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非道騎士道

『インターセプトか! こざかしいっ!!』


 こちらのプレイヤースキルの呼称まで知っておるとは、運営気合入れすぎじゃろ。と、ワシは内心でそう考えてしまい、苦笑いを浮かべて頭を振る。

 今は運営とかは考えん方がええな。せっかくのVRMMORPGじゃ。


「この世界に没頭せんかったら、つまらんよなぁ!」


 体勢が崩れたのも一瞬。

 無数のプレイヤーたちの攻撃をその身に受けながら、肌が多くさらされた体には傷一つ付かない女性巨人型モンスター――ペイルライダーの姿に、ワシは即座に後退を開始する。

 別にビビったわけではない。最初からこういう算段じゃ。


『待てっ! インターセプト使いっ!!』

「おっと、お前の相手はこっちだ」


 開戦早々に体勢を崩されたのが気にくわなかったのか、執拗にワシに向かって武器を構えるペイルライダー。

 そんなワシとペイルライダーの間に割って入ったのは、群青色の装備に身を包み、稲妻の刻印が施された盾を構えたラクライじゃ。

 激しいエフェクトを伴いながら、ワールドボスの武器とラクライの盾が激突する。

 そのエフェクトのしぶきを浴びながら、先ほどまでの冷静な表情からは想像もできない、獣のような好戦的な笑みを浮かべてラクライは呟く。


「アビリティ……《非道騎士道》」


 瞬間、ラクライが持っていた盾から群青色のエフェクトがわきだし、ラクライの体を包み込んだ。

 同時に、ラクライは防ぎきった攻撃をはねのけ前に出る。

 瞬間、ラクライが鞘から抜き放った剣を一閃。

 武器をふるうために前へと突き出されたワールドボスのグリーブを強かに切りつける。


『くっ! 貴様っ!!』


 当然、たとえラクライがメインスキルLv.をカンストしていようとも、タンク職であり防御力はあるが、攻撃力はあくまでそこそこのナイトの一撃が、弱点でもない部分を攻撃したところでダメージは高が知れておる。ましてや相手はワールドボス。実際ラクライの攻撃によって与えられたダメージは三本あるHPバーの一本が、数ミリ削れた程度じゃ。

 じゃが、それでもペイルライダーはラクライの一撃に過敏に反応し、ワシに向けていた敵意の視線をラクライの方へと移した。

 さきほどラクライが使ったアビリティは、ナイトのジョブスキルが持つアビリティ――《非道騎士道》。自己強化型のエンチャントであるこのアビリティは、使用者に5分の間敵のヘイト値を集めやすくするバフを与える。

 さらにおまけとして、『敵モンスターの足回りや目など、比較的攻撃をすると卑怯ととられる部分に攻撃を当てると、さらにヘイト値をプラスする』というものがあったりするのじゃ。

 欠点として戦闘終了後の獲得経験値がやや下がるといったものがあるが、もはやスキルLv.をカンストしておるラクライ達にそんなものは欠点たりえない。

 ましてや相手ははるかな高みからワシらを見下ろす女巨人型モンスター。攻撃できる個所は限られており、アクロバットな動きをできないナイト型プレイヤーたちの多くは、ペイルライダーの足を攻撃するしかない。

 だからこそ、ラクライや現在彼に続き次々とペイルライダーに攻撃を加えるナイトスキルを持つプレイヤーたちは、その身に青いエフェクトを纏ってペイルライダーに攻撃を加えていた。

