蹂躙の時間
《運営掲示板》
スレッド名:実況! ワールドボス討伐戦!!
・
・
・
56:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
まだか、まだ終わらんのか……
57:デザインな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
さっきから何を焦っているし……
58:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
仮にもレイドボスですからね。このくらいの時間は仕方ないでしょう。むしろ結構ハイペースな方では?
59:シナリオライターな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
冷化ドリンクを持っているなら、二本目はほぼプレイヤーたちの無双状態でしょうからね。案外早く終わると思われますが?
60:ボス制作な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
だぁが、我がボスモンスターは世界一ィイイイイイイイ! できんことはなぁい!
61:営業職な転生者さん♀(**/**/**/………)○○○○○
テンション高いですね!? そんなにワールドボス無双がうれしいですかっ!?
62:ボス制作な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
奴はあと変身段階を二つのこしている!
63:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
一つだろ?
64:企画政策な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
テンションあがりすぎで言っていることが支離滅裂じゃないですか
65:シナリオライターな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
まぁ、ペイルライダーは最後の一本になってからが本番だからな
66:ワールドメイドな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あれ、あとで苦情来ませんかね? クリアさせるきないだろうって?
67:プログラマーAな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
シミュレーションでは一応問題なく勝てたんだろう?
68:プログラマーCな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
はい! 1%の確率で!
69:デザインな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
それもう誤差の範囲では?
70:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
そ、そんな……お爺さんにはもう時間が
71:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あ、検査の結果が出たので一時落ちますっ!
72:サーバー管理な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ちょ、
73:企画制作な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
仕事中に何してんですかあの医者は……
◆ ◆
大鎌によって薙ぎ払われたプレイヤーたちは、見る見るうちに頭上のHPバーを減らしながら宙を舞う。
だが、ペイルライダーも痛い目にあわされたせいか、そこで追撃の手を止めるような慢心はもう見せてくれなかった。
『蹂躙するぞっ!!』
吹き飛びながらも、いまだ鼠にたかられているため位置がはっきりとわかるプレイヤーたちを見据え、ペイルライダーは先ほどワシが足をへし折ってやった騎馬を再召喚する。
「もうへし折った足が戻っておる!? 回復速度がおかしいじゃろっ!?」
「あの馬もアンデットか!? くそっ、アンデット特有の常時回復スキルを持ってやがるな!!」
ケンロウの舌打ちが響き渡ると同時に、宙を舞っていたプレイヤーたちに向けて、騎馬に乗り蒼い閃光となったペイルライダーが襲い掛かった!
『消え去れ……羽虫っ!』
じゃが、驚くべきことにその攻撃は空ぶることとなる。
なぜなら、プレイヤーたちが吹き飛んだ時にはもう、彼らを狙った閃光が、ペイルライダーが騎馬を召喚するよりも先に放たれておったからじゃ。
「《パーティー・ソー》」
宙を駆けた閃光の正体はエフェクトを伴った矢。数は5本。それらすべてが吹き飛んだプレイヤーたちの装備の袖や襟を貫き、その勢いのまま壁際まで彼らを吹き飛ばす。
それによって、彼らは壁にたたきつけられた上に、装備を貫通した矢が壁に突き立つことによって拘束状態に陥ってしまったわけじゃが、ペイルライダーのアビリティの直撃を食らうよりかは、はるかに被害は少ない。
何とか死者を出さずに乗り切れた危機に、ワシはそっと安堵の息を漏らしながら、
「相変わらずいい腕をしておるのう、YOICHIは」
頭上の段差の上でかまえていた弓をおろし残心する女アーチャー――YOICHIが見せたミラクルプレイに、惜しみない称賛を送った。
◆ ◆
何とか間に合ったわね。と、私はそっと残心がてらに安心したことを示すため息をつきながら、壁に矢で縫い付けられ「おろしてくれ~!」と悲鳴を上げるプレイヤーたちに手を合わせて謝罪しておく。
ごめんなさい。でもああしないとあなたたち死んでいたわよ? と。
とはいえ、
「状況はまずいままね」
周りはあの即死の病を運んでくる鼠たちのせいでかなり混乱をきたしている。
ペイルライダーから直接攻撃を食らいにくい、フィールドに階の段差に居座る私たちですらそうなのだ。もろに鼠の被害を食らいかねない下での混乱は、押して知るべし。
「ねずみにビビるなっ! 攻撃さえ当てられれば一撃で消える! 駆除は可能だっ!」
「騒いでんじゃねぇおめぇら! 咬まれない限りどうってことない奴らだっ!!」
「くそっ! 落ち着けっ、落ち着けって言っているだろうっ!!」
前衛組を指揮していた各パーティーリーダーたちの悲鳴が、下の階層では響き渡っている。
本当なら頭上の援護射撃なり、広範囲魔法なりで助けるべきなのだろうけど、こちらもこちらで自分たちに近づいてくる鼠たちで手いっぱいな状況だ。
援護の手を差し伸べられる人間は……と、私は何とか下の階層の混乱を収める一助になろうと、比較的鼠にビビっていない人を辺りを見回し探してみた。
だけど、私がそんなことをしなくても、
「ふむ。どうやら俺の出番のようだなっ!」
一人の男が、不敵な笑みを浮かべながらすでにその力をふるう準備を始めていた。
背後に展開される無数の円形魔法陣。その中央から無数の武器をにじみ出るように召喚した男の名前は、
「《クイックサモン》2~10!!」
《第六天魔王》ノブナガ。
彼が放った情け容赦ない刀剣の豪雨が、鼠が猛威を振るう火葬へと降り注ぎ――フィールド一帯に爆発の花を咲かせるっ!
