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送る者、送られる者

「お父さん!? お父さん! 大丈夫!?」

「ば、バカな……」


 突如体に戻ってきた信じがたいほどの体のだるさと、汗でぐっしょり濡れた不快な衣服の感触。そして耳朶を叩く娘の切羽詰まった声。

 ワシはその声に答えるために、いまだにエラーを出し続けるグレムリンをかぶったまま、今にも泣きそうな顔をした年を取った娘の顔へと視線を向けた。


「なぜ……ログアウトしておる? 制限は外してもらったはずじゃ」

「技師の人がマニュアルを残してくれていたのよっ! 本当に危険な状態になったら手動で強制ログアウトさせてくださいって!!」


 どうやら設定をいじってくれた技師は相当な常識人じゃったらしい。いや、常識人ではなくとも、自分の会社の製品で遊んでいる最中に、人が死んだらまずいと考えるか……。保険くらいは残していくかとは思っていたが、最悪のタイミングで使われたと言えるじゃろう。

 娘の手には辞書のような分厚いマニュアルが握られており、その傍らには「警告:異常体温(39.6)」の文字が浮かぶパソコンが控えておった。

 あの体温では確かに娘が止めるのもうなづけるが……ここで引くわけにはいかん。


「はぁ、はぁ……ゆ、ユウナ。頼む、行かせてくれ。わしにはまだやらねばならんことがある」

「――っ!?」


 ワシのその言葉に、娘のユウナは絶句した。



              ◆         ◆



「おい何してんだあのクソジジイ! こんなときにエラー起こしてんじゃねぇぞっ!!」


 俺――Lycaonは、眼前で突然崩れ落ち《接続切断》の警告文を周囲に展開した爺さんの体を引きずりながら走っていた。

 その背後では疾病異常にかかりながらも果敢にペイルライダーに挑み、俺がじいさんを安全圏まで運ぶのを援護してくれているプレイヤーたちがいる。

 どいつもこいつも近くにいた俺に向かって「爺さんを頼む」だの「ここで絶対死なせるな!」なんて無責任なこと言いやがって。俺と爺さんが犬猿の中だってことを、知らないわけでもないだろうによぉ!

 俺は内心でそんなことを考えながら舌打ちし、それでもなんでか爺さんを放っておくこともできず、こうして爺さんを後衛たちが上っている二階層まで引き上げちまった。


「Lycaonさん! お爺さんは!?」

「見ての通りだクソッ! このジジイ、ネット回線安物でも使っていやがるのかっ!」


 防御力は低いくせに、矢鱈豪華な装備に身を包んでいたせいで結構重かった爺さんの体。そのため、爺さんを上まで引き上げた俺はすっかり体力を消耗しており、呼吸もかなり荒れていた。しばらく休まないとあの胸糞わるい全身骨格に挑むのは困難だろう。

 そう考え、俺が壁にもたれかかるように座り込む中、駆け寄ってきたエルやワイヤーから二階層に飛び移ってきたネーヴェさんが、爺さんのもとに駆け寄ってくる。

 ちっ。相変わらず随分な人気をお持ちの様で。と、俺は倒れた途端すぐに仲間が駆け寄ってきてくれる爺さんの姿に、内心で舌打ちし、いつものように憎まれ口をたたく。

 此処まで運んでやったんだ。多少の暴言は許されてしかるべきだと考えながら。


「肝心な時に動けないくせに、何がヒーローになるだクソジジイ。老いぼれは老いぼれらしく、おとなしく後ろにすっこん出りゃよかったんだよ」


 いつもさんざんはいてきた内容と同じ、爺さんに対して放つ憎まれ口。

 いつもなら、爺さんはその言葉を鼻で笑って「若造の悪口はボキャブラリーが少ないのう。国語の勉強にもう少し力を入れたらどうじゃ?」と、逆に皮肉を返してきて、周りにいた爺さんの仲間たちはそれを聞いて苦笑いを浮かべる程度の……その程度の言葉だったはずだ。

 だが、なぜか今日は違った。

 俺の言葉を聞いたネーヴェさんは、眉を吊り上げ俺のもとに歩み寄り、突如俺の横っ面をビンタしてきたのだっ!?


