そして次の世界へ
《運営掲示板》
スレッド名:あの爺さんについて
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34:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ほんと人騒がせな騒動だった
35:営業主任な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あそこで爺さん死んでたら、マジでサーバーおとさないといけないところだった……
36:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
寿命がマジで縮んだ
37:バグトリな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
まぁ、気持ちはわからんでもないですけどね。俺も爺さんみたいな死に方してみたいっ!
38:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
他社のゲームなら許す
39:運営主任な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
社長、黒いです……
40:理事長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
今北産業
41:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
僭越ながらわたくしめがっ!
GGY死ぬ死ぬ詐欺
プレイヤー祝いながら大激怒
会社首の皮一枚繋がる
→イマココ
以上でございますっ! あと理事長、お疲れ様ですっ!!
42:企画制作な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ちょ、順番逆っ!
43:理事長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あれぇ? あいつちゃんと仕事したって言ったんだけどな。じゃぁ、あいつがあっちに連れていった奴っていったい?
44:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あいつ?
45:ボス制作な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
だれ?
46:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
理事長の意味不明発言は今に始まったことじゃないし
47:運営主任な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
しっ! 社長聞こえますってっ!
48:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
というか筒抜けな件
49:企画制作な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
履歴になって残っている件……
50:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
Oh...
51:理事長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ちょっと話聞いてくるわ。おつかれ~
52:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
おつかれーっす
53:シナリオライターな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
お疲れ様です
54:ワールドメイドな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
おつっすー
55:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
毎度思うんだけど、この掲示板に来ている人たちって、上役に対する態度おかしくない?
56:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
は~い! 俺達を路頭に迷わせようとした医者に対する安価取りたいと思いますっ!
>>66
57:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
近所の奥さん捕まえて「ねーちゃん、いいちちしてまんな」とはなしかける
58:ワールドメイドな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
最寄りのコンビニで「ここに男が一人来なかったか?」「ばかもーん! それがルパンだっ!!」と店員さんに話しかける
59:シナリオライターな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
下唇の煙草を立てて、そのままゆっくり口の中へと倒す。無論五本
60:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ちょっ!?
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65:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
やめて! 許してっ!? お願いだからっ!!
>>66 優しい人来てくださいっ!
66:ボス制作な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
鼻からタバスコ一気飲み
67:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ちっ、意外と妥当な線に落ち着いたか……
まぁいい。安価は絶対だ!!
68:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
妥当っ!? これがっ!?
69:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
プログラマーに社長命令です。医者の家行って強制実行
70:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ふっ、すべては我が王の命のままに……
71:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ふ、ふざけるなっ! こんなことに付き合ってられないっ! 俺は今日一人で逃げるぞぉおおおおおおおおお!!
72:プログラマーAな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
その後医者は、自室で鼻からタバスコを垂れ流しながら死んでいた……。
73:シナリオライターな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
綺麗に死亡フラグを立てていきましたからね……
74:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
おいやめろよ。社員から殺人犯が出ちゃうじゃないか……
75:プログラマーCな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
なかなか仕事に戻ってこないと思ったら何やってんですか先輩方……
76:プログラマーAな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
げっ、C!!
77:プログラマーCな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
人がせっかく変更された転生イベントの最終調整やっているって時にっ!!
78:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あぁ、あれな。GGYが意識失う間際に見たっていう、《死神の部屋》
ネタ的にはそっちのが面白そうだから変えるようにお願いしていたっけ?
79:シナリオライターな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
にしても死ぬ間際までゲームのイベントの夢を見るなんて、御爺さんは筋金入りですね
80:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
それ今更だね。
まぁ、以前のはちょっとイベントが機械的すぎたからね。アナウンスが入って画面操作してもらうだけだったし、こういったイベントもやっぱりこった方が面白いしね。うん、このイベントの変更案だけは、爺さんが起こした厄介ごとの中で唯一良いことだったねッ!
