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魂の輝き

 無数の爆炎が迸る紫色の空間にて、


『いい加減落ちろっ!!』

「うるせぇよ。お前如きに落とされるほど、今の俺達は軟じゃないぞ」


 俺――Lycaonは、振り下ろされた大鎌を自ら手に持った盾で防いでいた。

 衝撃を表す黄色のエフェクトが飛び散り、俺の盾がダメージを完全に無効化したことを知らせる。

 だが、


「ちぃ。動きづらい!」


 熱病のバッドステータスで行動が緩慢になっている俺は、そこから攻撃に移るタイミングを逃してしまう。

 だが、


「ふはははは! かっこつけた割にザマァねェな、Lycaon!」


 俺はひとりで戦っているわけじゃない。俺がそう考えると同時に、俺の傍らを通り過ぎた疾風が、大鎌をはじかれてバランスを崩したペイルライダーに襲い掛かる。

 覇王龍。拳で大地をかち割るといわれた頭がおかしいプレイヤーが、その鉄拳を振りかぶっていた。


「くたばれ全身骨格っ!!」


 体をのけぞらせ、わずかにたたらを踏むペイルライダーの脚部に、手甲に覆われた鉄拳が突き刺さった!

 飛び散るエフェクトは……。


「ちっ、八割黄色じゃねぇか。弱体化しているやつは引っ込んでろ、へなちょこパンチャー」

「んだとこらぁあ!? 万全の時は10割赤を叩きだせんだぞっ!?」


 弱体化の疾病異常をもろに食らっているバカの拳は、どうやら暫く頼りにならない。

 なんとかしねぇと……。と俺が思った瞬間、


「っ!? しまった!」


 デバフの効果が切れ、数秒のインターバルが発動する。

 だが、それは同時に、


「はなれっ――!?」


 俺の体にちがう疾病異常がかかってしまうという合図だ。

 慌ててペイルライダーから離れようとする俺だが、時すでに遅い。

 今最もかかりたくなかった疾病異常――麻痺が、俺の体に猛威を振るい、体の活動を完全に停止させる。


「くそっ!?」

『愚かな虫けら風情が……、そのまま地べたに這いつくばりながら、死ぬがいい!』


 タンク職だからとタゲをずっととっていたのが不味かったか。倒れた俺に向かい、体勢を立て直したペイルライダーは、大鎌を俺に向かって振り下す。

 俺と共にタゲを回しながらダメージ管理をしていた他のタンク職も、運が悪いことに行動が阻害される熱病か、麻痺にかかってしまっている。

 俺を助けられる奴はいない。それを悟り、俺が再び死ぬことを覚悟したときだった、


「おいおい、何のために俺が攻略に参加していると思ってんだよ」

「っ!?」


 俺の目の前に翻ったのは、特徴的な皮ジャン。

 そんなものを着ている前線プレイヤーを、おれは一人しか知らない。


「JohnSmith!!」

「いかにも、西洋の無名……参上だ!」


 奴はそういうと同時に、こいつの名をTSO中に知らしめたあのスキルを使い、神々しい盾を自身の手に顕現させた!


「完全錬成起動。守り……跳ね返せ!! 《鏡の絶対盾(アイギス)》!!」


 突如顕現した神話の盾。それはエフェクトを伴ったペイルライダーの一撃を軽々と弾き返し、


『なっ!? バカな……神々の盾だとっ!? 何故貴様がそんなものをぉおおおおおお!?』

「反射ダメージなら、状態異常も関係ないだろうっ!」


 一撃でトップランクまでステータスを高めたプレイヤーたちを屠る一撃が、二倍の威力になりペイルライダーへと返される。

 HPバーがすさまじい速度で減り、最後の一本となったHPもいよいよ半分のラインに割り込んだ。

 正常を表す緑だったHPバーが、とうとう黄色へと変貌するっ!