「いって!?」


 突然横っ面に走った衝撃に、俺は思わず目を見開く。そして、殴られたのだと気付いた瞬間、俺は無意識のうちに立ち上がった。

 どうやら爺さんとの口げんかの日々で、闘争本能が割り増しになっていたらしい。

 あれだけ憧れていたネーヴェさんに向かって、俺は反射的に怒号を上げていた。


「何しやがるっ、テメェっ!? いくらあんたであっても、今のは許されねぇぞ!!」

「ふざけないで。いつもならその暴言は許す。おじいちゃんが『青いのう』と笑って見逃しているから、私もなにもいわない。でも、今のおじいちゃんを馬鹿にすることだけは……何があっても許さないっ!」

「何言ってやがるっ! 爺さんはさっきあれだけの啖呵を切ったんだぞっ! 認めたくねぇがそれで俺達は再び立ち上がったんだ! だからこそ、今爺さんは絶対に前線で戦ってなきゃいけない奴なんだ!! 精神的な支柱にあいつはなっちまったんだよっ! それがこんな無責任にゲームから逃げて行ったら、憎まれ口の一つでも叩いてやらねぇと気がすまねぇだろうがっ!」

「おじいちゃんは逃げてなんかいないっ! むしろこの場にいるだれよりも……このワールドボス戦に命を懸けていたのっ!」


 だって、だっておじいちゃんは……! と、ネーヴェさんがそこまで言った時、俺は初めて彼女の眼もとに涙が浮かんでいることに気付いた。


「お、おい? 泣くほど? そんなにきつく言ってねぇだろ?」


 女を泣かしたという小学生の時くらいしか経験のないことをしてしまったという事実に、俺は思わずうろたえるが、ネーヴェさんはそんなこと一切関知していないのか、ポロポロと涙をこぼしながら、俺に怒りの声を叩きつけた。


「おじいちゃんは末期がんで……今にももう死にそうなんだから! 今日だって、すごい熱が出ていて……今にも死んじゃいそうで……それでも、このワールドボスの戦いをクリアしないと死ねないからって……熱でしんどい体を引きずって、必死になって今まで戦ってきたんだっ!! それを馬鹿にすることは、いくらあんたであっても許さないっ!!」

「……は?」


 イマナンテイッタ? ネーヴェさんが告げたその言葉の意味を、俺は一瞬理解できなかった。



              ◆         ◆



「まさか……まだ続ける気なの!? お父さん!」

「そうじゃ。このままでは死んでも死にきれん。他の奴らにも申し訳が立たん。せっかくあいつらはワシの声で立ち上がってくれたんじゃ。このまま退場など、神が許してもワシ自身が許せん」


 頼む。機能をオフに……。

 そう願うワシに対して、目元に涙をいっぱい溜めた娘は何度も何度も首を振って拒絶を示した。


「いや、いやよ。お父さん、今にも死んでしまいそうなのよ? その年でそんな高熱出しているなんて、普通じゃ命の危険があるのよ。そんなこと、私が許すと思っているの!?」

「ユウナ……!!」

「死ぬならうちの畳の上でって約束したじゃない! 私に看取らせてくれるって言ったじゃない! 約束を破らないでよお父さん!! これ以上私に、親の死に目に会えないなんて情けない真似を……させないでよっ!」

