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立ち上がれ、若輩

「うわぁあああああああ!? 体が……体が動かねェ!?」

「冗談じゃねェ!? こんな攻撃、よけようがないだろうがっ!? どう逃げろって言うんだ!?」

「来るなっ!? 来るなぁああああああ!!」


 阿鼻叫喚の地獄絵図があちこちで展開される。

 毒の疾病を食らったプレイヤーがなすすべもなく砕け散り、

 麻痺で拘束されたプレイヤーに情け容赦ない鎌が振り下ろされ、

 発熱したプレイヤーはまともに力を発揮することなく、

 混乱したプレイヤーは自身の足に自分の武器を食いこませ、

 弱体化したプレイヤーは必死に抵抗するも禄にダメージを与えられず、蒼い馬の踏み付けによって砕け散った。

 先ほどまで一方的に攻撃されていた鬱憤を晴らすかのような蹂躙が、ワールドボスのフィールドで繰り広げられていた。


「冗談だろう?」


 俺――ケンロウは思わず半笑いでその光景を眺める。運営自重しろ、と内心で吐き捨てながら。


「ケンロウ! 何ノンビリしているっ! 何とかこの場から逃げるぞっ!!」

「逃げると言ったってどこにじゃ?」

「こういったフィールド全体を飲み込む範囲攻撃は、確実にどこかに安全地帯がある! それを何としてでもさが……」


 そこで、戦車に乗って俺に近づいてきたゴーイングマイウェイの言葉が止まった。

 俺がそちらに視線を向けてみると、ゴーイングマイウェイの体は戦車の上から崩れ落ち、そのまま地面にたたきつけられる。

 頭上には麻痺を表す黄色い電気模様。

 どうやら、このフィールドにいたとしても確実に状態異常にかかるわけではないらしい。と俺は独りごちながら、何もついていない自分の頭上へと視線を移した。

 じゃが、先ほどまで元気だったゴーイングマイウェイが突然麻痺にかかった……そのことを踏まえて考え直すと。


「一定時間経過ごとによって、状態異常にかかるかどうかの判定が行われるわけか」


 ざっと思考をめぐらし、このフィールドが紫色に変わった瞬間から今までの時間を計算する。

 おおざっぱな計算になるが、恐らく状態異常にかかるかどうかの判定が行われるのは1分おき。

 疾病異常が状態異常から回復するのは凡そ40秒。つまり20秒の間だけはプレイヤーたちはノーリスクでこの空間を動くことができる。

 だが、


「この状態異常ヒット判定は異常だろう?」


 さきほどの戦いから、もともとペイルライダーの状態異常スキルの成立判定は、かなり高い確率で行われていると踏んでいたが、だとしてもこれはひどい。と、俺は半数以上のプレイヤーが地に伏した現状を見て、思わず顔をひきつらせた。


「もしかして成立確率8割超えているんじゃないか?」

「い っ て な い で た す け ろ ……」


 麻痺の影響か、切れ切れになった声で必死に助けを求めるゴーイングマイウェイ。

 だが、残念なことにそれはできない相談だった。


「すまん、俺さっきから《発熱》状態で立っているのもつらい……」

「わ か い ん だ か ら そ の く ら い な ん と か し ろ!? げ ん き だ け は あ り あ ま っ て い る だ ろ !?」

「無茶を言う……」


 気合いでどうこうなったのは昭和のアニメだけだぜ……。

 と、俺が独りごちたところで、眼前に現れたペイルライダーの騎馬が、ゴーイングマイウェイもろとも俺を踏みつぶす!



              ◆         ◆



「おじいちゃん!?」

「バカいくなっ!? お前まで巻き込まれるぞっ!」


 俺――スティーブンは眼下で繰り広げられる地獄のような光景に、思わず顔を引きつらせる。

 俺達が今いる場所はフィールド天井付近のワイヤーで、幸いなことに紫色のフィールドの効果は受けていない。

 だが、俺達は超近接戦でこそ真価を発揮する軽量戦士。フィールドによってその接近が禁じられた今、俺達にできることは全くないといってよかった。

 なんだこれは……さっきまで勝っていたのは、俺達じゃなかったのかっ!?