 少しでも多く他のプレイヤーが攻撃する隙を作れるように、彼らは一身にワールドボスからの敵意を集める。


『えぇい! 鬱陶しいは羽虫どもがっ!!』


 そしてとうとう、ワールドボスの注意が完全に周囲の騎士たちに集まった。

 さぁ、


「仕事じゃぞ、孫」

「言われなくてもっ!」


 そういうと、孫はアイテムストレージから取り出したワイヤーが結び付けられた鉄杭を、フィールドの壁に向かって投げる。

 ワシが超特急で作った鋼鉄製の糸と杭は、十数という夥しい数を張り巡らされ、フィールドに仮設の足場を作る。

 その仮設の足場の上を、アクロバットスキルを持つ軽量戦士たちが駆け上った。

 先導するのはワイヤーを張り巡らせた孫本人。

 まるでどこかの忍のように、宙を渡る鋼の線を危なげなく疾走しながら、再びストレージから取り出した杭を投げ、仮設の足場をどんどん上へと伸ばしていく。

 その向こう側では、ボスとは若干離れた場所にある壁際の回廊が見え、そこをYOICHIや魔法使いといった遠距離攻撃職が上っていた。

 今回のボスモンスターは巨人型ということもあってか、フィールドにはきちんと上部を攻撃しやすい位置に足場が存在しておる。

 じゃが、それはあくまで遠距離攻撃職が使うなら問題ないといった距離。

 近接攻撃が主な近接軽量戦士たちにとって、その足場はボスからあまりに遠すぎた。

 じゃが、地べたに足をつけて戦ったのでは、弱点部位が少ないペイルライダーの脚部を、攻撃しなければならなくなる。

 じゃからこその孫の足場の敷設。ブリーフィングでも言うておったが、大半の大型ボスは足への攻撃よりも、胴体・頭部への攻撃の方が、ダメージが高い。

 無論足を攻撃すれば、一定ダメージ以上のダメージを与えると膝をつき、大ダメージが狙える上半身頭部が攻撃可能な位置まで下がるのじゃが、それでは時間がかかりすぎるし、このボスモンスターを相手に持久戦をしていると、こちらの精神力が持たないというのが各クランマスターたちの見解じゃった。

