表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/53

後日談:――争奪戦!!

 時は年末間近。新しい第三の世界の攻略にワシら――GGYとエルが挑んでおった時じゃった。

 スティーブから呼び出しを食らったワシらメーカーズ三巨頭は、久々に第一世界のメーカーズ職人街にて邂逅しておった。

 そこでスティーブからは聞いた話が、


「新人たちの商品の在庫処分?」

「そうだ」


 スティーブが苦虫をかみつぶしたような表情で語る、メーカーズ倉庫を圧迫する不良在庫の処理についてじゃった。


「最近はようやくVR技術が落ち着いてきたおかげで、ソフト自体がいつでもダウンロードできるようになって、新人たちも増えてきただろう? その新人たちは、少しでも俺達に追いつこうとやっきになって、製品製造をしているんだ」

「よいことではないか?」


 つい三か月ほど前のこと。いよいよ、TSOのネットダウンロードが解禁された。

 いままでは新しいディスクが生産されるのを待つだけだったTSOに憧れておったユーザーたちが、ネットで金を払い込むだけで、ソフトをダウンロードし自由にTSOにログインできるようになったのじゃ。

 そのため、現在TSOは空前の新人ラッシュが起こっており、ここ第一世界では、多くの新人プレイヤーたちがトッププレイヤーに続けと言わんばかりに、自らの腕を磨いておる。当然メーカーズでも、多くの職人志望の新人を受け入れ、その生産スキルの上昇を手助けしてきた。

 ワシにとって、それは悪いことではないと思えるのじゃが……。


「向上心があってよいことではないか?」

「確かにそうだが、問題なのは生産品の供給が需要を大きく上回っちまったことだことだ!」

「あぁ……それは確かに勿体ないかもしれませんね」


 忌々しげなスティーブの言葉に、何が起こったのかおおよそ察したエルが同じように眉をしかめため息をついた。


「……つまりどういうことじゃ?」

「お爺さん。たとえば店頭にお手頃価格で並んでいる初級ポーションと、ちょっと高めだけど買えないわけじゃない準中級ポーションが並んでいるとします。御爺さんならどれを買いますか?」

「それは……」


 お手頃価格の初級……といいかけ、ワシは思わず口をつぐんだ。


――いや、初級ポーションが通じる場所などたかが知れておる。最悪調薬系の生産スキルを持っておるなら、自力での生産も難しくない。わざわざそれを店頭で買うくらいなら、ちょっと高めの準中級ポーションを買って、そのまま準中級の敵性フィールドの出る方が得か? って、あぁ!


「つまり、新人たちが作った商品が売れないのかっ!」

「そういうことだ。ボリュームゾーンにいる職人たちが、巨大市場になった第一世界に自分たちの商品を流しているのも、新人商品の売れ行き不振に拍車をかけている。正直廃棄してもいいんだが、それじゃ新人たちのやる気を折りかねんし……」


 職人というものは、どこであっても基本的に厳しい世界ではある。実力のないものはのし上がれず、上にいる先輩たちを追い越すのは至難の業じゃ。じゃが、ここはゲームの世界。どんな人間であれ、大なり小なりゲームを楽しみに来ているのが普通。

 だというのに、自分が苦労して作ったアイテムを、邪魔と言われて無造作に投げ捨てられては、いい気分はすまい。


「俺としても、ここで将来有望な新人の芽を摘み取るのは避けたい。何とかして売ってやりたいし、腕のいい奴の名前も広まってほしいんだが……何分買い手がいなくてな。どうしたもんかと悩んでいたら、いつのまにかうちの倉庫のストレージが圧迫されるほど溜まっちまっていて」