「おまえ……まさか」


 婆さんの死に目に会えなかったこと、まだ後悔しておったのか。と、ワシはとうとう涙を流し始めた娘を見て、そっとため息をついた。



              ◆         ◆



 婆さんの死因は突然の脳出血じゃった。


『あら、味ポン忘れちゃった……。ちょっと買い物行ってくるわね?』

『なんじゃ、また買い忘れか。最近物忘れが激しいぞ?』

『歳なんだから仕方ないじゃないですか』


 お爺さんだっていずれ……。と、地味に嫌な言葉を残して、いつものように笑いながら婆さんは買い物にいった。

 じゃが、どういうわけかいつもなら帰ってくる時間に婆さんは返ってこなかった。

 近所の婆さん仲間につかまって世間話でもしとるんじゃろうと、その時ワシは気にも留めなかったが、あたりが真っ暗になっても婆さんが帰ってこなかった時にようやく違和感を覚え、あちこちに電話をかけたり、外に出てあたり一帯を探してみたりと……婆さんの行方を探し始めた。

 じゃが、婆さんの行方は要として知れず、仕方なくワシは警察に連絡を入れ婆さんの捜索を依頼した。

 その翌日、知り合い連中に電話をかけて、いまだに帰ってこない婆さんの行方を知らないかと聞いて回っていたワシは、突然入った着信に慌てて受話器をとった。

 電話をかけてきた相手は、ワシがグレムリンにより認知症防止試験を頼まれたあの市民病院。

 電話の内容は、


『突然スーパーで倒れた老人の身元が、恐らくあなたの奥さんである可能性が高い。今すぐ病院に来ていただけませんか?』


 という、何ともあいまいで……ワシの血の気を引かせるのには十分な物じゃった。

 慌てて病院に駆け付けたワシは、霊安室前で待機しておった年配の医者に話を聞いた。

 いわく、婆さんは昨日の夕方あたりにスーパーで倒れ病院に緊急搬送されておったこと。じゃが、身元を証明できるものを何一つ持っていなかったため連絡が遅れたこと。

 つい数日前に免許証を返還しておったことが致命的じゃった。

 小銭入れやら、買い物に行くためにもっておった買い物袋の中身だけでは、身元を洗うにも限界があったらしく、捜索願を出された警察から連絡が入ってようやくワシに電話をかけてきたらしい。

 そして、医師の懸命な治療もむなしく……その老人は帰らぬ人になったという事実も。

 死因は突然の脳出血。血圧が高めじゃと愚痴っていた婆さんなら、十分考えられる死因じゃった。

 そして霊安室へと案内されたワシは、そこに横たわっていた仏さんの顔を見て、崩れ落ちた。


『嘘じゃろう……婆さん。なぁ、何かの冗談なんじゃろう?』


 詳しく確かめるまでもない。見間違えるわけがない。そこにいた仏さんの顔は昨日まで元気に笑っておった、長年連れ添った婆さんのものだったのじゃから。

 そしてそれと同時にワシは深い後悔を覚えておった……。

 最後に交わした会話が、買い物前に交わしたあの下らない冗談の言い合いだったことを。

 もっと早くに病院に電話をかけていれば……最後の言葉くらい、聞いてやることができたかもしれないのにと……。

 そこまで考えてしまったワシは、


『あ、あぁ……あぁあああああああああああああああああああああああああ!!』


 情けなく、まるで子供のように、声をあげて泣いてしまった。

 ワシの電話を受けて慌てて駆け付けた娘が来ても、ワシは泣きやむことができなかった。



              ◆         ◆



「あれは仕方なかったじゃろう。ワシでさえ婆さんの最期を看取ってやれなんだ。まさかあんなに突然死ぬなんて……誰も想像しておらんかった。じゃから、ユウナが気に病むことはないと、葬儀の時にも言っておいたじゃろうが」

「でも……だからって、後悔するなと言われても、はいそうですかと納得できるわけがないでしょう!」


 確かにのう。と、ワシは一つ嘆息を漏らし、


「お母さんきっと寂しかった。最後は一人ぼっちで息を引き取って、だれにも看取ってもらえなくて……娘の私も、夫のお父さんも、誰一人としてお母さんの最後の言葉すら聞いてあげられなくって!! そんな寂しい思い……私はもう絶対させないって決めたのっ!! お父さんだけは絶対見送るって決めたのっ!! だからお父さん……これ以上、バカなことをするのはやめてっ!! じゃないと私……お父さんみたいに、絶対泣くからっ!」


