まずは一本
騎乗した巨人という大質量が、文字通り光となるほどの速度でフィールドという狭い空間を疾走したせいか、周囲に与えられた被害は甚大じゃった。
突撃に巻き込まれてしまい、一発でHPをレッドゾーンまで減らされた盾職たちは、轢き潰された衝撃から未だ立ち直れず、倒れたままうめき声をあげ、突撃の射線上にいた後衛職たちは、距離があったため直撃は何とかまぬがれることができたものの、
「なんじゃこれはっ!?」
「ペイルライダーが《バイオ・チャージ》使った時起こる、《バイオ・サイクロン》だ! できるだけ近づくな。ペイルライダーの攻撃には、基本的に《疾病異常》付与の能力があると思えっ!」
突撃によって乱れた部屋の気流が生み出した、四つの紫色の竜巻に数人が飲み込まれてしまっておった。
飲み込まれたプレイヤーたちは、まるで落ち葉のように竜巻の中を舞いあがり、天井にたたきつけられてそのまま床に落下してくる。
天井にたたきつけられたダメージと、そのまま自由落下することによっておこる落下ダメージをもろに食らい、装甲の薄い後衛職は保持していたHPをすべて失い、床の上でその身を砕け散らせた。HPが残っておったとしても、疾病の状態異常がそのプレイヤーを襲うため、竜巻に巻き込まれたプレイヤーは誰一人として無事な存在はおらん。
この戦いで初めて出た損失。ワシはそれを見て歯噛みをするものの、今のワシにできることは少ない。
今は、ヘイト管理をしていた前衛職が復帰して、死んでしまった後衛職を復活させる余裕ができるまで、
「戦えるものは前にでろっ! 一分一秒でもいい、全体のリカバリーが完了するまで時間を稼げ!!」
「上に登った後衛職連中は弾幕を密にしろ! ヘイト値分散させて、ダメージ受けた前衛に攻撃をさせるなっ!!」
各部隊の指揮官から飛ぶ指示に従い、ワシはハンマーを握り締め前に出た。
「御爺さん、前衛任命」
「おぬしはどうする? Alice」
「私後衛。実行選択肢、唯一」
そうじゃな。と、魔導書を開き呪文詠唱体勢に入ったAliceを見て、ワシは思わず苦笑いを浮かべた。
もうすでに魔法か何かでも使っているかのように、Aliceの手を離れ宙を浮く魔導書。そのページは誰も手を触れていないのに高速でめくられ、パタパタと心地よい音をワシの耳に届ける。
『告げる、七界を統べる皇帝よ。海分かつ剣持つ大英霊よ』
同時に始まるAliceの詠唱。
魔導書から浮かび上がった文字を淡々と、しかし一字一句間違えることなく始まるその詠唱は、魔導書から放たれる光を徐々に強くし、魔書使いの固有魔法発動の準備を整えていく。
スキル《魔書使い》とは、少し変わり種の魔法使い職のスキルじゃ。
所持する武器は、大多数の魔法使いが持つ杖ではなく、物語の様な呪文が刻まれた魔導書。
その魔導書には様々な種類があり《攻撃魔法》各種の魔導書や、《強化魔法》の魔導書、
《回復魔法》の魔導書と……それぞれのタイプ別に分けられており、魔書使いは状況に合わせてその魔導書を入れ替え、様々な魔法を運用するのじゃ。
そのため、使う魔法の種類を変える際は一々時間のかかる装備変更が必要であるため、拙速を尊ぶ前線魔法使いたちに間ではあまり流行らなかった魔法使い職でもある。
なにより、物語形式によって記された呪文は非常に長く、強力なものになると5分以上の詠唱が必要になる場合すらあるのじゃ。
事実、現在Aliceが読んでおる物語もどれだけ早く読んだとしても、詠唱に一分以上の時間がかかる魔法じゃ。
じゃが、そのデメリットに目をつぶれば……魔書使いは、通常魔法使いを置き去りにするほどのある強力な力を発揮するのじゃ。