 俺は内心でそう絶叫する。

 こんなもの勝てるわけがないと。


「運営の奴……何考えてやがるっ! 確かに相手はワールドボスだ。一筋縄じゃいかない相手だってことくらいわかっていた! ド派手などんでん返しがあって、また俺達はあの青い骨に苦しめられるだろうと覚悟していた。だが、だからってこれはあんまりだ……こんなもん、クリアできるわけないだろうっ!」


 下のフィールドすべてを飲み干した病毒のエフェクトは、前衛プレイヤーだけでなく後衛プレイヤーにもその猛威を振るっている。

 回復担当だったプレイヤーたちも幾人か倒れており、回復・蘇生魔法はほぼ使えない状態。万一使えたとしても、復活した瞬間ふたたび疾病異常にかかり地に伏すのがオチだ。

 今から前線プレイヤーたちを立て直すのはほぼ不可能……。その結論が俺の中で出た瞬間、ほかのプレイヤーたちも同じような結論に至ったのか、


「はは、おいおい冗談だろ?」

「こんな奴にどうやって勝てっていうんだよ……」


 ワイヤーに登り難を逃れたプレイヤー。

 幸運にも疾病異常に懸らなかったプレイヤー。

 そして、最後の力を振り絞って、回復職が再び復活させたプレイヤーたちが、次々と武器を落とした。

 周囲の空気は絶望一色。

 俺はその空気を……切り払うような一言を言うことができなかった。

 俺自身も、そいつらと同じようにひざを折りかけていたからだ。

 だが、そんな俺たちの耳に、


「うぉおおおおおおおおおおおお!! 《ブレイブスイング》ッ!!」

「――っ!?」


 一人の老人の声が飛び込んできた。



              ◆         ◆



 疾病異常に懸ったプレイヤーを優先的に狙い、潰していく騎馬の突撃。

 クソジジイ――GGYはそれに向かって一直線に、何のためらいもなく進みやがった。


「バカかあいつはっ!?」


 麻痺病にかかり体が動かなくなった俺――Lycaonは、その光景を見て思わず絶叫を発してしまう。

 普通に考えてあの突撃を食らえば、基礎ステータスの防御力があまり高くない爺さんでは堪えられない。一撃で踏みつぶされて終わりだ。何よりあのくそじじいの体は、


「《熱病》の疾病異常がかかっているだろうがっ!」


 《熱病》はTSO内に数ある状態異常の中で、最もユニークとされる状態異常だ。

 基本的に《弱体化》の様なステータスの変動があるわけでもなく、《麻痺》や《毒》のような目に見えるような不具合が現れるわけでもない。

 そのデバフの内容は《思考速度低下》と《体への指示の遅延》。つまり、《熱病》にかかったプレイヤーは、まるで現実世界で風邪を引いたときと同じように朦朧とした意識の中で、いつもよりワンテンポおそい行動を強いられる。

 これの詳しい仕組みはいまだに《考察組》と呼ばれる攻略掲示板の常連たちが審議中なのだが、恐らくはゲームを長く楽しむために作られた《思考加速》機能をあえて遅くさせて、行動の遅れを引き起こしているのだろうとのことだ。

 つまり、どれだけ努力しようが、気力を奮い立たせようがあの状態異常にかかった瞬間、プレイヤーは普段通りの行動を禁じられる。

 それなのにあの爺さんは、ハンマーを片手に熱病に侵された体を引きずるようにペイルライダーの突進の前に出た。

 そんなこと……自殺行為以外の何物でもない!

