。

 だが、今回ばかりは相手が悪かったのう!


「爺さん、下がれ! ここは俺が」

「戯け。自分たちの店を潰されて、黙っておるような職人などこの街にはおらん!」


 ワシの大喝が響き渡った瞬間じゃった。


「俺らの街に何晒してくれとんじゃこらァアアアアアアアア!!」

「ぶふっ!?」


 赤らかな顔をした巨漢が、憤怒の形相を浮かべながら死神部隊もどきを側面から急襲! その中の一人を巨大な拳で地面に叩き付けた!

 バチバチ音が鳴る電磁スーツによって加速したその男は、さながら神話のゼウスが如き電撃を纏いながら、気を失った男から拳を離す。そして、立ち止まった死神部隊もどき達を睨み付けた。


「どこの誰だか知らねぇが、よくも好き勝手やってくれたなっ! 生きてこの街から出られると思うなよぉおおおおお!」


 前世ではレスラーでもここまでの巨体はいなかったと思う三メートル強の身長を持つ、筋骨隆々とした男――《裁縫のリコリエッタ》三代目当主グロンギバル・リコリエッタは、裁縫屋には絶対いらなかったであろう筋肉を膨張させながら、死神部隊もどきに襲い掛かる!


 死神部隊たちはその威容に圧倒されたのか、泡を食ったように散開するが、


「はいはい、逃げちゃだめですよぉ」

 

 その逃走は、間延びした穏やかな声とともに、突如空から降ってきたロボットたちによって封殺された!

 声の主は現在酷いありさまになっている店の屋根の上った、眠そうな目をした女――《アルマタイトBOT工房》の店主――メーベル・アルマタイト。魔法使いで言うところの使い魔と同じ働きをしてくれるロボットを開発する彼女は、油に汚れながらも男の目を引き付ける豊かな胸を揺らしながら、少し頬を膨らませつつロボットたちに命令を下す!


「人の店を壊しておいて、怖いから逃げますなんて問屋が卸さないんだからね~。やっちゃえ、ボットムス!」


 生前の記憶から非常に危うく感じる名前のロボットたちは、頭部のモノアイを輝かせながら、ホバー移動で死神部隊もどきを取り囲み、ワシが教えたNDK(ねぇどんなきもち?)の動きで、かれらの逃走を封殺する。

 さすがの連携といったところか。やはり創造主にあのロボットは忠実らしかった。


「見事じゃメーベル。あとはワシらに任せよ!」

「了解、おじいちゃん。ケジメきちんとつけてくれたら、さっきおじいちゃんが私のおっぱい凝視していたのは見なかったことにしてあげる」

「み、みとらんし!?」


 ひぃっ!? 肩に婆さんの冷たい手が!? ちが、本当に見てないから婆さん! というか婆さん、肩からなんか半透明のオーラ抜こうとするのやめて!? ワシの魂!? 魂なのそれ!?


 と、ワシが一般人には見えない恐怖に脅かされる中、クロコイダーと黒服の男が同時に声を発した。


「『いったいこの町に何したんだ!?』」

「え? 自衛手段を教えただけじゃけど?」

「『自衛で済む練度じゃねェ!?』」

「えぇい煩い! 物騒な世の中なんじゃから、このくらいのレベルの戦力は揃えておくのは当然じゃろう!」


 そんな風にワシらが言い合っているうちに、騒ぎを聞きつけた職人たちが次々と集まりだした。

 高速振動する日本刀や、機械的装置が取り付けられた銃火器。果ては多脚戦車やモビル○ーツなんてものを倉庫から出して集まってくる職人たちに、死神部隊もどきの顔が引きつる中、ワシは包囲をしていたロボットたちの間から彼らに向かって歩きだし。


「よう? どうした若いの。この街を潰しに来たんじゃろう?」

「「「「「――っ!」」」」」


 安い挑発をぶつけ、彼らに任務を思い出させる。

 この状況によほど追いつめられていたのじゃろう。せめて任務はと、生き残った四人の男たちは死に物狂いといった様子でワシに一斉に襲い掛かってくる。


 まったく……青い青い。


「ワシ一人倒したところで、もう意味がないことを理解できておらんようじゃな!」


 大喝一閃! ワシは背負っていたハンマーを振り回し、真っ先にワシの前に到達した男の腹部を一撃!