 娘が涙ながらにした必死の懇願に、思わず息をのんだ。

 ワシはやはり間違えているのではないかと……ここで娘の傍にいてやることが、本当のワシのやるべきことではないかと、わずかに心の中で考えてしまった。

 じゃが、


『ウソだろ……クソジジイ。おまえ……俺との決着はどうするつもりなんだよっ!!』


 本来聞こえないはずの……ワールドボスと戦っておる、小憎らしい若造の声が、かぶっておるグレムリンから聞こえてきた。



              ◆         ◆



 突然のネーヴェさんからの告白に、俺は間抜けにも固まってしまいジッとクソジジイを見つめることしかできなかった。

 普段から散々くたばれだのなんだのと悪態をついてきた相手だがまさか本当に死ぬとは思っていなかった。それもこんなにあっさり……こんなにすぐに。

 俺は両親どころか祖父母もまだ元気で、身近な人が死んだことはない。だからこそ、突然告げられたその事実に、どう反応していいのかわからなくなっていた。

 だが、


「ウソだろ……クソジジイ。おまえ……俺との決着はどうするつもりなんだよっ!!」


 そんな、死者を送るとは到底思えない言葉だけは出てきて……信じられないと駄々っ子のように、誰かがこの現実を「ウソだよ」と否定してくれることを期待することしかできなくて……さっきボスの性能に絶望したとき以上に、俺の体は動かなくなっていた。

 その時だった、


「何ほうけてやがるこのバカ野郎がっ!」

「――っ!?」


 とつぜん空の上から何かが落下してきて、俺の横っ面に強烈なドロップキックを叩き込んできた!


「うぼるぅぁ!?」


 結構な勢いで俺の体は吹っ飛ぶ。二階層の細い回廊からは何とか落ちなかったが、二、三度地面をバウンドして壁にたたきつけられたところから、その威力は推して知るべし。というかHPも結構削れたっ!!


「何しやがるっ!?」


 当然俺は俺を蹴り飛ばした下手人――スティーブンを睨みつけながら立ち上がり、抗議の声を上げた。こんな状況下で味方蹴り飛ばすとか非常識にもほどがあるだろうがっ!? と。

 だが、スティーブンは俺以上に、怒りがこもった視線を俺に向けていた。


「てめぇ、爺が何のためにここに立っているのか忘れたのか?」

「あぁ?」

「情けなく自分の死を悼んでほしいからでも、お前に膝をつかせるためでもねェ。爺は死ぬ前に、このワールドボスとの戦いを楽しみたくて……このゲームを最後まで楽しみたくて、病気の体を引きずってこのゲームに参加したんだ!」

