前座の攻城戦
「一番槍はもらった!!」
そう言って真っ先に目の前の大門に攻撃を加えたのは、やはり速度特化型のスキル構成を持つ、逆手に短刀を持った盗賊じゃ。
現実ではありえない高さまで飛び上がった彼は、その速度と自身の体重を乗せて足りない攻撃力をカバーする一撃を、大門へと叩き込む。
「《ワンターンキル》!!」
盗賊アビリティの中で、最も攻撃力が高く、弱点部位に当てさえすれば100%の確率でクリティカルが出る最強攻撃。
じゃが、
「なっ!?」
その一撃をもってしても、大門には大したダメージは与えられず、黄色い衝撃エフェクトの中にわずかなダメージを示す紅いエフェクトが飛び散るだけ。大門頭上に浮かぶHPバーは、数ドットその長さを短くしただけで、大した変化は見られなかった。
「あの攻撃を食らってもほぼ無傷か。ワシら筋力値アタッカー並とは言わんが、タンク職の攻撃程度なら軽々と超えるダメージが入るはずじゃぞ?」
「あの大門には弱点部位がありませんから。どこを攻撃しても均等にダメージが入るだけです」
「それはまた厄介な……」
エルから伝えられた攻略組からの情報に、ワシは思わず舌打ちする。
速度特化型のスキル構成をしているプレイヤーは、足りない攻撃力を補うために、たいてい弱点部位を狙ったクリティカルを、大きなダメージリソースにしている。
大門にそれがないということは、この攻城戦においてそれらのプレイヤーはほぼ活躍の場を失ったということに他ならない。
「速度特化型のプレイヤーがソロでこれ後略するの無理じゃろう?」
「そのための騎士団だろうがよっ!」
双剣での連続攻撃という、どちらかというと速度特化型のプレイヤーと同じ戦闘スタイルをしておるスティーブが、ワシの言葉に反論した。
そして、そんな言葉にこたえるように、
「破城部隊! 叩き込めっ!!」
『イエッサー!!』
ローランの号令と共に、突撃陣形の中に隠れておった巨大な鉄杭が姿を現す。
その両端には、通常の馬より巨大な重量物牽引用の軍馬が無数に控えており、そこから延びる鎖で鉄杭を持ち上げ、信じられない速さで大門に向かって突撃した。
流石にこれを食らってはまずいと察したのか、城壁の上から無数の矢の雨が降り注ぐが、破城部隊に直撃しそうな矢たちは、遠距離攻撃型プレイヤーたちの攻撃によって薙ぎ払われ、瞬時に消滅する。
数秒後、破城の鉄杭が大門に向かって激突した。
さきほどのプレイヤーの攻撃とは比べ物にならないエフェクトが、飛沫のように飛び散る。
色は純正な赤。
まるで巨大なかがり火をたいたように真っ赤に染まる周囲。そんな中、ワシらプレイヤーが大門のHPを見ると、
「三割!? 大盤振る舞い過ぎやしないかのう!?」
「爺さん、忘れているかもしれないけどこれがメインクエストじゃないんだぜ?」
攻城戦はあくまで前座だ。と、今回の目的をワシに思い出させたのは、城壁からの迎撃でわずかにHPなどが減ったメンツに、回復ポーションをぶつけて回復を促しているケンロウじゃ。
「というかその絵面、いつみても仲間割れしているようにしか見えんよな。どうにかならんのか?」
「こういうスキルなんだから、仕方ないだろっ!?」
自身の所持するアイテムの効果を、他人にも使うことができる準支援型生産スキル《アイテムユーザー》。消費アイテムを無数に使用することによって、パーティーメンバーに様々なバフを与えるこのスキルは、はまれば回復職並みの働きをすることが可能な、戦闘にも参加できる優秀なスキルじゃ。
といっても、その際にはバフを与える相手にそのアイテムをぶつけなければならないので、はたから見れば同士討ち以外の何物でもないのじゃが……。
実際今も頭部に回復薬の瓶をぶつけられたプレイヤーが、何か言いたげな目でこちらを見ておるし……。
「とにかくだ、俺達はあの破城鎚部隊が敵に撃破されないよう気を配りながら、隙を見て大門を攻撃すればいい。最悪破城鎚部隊さえ無事ならば、城内突入自体は割と簡単にできる」
「スティーブ、簡単に言っておるが相手が集中攻撃する部隊を守りきるのは結構大変じゃぞ……」
「雑談中断。来るっ!」
そうこうしておるうちに、Aliceが言った通り的に動きがあった。
壁のようにそそり立っておった大門が、耳を貫く金属音と共にゆっくりと開いた。
その中から現れたのは、無数の鬼火を伴った白骨の騎馬と、それに騎乗した黒い鎧をまとったスケルトンの軍勢。
『ファ ラ ン ク ス !!』
先頭に立つダークスケルトンナイトが、剣を振り降し周囲にいる部下の白骨に突撃の指示を出す。
標的は当然、
「破城鎚部隊かっ!!」
地響きと怨嗟の絶叫を上げて突撃してくる白骨の軍勢。その異様な威圧感に、プレイヤーの何人かは思わず動きを止める。
いや、よく見ると頭上に赤く輝く瞳のアイコンがついておった。
状態異常《恐慌》。ゾンビやスケルトンなどといったホラー系モンスターが使用する、かかった相手の行動を数秒間止める、強制停止状態異常。
メインスキルのLv.差によって効果持続時間が変わるこのスキルは、同レベル帯じゃとたいした阻害にはならん。
Lv.をカンストした攻略組陣営に対してはほぼ効果がないと言っていいじゃろう。
じゃが、このような乱戦模様ではまた話が違う。
その数秒の遅れがワシらの行動をわずかに阻害し、破城鎚部隊の防衛をしようとしていたワシらの行動を、一瞬だけ乱す。
奴らはその隙をついてきた。
わずかに開いた破城鎚部隊とワシらの間隙を縫うように進んだ少数精鋭の突撃部隊は、瞬く間に破城鎚部隊へと肉薄する。
「まずい!」
「サポートまだかっ!!」
戦場に怒声の様な悲鳴がこだました。
プレイヤーたちが焦燥感に駆られ、必死に破城鎚部隊のもとへ向かおうとするが、間に合わん。
ここで打撃を食らえば、攻城戦は大きな遅延を余儀なくされる。
そうなってくると、アイテムの消費とてばかにならんはずじゃ。だからこそ、破城鎚部隊は絶対守らねばならんのに……このままではっ!