◆ ◆
「おじいちゃん、なんか老けた?」
「死の病から奇跡的に生還した人間に対して言うセリフかのう、それ?」
とある医者が自宅に侵入してきた友人に、タバスコを鼻の穴にツッコまれている時。
自宅でくつろいでいた老人――山本弘は、久々に遊びに来た孫とともに配管工のレースゲームをしながら雑談をしていた。
「まぁ、実際ワシも年じゃしのう。ガンは誤報だったとはいえ、インフルで死にかけたのは事実じゃし……多少ふけても仕方なかろう? なんか、運営が言うところの《死にかけた際に見る幻覚》だったはずの死神に、本当に魂半分もぎ取られたような倦怠感があるしのう」
「ちょっとおじいちゃん、冗談でもそういうこと言うのやめてよ。私はおじいちゃんに、いつまでも健康でいてほしいわけだし」
とか言いつつ、赤い亀の甲羅をガンガン投げてくる大人げない自身の祖父に、孫は口をとがらせながらも、トゲだらけの甲羅で応戦する。
そんな血で血を洗う戦いを繰り広げながら、二人はそんなことをおくびにも出さない穏やかな会話を続けていた。
「今回のことで身にしみて分かったじゃろう孫よ。わしとて一応人間じゃ。一応今までは健康体を保っておるし、前のガン告知はやぶ医者のかんぜんなる誤報じゃったが、ああいったことはいつでも起こりうる年齢なんじゃよ」
「……」
「だからまぁ、それなりの覚悟はしておいてほしい。娘にも似たようなことは言ってあるしのう?」
ワシ自身も今回の事件はいろいろ考えさせられる面が多かった。と、独りごちる老人は、ゆっくりと目を細め、孫の目と鼻の先で情け容赦なく星を奪い取る。
「自分が死ぬなんてワシも微塵も考えておらんかった。いまどきもうちょい長生きできるじゃろうと、楽観視しておったところもあったからのう。だからこそ、いざ死ぬとなるとそこそこ慌てたし、いろいろ確認も怠った。死ぬ前にやり残したことがないように、いろいろと楽しむことだけを考えるようになったのじゃ」
「視野狭窄ってやつだね?」
孫が珍しく賢いことを言っておる!? と、驚く老人に対し、傍らの孫はリアルアタック。老人のカートが大きく蛇行する。
「だからまぁ、周りの連中をあんなに泣かせてしまったし、娘にも本当に悪いことをしてしまった」
「おじいちゃん……」
「だからこんど本当に死ぬことになったら、周りの人間が笑って見送ってくれるような、そんな最後を飾りたい。孫、その時になったら……また協力してくれ」
「……うん。わかっているよ」
私はおじいちゃんの孫だもん。と、小さく答えた少女の声に、老人は小さく頬を緩めた。
まったく、ワシなんかにはもったいないで来た孫じゃ、と。
だが、
「また死ぬ死ぬ詐欺じゃないことを祈りながら……手伝ってあげる」
「それに関しては謝ったじゃろうがァアアアアアアアアアアアアアア!! あっ!?」
最後の最後まで締まらなかった二人の戦いは、星切れになった瞬間を狙って投げられた爆弾兵隊によって幕を下ろした。
老人が孫にこのゲームで初めて負けた瞬間である。
◆ ◆
そんな二人の記念すべき日の、とある異世界にて。
「ん?」
目を開くと、そこは果てしなく広がる荒野じゃった。
「どこじゃ……ここは?」
少なくとも現代日本でこんな光景は見たことがない。いや、なにより……
「ワシはあの時、死んだはずじゃ?」
そう言ってワシは、自分の体がどうなっているのか確認するために、視線を落とす。
そこには、
「なんじゃこれ?」
見たこともきいたこともないような、鎧のような着衣をワシは来ておった。
うっすらと光を放つラインを走らせる機械が、体の各所に付けられたインナーのような服。
ただの服というには無骨で、鎧というには軽装甲すぎるその服装に、ワシは戸惑う。
「死んだと思ったらコスプレして倒れておるって……ワシなんか悪いことしたかのう?」
あぁ、娘との約束を守れなかったのは悪いことか……。と、ワシは自嘲の笑みを浮かべながら、誰に聞かせるわけでもない後悔の言葉を紡ぐ。
とはいえ、そんな声に帰ってくるのは、荒野の砂を巻き上げるきつい風の音だけで、
「とにかく、この意味不明な状況を早く解明せんと」
もしかしてここが地獄なのか? だとしても鬼の姿が見当たらんのう。と、ひとり首をかしげつつ、ワシは目の前の小高い丘を登り始める。
そして、その丘の頂上に登ったワシが見たものは、
「はは……。おいおい、冗談じゃろう?」
ワシが死ぬ間際に見た、機械仕掛けの王国の首都。
金属光沢を光らせる城壁の向こう側では、無数のタンクや鉄製の煙突が立ち並び、絶えることなく白い煙を上げ続ける。
その下からは、町を見下ろせる距離にいるワシにも聞こえる金属の加工音。
鉄が熱され、叩かれ伸ばされ、そして鉄を切り裂く加工ノコギリが火花を散らせる音がする。
間違いない、ここは……
「死んだと思ったら、本当に転生しておったとか、現実というのは本当に……小説よりも奇なりじゃのう」