 そのためクランマスターたちは、少しでもダメージを稼ぐために、こうして孫に仮設の足場を作るようブリーフィングの時に指示しておったのじゃ。


「じゃぁな、爺さん。無理すんなよ?」

「私も行ってきますねお爺さん!」


 そうこう言っておるうちに軽量戦士に含まれるスティーブはワイヤーの足場を駆け上り、魔法使い職であるエルはフィールドに作られた階段を上っていく。

 残されたワシらは、


「Aliceはエルと一緒にいかんでよかったのか?」

「後方支援。一網打尽防止策」


 ストレージから取り出した魔導書をぺらぺらとめくり、魔法発動の準備に入るAlice。


「我が機動甲冑の防御力は世界一ィイイイイイイイ!!」

「テンション上げ過ぎてミスしないようにのう……」


 珍妙な絶叫を上げ盾職たちの中に入りに行くカイゾウ。装備している鎧からは鎧からしてはいけない「ウィーン・ウィーン」という駆動音が聞こえるが、気にしないでおく。


「お主は?」

「俺も後方待機だ。というか、一番回復職が必要な場所は間違いなく下だからな。回復職たちは下7:上3程度の比率でわかれているぞ?」


 さきほどから薬品の入った瓶を取出し、なにやらうずうずした様子を見せるケンロウ。

 現在この場に残っておるワシのパーティーメンバーはこんな感じじゃった。

 ボス戦をしておるというのにいまいち緊張感は足りておらん。

 まぁ、ワシら本来の役割は後方待機。戦力としてはもともと期待されておらんから、スティーブやエルのように前線組と共に戦う方が珍しいのじゃ。

 ちなみにカイゾウは勝手に突撃したのじゃが、テンションあがったら勝手に突っ込むじゃろうという全会一致の意見がクラマスの間ではされておったので、特に問題はない。

 とはいえ、後方にいるワシらが絶対安全かといわれるとそうではない。


『おのれ……羽虫風情が。身の程を知れっ!!』


 次々と叩き込まれる攻撃が鬱陶しくなったのか、ペイルライダーが大鎌を上に振り上げ、高速旋回させる。

 同時にペイルライダーの上下に展開される二枚の魔法陣。


「来るぞっ!」

「噂の石化か!?」

「いや。でも範囲攻撃の前動作だ! 回復班もっと離れろっ!! 前衛組、防御態勢を崩すなっ!!」


 俄かに騒がしくなる攻撃組。

 目の前の女巨人が、とうとう本気を出したのじゃ。



…†…†…………†…†…



 魔方陣から現れたのは上下の魔法陣同士をつなぐ、複数の光の柱じゃった。

 魔法陣の回転に合わせて複数展開されたそれは、ペイルライダーの周囲にいたプレイヤーたちにランダムに襲い掛かり、その体を飲みこむ。

 軽量戦士たちは幸いなことにワイヤーを使って魔法陣の中から逃げ出してはいたが、足が遅い上に重量装備をしているタンクたちはそうはいかない。

 タンク職のほぼ八割近い人数が、襲い掛かってくる光の柱に飲まれる。


「ぐぉっ!」

「クソッタレっ!」


 まるで滝に打たれているかのように、上から襲いかかってくる圧力がタンク職たちの上部からダメージエフェクトが飛び散る。

 同時に彼らの名前の横には、毒々しい模様が描かれた状態異常にかかったことを示すアイコンが次々と出現した。

 その種類は多種多様。一つの技で起こる状態異常にしては、その数はあまりに多すぎた。


「あれがブリーフィングで言っておった、《疾病異常》か」

「あぁ。多分そうだろう。早速使ってくるとは本気で厄介な。爺さん、間違っても疾病異常にかかっているやつには近づくなよ!」


 《疾病異常》は、ペイルライダーが固有に持つ特殊状態異常じゃ。

 ペイルライダーは自身が使う技に様々な病原菌を潜ませておるらしく、ペイルライダーの技を食らったプレイヤーはランダムでその病原菌の病にかかるらしい。

 確認されておるだけでも《熱病》《弱体化病》《毒素菌》《四肢麻痺》《錯乱病》《致死病》、そして最後に厄介とされる《石化病》の計7つの病が確認されておる。

 内前半五つの効果は、《発熱》《弱体化》《毒》《麻痺》《混乱》のバッドステータスと同じ内容なのじゃが、代わりにとんでもない特性を持っておる。

 通常の状態異常は、回復職が持つ万能状態異常回復魔法――《リカバリー》ですべて回復することができるのじゃが、疾病異常によって引き起こされた状態異常は、それ専用の薬品で無いと回復できんのじゃ。

 たとえば《熱病》にはアイテム職人が作る《解熱剤》が、《毒素菌》には毒消しが、《弱体化病》には各種ステータス向上効果を持つ薬品が、《四肢麻痺》には麻痺治しが、《錯乱病》には精神安定剤が……といった感じで、各種薬品を使わんとこれらの状態異常を消すことはできない。

 致死病に至ってはついた数秒後にはHPが消し飛ぶほぼ即死効果と言っても過言ではない効果を発揮しよるし、石化病は専用の薬品さえ見つかっていない状態じゃ。

 おまけに、これらの状態異常は《疾病》という名を冠しているだけあって、近くにいるプレイヤーに伝染する。

 その範囲は通常回復魔法の効果範囲よりも広く、下手に回復するために近づくとミイラ取りがミイラになってしまうのじゃ。

 そのことを知らなかった第一回討伐作戦では、回復職すら巻き込んで全攻略プレイヤーが病気状態になり全滅してしまったというトラウマさえ植えつけた、究極の状態異常――《疾病異常》。

 とはいえ、その効果と厄介ささえ分かったのなら、対応するのはそう難しいことではない。


「ブリーフィング通りに行動を。特別回復班、投擲開始お願います!」

「よし来たっ!」

「ケンロウ、狙い付けやすいように持ち上げてやろうか?」

「いい。足場がしっかりしている方がコントロールしやすいからな」


 そう言いながらケンロウは、アイテムストレージから取り出した、麻痺消しの瓶を握り締め、片足を大きく振り上げる独特の投球体制をとった。

 そのフォーム。どっかのアニメで見たことがあるような、とワシが独りごちていると後方に待機していた何人かのプレイヤー――ケンロウと同じアイテムユーザーのスキルを持っておるプレイヤーたちから、ケンロウが持っているのと同じ、薬品が入った瓶各種が乱れ飛んだ。