『よっしゃぁあああああああああ!』

「油断するなっ! ここでそこの調子のりは役立たずだ! 後方に護衛をつけて下がらせろっ!」

「一番の功労者に対してその言い草はひどくねぇ!?」


 だが、実際完全練成を使った後のジョンは所持アイテムもMPもすべて使った役立たずだ。ギャーギャーわめきながらも、ジョンはひとまず後方へと下がる。


「まぁ、呼んでもらった礼くらいはこれでできただろう。後はお前らトッププレイヤーの仕事だ」

「いわれなくてもっ!」


 お前らソロにばかり、いい顔はさせない。麻痺から回復した俺は内心でそうつぶやきながら、自分の背後に降り立った仲間たちに告げる。


「行くぞお前ら、クラン《雑踏舞踏》の底力……ここでみせるっ!」

「いや、おせぇし」

「さっさと動きなさいよ馬鹿」

「素直にお爺さんに最後の手向けをしたいと言えばいいものを……」

「お前ら誰の味方だよっ!?」


 まさか背後から刺されるとは!? と、俺が驚いているうちに、クランのメンバーたちは自分の仕事を果たしに行く。

 足の速いナイフ使いが気配を殺すアビリティを使いながら先行。

 それと同時に、俺と共にクランの盾を担う盾使いが、魔法使いとカリンを背中にしてどっしりと盾を構えた。

 同時に、魔法使いから発せられる魔法が発動。


「《クリエイト=ギガント・ハンド》!!」


 地属性最上級拘束呪文ギガント・ハンド。土を材料に精製された巨人の腕が、万力の様な力でペイルライダーの足を捕まえる。


『なっ!?』


 ボスモンスターに対して拘束系のアビリティは効果が低いのは常識。通常モンスターのはるか上を行く膂力で、あっさりと拘束用の物体を破壊していくからだ。

 実際ペイルライダーも、即座に足にまとわりつく土くれの腕を粉砕し、捕えられた足を解放した。

 だが、その間にはどうしても、プレイヤーに対する注意がおろそかになる。

 そこをつけないほど、今この場にいる連中は弱くはない。


「《盗賊》アビリティ《タンデム・ブレイド》!!」

「《解体》アビリティ《ミート・チョッパー》!!」


 ワイヤーを飛び回っていた連中が、通り過ぎざまにナイフや包丁を突き立て、ほんのわずかではあるがペイルライダーのHPを削っていく。

 それによって飛び散るエフェクトをめくらまし代わりにして、


「貫きなさい!!」


 立ち上がったYOICHIが、俺たちの頭上にある回廊から大弓の一撃を放った!


「アビリティ《トライグレネード》!!」


 三本の矢が同時に放たれ、ペイルライダーの頭蓋骨へと突き立つ。同時に、矢に纏われたエフェクトはまばゆいまでに輝きをまし、


「爆ぜろっ!!」

『ぐぁあああああああああああああ!?』


 轟音を立て爆発した!

 さすがに弱点であるらしい頭部で起こった三連撃の爆撃に、ペイルライダーはたたらを踏んだ。

 同時に体勢が不安定になったペイルライダーの体に襲い掛かったのは、


「《アイス・ソーン》!!」


 どこかの魔法使いが放った氷属性拘束魔法アイス・ソーンだ。

 虚空から突如出現した氷の茨が、ペイルライダーの四肢に巻き付き、巻き付いた場所からペイルライダーの体を凍りつかせていく。


『くっ! こんなもの……』


 効かぬと理解できんのかっ!! ペイルライダーはそう言いたげに、自身に巻き付いた氷の茨を力任せに引きちぎる。

 だが、


「いいや、効いているさ」


 俺は独りごちるようにつぶやきながら、一直線にペイルライダーを目指した。

 そうだ。ただでさえ俺達は状態異常の猛威によって行動が阻害されている。

 攻撃できるプレイヤーは半減しているし、まともに戦える無事な奴なんて数えるくらいだ。

 だからこそ、ほんのわずかでもお前の注意をそらしてくれる拘束系魔法は……!


「極小ながらも、《時間稼ぎ》の役割をちゃんと果たしてくれているのさっ!!」


 おかげで、熱病のバッドステータスで鈍足になった俺が、ペイルライダーに到達できた。

 そして俺は発動する。

 爺さんに勝つために磨き上げた、俺の技術を……すべてぶつけるっ!!


「まずは、一本!!」


 このゲームならではのプレイヤースキル。

 剣を持った物理攻撃プレイヤーが、唯一行える拘束技!


「オラァアアアアアアア!!」


 眼前に横たわるペイルライダーの巨大な足の骨。

 俺はその隙間に向かって飛びあがり、騎士のアビリティを発動する。


「《ラウンド・ブレイク・ストライク》!!」


 貫通補整がつく騎士スキルのアビリティ――片手直剣による高速刺突が、ペイルライダーの足の隙間を縫い、地面に突き立った!!

 同時に、俺の剣を囲むように真っ赤なリング状の帯が広がり、周囲空間を一時的に凍結する。


「決まったッ!!」


 俺がそう叫んだ瞬間、帯の上ではこんな文字が回転していた。


『Error №023:《過剰攻撃エラー》。システム復旧まで残り60秒』



              ◆         ◆



 あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!