――本当にどうしたもんかと思い、知恵を貸してもらおうとお前らを招集したわけだ。


 そう、話を締めくくるスティーブに、ワシもエルも思わずうなり声をあげて腕を組んだ。

 何分ワシらはただの学生と元サラリーマンの老人。まっとうな商売をした経験はなく、ゲームの中では作品を作れば高値で売れる一流職人を地でやってきた。

 商品が売れないという経験はついぞ積んでおらず、そのため商品を売るための努力というものをしたことがなかったのじゃ。

 それは、リアルでは腕を見込まれ一流のホテルで修業し、豪華客船の料理長まで務めるに至ったスティーブも同じじゃったらしく、ワシらと同じようにほとほと困り果てた顔をしておる。


 需要がない商品を売り飛ばし、不良在庫を一掃する手段。それは、腕が良すぎたため商人としてはど素人に近いワシらが解決するには、あまりにも巨大な難題じゃった。

 そんな風にワシらが困り果て、うなり声をあげるだけの置物になり果てた時じゃった。


 ポーンという軽快な音と共に、孫からのメール通信がワシに通知される。

 何じゃ何じゃ? とそのメールを読んでみると、


『おじいちゃん! 明日お母さんと一緒に初売り行こうって話をしているんだけど、おじいちゃんも一緒にどう? 母さんが趣味にしている、サバゲ用の銃を買いに行くって言っているんだけど、おじいちゃんの武器づくりの参考資料にならない? 福袋もあるよ?』


 そのメールを読んだ瞬間、ワシの脳裏に天啓がおりた!


「これじゃぁあああああああああああああああ!」

「「うわっ!?」」


 思わず発してしまった大声に二人が驚くのもなんのその! ワシはドヤ顔で二人に先ほど思いついたことを話し、メーカーズ全体を巻き込んでの一大イベントを開催する決意をしたのじゃった。



…†…†…………†…†…



 某年一月一日――正月。

 リアルでの――と被らない様に、20時という非常に遅めに設定されたそれは、多くのプレイヤーたちの来訪と共に、静かにその時を待っていた。

 場所は欲望渦巻く職人の街――メーカーズが統治するグランウォールの職人街。

 その中央広場に作られた特設販売場付近にて、まるで円を描くように新人プレイヤーたちが群れを成し、息をひそめている。

 そんな中、ひとりの老人――GGYが販売場前に進み出て、拡声器を手に取り大声を発した。


「新人諸君! ようこそ! メーカーズの初売りへ!! これほどの多くの人間に期待を寄せられ、ワシとしては感謝の念が堪えん! 集まってくれてありがとう! 本当に感謝する!」


――御託は良い。早く始めろ!


 そんな殺気立った内心が販売場を囲むプレイヤーたちから送られる中、GGYはその殺気をそよ風のように受け流しつつ話を続ける。


「今回の初売りは豪華じゃぞ? 特設会場に売られている商品すべてを三割引きというのもさることながら、一番の目玉はお得セット福袋じゃろう!」


 そういうと、GGYはさっと手を上げ、第二世界で作られたホログラム発生装置からホログラム画面を展開。

 空中に半透明な青い画面をひろげ、商品のラインナップを表示しながら、その最下層に記された福袋を指差した。


「価格は僅か50G。最低価格の初級ポーションが、五本買える値段じゃ。当然入っておるのは値段相応の初心者セット。初級ポーションをはじめとした、最下級アイテムが四つ入っておる。だがしかし、一つだけ……この福袋には確実にある商品が入っておる。つまり、ハズレの四つと、当たりの一つが必ず封入されている福袋がこれなのじゃ! さて、皆はもう知っていると思うが、その当たり商品というのは」


 そういうと、GGYはさらに別のホログラム画面を開き、それらのラインナップを提示した!


「第二世界にいる、ボリュームゾーンの生産職プレイヤーたちが作った品質10の最高級装備じゃ! これさえあれば、第一世界の攻略はかなり楽になる! そう言った最高品質装備が必ず一つ手に入る! 諸君らにとって、これほど素晴らしい福はあるまい!」

『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』

「だが、ここでさらに追加情報を入れよう!」


 最高潮まで高まった新人たちの興奮が、GGYの一言で、一瞬で静まり返った。

 それをみたGGYはニヤリと笑い、展開されていた当たり商品ラインナップを殴り割り、新たなホログラム画面を展開。

 不敵な笑みを浮かべながら、わずか二十のみの商品が記されたそれを指し示す!