魔法の王国と年がら年中戦争を繰り広げておる、元被差別者たちが作り上げた科学の国――《テクノギア》。
その街並みが、ワシの眼下に広がっておった。
そんな光景を見て呆然とするワシの耳元に、ふと……あの時の死神の声が聞こえた気がした。
『では英霊よ。二度目の人生……せいぜい楽しめ?』
こうしてワシは、見知らぬ世界で新たな旅を始めることになるのじゃった。
◆ ◆
「ん?」
ワシ――GGYは、突如として感じた昂揚感に首をかしげ、思わず背後を振り返った。
そこに広がっておるのはいつも通りの赤茶けた荒野。転生オンライン内部に広がる第二世界の変わらぬ風景じゃ。
『どうしたの御爺さん? 戦闘中よ』
「いや、何かいま……」
どこかでワシが新しい冒険に旅立ったような? と、ひとり呟くワシに、インカム越しに届けられたエルの声が呆れたような声色を帯びた。
『冒険ならもうずっとしているでしょう? それとも、また死ぬ死ぬ詐欺で私たちを泣かせるき?』
「失礼なことを言うなっ!? ワシだって好きであんなことになったわけじゃないんじゃっ!? いや、死にたかったというわけではないんじゃけど!?」
『次あんなことしたら、上位プレイヤー全員とPvPなんて騒ぎじゃすまないからね? 多分お爺さんちりも残らないと思う』
「お主ら最近ワシに対して酷過ぎやせんかのうっ!?」
あれは不可抗力じゃと言うとるじゃろうがっ! 責めるなら医者を責めろっ!! と、ワシは必死に抗議をしながら、こんなことなら医者への制裁を一発殴るだけで済ませるんじゃなかったわい。と、ひとり嘆息する。
そんなワシの姿に、さすがに攻めすぎたとでも思ったのか、エルはひとまずその話題を中断し、
『とにかくお爺さん、集中してね? 戦端はもう開かれているよ? 先遣隊がマギノアークの一団と接触したわ』
「なに? もうか?」
予想よりも早い開戦を、ワシに教えてくれた。
天気は晴天。
周囲は荒野。
荒廃した大地に響き渡るのは、鉄の魔法の激突音。
本日は、第二世界――《ギア&マギノ》の週間大イベント日。
《領土奪還戦争》の日じゃ。
◆ ◆
「あいつら、俺に相談もなくあっちの方行きやがって……!!」
まぁ、あんな選択肢だされたら事前に相談したとしても、あの二人はあっちの勢力に行っただろうが……。と、俺――スティーブンは独りごちながら、眼前で広がる荒野の戦場を見まわす。
俺が現在所属する勢力はマギノアーク。
爺さんたちが所属するテキノギアとは現在敵対中の勢力だ。
「まぁ、メンバーが分かれても一応クランの機能が維持されているのが救いと言えば救いか?」
そういうこともあるだろうと運営が一応考えていたのか、この二色に分かれた世界でも、第一世界と変わらぬクラン運営ができるような救済措置として、《中立都市》というものが作られており、俺達のクラン――《メーカーズ》の拠点もそこにおけることが分かった。
そのため、あの二人とは今でも結構頻繁に会えるのだが……。
「こと戦争となると、あいつら俺が相手でも手を抜かないからな……」
「下手に気を使われるよりかはましじゃない?」
そう言って俺の背後で弓の調子を確認しているのは、同じくマギノアークに所属することになったYOICHIだ。
いまだに弓兵として要所要所でいい働きをしてくれる彼女は、銃撃を主な遠距離攻撃として使ってくるテクノギアに、唯一はりあうことができる狙撃手として有名になっていた。
そのため、今回のようなテクノギアとマギノアークの大々的な集団PvPイベントでは、結構な頻度で参加を要望されている。
今回もテクノギアの大将役を任されたプレイヤーを狙撃するという大役を任され、護衛役の俺と二人で隠密行動の真っ最中だ。
「前の《領土奪還戦争》ではあの二人に一杯食わされたしね。負け越したまま引き下がるのも癪だし、本気出してくれるのはいいことじゃない?」
「いや、だとしても俺にはクランマスターとして微妙な心境がだな……」
俺達はそんな雑談を交わしながら、荒野に隠れ潜みながら、敵本陣に向かって前進し続ける。
その時、戦場で一つの動きが生まれた。
「来るぞっ!」
「《状態異女》だっ!!」
歓声とも悲鳴とも取れる声が両陣営から響き渡ると同時に、
「踏みつぶせっ! 《タイプエンゼル:リビングスタチュー》!!」
天を貫く声と共に、巨大な天使を象った《動く大理石像》が、地響きとともに戦場へと降り立った。
それと同時に踏みつぶされる無数のプレイヤーたち。さすがに即死はなかったが、結構な数のプレイヤーがHPをレッドゾーンに食い込ませ、まるで埃か何かのように宙を飛ぶ。
全長5メートル。第一世界の疾病女王にも匹敵するその巨体が、あのゴスロリ女の今の相棒。
チートすぎるとか言ってはいけない。あれが出てきたということは、あいつもそろそろ腰を上げるということなのだからっ!!