◆ ◆
「ぬぁあああああああああああ!? あいつ何考えとるんじゃ!?」
あちこちで広がる爆炎と轟音。ワシ――GGYはそれから必死に逃げながら、怒号を上げた。
「このゲームはプレイヤー同士の同士討ちをシステムが防いでくれるわけじゃないからな。あれ食らったらひとたまりもないだろう?」
「戦車で悠々並走しながらのんきなこと言うとるでないわっ!? 余裕があるなら助けんか!? 年よりはいたわれっ!」
「わけがわからんことを。そんだけ元気に走り回れてりゃ、今の段階なら助ける必要ないだろう?」
戦車でたかってくる鼠をひき殺しながら、ゴーは背後で爆炎に包まれるペイルライダーを一瞥する。
「まぁ、同士討ち狙っているとしか思えん無茶苦茶な援護でも、今の俺達にはありがたい。おかげでねずみの数は格段に減ったし、ペイルライダーのタゲも」
『おのれぇええええええ! 我が頭上でちょこまかと……小賢しいわ魔術師風情がぁあああああああ!!』
「……上に移ったみたいだしな」
「それまずくないかのう?」
頭上の回廊に登ったプレイヤーたちは基本紙装甲の後衛職たちばかりじゃ。ペイルライダーの攻撃に直接さらされれば、ひとたまりもないじゃろう。
じゃが、そんなワシの心配をゴーは一笑に付した。
「なぁに、ペイルライダーの主流攻撃は大鎌による近接攻撃。武器のサイズのせいで中距離攻撃になっちゃいるし、遠距離攻撃用にアビリティも持っているが基本的に上に届くまでの飛距離がある攻撃は限られる。攻撃の手数はこっちで相手するよりかは格段に下がるはずだ」
それに、とゴーはそこで言葉を切った後、
「一応あっちには、護衛も何人か付けているしな」
そう言った瞬間、ペイルライダーが大鎌を振りかぶり、あの旋回する飛ぶ斬撃を大鎌から放った。
空気を切り裂きながら旋回する回転斬撃。
その射線上にいたた後衛職は慌ててその場から逃げ出すが、ひとりだけ呪文の詠唱途中じゃったのか逃げ遅れた女魔術師のプレイヤーがおった。
「え? あっ!? しまっ!!」
ここまで聞こえるような大声で自分の失態を呪う女魔術師。
じゃが、回転斬撃はすでに目前まで到達しており、どのようにあがいても逃げることは困難な位置にあった。
一人死んでしまうかっ! と、ワシは思わずこれから起こる惨劇に眼を閉じかける。
じゃが、
「おいおい、幾ら上にいるからって絶対安全ってわけじゃないんだ。ちったぁ周りにきぃくばりな、お嬢ちゃん」
「なっ!? 誰がお嬢ちゃんよっ!? 見た感じ同い年くらいでしょっ!?」
そんな軽口が響き渡るのを聞き、ワシは閉じかけた目蓋を反射的に止め、逆に目を眇める。
飛来した回転斬撃は、突如現れた巨大な盾によって見事に防がれておった。
その盾を構えておったのはもちろん、
「ジョン……暫く見んと思っておったらそんなところにおったのか」
不敵な笑みを浮かべながら、回転斬撃を防ぎきった後、耐久度全損で砕け散る盾をためらいなく捨てた――JohnSmith。
奴はそのまま自分の手元に剣を出現させ、
「おらっ、下がってろ疾病の女王(笑)。後衛職攻撃なんざ、王様のやることじゃねぇよ」
投擲スキルを使い、手元に作り出した剣を勢いよくペイルライダーに投げつけた。
狙いは正確に青い炎が燃え盛る眼窩。じゃが、さすがにそこを狙った直線的攻撃には反応できるのか、ペイルライダーは構えに戻した大鎌を旋回させ、その一撃を弾き飛ばす。
『なめるなよ人間、そのような愚直な攻撃が我に通じるとでも』
「思っちゃいないさ。だが、視線の誘導くらいにはなるだろう」
『なにっ!?』
「背中がお留守……」
ジョンの言葉に、ペイルライダーの眼窩を照らす炎が、不思議そうに揺れた。
じゃが、その疑問なわずか数秒で解消されることとなる。
背後に壁に張り付いた、巨大な蜥蜴がペイルライダーの背中めがけて飛びかかってきたからじゃ!