「せっかくのメーカーズ大規模イベント! ボリュームゾーン規格装備だけなどと、ケチな事は言わん! この二十の商品は、ワシらトッププレイヤーが鍛造し作り上げた前線装備達じゃ! 無論使用するためのステータス要求値は極限まで下げ、諸君らにも使えるように調整してある! これさえあれば、第一世界の攻略などたやすく終わり、第二世界でもすぐさまボリュームゾーンに合流できるであろうとワシらの技術の粋を結集して作り上げた、珠玉の逸品たち! それを二十! 用意されている五十万の福袋のどれかへと封入させてもらったっ!」

『――――――――――――――――――っ!』


 静まり返っていた空気が、にわかに温度を上げていく。

 新人たちの逸る心を表すように、冬のグランウォール内部は、過去例を見ない熱気に包まれ始めていた。


「通常ならば、早い者勝ち。素早く並んだものに先に選ぶ権利を与えられるのが福袋という者じゃが、ここはゲーム。それでは少々つまらんじゃろう? というわけで、ワシはこの福袋を配るに当たり、諸君らにワシの大好きなある言葉の体現をしてもらおうと思う!」


 そして、そんな空気ににやりと笑いGGYは告げた。開戦の言葉を!


「強請るな――勝ち取れ!」

『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


「ルールはただ一つ! 街中では攻撃系スキルは使えないゆえ、誰にも触れられることなく、販売所に到達して見せよっ! 販売所前に置かれたボタンを押したものだけが、特殊販売空間に入り、お得商品一つと福袋一つの購入の権利を得る! 触られたものは最初からやり直せ。運営に頼み込み特別に展開させた魔法陣によって、触れられたものは職人街入口に強制転移されるようになっておるので、触られてないなどという言い訳は通じんぞ?」


 GGYがそう言うと同時に、新人たちの進路を塞いでいたベテラン転生者たちが道を開ける。

 同時に始まるのは、敵にタッチし醜い足の引っ張り合いを始める妨害派と、それから逃れようスタートダッシュを決める速攻派の戦争!


「なお、購入券代わりに配布した腕輪には、ステータスを一時的に同じ数値に整える能力がある! 鍛え上げたステータスも、今だけは無意味と知れ! ただ己の反射神経と、状況判断能力。そして、わずかばかりの運を賭け、今年一番の幸運を勝ち取って見せよっ!!」


 GGYは最後にそう言い残し、怒涛のように押し寄せる新人たちの前から姿を消した!

 始まったのは大戦!

 日本の正月の最大イベント――正月福袋争奪戦である!!



…†…†…………†…†…



 広場で繰り広げられる、新人達の戦争を眺めながら、アイテムによって職人街で一番高い建物の屋根へと転移したワシ――GGYは、そこで待っていたエルとスティーブに合流し、新年のあいさつを交わした。


「あけましておめでとう! にしても、福袋とは考えたな、爺さん。おかげで在庫はすっかりなくなった。これで新人たちの商品も、誰かの手に取ってもらえるだろう」

「あけましておめでとうじゃ、スティーブ、エル」

「あけおめですお爺さん。でも、なんだってこんな大騒ぎにしたんですか? 普通に袋を配ればよかったのに」

「大騒ぎにしたのは別の狙いがあったからじゃよ。まぁ、それを差し引いても、今回の案は会心の出来じゃったじゃろう! 新人たちの商品を先ずは手に取ってもらい、その商品とほかの商品の違いを知ってもらう。それが職人としての第一歩じゃからな。ハズレ商品たちにも個性があると、新人たちも気づいてくれれば、目的の八割は達成と言っていいんじゃが……」