 フィールドに響き渡るペイルライダーの絶叫を聞きながら、俺――スティーブンは眼下で発動したLycaonのプレイヤースキルに思わず口笛を吹いた。


「ありゃ、《ハーケンバインド》か!? 事実上不可能って言われたプレイヤースキルだぞっ!?」

「相当体得に努力を重ねたんでしょうね。動きに全くブレがなかったわ……」


 ワイヤーを飛び回る俺に追従するように、背後についていたアキラがそうつぶやく。

 《ハーケンバインド》とは、とあるエラーを利用した、近接武器によって行われる拘束技である。

 そのエラーは俗に《オブジェクト破壊エラー》と言われており、ゲームのシステムが破壊されると予想していなかったオブジェクト破壊した際に起こる、フリーズ現象だ。

 たとえば、装備していた大剣で町の建築物の壁を攻撃したとする。

 このゲームのAIは非常に優秀で、たいていの場合は攻撃された個所にリアルな太刀傷が残るだけなのだが、トッププレイヤーがそれを行うとごくたまに『システムが予想していなかった威力でその攻撃を成立させてしまう』という事態を引き起こすことがある。

 例を上げると、システムが破壊エフェクトを作る前に攻撃を完了してしまう《過速度エラー》。

 筋力値が高すぎ予想よりも深く傷を作る軌道で攻撃が通ってしまった《過剰攻撃エラー》。

 代表的なものはこの二つで、これらの攻撃が成立してしまうと、システムは一時的にその空間を凍結し、エラーを解消する1分間の間、攻撃した武器とそれによって破壊されたオブジェクトを完全に静止させる。

 某炎の魔剣が地面に突き立った際、起こったことによって有名になったこのエラー。初めはしばらく手持ちの武器が使えなくなると、プレイヤーたちから運営に抗議が殺到したらしいのだが、考察掲示板でこんな予想が発表されてからはその空気は一変した。


『これつかったら、ボスモンスターでも一分間は確実に拘束することができるのでは?』


 そう、破壊される予定のオブジェクトと武器が完全に凍結されるということは、『モンスターをその武器で貫通した上でこのエラーを発動させることができれば、武器に縫いつけられたモンスターは動けなくなるのでは?』という予想が成り立つのだ。

 おまけにこのエラーによっておこる拘束は上位権限を持つ《ゲーム管理システム》のもの。いかにボスモンスターであったとしても、その拘束から逃れることは不可能であると考えられた。

 だが、実際このエラーの発動頻度は非常に低く、狙ってこのエラーを起こせる人物はまれ。ボスモンスターとのバトル中に行える人間となると皆無と言っていいと、最終的に掲示板では結論が出された。

 そう結論が出されてから、この夢プレイヤースキルが噂に上がることはなくなっていたのだが……。


「まさか使いこなせるようになっているとはな……」

「御爺さんでもアレを食らったらさすがに負けるんじゃないかしら」


 違いない。と、俺は呆れ交じりの苦笑いを浮かべながら、爺さんに勝つという執念のみで、不可能と言われたプレイヤースキルを体得したLycaonを素直に称賛する。

 そして、


「せっかくあいつが作ったチャンスだ。逃すわけにはいかない!」

「えぇ。一分間も動けない相手をタコ殴りにできるんですもの。ここで削りきらないと……ゲーマーじゃないわね」


 俺とアキラはそう言って、ワイヤーから飛び降りペイルライダーの弱点個所に向かって飛びかかるっ!!