「リッちゃん! 本当の《ペイルライダー》はどっちか、思い知らせてあげてっ!」
その背中に騎乗した、ゴスロリと日傘を差した少女の言葉に、ペイルライダーにとびかかった蜥蜴――リッちゃんは、金属が擦り合わさるような鳴き声をあげ口から紫色のブレスを吐きだし、ペイルライダーに吹きかけた。
《状態異女》の二つ名の通り、テイマーであるニコりんは状態異常を豊富に扱うハザードドレイクというモンスターをテイムし、執拗に育てていることで有名な変人ソロプレイヤーじゃ。
調教師は召喚士とは違い、一度に操れるモンスターは一体だけ。対軍能力は極めて低いスキルじゃと言える。
じゃが、トッププレイヤーまでのし上がったテイマーが鍛え上げたモンスターは、たった一体で一騎当千の働きをする化物に変貌する。
何より怖ろしいのは、テイマーが鍛えているモンスターは、プレイヤーとはまた違ったツリーを持つモンスター専用のスキルを覚えることができることじゃ。
ニコりんが鍛えているリッちゃんは、どうやら状態異常系のスキルを重点的に鍛えられているらしく、本来状態異常にかかりにくいレイドボスであるペイルライダーにも、その毒の息吹は効果を及ぼした。
ペイルライダーのHPバーの隣に、瞳模様に斜めのスラッシュが入った状態異常アイコンが点灯する!
「《盲目》っ! ここで決めてきよるかっ!」
「いい腕だ、流石は状態異女!!」
システム的にあらゆる視覚情報をシャットダウンするこの状態異常は、ペイルライダーのサーモグラフィー魔眼も見事に封じて見せた。
眼下に灯っていた蒼い炎は瞬く間に消滅し、ペイルライダーは両目を抑え、悲鳴を上げる!
『ぐぁああああ!? この……この私に、病を与えるなど……不届きだぞ、羽虫ぃイイイイ!?』
「ま、負け犬の遠吠えが、耳に心地いいですっ!」
ペイルライダーの背中に張り付いたリッちゃん。その首に腕をまわし精一杯しがみついたニコりんは、すぐそばで聞こえる怨嗟の声にびくびく震えながら、それでもトッププレイヤーとして、皆の指標として必死に胸を張る。そんな彼女の姿に、どうも彼女のファンらしい周りのプレイヤーから歓声が飛ぶ。
「うぉおおおおおおお! ニコりんさすがぁああああああ!」
「ニコりんまじ天使っ!」
「みえっ! みえっ!!」
「おい口に出すなっ!? ニコりんがせっかく気づいてないのに!? あぁ、あのゴスロリスカート! もうちょっと……もうちょっとだけ翻ってっ!」
「きゃああああああああああああああああ!?」
その言葉によって、背中に張り付いたトカゲの背中にさらにはりついているせいで、いい感じにしたから下着が丸見えになりかけていることに気付いたニコりんは、悲鳴を上げながら慌てて自分のスカートを抑える。
そんな彼女の羞恥心溢れる姿に、眼福だと言いたげに頷いた男性プレイヤーたちの背後では、
「おい、おまえ。ちょっと話があるにゃ」
「げーっ!? みーにゃん!?」
いい笑顔を浮かべ、両手に付けた鉄の爪をじゃらじゃら鳴らす猫娘がおったのじゃが……まぁ、あれは自業自得じゃろうとワシはそこで起こった惨劇から目をそむけた。
それと同時に、
「離れなさい、てんぷら女っ!」
「厚化粧にもほどがあるわよ」
鼠の危機から何とか脱し怒り心頭となったエルと、何とか鼠を駆除し終え、どっと疲れたような表情を見せるYOICHIの一撃が炸裂した!