「では、目はワシらが何とか引きつける。おぬしは一秒でも早くその魔法を完成させるんじゃ」
『戦乱の世を駆け抜けし汝は、数多の敵を切り伏せ、数多の同胞の屍を築き上げた』
ワシの言葉に返事を首肯で返しながら、Aliceは淡々と詠唱を続け、ヘイト値がまだ残っておる盾職に向かって、再び突撃を開始しようとするペイルライダーを睨み付ける。
『引導を渡してくれる!!』
「それはさすがに困りますねぇ……」
『なに?』
じゃがペイルライダーの攻撃は、根本的なところをへし折られたことによって、かなわなくなってしまった。
「発動!!」
無駄にけたたましい、囃し立てるような声と共に、前衛職たちの前にたった一人のピエロが、無駄な装飾が施された杖……というよりかはステッキと言った方がしっくりくる武器をふるい《幻惑魔法》を発動させた。
ピエロの名前はキラー・ゲイシー。奴が得意とする幻惑魔法は、黄色い膜で前衛職を包み込み、とんでもない効果をワシらの前にさらしよった。
なんと、膜につつまれた前衛職たちの頭上に浮かぶカーソルが、すべて真っ赤に染まったのじゃ。
カーソルとは普段のゲーム生活では不可視化されている、ある意味不用なアイコンなのじゃが、戦場においてそのカーソルの色が変わるということは重要な意味を持っておる。
プレイヤーのカーソルは緑、NPCは青、PKプレイヤーはオレンジと、カーソルはその色彩によってその人物がどのような存在なのかを、システム的に証明するツールでもあるのじゃ。
そして、現在前衛職の頭上に浮かぶ赤のカーソルは、
『おのれっ!? どこに消えた騎士共……わが配下かしかおらんではないかっ!?』
モンスターの色彩。敵対存在NPCであるとシステム的に証明するものじゃった。
カーソルの色彩が変わったせいか、ペイルライダーは前衛職たちを敵として認識できず、苛立たしげに首をかしげ視線を他のプレイヤーたちに移す。
「なんというか、かなり卑怯臭いのその魔法……」
「ほほほほ、決定打に使える攻撃魔法が少ないのですから、このくらいの特典は認めていただかないとねぇお爺さん」
どこまでも胡散臭い笑みを浮かべながら、ワシの言葉に慇懃無礼に返してくるゲイシーに、ワシは思わず肩をすくめながら一歩を踏み出す。
その時じゃった、
「おい爺。あんたのトロイ足じゃいつまでたってもあの化物にたどり着けんだろうが。のれっ!」
「ぬぉ!?」
背後から声をかけられると同時に、ワシの襟首が突然捕まれ、何かの上にワシが引きずり上げられた。
驚いてワシが自分の乗っているものを確認してみると、
「って、ワシ生き物に騎乗しとるぅううううううう!?」
「あぁ? 馬より揺れねェから安心しろや。ていうか、生き物じゃねぇし。戦車だし」
「さっきの悪夢をみとらんかったのかお主っ!? はくぞっ!? お主自慢のこの戦車の上でワシは盛大にはくぞっ!?」
「あぁ、いい歳こいて何言ってやがる。吐きそうになったら口閉じて呑み込め」
無理無理無理無理!? と、必死に手を振るワシを無視し、手綱を握ったのはフルフェイス兜のゴーイングマイウェイ。
とあるボスドロップで手に入れたといわれるその戦車は二頭立ての馬に牽かれており、どのような悪路でも走破できる巨大な車輪には無数の針のようなスパイクを施されている。
現実世界でなら通常なら絶対に操れるわけがない古代の対軍兵器。じゃが、ゴーイングマイウェイは手綱を使い、見事に二頭の軍馬を操って見せていた。
スキル《チャリオッツ》。スキル《騎兵》から進化したこのスキルが、ゴーイングマイウェイを見事にアシストしておるからじゃろう。
同時に、
「行くぞ野郎どもっ! 暴走してんのが自分だけじゃないってことを、あの騎士モドキに教えてやれっ!!」