              ◆         ◆



 無数の爆裂の花が咲き、ペイルライダーのHPは徐々に削られていっていた。

 私――ネーヴェは、とうとうレッドゾーンに突入したHPバーを回廊の上から眺めながら、傍らに横たわるおじいちゃんに話しかける。


「ほら、おじいちゃん……みんなお爺ちゃんのために頑張ってくれているよ?」


 おじいちゃんに励まされたからみんな立ち上がった。

 おじいちゃんのためにみんな戦ってくれている。

 自分たちをここまで奮起させた礼をしたいと、みんながおじいちゃんを待ってくれている。


「だから、早く起きてよ……お爺ちゃん。このままじゃ、出番なくなっちゃうよ」


 だけど、それはあくまでかなり無理をしているからこそできるものだった。

 ダメージディーラーたちは防御を棄てて攻撃に回っているがゆえに、かなりの被弾をしており、疾病異常のダメージも合わさって被害は甚大。

 タンクたちもできるだけ攻撃を引きつけるようにしてくれてはいるけど、やはり麻痺や熱病、弱体化が厳しいのか、相当な数が死亡タグに変貌していた。

 蘇生魔法は追いついていない。疾病異常の対抗薬もレイド全体で、数えるほどしか残っていない。

 状況は押してはいるけど……絶体絶命だ。

 だから私は、只静かに祈った。

 昔から私を助けてくれたお爺ちゃんに、

 泣いていたら笑ってその原因を取り除いてくれたお爺ちゃんに、


「最後にまた……かっこいいところ見せてよ、おじいちゃん!」


 また、立ち上がってほしいと。

 そんな私の願いが届いたのか、


「孫に……そう言われてしまっては仕方ないのう」

「っ!?」


 聞きたかった声が、感じたかった温かさが、私の目の前で再び立ち上がった。


「じゃが孫、助けてもらうのはワシの方じゃ。頼む、ワシをあそこまで連れて行ってくれ……ワシの最後の戦い、一番近くで見届けてくれ」

「……うん!!」


 私はようやく立ち上がったおじいちゃんの背中に、思わず涙を流しながら、


「助けるよ、おじいちゃん! 小さなころ、たくさん助けてもらった恩返し、ここでするからっ!」


 おじいちゃんを助けられるくらい私も大きくなったんだと、言外に語ってくれたおじいちゃんにそう返した。



              ◆         ◆



 そして、それは始まった。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 突如フィールドに響き渡った老成した絶叫に、かろうじて立ちあがっていたプレイヤーたちは上を見上げる。

 そこには、ネーヴェに抱えられてワイヤー上を飛び回る鎧姿の老人がいた、


「おいおい、なんつー再登場だ」


 復活した戦車乗りは苦笑いを浮かべ、


「遅すぎるぞ、爺さん!」


 拳を握りしめた竜はにやりと笑い、


「やっとおきたか、老人の朝は早いと聞いたのだがな……」


 剣を大地に突き立てた雷は、割と失礼なことを呟き、


「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 盾だけで奮戦していた騎士は、紅いサークルが砕け散った自身の剣をペイルライダーの足から引き抜き、


「止まっていろっ!!」


 再び同じ場所を深々と突き刺し、紅いサークルを再出現させるっ!


『貴様ぁああああっ!!』


 それによってヘイト値が限界を超えたのか、剣を突き立て無防備になったLycaonに、ペイルライダーの大鎌が振り下ろされた。

 回避も防御も不可能。致死確実なその一撃が降り注いで来るのに対し、Lycaonは頭上を振り仰ぎ、


「最後の最後だ。俺にここまでさせたんだ……きちんと決めろクソジジイっ!!」


 ただ孫に担がれ宙を舞う老人だけを見つめ、その体を四散させた。



              ◆         ◆



 ワイヤーを飛び回る少女が、蒼い全身骨格に肉薄する。

 襲いくる骨格の拳。青の暴力を紙一重で躱しながら、とんでもない速度で接近していく。

 そして、


「いくよっ! お爺ちゃんっ!!」

「おうっ!!」


 とうとうペイルライダーの体の飛び移るための一歩を、少女と老人は飛び上がった。

 だが、


『ぬぅ! これ以上はまずいかっ!!』

「なっ!?」


 足を固定されたにもかかわらず、ペイルライダーはその跳躍から逃れるために、無様に身をのけぞらせ、少女たちとの距離をわずかに広げる。

 少女の体は届かない!


「くそっ! あと少しなのにっ!!」


 空中で失速し、落下を始める二人。

 その軌道では到底ペイルライダーには届かない。

 そのはずだった。だが、


「ふははははっ! 俺っ、推参っ!!」

「えっ!?」

「ええタイミングできよったな、カイゾウっ!!」


 背中のロケットブースターをふかせたカイゾウが、真下からネーヴェの足へ到達。自らの頭を足場に、ネーヴェにさらなる跳躍の権利を与えた。


「ゆけっ! 副長っ!! 我らメーカーズの栄光をここに刻むのだっ!!」

「やらいでかっ!!」

「ありがとうございますっ!!」


 サムズアップしきれいな歯を見せて笑うカイゾウにそれぞれ礼を言いながら、GGYとネーヴェはさらに空へと飛びあがる。

 背後でブースターが暴走したのか、カイゾウが爆発四散したがお約束なので二人は気にしない!