 これがブリーフィングの際話された疾病状態異常の対策――《投擲回復作戦》じゃ。

 実は投擲スキル、何気に射程範囲が回復魔法よりも広かったりする。

 ラクライはそこに目をつけ、数少ないアイテムユーザーたちに声をかけ、この特別回復班を編成したのじゃ。

 ケンロウたちアイテムユーザーは本職の回復職を比較すると一歩劣る。HPの回復量はアイテム準拠のため、幾らステータスを上げても上がることはないし、フィールドに持ち込めるアイテムは、スキルの力でいくらか増えているとはいえ有限じゃ。幾らでも回復するMPで何度でも回復魔法を使うことができる回復職と、長期戦闘には不向きなアイテムユーザー。通常フィールドに連れて行くならどちらを選ぶといわれると、考えるまでもないじゃろう。

 じゃが、今回はそのアイテムユーザーたちが、回復職には決してできなかった仕事をやってのけた。

 カンストされた投擲スキルによって補整を受けた宙を舞う瓶は、剛速球のような速さで対象に飛来し、病気になったプレイヤーたちを強襲する。

 けたたましい瓶が砕け散る音と、飛び散る薬品の飛沫。

 そんな混沌とした絵面の中、タンク職たちに就いていたアイコンは……きれいさっぱり消えてなくなっていた。


『なっ! バカなっ!? 我が疾病をこれほどあっさりと……!』

「プレイヤーを舐めすぎですね、ペイルライダー」


 先ほどまで四肢麻痺にかかっておったラクライは、かかった薬品が消える際に発生する金色の粒子を放ちながら、再びペイルライダーの足に切りかかった。


「確かに我々は何度もお前に殺された。だが、だからこそ……次は殺されないようにと、工夫を凝らしてきたんだ」

『くっ!!』


 ラクライの一撃にペイルライダーは、思わず一歩後退する。

 あの巨体を持つ女が、たった一人の人間の気迫に気圧された瞬間じゃった。


「身の程を知れだと? それはこちらの台詞だペイルライダー。いつまでもお前が王者でいられるわけがないだろう」


 じゃが、ワシらプレイヤーはそのようなことを許さん。


「オーホホホホッ! どこへ行くというのじゃ、君主(ロード)。君臨するものが下がるなど、少々情けないのではないかえ?」


 さきほどの魔法陣の範囲外ギリギリから、アビリティの力によって延長したバラ色の鞭が飛来。ペイルライダーの足をからめ捕り、後退を阻害する。

 エリザベスの鞭アビリティ――《ウィップバインド》が決まったのじゃ。

 当然ボスモンスターにこの手の拘束技は効きにくい。大型ともなればなおの事じゃ。

 じゃが、その一瞬はラクライがペイルライダーに到達するには十分な一瞬じゃった。


『おのれ! 羽虫っ!!』

「よそ見をするな。言ったはずだ、お前の相手は俺だとっ!! そしてその身に刻み込め」


 ペイルライダーが着用するグリーブの隙間に、ラクライの剣が滑り込む。

 赤いダメージエフェクトが、ラクライの体を照らし出す程に、盛大に飛び散った。


「俺達は成長する。もう、前のように簡単にはいかないと!」


 ヘイト値は再びラクライに戻り、怒りに燃え上がったペイルライダーの瞳が、啖呵を切った彼の方に向く。

 絶好の好機じゃ。

 それを見逃すプレイヤーはこの場にはおらん。


「やれっ! お前らっ!!」

「《シューティング・スター・アロー》!!」

『っ!?』


 ラクライの号令と同時に、壁際に設置された足場から無数の遠距離攻撃が飛来した。先陣を切ったのは流星のようなエフェクトを伴った、YOICHIの強力な弓の一撃じゃった。