 俺がそう判断し、クソジジイの死を覚悟したときだった。


「うぉおおおおおおおおおおおお!!」

「っ!?」


 突如普段よりも遅くなった体を引きずるように前進させていた爺さんが、フィールドが震えるほどの大声量で絶叫した。

 だが、スキルのアシストすら受けていないその絶叫がゲーム内で何かの影響を及ぼすわけもなく、ペイルライダーの牙の足は無慈悲に爺さんに向かって振り上げられる。

 だが、


「《ブレイブスイング》っ!!」


 爺さんはそんな絶体絶命の状況に億さなかった。

 カッとしわに囲まれた眼をかっぴらいたあいつは、《騎士鎚》の基礎アビリティ――《ブレイブスイング》を発動させていた。

 《ハンマー》スキルの基礎アビリティである《フルスイング》。その上位互換として位置付けられている《騎士鎚》の基礎アビリティであるブレイブスイングの効果は単純明快。

 《フルスイング》よりちょっと強くなった《フルスイング》。

 ……要するに威力が上がっただけだった。

 だが、爺さんはその攻撃で、


「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

『な、にぃ!?』


 自分に向かって振り下された騎馬の足を見事に迎撃。

 上に向かって振るったハンマーは凄まじい衝撃エフェクトと、ほんのわずかなダメージエフェクトを迸らせながら、


「どっせぃいいいいいいいいいい!!」


 振り下された騎馬の足を、逆再生でもさせるかのように吹き飛ばした。


『ば、ばかなっ!?』


 さすがのペイルライダーも此れは予想外だった。

 それを見ていた俺達でさえ、その光景は予想外だった。

 その場にいた全員の空気が凍りつく。

 その間に、足を吹き飛ばされた騎馬は、そのまま大きく棹立ちになり、


『ブルゥヒィイイイイイイイイイイイイイイ!?』

『ぐぁあああああああああああああ!?』


 青い全身骨格を自分の背中から降り落とし、虚空へと消えた。

 アビリティが、爺さんのインターセプトによって強制キャンセルされたことによりファンブル。騎馬が魔法陣の中へと強制送還されたのだ。

 戻る場所を失ったペイルライダーはそのまま無様に地面へ落下。

 盛大な音を響かせながら背中を強かに打ちつけ、地面にあおむけに倒れ伏す。

 ラスボスにそんな情けない姿をさらさせた張本人である爺さんは、既にそっちを見ていなかった。

 あいつは、ハンマーを背中に背負いなおした後、ペイルライダーに背を向けて地面に這いつくばったり、武器を落としたりしているプレイヤーを一瞥し、


「なんじゃお主ら、若いくせに情けないのう」


 熱病のせいで朦朧としているであろう意識の中、俺達をあざ笑うように鼻を鳴らした。


「じ、爺さん、お前いったいどうやって!? 熱病のデバフはどうした!?」


 そんな至って平然とした態度を見せる爺さんの姿に、おれは思わずそう問いたださずにはいられなかった。

 そんな情けない問いを発した俺を、爺さんは一度一瞥した後、


「なんじゃ、Lycaon。おぬしさっきからいいところないのう。クエスト前の威勢はいったいどこに行った?」

「てめぇ……!」

「それに熱病のデバフじゃと? くだらん。こんなものリアルの現状に比べれば……げふんげふん。とにかく、このくらい気合いでどうにかなる!」


 お前はどこの最強ジジイだ。と俺は内心突っ込みながら、ようやく解けた麻痺病の拘束から脱し立ち上がる。状態異常の判定が出るタイミングは同じなのか、俺のように動けなくなっていたが一応無事であったメンツはゾクゾクと起き上っていた。

 自由に動ける制限時間は残り二十秒。

 それ以降になると、ふたたび疾病異常にかかり動けなくなる可能性が高い。

 なら、俺たちが取るべき手段は……一歩でも遠く、動けなくなった際生き残れる可能性を上げるために、


「ペイルライダーから離れ……」

「逃げるのか? 小僧」

「――っ!」


 背中を強かに打っ付けてしまったせいか、地面でのた打ち回り立ち上がる気配を見せないペイルライダー。

 そんな情けないボスにすら背を向けて走り出そうとした俺に、クソジジイの言葉が突き刺さった。

 それでも、


「あ、あたりまえだ……。逃げなくてどうするっていうんだっ!」


 こんな勝てる可能性が皆無な化物相手に、意地を張ったところでしょうがないだろうっ! と、思わず俺は本音を漏らした。

 爺さんへの反骨心を糧にここまで来た俺が、

 絶対強者に靡くものかと、常に歯向ってきた俺が、

 この時初めて自分の意志で膝を折ったのだと自覚した。

 それは深い喪失感と疲労感を俺に与え、立ち上がる気力を根こそぎ奪い取る。

 もう俺には、ペイルライダーに勝つための道筋が思い浮かばなかった。

 ただ惰性で、死なないために、殺されないために、ペイルライダーから離れようとしているだけだった。

 それに気付いてしまった俺は、逃げるために動かそうとしていた足すら止めてしまう。

 他の連中は俺よりもダメージは軽微なようだが、それでも大なり小なり衝撃を受けて、足を止めてしまっているようだった。

 今あいつらの脳内で浮かんでいる言葉が、おれには手に取るように分かった。


『逃げるって、どこに?』

『勝てもしない相手に、ほんのわずかな延命をして何になるんだ?』


 そんな言葉が、無言の空間の中を埋め尽くしているような感覚。

 だが、爺さんはそんな空気を、


「この大戯けがぁあああああああああああああ!!」


 一喝で、叩き潰した。


「勝てないから逃げる? 勝てないから諦めるっ!? お主らそれをした後一体何をするつもりじゃ? 掲示板にでも逃げ込むか? 『運営自重しろ』と愚痴でもはくか? 『ゲームバランスがおかしいです』と運営に嘆願文でも送るのかっ! お主ら……そんなことをするために、今日この場に集まったのか!!」