「ふはははははは! 来たか我が好敵手っ!! 今宵こそ、貴様との因縁の決着をつけてくれるわぁあああああああ!!」
「う、うるさいですっ!」
さきほどの《状態異女》の叫びよりもなお響く、暑苦しくも鬱陶しい声が響き渡る。
俺がその発生源に視線を向けると、そこにいたのはやはり……。
「カイゾウ……あいつまたっ!」
「割と近いわね。あの巨人同士の戦いに巻き込まれると面倒だから、少し離れましょう?」
顔を引きつらせる俺をしり目に、冷静にさっさと逃げに入るYOICHI。だが、俺達の非難を待たずして、
「機械同調っ!! 神経信号改変っ!!」
別にシステム的には一切必要ない掛け声とともに、空中に生み出されたホログラムのボタンを力いっぱい殴り砕くカイゾウ。それと同時にテクノギア固有技術――《量子変換ストレージ》から、莫大な粒子があふれだし、カイゾウを包み込みながら巨大な影をこちらの世界に作り出す。
それは無骨で角ばったデザインをした、赤熱する熱断ブレードと、青白い炎を噴出す機械の翼をもった巨人。
……要するに、巨大ロボだった。
「俺の血潮が湧き上がる! 熱くたぎって沸き立って、熱く激しく燃え上がるっ!! この熱っ! 止められるものなら止めてみろっ!」
「暑苦しぃ。こっちこないで!」
「これだから巨大ロボのロマンがわからぬ輩わぁああああああ!!」
そんな言葉を交わしながら、魔力で作られた光の大剣と、真っ赤に光る熱断ブレードをふるいながら、天使像と巨大ロボが激突する。
そんな人外魔境な戦場を眺めながら俺は、
「あんにゃろうっ! 世界観的には問題ないからって、こっちに来てからすぐあんなモン作りやがってぇええええええ!」
「御爺さんも、作るの結構苦労したとか言っていたわね。特にあの熱断ブレード」
「あのバカども本当に自重しろよっ!!」
あんな奴らがうちのクランメンバーかと思うと胃が……。と、最近とみにキリキリと痛むようになったお腹を、YOICHIに引きずられながら俺は抱える。
だがその時、
「むっ」
YOICHIがナニカに気付いたのか、俺をさっさと放り出し弓を構える。
当然俺は地面に強かに頭をぶつけるが、
「いでっ! 来たかっ!?」
「えぇ。やっぱり読まれていたみたいね」
そういうとYOICHIは、かまえた弓から滑らかに矢を放ち、
「《アビリティ》――《オーバーアロー》」
スキルのアシストの補助を得て、放った矢を一条の閃光に変えた。
光になった矢はその射線上にあった音を切り裂く鉛玉を、瞬時に溶解させ、その先でスコープを覗いていた少女――エルの頬をかすめ空へと消えたのだろう。
数秒後、クランチャット経由でエルから抗議が来た。
『L.L:超長距離からの対戦車ライフルの狙撃を、一撃で蒸発させるのやめません!? ファンタジーにもほどがあるっ!!』
「だそうだが……」
「『ファンタジーですもの』と答えておいて」
了解、と俺はそっけなく返しながら、一言一句たがわない言葉をクランチャットで返した後、俺達の狙撃の指示を出したラクライに作戦失敗の報告を送っておく。
その瞬間、
「若いの。楽しそうで何よりじゃ! ワシもまーぜてっ!」
「げぇっ!」
この場ではあまり聞きたくなかった理不尽の声に、俺は思わず悲鳴を上げる。
同時に、俺が走らせた視線の先では――バチバチと派手な音を立てて、無数の電流を頭部分に纏わせた巨大な機械鎚を背中に担ぐ、老将の姿が!!