 尾を引くゲロを噴出させながら、囲みの外へとホームランされる男を放置し、そのまま足を蹴りを放つ!

 パワードスーツのアシストを受けたワシの蹴りの威力は約1950㎏/cm!!

 

 ……というわけではないが、まぁそれ相応の威力を誇る。

 それを証明するかのように、ワシのけりは二人目の顎をジャストミート。打ち上げ花火のような勢いで二人目はワシの視界から姿を消した。


 あ、まずい。死ぬかもしれんアイツ。


 そういえば蹴り飛ばした後の受け止め体勢を考えておらんかったと、いまさらな後悔を抱きつつ三人目。ハンマーと足を振り切り無防備になったと思って襲い掛かったその男を、こっそり改造しておいた右手のパワードスーツを向け、


「それっ! 油断大敵!」

「あびびびびぃいいいいいいいいいいいいい!?」


 そこから放出された電流によって男を感電。その意識を刈り取る。

 最後に残ったのは出遅れた男。あっという間にやられた三人を前に、男は足を止め呆然としておった。

 ので、


「おい」

「ひぃ!?」

「この弱さから考えて恐らくは本物の死神部隊ではあるまい。誰の差し金かは知らんが」


 正確にいうと知らないことになっているが……。と、内心ボソリとつぶやきながら、ワシはハンマーを振り上げ、


「ひ、ひぇぇあああああああああああああああああ!?」

「おぬしらの雇い主に伝えろ。不用意にワシらの街に手を出せば、お前もこうなるとなっ!!」


 ハンマーを振り下ろすと同時に、ワシは柄にあるスイッチを入れハンマーに仕込まれた機構を即時起動。

 巨大な打撃部分に仕込まれたそれは、唸りを上げて、


「ニュートロン、ハンマァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああ!?」


 無数の電流が打撃部分にながれ、打撃部分に仕込まれた砲口から地面に爆裂粒子が流し込まれる!

 それによって地面内部に拡散した粒子は、次の瞬間無数の物質を飲み込みながら大爆発を引き起こし、地面ごと最後に残った男を天高く吹き飛ばした!


 あ! 仕組みからわかるように、このハンマーはあくまでこの世界にある特殊な粒子を用いた逸品です。決して本当に核爆発を起こしているわけではない、クリーンな武装なのでご安心ください。


 え? じゃぁ何でニュートロンなのかじゃと?

 こういうのは言ったもん勝ちじゃろう!? 箔がついてよろしいじゃろうが!

 

 とまぁ、だれにするでも名言い訳をワシがしているうちに、天高く飛び上がっていた男たちが次々と落下していき、気を失った状態で街の住人達に回収される。

 蹴り飛ばした奴だけが運わるく顎がちょっと砕けておったが、ま、まぁ生きておるならきっと大丈夫だよ。うん。なんならわしが代わりの顎機械で作るし。


「その場合は何も仕込まないのか?」

「舌の下にレーザー照射機でもつけるか? 口からレーザー吐けるようになるぞ!」

「まかり間違ってもあの男は爺さんのところに来ないだろうさ」


 なぜじゃ。と、呆れきった様子のクロコイダーの言葉に思わず首をかしげつつ、ワシは背後にそびえたったこの町の市庁舎を振り返る。


 さてと、育ち方を間違えた若造が……。


「ワシが鉄拳くれてやる。拳骨食らう覚悟はいいか」


 こののち、ワシはこの町の覇権を握る政治闘争に身を投げ入れることになるのじゃが……それはまた別の話。

 ただ一言だけ言うことがあるとするならば、存外元気なワシの第二の人生は……まだまだ始まったばかりじゃということじゃ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