 爺さんの大喝が響き渡っているうちに、制限時間が過ぎてしまう。

 自由を得られる20秒はあっさりと過ぎ去り、俺達はふたたび疾病異常の猛威を食らう。

 俺はさっき爺さんが受けていた熱病を。

 爺さんは《毒病》のバッドステータスを受け、紫色に染まったHPバーを見る見るうちに減らしていた。

 だが、爺さんはそれでも叫ぶことをやめない。


「お主らは何をするためにここに集まった? ワールドボスに勝つ為じゃろうがっ! 何をするためにこのゲームを始めた!? 現実世界とは違う何かに成りたいから始めたんじゃろうが! そうじゃないのか、転生者っ!」


 クソジジイのその言葉に、おれは思わず頷きかける。

 そうさ。ゲームの中でくらいかっこよくいたい。現実の俺は、それこそどこにでもいるただの学生だ。惰性で学校に通って、将来の展望なんてまだなくて、「学校の授業マジでだるいわ」と友達とだべっている程度の、ごくごく普通の学生なんだ。

 だからこそ、ゲームの中でくらいは特別な存在になりたかった。だから、爺さんを連れていたネーヴェにアタックをかけて、その勇名のおこぼれにあずかろうとした。

 今考えれば情けないことこの上ないが……その時の俺は、そんな情けない真似をしてでも、特別な何かに成りたかった。

 《転生on-line》。このタイトルに惹かれ、このゲームを始めた連中は、程度の差はあれそういう願望を持っているはずだ。

 現実世界とは、違う自分に成りたいと。違う存在に生まれ変わりたいと。

 だから俺達は、電子の妖怪の名を冠するあのヘッドギアを頭にかぶったはずだ。


「ならここで逃げてどうするっ! ここで膝を折ってどうするっ! こんな序盤のボス相手に膝を折るような奴が……特別な何かになれるわけがないじゃろうっ!」


 いいや。と、爺さんは一度自分の言葉を否定する。


「ゲームの中だけではない。変わりたいと願った人間は、変わった先で挫折するともう二度と立ち上がれん。ここで妥協して終わってしまえば、また次の困難が来たときも同じように妥協する。変わりたいと願った先で折れた者は、永遠に変われないままじゃ」


 俺達より長く生きた人間が放つその言葉が、俺たちの胸を突き刺した。

 冗談で言っているわけではない。その言葉には、俺達よりも多くの挫折を見てきた爺さんの、実感が込められた。


「だからこそ立ち上がれ、若造ども。ゲームの中でくらい膝を折るな未熟者共。変わった先でくらい……自分が思い描く《最強の自分》を演じて(ロールプレイ)して見せろっ!」


 爺さんがそう叫んだ瞬間、その頭上に影が差す。

 いつのまにか立ち上がっていたペイルライダーが、憎悪を表すかのような黒い炎で爺さんを見下ろしていた。


『この、老兵風情が……いいかげん沈めぇええええええええええ!!』


 怒りの臨界を超えた怒号が、ジジイの頭上から青い白骨の拳と共に振り下される。

 だが、爺さんは頭上に影が差した瞬間から、その攻撃が来ることを視野に入れていたのか、


「おぉおおおおおおおおおおおおおお!」


 さきほどの大喝と変わらぬ声量で、気合いの声を上げ、


「《アッパーギガント》っ!!」


 振り下された拳を再びインターセプト。甲高い激突音を響かせた後、大きくペイルライダーをよろめかせ、


「ついでじゃ。食らっとけ……《ハーフハンドミーティア》!!」


 片手で旋回させた鉄槌を、ペイルライダーの向う脛に投げつけた!