そんなふうに、ワシらの脳裏に一瞬諦めがよぎった時じゃった。
「白骨風情が……。死体は土に帰れ」
無数の風斬音と共に、ワシが作った最高品質の武装が、次々とスケルトン突撃部隊に飛来した。
突然の攻撃に、突撃部隊は攻撃をよける暇がない。
直撃する!
「――――――――――っ!」
辺り一帯に走る激震と、巻き上がる土煙。
それが収まった後にあったのは、無数の剣に貫かれHPを大幅に減らしたスケルトン部隊と、その前にたたずむ魔王の姿。
「我が名は《第六天魔王》ノブナガ。この俺がいる限り、貴様らがこの部隊に攻撃を成功させることは、万に一つもありはしない」
破城鎚部隊の傍らに轡を並べたプレイヤー――ノブナガは、得意げに前髪を書き上げながら、不敵な笑みを浮かべた。
「お、おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ノブナガがやった! ノブナガがやったぞっ!!」
「殴りたい! その得意げな笑顔っ!」
「おいこら、誰だ今余計なこと言ったのっ!」
辺りから響き渡る罵声なのか歓声なのかわからない言葉に、すぐにその余裕そうな態度は崩れたが……。
「あちらはあちらで問題ないようじゃな」
「何気に軍勢単位でケンカするとあの人が一番厄介ですよね……。MPきれない限り物量で押せ押せですし」
「まったくだ。基本あいつが使っている魔法なんて《アームドサモン》だけだからな。武器の品質によって消費されるMPは違うらしいが、発動する時間は全く同じ。しかも並列発動可能ときたもんだ……」
つくづく大軍勢向きの能力じゃな。と、ワシが某英雄王を思い出しつつ、無数に展開された魔法陣から次々と吐き出される武器群が、敵騎兵部隊を薙ぎ払うのを眺める。
その時じゃった。
「遅れちまったな……三番槍だ!」
号砲のような雄叫びと共に、大門に津波の様なダメージエフェクトが迸った。
発生源の下にいたのは、するどい爪を取り付けられたナックルガードを装備した男。
「覇王龍かっ!」
「ひゃっほー!! クラマスに続けぇえええええええええ!!」
『おぉおおおおおおおおおおおおおおお!!』
まるでどこかの暴走族のようなけたたましい雄叫びと共に、強力な拳の一撃を叩き込んだ覇王龍に続き、奴が率いる《地上竜宮》のクランメンバーたちが続々と攻撃を加えていく。
基本的に攻撃力が低く、長く続く連撃で相手にダメージを与えることで知られるジョブスキル《モンク》。
覇王龍は一応それにスキルを進化させることができる《拳闘》のスキルを初期メインスキルとして選んだのじゃが、「俺の拳が貧弱とかゆるせねぇっ!!」という意味不明なことを言い放ち、ジョブスキルへの進化ルートを放棄した変わり者じゃ。
代わりに奴が得たのは、ワシの《騎士鎚》と同じ武装スキル《城砕流》というスキルじゃ。
拳での攻撃に徹底的なバフを与えるスキルで、すべてのバフを重ねて行けばワシの鉄槌に匹敵する攻撃力を発揮する、明らかに運営がネタで作ったスキル。
それが功を奏したのか、先ほどの覇王龍の攻撃は、大門のHPを一割ほど削り、あたりに歓声を響かせている。
「竜宮の愚連隊に後れを取るなっ!」
「俺達も後に続けぇええええええ!!」
破城鎚部隊の防衛を気にする必要がなくなったプレイヤーたちは、再び大門に向かって突撃を開始し、次々と大門に群がっていく。
ワシらもそのあとに続こうとしたのじゃが、
「爺さん! いいかげん諦めて馬に乗れよっ!」
「いやじゃぁあああああああ! あれをもう一度経験するのだけは絶対嫌じゃぁあああ!!」
「でもお爺さん、このままだと私たち乗り遅れちゃいますって……」
ワシが鈍足で足をひっぱっとるせいで、まだまだ大門とは程遠い位置にいた。
まぁ、ワシらの本職は職人じゃから戦闘に参加することは期待されておらんのじゃけれど、せっかくここまで来たのじゃから、一撃加えておきたいと考えるのがゲーマーのさがなわけで。