『ヒャッハ―――――――――!! Fuck the world!!』
完全にごろつきにしか聞こえない発言をしながら、ゴーイングマイウェイ……略してゴーに率いられたクラン《暴走一族》の面々は、馬や虎といった一般的な動物から、ワイバーンやナーガといったモンスターすら乗り回し、ヘイト値を稼いでいた前衛職が突然いなくなり、仕方なく他の獲物を狙おうとしていたペイルライダーの足元に肉薄する。
『私に騎乗で挑むか、脆弱な人間よ……』
「さも自分がトップみたいに言っているが……さっきまで乗ってなかっただろうがお前っ!!」
騎兵の突撃は前衛職を巻き込むということで、遊撃手として待機を命じられていたゴーたちは大層うっぷんがたまっておるのか、やたらと荒々しい口調で叫びながら、口元が吊り上るのを抑えられずにおった。
そうこう言っておるうちに、奴の大鎌が目の前にやってきて、ワシらを切り刻まんとしよる。
当然、その攻撃に対応しようとすると結構揺れるわけで、
「いだだだだだだ!? ちょっと、座ると尻が痛いんじゃけどっ!?」
「車かなんかだとでも思ってたのか爺さん。あいにくサスペンションなんて上等なものはうちの戦車にはついてねぇよ。諦めて立ってろっ!」
「こんな状況で仁王立ちするとかそこまで肝っ玉は大きくないんじゃけどっ!?」
そんな言い合いをしているうちに、頭上のペイルライダーから大鎌の一撃!
じゃが、
「おせぇよ、三流騎士。攻撃するのに止まるとか、バカのやることだぜっ!」
いや、それ攻撃するときも動き回られたらさすがにプレイヤーたちの手に終えないからシステム的に止められているだけじゃと……。と、ワシは内心で考えるが、水を差すのも悪いので考えるだけにとどめる。
直後、勢いよく手綱の片側を引いたゴーの意志を的確に読み取った軍馬たちが、けたたましい嘶きを上げ、ほぼ直角と言っていい角度で急旋回。
とんでもない速度で走っておった戦車の進行方向を無理やり変更し、大鎌の振り下しから見事にのがれて見せる。
『ほう! なかなかいい馬だ』
「否定はしねぇが、騎手の腕あっての物でもあるんだぜアバズレェ!」
他の《暴走一族》のクランメンバーたちも、次々と振るわれる大鎌の一撃を見事にかわしていく。
空中を駆ける飛行型モンスターに騎乗したメンバーは、時折振るわれる大鎌の薙ぎ払いや、鎌から放たれる紫色の斬撃を、翼を翻し、まるで蝶のように舞い踊りながら躱し、
大地を駆けるライダーたちは、フィールドの大地を砕く一撃や、ペイルライダーが騎乗する馬からの踏み付けなどを、精密な見切りをつかいギリギリまで引きつけて躱す。
それによってできた隙を他のメンバーたちが次々と突破し、ペイルライダーへの距離をとんでもない速さで縮めて行った。
ただ自由気ままに、無軌道に走っているだけのように見えて、その動きにはたしかな統率があった。
一人でも多くの仲間を敵の懐に飛び込ませるという、明確な意思が働いていた。
リーダーであるゴーに率いられてすすむ暴走族の様な連中が、一つの生き物になったかのように、ペイルライダーに襲い掛かる!!
そして、
「一番乗りだ、ジジィ!! へし折ってやりなっ!!」
「流石に一撃でそれができるかはわからんが……」
そんな光景を見せられて、ワシも黙っておるわけにはいかんのう。
ペイルライダーの激しい迎撃を切り抜け、真っ先に懐に入り込んだのは、やはりゴーが乗る戦車じゃった。
激しく揺れるそのうえで、器用値補整をフルに使ってワシは何とか立ち上がり、手に持ったハンマーを握り締める。
そして、眼前にやってきたペイルライダーが騎乗する巨大な馬の足を、
「こっちを向くんじゃ、デカブツっ!!」
力いっぱい打撃した!