「……なっ」


 そんなバカなことがあるのか? と俺は思う。

 普通に考えて末期がんの患者が、ゲームがしたいからと、ボロボロの体を引きずってログインしてくるなんて……ありえないことだ。

 絶対安静にしていないといけないだろうし、ガン治療だって必要なはずだ。

 末期がんだから終末治療を望んだのだとしても、そこでゲームをするという選択は常人ならしない。


「どうしようもないバカだよな……。ありえないくらいのTSO狂いだよ。あぁ、そうさ、このジジイはクレイジーだ!」


 それは誰もが同意するのか、味方であるはずのスティーブンですら、そんなことを言ってのけやがった。

 だが、それと同時に、


「だが、俺達も大好きなこのゲームに、命を懸けてまで参戦するようなバカ野郎だ……その最後の願い、叶えてやれなくて俺達はTSOトッププレイヤーを名乗れるのかっ!!」

「――っ!」


 スティーブンが放ったその一言が、俺の心に立ち込めていた靄を切り払った。


「立ちやがれLycaon。二度もひざを折りやがって、宿敵のジジイが最後に見たお前の姿が、そんな姿で満足かよっ!」

「……はっ。好き勝手言いやがって」


 だから俺は、もう一度立ち上がる。

 頭上のステータスには、熱病の状態異常を示すアイコンが点滅し始めたが、今の俺には関係ない。


「いいわけないだろう。ジジイに教えてやる……あんたの時代はもう終ったって。だから安心してくたばりやがれって!!」


 盾を構え、剣をとる。

 俺は今……死に近づく老人の最後の願いをかなえる、騎士に成りきる。

 そんな人々があちこちで立ち上がっていることを、俺はいまさらになってようやく気付いた。

 俺よりほんの少し年上の人たち――おそらく、誰かをすでに送った人たちが、先ほどとは違った、覚悟をひめた瞳で立ち上がっていた。

 彼らはおそらく知っていたんだろう。今から死にゆく人に対して、俺たちこれからを生きる人間ができることは限られていると。

 だからせめて、


「最後の願いくらい、叶えてやらないといけないよな……」


 俺がそうつぶやくと同時に、戦場にラクライさんの声が響き渡った。


「諸君、聞いての通りだ。我等の名物爺さんは、この化物を打倒するために今までたっていたんだと。つまり、ここでこいつを倒せなければ奴は死んでも死にきれず、きっと俺たちの枕元に立ってしまうだろうということだ」


 ラクライの言葉に、周りの奴らは苦笑いを浮かべる。それはさすがに困るなぁ……と。だから、


「そんな霊的事態は御免こうむる。よって、あのジジイが笑ってあの世に行けるように、あいつが戻ってくるまで、俺達で最後の手向けを準備するぞっ!!」

『おうっ!!』


 戦場にいたプレイヤーたちが、いま一つになった。



              ◆         ◆



「いいや、ユウナ。ワシは、行かねばならんのじゃ」

「っ!! どうしてっ!!」


 グレムリンから聞こえた気がしたあの声に、ワシは重たい体を何とか持ち上げ上半身を起こす。そうして泣きそうな娘と視線を合わせて、ぎこちなく笑みを作った。


「どうも、あっちではワシを待ってくれておる奴らがいるらしい」

「っ!」

「そいつらをたきつけたのも、また戦えと言ったのも……全部ワシなんじゃ」


 だから途中で離脱はできない。ワシは一度揺らぎかけた覚悟を再び持ち直す。

 なにより、あの小生意気なクソガキに見られた姿が、倒れ伏した情けない姿というのは、ワシの矜持が許さんかった。


「どうもわし、本当はワールドボスとかそういうのは、あまり執着しとらんかったみたいじゃ」

「じゃぁ……なんで」

「なんで? 決まっておるじゃろう」


 人生の先達として、先に逝くものとしてワシは散々あのクソガキたちに説教を垂れてきた。じゃったら、


「あいつらに見せる最後の姿は、最高にかっこいいモノにしたかったんじゃ」


 じゃからワシはワールドボスの戦いへと身を投じた。

 あの世界最強の敵を相手に、一歩も引かない英雄へとなるために。


「だから……頼むユウナ。ワシから……あいつらから、満足の行く最期を奪わないでくれ」

「――っ!!」


 ワシのその言葉に、娘はわずかに呼吸を止め、


「バカ……バカっ!!」


 瞳に溜めていた涙をとうとうこぼし、


「帰ってこなかったら、あっちにいる母さんに言いつけるから」

「それは勘弁してくれ。ワシ滅茶苦茶怒られるじゃろう!?」

「自業自得よ、バカのお父さん」


 こってりとしぼられるといいわ。と、涙で目元を濡らしながら、娘は笑ってくれた。

 その手に握ったマニュアルの「異常体温検知機能設定」の項目を開きながら。


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