 激突。

 真紅のエフェクトが飛び散る。

 ペイルライダーの頭上のステータスバーがさらに減り、

 ただでさえのけぞっていたところに足への攻撃を食らったペイルライダーは再び倒れた。

 旋回するハンマーはまるでブーメランのように爺さんの手元に戻る。

 まるで10年来連れ添った相棒のようなしっくりする雰囲気を醸し出す、ハンマーとそれを持った爺さんは、


「ここまで言っても立ち上がれぬなら仕方ない」


 いまだに呆然とたたずみ俺達を見て、明らかな嘲笑を浮かべ、


「今回、ヒーローになる権利を得るのはワシだけということじゃな?」


 一人、一歩、前に出る。

 ペイルライダーに向かって、毒でHPが危険域に割り込んでいるにもかかわらず、前に出る。


「おいおい、冗談だろう」


 そんな爺さんの背中を見て、おれは無意識のうちにそうつぶやいていた。

 ふざけやがって……ふざけやがって……ふざけやがってっ!!


「あいつに絶対負けないと誓っただろうが。俺が苦労した分、絶対見返してやると決めただろうが。なのに何やってんだ俺は……こんなところで、こんなゲーム序盤のところで、逃げ腰になるような奴が」


 あのジジイに勝てるわけがねぇだろっ!!

 俺は内心でそう絶叫した後、熱病でろくに動かない体を、


「待てよ……!!」


 必死に動かし、一歩踏み出す。

 そのときおれは気づいた。


「あ?」

「お?」

「……はぁ」


 俺と同じように、ペイルライダーに背を向けていたプレイヤーたちが、俺と同じ方向へと、一歩踏み出したことに。


「はは、クソ。焚きつけられたな」

「ご老人の言葉に乗せられるとは。精神修養が足りんでござるよ」

「俺も一歩踏み出したいんだけどな、いやマジでマジで」

「お前は一生そこで麻痺ってろ」

「おほほ、ラストアタックボーナスはわたくしがいただきますわ」

「動けずともかまわん。城壁の名、存分に見せつけよう」

「まぁ、ごちゃごちゃ言わずに動ける奴はさっさと戦線戻るぞ」


 あの老いぼれだけにいいかっこをさせるな。と、誰かが発したその言葉に、俺達は不敵な笑みを浮かべながら頷いた。

 上階でも同じようなことが起こっているのか、行動を完全に止められる麻痺以外の状態異常にかかったメンツが、続々と立ち上がりペイルライダーに向かって各々の武器を向けた。

 その背後では薬品を構えた特殊回復班が多数、自分たちの状態異常の回復そっちのけで、俺達に向かって構えをとってくれている。

 だからさぁ、


「待てよジジイ。何勝手に置き去りにした気分でいやがる……置き去りにされるのは、お前の方だ老いぼれがっ!!」


 自分自身に活を入れるためにそう叫びながら、俺は鈍足の爺さんを抜き去り倒れ伏したペイルライダーに襲い掛かる!



              ◆         ◆



 鬨の声と共にようやく動き始めた若者共が、再びペイルライダーに牙をむく。

 その誰もが無事とは言えず何かしらの状態異常にかかってはおるが、それでも先ほどの様に絶望で足を止める奴はおらんかった。

 飛び交う回復用投擲瓶に、降り注ぐ遠距離攻撃。

 一度殺されても蘇生魔法や蘇生薬で復活し、果敢な攻めを続けるプレイヤーたちに、さしものペイルライダーも押され始めた。

 そうじゃ。それでいい。

 ワシ――GGYはそんな活気が戻った若者たちの姿を目に焼き付けながら、ハンマーを構える。

 これでワシも思い残すことなく最後の戦いを続けられる!! と、心の中で笑みを作りながら、ワシを踏み越え前へと進む若者たちが発する光に目を細める。


「とはいえ、そうそう簡単に追いつかせるつもりはないがのう。ワシは勝ち逃げこそが至上じゃと思っておるしな。というわけで、今一度……!!」


 地面に引きずり降ろしてやるわい! ペイルライダー!!

 そうワシが不敵に笑い、完全に無防備になったペイルライダーの脚部に、ハンマーの一撃を叩き込もうとした時じゃった。


《Error:体調管理システムNG。身体発熱が異常値を超えたため、プレイヤーGGYの意識を強制ログアウトします》


「え?」


 突如眼前に浮かんだ赤い警告文字と同時に、ワシの視界は真っ暗になった。


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