 TSOにおいて、ハンドメイドで作られた商品は、実は全く同じものはないと言われておる。

 その日の環境や、わずかな素材量の差異。なにより、プレイヤーの生産の腕。それによって、数ドット単位やわずかな確率ではあるが、様々な効果や効能がちょっとずつ違ってくるのじゃ。

 ベテランたちはそれを熟知しているため、個性的な製品を作れる職人を目にかける。それがワシやエルであり、カイゾウが頭おかしいと言われつつも一流の防具職人として慕われる理由でもあった。


「新人職人たちにも、既に個性を出し始めておる連中は多々おる。今回の福袋でそれを察知し、新人職人と手を組もうとする人材を見つけるのも、今回の福袋イベントの役割の一つじゃな」

「もし、そんな人が現れなかったとしたらどうします?」

「そこでこの大騒ぎを展開した理由が出てくる。新人達の頭がそこまで回らなくとも、この状況なら、実力が頭一つ二つちがうプレイヤーは見つけられるじゃろう? ほら」


 不安そうに眉をしかめるエルに「安心せい」と手を振りながら、ワシが指さした先には、怒涛のごとく押し寄せ、販売所付近で足の引っ張り合いをしておったプレイヤーたちをすり抜けた、ひとりの小柄な青年が飛び出しておった。

 怒号が響き渡るなか、気弱そうな少年は勢いよくボタンに飛びつき!


『ようこそ! 新年感謝祭用・メーカーズ特別販売店へ!』


 という声と共に、その場から消失した。どうやら特別販売空間へと転移したらしい。

 それに続けと言わんばかりに、阿鼻叫喚の地獄絵図を切り抜け、宙を舞い、地を這い、知恵をしぼり、幸運を駆使し、次々とプレイヤーたちが、いくつか設置されている販売店のボタンへと跳びつく。


「すべてのステータスが均一になった中、それでもなおほかのプレイヤーたちを押しのけ、あのボタンへと到達する個性。それを発揮できたプレイヤーたちは、必ずあとで伸びる。今後のうちのいい顧客になってくれるじゃろう」

「リストアップ化も順調だ。今後こいつらには目をかけるよう新人達に言っておく」

「こうして、新星たちは繋がり、ワシらに到達しようとさらに加速していく。なんともはや、夢と希望にあふれる光景じゃろう?」


――ワシには少し眩しすぎるわ。


 そう言って笑うワシの目には、足を引っ張られた方も、足を引っ張る方も、そしてそれらを切り抜けた新星たちも――笑顔を浮かべて、このイベントを楽しむ姿が映った。


「といいつつ、あんたはまだその座を譲る気はないんだろう?」

「もちろんじゃ! 若いもんにはまだまだ負けんよ!」


 とはいえ、たやすくこの座をゆずってやるのもまたつまらない。ゆえに、


「強請るな、勝ち取れ。さすれば与えられん……か」

「それ何の台詞でしたっけ?」

「交響○篇エウレカ○ブン」

「ふっるいアニメだなおい」

「それを知っとるお主はなんじゃ!?」

「なつアニ好きなんですよスティーブさんは」

「あれちょっとグロくねぇ?」

「それがいいんじゃろうが! 映画版とか最高じゃろうが!」

「私はアニメ版の方が好きですけどね……」


 まだまだ、ワシらもこれからじゃと――自分たちを輝かせるために、第三世界への扉を叩く。

 ここに集った新人たちの多くに幸あれと、心の中で願いながら。


お待たせしました!


今日は福袋買ってきましたよ! 結果はまぁまぁ……。悪くもなければよくもないといった感じです。

皆さんはどうだったでしょうか? 福袋を買った人は今年の福は引けましたか?


え? FGO? 二枚ぬき出たんだけど、両方とも持っている鯖でした(´・ω・`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