◆ ◆
派手なダメージエフェクトの飛沫と共に、巨人を乗せる巨大な騎馬の足が、パキリという嫌な音共に反対方向へとへし折れた。
膝をつく騎馬。同時に騎乗していたペイルライダーは、勢いよくその場から投げ出される。
『なっ、バカなっ!?』
「バカなぁああああああああああああああああああああ!?」
「なんでお前の方が驚いとるんじゃよ……」
そんな光景を、騎馬の横を通り過ぎた戦車の上から振り返り見ておったワシは、御者台から上がったゴーの絶叫に思わず半眼になる。
やれっていったのはお主じゃろうが……。
「いや、だって本当にできるとは思わないだろう!? 今まで馬の足の部位破壊とか起こったことないんだぞっ!? 何しやがったクソジジイ!」
「普通に殴っただけじゃけど? カンストされた筋力ステータスを利用して力いっぱい」
「攻撃力が素で筋力値500に到達しているとか、さてはお前頭おかしいだろ!?」
何をどうやったらそうなるっ!? と、どうやら超上昇スキルについて知らんらしいゴーの詰問を、耳を塞いで躱しながら、ワシは地面にたたきつけられたペイルライダーを見つめ続ける。
「それよりも、チャンスじゃな」
「ちっ。だんまりかよ……まぁ、確かにそうだな。だが、いつまでも続くとはおもえねぇ」
地面にたたきつけられた衝撃のせいか、ペイルライダーは軽度のスタン状態に陥っているらしく、次々と降り注ぐ遠距離攻撃職の攻撃や、ペイルライダーに到着した《暴走一族》の連携攻撃を食らい、着実にHPを減らしておった。
じゃが、その背後ではへし折られた足が見る見るうちに回復していく騎馬がおる。アンデット属性でもついておるのか、ボスの特別武装としてシステム的に守られておるのか……どちらにせよ、あの馬は破壊はできても、討伐は難しい相手のようじゃ。
おそらくさほど時間がかからんうちに、ペイルライダーは再び騎乗状態に戻るじゃろう。
『おのれ貴様ら……調子に乗るなっ!』
それに、スタン状態も長くは続かん。ボスモンスターは総じて状態異常に対する回復能力が高いからのう。
ペイルライダーも例にもれず、頭上から降り注ぐ魔法や矢の雨をものともせず立ち上がり、回復中の騎馬を一時的に魔法陣で送還。初めの時のように二本の足で立ち上がりながら、自分たちの足元をうろちょろする暴走一族を無視し、鎌の先端を大地へと突き立てた。
「範囲攻撃! 来るぞっ!」
そのモーションもすでに研究済みだったのか、一斉に散開する《暴走一族》。
その後を追うように、
『ウィルス・ハーケン!!』
大地から毒々しい紫色のとげが、ペイルライダーを中心に生えだした!
大地を押しのけながら地中から現れるそれは、一重二重とペイルライダーを囲うように同心円状に広がっていき、散開する《暴走一族》に追いすがる。
その速度は思った以上に早く、大型クランの中でも随一の突破力・走破力を誇る《暴走一族》ですら、逃れるのは困難かと思われた。
じゃが、
「少し、やる気を出すのが遅かったのう……」
「そろそろ来るか? 不思議の国の御姫様の一撃が!」
同じように棘から逃れるため必死に走る戦車の上で、ワシは後方に下がっておった物語の語り手が、本を閉じるのを目撃した。
同時に、
『今ここに、汝の一撃を示せ。《七海王》リヴュル・レプサイ・ル・グラテニス!!』
どこかの異世界にいるといわれる、海分かつ剣を持つ伝説の王。
その物語を記した書物が、正しくその力を発揮する。
魔書使いの本領――所持する魔導書に書かれた現象・物品・人物を、魔力を使って現実世界に再現するという、でたらめな力。Aliceは見事にそれを使って見せた。
通常魔法使いとは比べ物にならないほどの長い詠唱と、おびただしい量のMP消費をもってして発動したその一撃は、
「《再現》『海断刀:マリン・フォール』!!」
海すら割断する巨大な光の斬撃となって、紫のとげを薙ぎ払い、中央にいたペイルライダーを飲み込む!