…†…†…………†…†…



『ぐぉおおおおおおおおおお!』


 各所から飛来する遠距離攻撃が、ペイルライダーの各所で爆発の花を咲かせ、奴のHPを確実に削っていく。

 俺――スティーブンはその遠距離攻撃達の射線の邪魔にならないように、あちこちに張り巡らされたワイヤーの上を駆け抜けながら、何とかペイルライダーの顔のあたりに到達した。


『オノレオノレオノレオノレぇえええええええええ!! 許さん、許さんぞラクライ!!』


 ラクライがこの戦いの指揮者だと気付いたからか、はたまたヘイト値をきっちり稼がれているからか……。ペイルライダーの怒り狂った視線は、完全にラクライの方を向いている。

 鼻先を通り過ぎた俺のことなど、もはや奴は見向きもしていなかった。

 チャンスだ。


「んじゃ、お先にー」

「落ちんなよ」

「誰に向かって言っているのよ」


 そう言って俺の前に飛び出していったのは、爺さんの孫であるネーヴェちゃんだった。

 彼女はワイヤーから軽やかに飛び上がると、ラクライに向かって大鎌をふるった巨大なペイルライダーの上に着地。

 激しく動く足場だというのに危なげなくそれを疾走するネーヴェちゃんは、その腕を二本のダガーを使い連続で切り付けなながら、ペイルライダーの肩まで駆け上がる。

 ダガーのダメージは比較的低いのか、ペイルライダーの腕にはひっかき傷のように赤い線が走っただけだが、本命はそちらではない。

 肩まで駆け上がったネーヴェちゃんはそこを足場にさらに跳躍。

 ペイルライダーの眼前まで一気に躍り出て、


「『スライス・スクリュー』!!」

『っ!?』


 空中で体を高速回転。まるでコマのように回転しながら空中を駆け抜けた彼女は、両手を広げ、手にもているダガーを使いペイルライダーの顔を横一線に切り付けた。

 大抵のモンスターは頭部そのものが高ダメージを狙える《弱点部位》だ。ペイルライダーもそこは例外ではなかったのか、ネーヴェちゃんの一撃で、顔から真っ赤なエフェクトを飛び散らせ、そのHPを大幅に減らした。


『くっ! さきほどからちょこまかとっ……!!』

「そちらを気にしている余裕はないでしょう?」

『……いいだろう。先ずは指揮官である貴様の首をへし折って士気を下げるっ』


 さすがにそれの攻撃は頭に来たのか、ペイルライダーの視線が一瞬こちらに向く。

 俺はそれに思わず冷や汗をかいたが、そこですかさずラクライの一撃が決まったのか、ペイルライダーの視線は再びラクライに固定される。

 俺はそれにほっと一息つきながら、落下していったネーヴェちゃんが違うワイヤーに着地するのを確認しつつ、


「じゃぁ、俺も行ってくるか」


 ワイヤーから身を踊りだした。

 他の軽戦士プレイヤーも、ネーヴェちゃんの攻撃に触発されたのか、次々とワイヤーから飛び降り、ペイルライダーの弱点部位を狙って次々と自身の武器をふるっていく。

 だが、俺はそんな軽戦士プレイヤーとは違う場所へと狙いを定めていた。

 狙う場所はビキニアーマーの下あたり、固そうに見える背骨がある位置。

 本来ならこんなところは弱点部位には入らない個所だ。

 だが、俺にはそこに弱点があることが見えていた。

 スキル《料理》のパッシブアビリティ《解体知識》。それが俺に、対象のどの部位をどのように攻撃すれば、その対象の肉を切り取りやすいのかを教えてくれる。そして、そのアビリティによって知った個所を攻撃することによって、料理人は一般近接プレイヤーとは違う場所を攻撃しても、クリティカルダメージを与えることができるのだ。