巨大隕石のような火球と、流星のような矢の一撃が目が見えなくなり無防備となったペイルライダーの顔面に突き立ち、その巨体を大きく後退させる。
『ぐぁぁ!? おのれぇええええええええええ!!』
これによってひとまずペイルライダーの脅威から後衛職たちが守られる。
同時に、
「ずいぶん調子に乗ってくれたなペイルライダー……。ここから先は蹂躙だっ!!」
『っ!?』
ノブナガの攻撃によって激減した鼠たちを、すべて駆除し終えたワシら前衛組が、再び陣形を組み直し、ペイルライダーを囲みこむ。
あの鼠の大軍はペイルライダーの奥の手じゃ。再び発動させるにはしばらく時間がかかる。
つまり、
「さぁ、始めようか疾病の女王。ネタ切れになったお前が、俺たち相手にどこまであらがえるのかが見ものだ」
『――っ!!』
ラクライの嘲笑と共に、ワシらプレイヤーたちの攻撃がペイルライダーへと、一斉に襲い掛かった。
◆ ◆
『おぉおおおおお。おぉおおおおおおおおおおお!!』
うなり声なのかうめき声なのか……。そのどちらなのかはわからんが、いよいよペイルライダーの体を覆っておった女性の形をした外殻がはがされ、その下にあった青白い骨の全貌が、わしらの前に姿を現しつつあった。
有利な戦況を常に続けることができた二本目のHPバーがすべてなくなり、いよいよわが生涯最後のワールドボス戦は佳境を迎えることとなる。
じゃが、
「ここからだ……」
「あぁ、そうだな」
覇王龍とラクライが言うように、ここから先が本番じゃ。ワシをはじめとしたこの場にいるほとんどのプレイヤーが、油断などまるで見せない顔でボロボロと肌色のかけらをこぼしていくペイルライダーを睨み付けておる。
ワシらはまだあ奴の激怒状態がどのような力を持っているのか知らん。そして、こういった多人数参加型の大型ボスは、たいてい奥の手を隠し持っておるものじゃ。
それこそ、石化とペスト鼠のコンボに匹敵する、こちらのレイド全滅すら狙えるような秘策を……。
じゃからこそ、歴戦のゲーマーであるワシらはここで油断したりはしない。
むしろ兜の尾を締めるつもりで、目の前の敵を睨み付けておるのじゃ。
「来るぞ」
誰かが言った。
その言葉に反応したかのように、こぼれる外殻の破片がなくなったペイルライダーは、瞳の奥の炎を煌々と照らしながら、
『よくも……よくもぉおおおおおおおおおおおおおお!!』
ワシらのことを……睨み付けた!
「なっ!? 鼠もおらんのにワシらのことをっ!?」
見ているじゃとっ!? と、ワシが驚愕の声を上げると同時に、
『死を想え死を想え死を想え死を想えっ!! 滅びろ人類……黙示録は今始まるのだっ!』
奴は、最後の最後で瞳の炎を漆黒へと変貌させ、
『《ラスト・パンデミック》!!』
今まで決して口にしなかったアビリティの名前を、奴は口にした。
同時に、
「なっ!?」
「ぐぅ……これ……!?」
「おいおい、冗談だろっ!?」
ワシらがおった部屋の空気が瞬く間に汚染され、毒々しい紫色の空気へと周りが変色する。
同時に、多数のプレイヤーたちが悲鳴を上げ動けなくなったり、HPを見る見るうちに減らしていったりしていく。
その頭上にはこの戦いでは見覚えがありすぎるアイコンが。
そう。この紫色に変貌したこの部屋の空気すべてが、
「《疾病異常》を付加した……奴の攻撃アビリティのエフェクトじゃというのかっ!?」
逃げ場のない密室で、すべてを殺し尽くす病がひたひたとワシらの体を犯し尽くす。
最後の最後で、とんでもない切り札をペイルライダーは切ってきよった!
あと一本! あと一本!!
だけど爺さんの身にはもうひと波乱あったり……いつになったら終わる、このお話は!?