『――――――!?』
もはやまともな言葉を発することもなく、光の斬撃に飲み込まれたペイルライダーは、光の斬撃と共にフィールドの端まで吹き飛び壁にたたきつけられる。同時にとんでもない速度で広がっておった紫のとげは、発動者が大ダメージを食らったせいでファンブルし、跡形もなく消え去りよった。
轟音。同時にペイルライダーが叩き付けられた壁に無数の亀裂が入り、一部が土煙を上げながら崩れ去る。
ペイルライダーの姿は巻き上がった土煙に完全に隠されてしまい、ワシらからは見えなくなってしう。
あれだけの一撃を食らっては、流石のワールドボスもしばらくは動けまいと、ワシらは戦車を走らせAliceのもとへと一時帰還。ペイルライダーの突撃で受けた被害から、周りがどの程度回復したのかを確認する。
見たところ、タンク職の回復は終わって、《バイオ・サイクロン》で死んでしまったプレイヤーたちの蘇生が始まっておるらしい。
「……任務完了」
「いや、相変わらずお前の攻撃はでたらめだなぁ、夢見がちな少女。正直あんな化物じみた威力魔法とか、エルの嬢ちゃんくらいのしか思い浮かばんぞ」
「エルは天然。当方技術。完全別物」
一緒にしないで! と言いたげな顔で胸を張るAliceに、ワシを戦車から降ろしたゴーは苦笑いで肩をすくめる。
そんなことをしている間に、タンク組を率いたラクライがわしらの前に走り出てきた。
「よくやってくれたAlice。お前は本当に何で前線に出てこないのかよくわからん奴だな……ソロは無理でもパーティー戦闘ならば無類の強さを誇るだろうに」
「私職人。戦士非。戦闘専門転向、予定皆無」
「そうか? その割には攻撃の威力が高すぎる気がするがな。まぁ、おかげであちらのゲージも随分と削れた。ようやく……一本目だ」
ラクライがそう告げたのを聞き、ワシとAliceは土煙の上に浮かぶペイルライダーのHPバーへと視線を走らせた。
確かに、三本あったHPバーの一本が、真っ黒に染まっておる。
あれだけの連携攻撃に、ワシのハンマー、トドメにAliceの大威力魔法が決まったのじゃ。その結果はむしろ当然と言えた。
じゃが、
「だとしたらここからが本番じゃな」
「あぁ、次からは対策会議でも問題になっていたあれが来る。爺さんたち、冷化ドリンクの飲み忘れとかするなよ。被害がシャレにならなくなるからな」
ラクライの警告がワシらに告げられると同時に、奴は立ち込める土煙を切り裂き飛び出してきた。
『この私に土をつけるとは……』
立ち上がったペイルライダーは、HPの減少の影響を如実に受けておるのか、体に無数の亀裂を入れておった。
そう、亀裂。傷ではなく亀裂じゃ。
まるで砕ける直前の陶器のように、全身に網目のような黒い模様を入れた奴は、手で両目を覆いながら、低い声音でワシらを呪う言葉を放つ。
『地を這う虫けらのままでいれば……楽に殺してやったものを!』
ペイルライダーはそういうと、目を覆っていた手を外す。
そこから覗いたのは、どこかへ瞳が消え去ってしまい、真っ黒な穴になってしまった眼窩と、その奥に炯々と灯る真っ青な炎。
今までワシらに見せておった女巨人の姿が、仮初の物であったことを如実に示すその変貌に、ワシは思わず顔を引きつらせる。
前が美人じゃったぶん、今の姿を見るとマジホラーじゃな。と。
そんなワシの内心を知ってか知らずか、本性を垣間見せ始めつつあるペイルライダーは、ボロボロと体中から肌色のかけらをこぼしながら、
『もう容赦はせんぞ、転生者ども……地獄を、貴様らにっ!!』
眼窩に灯った青い炎を、眼窩の闇がなくなるほど大きくしながら絶叫する。
激怒状態とはまた違った、ワールドボス固有能力――《形態変化》。
それによって自らの姿を醜く歪めた女巨人が、反撃ののろしを上げる。
ペイルライダー「このペイルライダーは変身をするたびにパワーがはるかに増す…。その変身をあと2回も私は残している……。その意味がわかるな?」