『させんっ!』


 だが、ペイルライダーもあがく。

 空中で身動きが取れない二人に向かい、青骨の拳をふるった。

 しかし、そんなものはプレイヤーたちも織り込み済み。


「そいつは、こっちの……」

「セリフなのよねっ!」


 振るわれた拳に左右から襲いかかったのは、スティーブとアキラの二人組。

 その手にはワイヤーが握られており、振るわれた拳に二人はそのワイヤーをまきつける。

 当然空中にいる二人が踏ん張れるわけもなく、ペイルライダーの拳をとらえたはいいが、勢いは殺せず二人は宙を踊った。

 だが、


「やれ、YOICHIっ! 俺達ごとやれっ!」

「服よっ! 服を狙うのよっ!! 私たちの本体をねらえってことじゃないからねッ!?」


 語弊のあるスティーブの一言にアキラが慌てて訂正を入れる中、


「言われなくても」


 呼吸を止め、狙いを定めていた弓兵(YOICHI)は、そっけなくつぶやき矢を放つ。

 放たれた矢は見事スティーブとアキラの襟首を射抜き、二人をワイヤーごと壁に縫い付ける。

 それによってようやく固定されたワイヤーが抵抗を発揮し、わずかながらに拳の勢いをそいだ。

 同時に、


「《アイス・ソーン》!!」

「《サモン:バインド・チェーンっ》!!」


 エルが放った氷の茨と、ノブナガが放った頑丈な鎖がそれぞれペイルライダーの腕に巻き付き、その動きを完全に止める!


「いって、御爺さんっ!」

「花道の飾りつけはしてやったぞ老人。せいぜい最後は派手に決めろっ!」


 二人の言葉に背中を押され、GGYとネーヴェはペイルライダーの上に飛び乗った!


「助かった!! 戦いの後、ワシの倉庫にある武器は好きにしてくれて構わんっ!!」

「ちょ、やめておじいちゃん! ノブナガさんが本気で手に終えなくなるからっ!!」

「よしっ! 昂ぶる……昂ぶるぞっ!! 爺さんが作った珠玉の兵器群が我が手にっ!!」

「おじいさぁああああああああん! いますぐ訂正っ! トドメはあとにしていますぐ訂正してっ! そしてあのアンチマテリアルライフルの所有権だけは私に譲ると確約してっ!!」


 最後の最後で締まらない二人にGGYは苦笑いを浮かべ、


「ネーヴェ。奴の頭まで頼むっ!」

「了解!!」


 二人は一気にペイルライダーの腕の上を駆け抜けた。

 途中で拘束されていないもう片方手の追撃があったが、


「《ウィップ・バインド》っ!」

「《ジェイル・チェーン》!!」


 他のプレイヤーたちの援護によって、それも何とか封じられた。

 だが、二人がようやく方へと到達した瞬間、


「なっ!」

「っ!!」


 タイミングの悪いことに、再び発動した疾病異常の判定が、二人に襲い掛かった。

 ネーヴェには麻痺が。GGYには弱体化が。

 麻痺によって体が動かなくなったネーヴェは、ペイルライダーの肩の上で盛大に倒れ、GGYの体を投げ出してしまう。


「ぐぉおおおおおおおおおおおお!!」


 だがそれでも、GGYは何とか受け身をとった。落下することは免れた。

 そして、


「よぉ、暫くじゃったのう。疾病の女王」

『貴様っ!!』


 攻撃手段を失ったペイルライダーに向かい、GGYは不敵に笑った。

 その手には、星の輝きを持つ鉄槌。


『神話の武器……どのようないかさまを使って再現した!? それをこの世界で作るのは不可能なはずっ!!』

「だからじゃよ。そんなことを言っておるから、おぬしはここで負けるんじゃ」


 《黒小人(ドウェルグ)の造形鎚》を掲げたGGYは、明らかに恐怖が浮かんだペイルライダーに言い放った。


「この世界に不可能などない。何度失敗しようが、何度敗北しようが、立ち上がる気概さえあれば、不可能は可能へと変えられる」


 ワシがこの鉄槌を作り上げたように、

 あの小僧が不可能と言われたプレイヤースキルを身に着けたように、


「ワシにはもう先はないが、それを伝えることができたのは行幸じゃった。これで心置きなく、あの世に行くことができる」

『なんだ……その魂の色は? 何故疾病の猛威の中、魂を曇らせないっ!!』


 漆黒に燃える炎で、対象の魂の輝きをとらえるペイルライダーは、GGYの魂の輝きに一片の曇りがないことにおびえた。

 後悔、恐怖、怒り、悲しみ……そんな-な感情が一切見えないそれは、


「さぁ、幕を引くとしよう。一緒にあの世へ往くぞ……《疾病》っ!!」


 黄金の輝きを、ペイルライダーの眼窩に焼き付けた。


 同時に、神話の鉄槌が、ペイルライダーの頭蓋を殴り砕く!!

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