 そして、それの達人ともいえるのが、


「あら残念。私もそこ狙っていたのに」

「ワリィね。御先にもらっちまって」


 俺がアビリティの指示通りに攻撃し、赤いしぶきを飛び散らせるのを見ていたニューハーフ料理人――アキラだ。

 あいつは俺の一言にそっけなく肩を竦めた後、


「まぁ、場所はほかにもあるしそこらへんの解体個所はそちらにお譲りするわ。私はもうちょっと上に行ってくるから」


 頑張ってねー。と全く嬉しくない投げキッスを俺にぶつけて行ったあと、アキラは言葉通りにワイヤーを使って上に上がっていき、そして……


「行くわよ美人ちゃん。その無駄な脂肪私に少しよこしなさいっ!! 《解体刃者(かいたいじんじゃ)》!!」


 チョットだけ殺気立った声を上げ、俺の頭上から赤いしぶきを降り注がせた。

 あいつが狙った場所は、胸部。肺と心臓がある正中線あたり――要するにペイルライダーの豊満な胸の谷間だ。

 それを見た下にいる男性プレイヤーたちは、


「な、なにぃ! 他の男どもがなかなか手を出せなかった場所にあっさりとっ!?」

「う、うらやましい。うらやまけしからん!」

「いやまて、あいつ今あの脂肪を斬りおとすとか言っていなかったか?」

「お、俺達の夢と希望に何するだっー!!」

「テメェにあれが着いたらホラー以外の何物でもないだろうがっ! ペイルライダー様に返しなさいっ!!」

「うるさいわよ、下のバカ共っ!!」


 と、騒がしい怒声が響き渡りアキラはそれに思わず怒鳴り声を返していた。

 まだまだ余裕あるなあいつら。と俺は独りごちながら、自分のパーティーメンバーがどうしているか視線を走らせ確認する。

 爺さんは指示通り後方待機。あいつの技量なら前線出てもいいだろうが、あの物理高火力が参戦すると間違いなくヘイト管理に支障が出る。

 ヘイト値がもう少しラクライに集まるまで、じいさんは後で控えていた方がいいので、いまはこれでいい。

 ケンロウもブリーフィングで言われた自分の仕事をしっかり果たしているようだ。少し強くぶつけ過ぎの気があるのか、回復したタンク職にすごい勢いで睨まれているけど……。

 アリスは爺さんの後ろに隠れて、ゆっくり本を読んでいる。いや、後方待機だからいいかもしれんが、もう少し真剣に攻略に参加してくれ……。

 カイゾウは……まぁいいや。死んでも大して堪えんだろうし。

 エルはようやく階段を登り終えたところか。あいつ肉体系のステータスが低すぎるからな……滅茶苦茶息切れしてんじゃねぇか。これはあいつが攻撃に参加するのにはしばらく時間がかかるだろう。

 俺がそんなことを考えている間に、事態は刻一刻と動き続ける。


『いいだろう。ラクライ……お前の云う通り。貴様らは今までの貴様等ではない』


 三本あったHPバーの一本が半分になったと同時に、ペイルライダーが口を開いた。


『ゆえに、私も今慢心を棄てよう』

「っ! 総員! ペイルライダーの正面から離れろ!!」


 ラクライの指示が空間内に響き渡り、同時にペイルライダーの背後に、まるで曼荼羅のような円形魔法陣が広がる。

 その姿はさながら如来か仏様。背後に後光を背負ったようないでたちになったペイルライダーは、するどい眼光を光らせ俺達を睥睨する。


『来い、我が愛馬よ。蹂躙の時、来たれり』


 瞬間、ペイルライダーが背後に背負った魔法陣が一層輝きをまし、その中央からは巨大な青い馬が姿を現す。

 ペイルライダーはそれに騎乗し、


『死を運ぶぞ転生者。《死を想え(メメント・モリ)》!!』


 自分の周囲を固めていた盾職連中を轢き潰し、蒼い閃光となってフィールド内を一直線に駆け抜けた!!

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