「YOICHIっ!!」
「いま、私道さんが私たちを拾いに来てくれているみたいだけど、間に合わないでしょうね」
「そうか……あとその呼び方やめてやれ。違う意味に聞こえるって前愚痴っていたぞ?」
「そう?」
そんな雑談を交わす俺たちの態度など知らんと言わんばかりに、老将――GGYはにこやかな笑みを浮かべて、両軍が激突する荒野の中央に立つ。
殺到するマギノアークに所属するプレイヤーたち。
中には、
「あの時調子こきやがってっ!」
「目の物見せてやるぜクソジジイ!!」
「この死ぬ死ぬ詐欺やろうが、あの時泣いてしまった恥……ここでそそぐっ!」
なんてことを叫ぶ爺さんの被害者たちが多々いるわけだが……
「あいつには関係ないよな」
「あーあ。あんなに無防備に近づいちゃって……」
どうなっても知らないわよ? と、YOICHIがつぶやいた瞬間、
「《機械鎚》《アビリティー》――《ニュートロンハンマー》ぁああああああああああああ!!」
一喝。同時に、電流流れる鉄槌に殴られた地面。
瞬間、轟音とともにそこから爆発が連続し周囲に拡散。地面ごと爺さんに向かっていたプレイヤーをひっくり返したっ!!
『ぎゃぁあああああああああああああああああああああ!?』
哀れ悲鳴を上げて宙を舞う、爺さんの被害者たち。
お前ら……いったい何度あいつに吹き飛ばされれば気がすむんだ。と、俺が一人呆れていると、
「あら、あの二人……今回は間に合ったのね」
「おっ、ようやくあいつらが来たか」
その中で唯一、巨大な盾を持ち爺さんの爆発攻撃を受け流すことに成功したプレイヤーが一人いた。
奴は爆炎を切り裂きながら爺さんに向かって一直線に突進し、背後にかばった少女に叫ぶ、
「絶対爺さん仕留めろよジジコン!」
「言われなくてもわかっているわよ、クソガキ!」
そんな罵詈雑言を交わしながらも、まるで熟年夫婦のような息のあった連携で、爺さんの攻撃をしのぎ切りながら前進する二人は、Lycaonとネーヴェ。
爺さんはそんな二人の姿を見てにやりと笑い、
「Lycaon貴様ぁあああああああ! クソガキのくせに孫に馴れ馴れしく話しかけるんじゃぁないっ!!」
「黙れクソジジイ! 文句があるならうちの陣営に宗旨替えしたらどうだ!!」
「そうだよおじいちゃん! 今日こそおじいちゃん倒して、マギノアークに来てもらうんだからっ!」
「ワシにはこっちでやることがあるといっとるじゃろうが、孫よっ!!」
意見があるなら力で押し通せっ! と、奴は笑いながら、Lycaonが構えた盾を機械の鉄槌で一撃する!
辺り一帯を照らし出す爆発と、魔法の輝き。
そんな賑やかというにはいささか物騒すぎる周囲を見廻しながら、俺は一言つぶやいた、
「まぁ、爺さんが楽しそうでよかったよ……」
もう見れないと思っていた、屈託のない笑顔に、苦笑いを浮かべながら。
◆ ◆
かくして、転生者たちの戦いは続く。
彼らが道半ばで倒れるのか、それとも魔王すらうち倒し、自分たちで弄んだ神にすら手を届かせるのかはまだ誰もわからない。
ただ一つ言えることは、
「いやぁ、まったく! 本当に楽しい余生じゃのう!!」
一人の老人が、悔いのない人生を送った。それだけだ。
《完》
というわけで、本作――『《転生 online》――喜寿のワシは生まれ変わったつもりで認知症防止を行う――』は完結ということに相成りました。
今までのご声援・御愛読ありがとうございます^^
賢者の石はまだまだ終れない予定なので(終らないではなく)、気長にお付き合いいただければと……。
こちらも気が向けば短編いくつか追加するかもしれませんが期待はしないでっ!!
それでは最後に、GGYの末永い、幸せな余生を願って――感想などでGGYを応援してやってください(べ、別に最後に感想の水増しを使用ってわけじゃないんだからねっ!!)。
それではまた、別の物語で!