「あらあら? こんなところで何をしているのですか? お散歩?」
「にゃ! おじいちゃん遅過ぎにゃぁ!」
テイムしたハザードドレイクという大トカゲに騎乗した黒い日傘の黒ゴス少女――ニコりんや、みーにゃんに追い抜かれたあげく、その後ろを疾走していた破城鎚部隊にさえ追い抜かれたとなると、流石のワシも考えざるえない。
くっ。もう馬に乗るしかないのか……。
ワシがそんな風に歯噛みをしておる時じゃった。
「っ! まてっ!! 上から来るぞっ!!」
「なっ!」
カイゾウが何かに気付き絶叫を上げる。
ワシらがその声に気付き、カイゾウが指差す先へと視線を向けるとそこには、先ほど開戦の口上を交わした真っ赤なスケルトンが佇んでいた。
やつは城壁の上で立ち上がると、ゆっくりと手を上げて何かを合図する。
同時に城壁の上に現れたのは、自分の頭ほどもある壺を担ぎ上げた、白のスケルトンたち。
まずい……あれは噂の、
「火炎瓶が来るっ!」
「ちっ! 迅速な対応をしやがるっ!!」
大門に攻め入っていた方もその攻撃の気配に気づいたのか、慌てて後退しようとするが、何分奴らは大門にたまりすぎていた。
その後退は遅々として進んでおらん。
このままでは多少の被害は出てしまうか? ワシがそう考え、回復役のケンロウにだけでも先に進んでもらおうと提案しかけたとき、
「《アポジションアロー》」
ワシのすぐ後ろから、そっけないと評してもいい冷静な声が響き渡った。
ワシが慌ててそちらを向くと同時に、ワシの頭上を数条の矢がエフェクトの残光を引きながら通過し、数秒後には城壁の上に構えられていた火炎瓶を、狙いたがわず打ち抜いた。
落とす前に討ち抜かれた火炎瓶は、破壊されることによって効果を発揮するアイテムじゃったのか、城壁の上で炎上する。
慌てたスケルトンたちが消火活動を始めるが、これでは火炎びん攻撃どころではないじゃろう。
「『火炎瓶攻撃を防ぐためには、遠距離からの狙撃・爆撃が一番効果的』ブリーフィングでそう言っていたはずなのだけれど、なんで魔法使い職まで大門付近にたまっているのよ」
「YOICHIっ!!」
矢を放った主は当然のごとく、前線組唯一の弓使いであるYOICHIじゃった。
彼女は顔に巻いたターバンのわずかにズラして口元を開けた後、そっと深呼吸をし次の矢を構える。
「他の遠距離攻撃職が来るまで、上からの攻撃は私が何とかしてあげる。だからお爺さん、あんたは前を向いて、あの大門を殴りに行きなさい」
「いいのか?」
「破城鎚は1分に一回しか攻撃できないようになっているのよ。あんなものに頼るより、お爺さんに頼った方が手っ取り早そうでしょう?」
いや、さすがにワシまだ人間やめた気はないんじゃけど……。と、なにやら攻城兵器扱いされておるワシ自身に、ワシは思わず顔を引きつらせるが、
「確かに言われてみれば」
「ならお爺さんをまもりながら前進しましょう!」
「そうだな! 破城鎚よりそっちの方が確実に早い!」
「提案採用」
「どうでもいいが、俺は先行しなくてもいいんだな?」
「おい」
何やらうちのクランメンバーはそんな戯言を真に受けてやる気になっておる。
お主ら、ワシを一体なんじゃとおもっとるっ!?
じゃが、そんなワシの内心の抗議など知ったことではないのか、
「斬り開けっ! 魔剣グラムっ!!」
YOICHIのヘイト値が上がったのか、続々と集まってきておった残存騎兵スケルトンたちを、一つの閃光が切り裂いた。
ワシらが驚いてそちらの方を見ると、そこに立っていたのは剣を突き出した体勢で残心する、
「メルトリンデっ!?」
「お爺さん! この戦いを早く終わらせるためにも……いって!」
「おまえもかっ!? というか、その剣そんな力があったのかっ!?」
そういえば刃王竜の時覚醒したとか言っておったな!! と、いまさらながらあのイベントの最後であったらしいメルトリンデの新しい設定を思い出し、ワシは思わず顔を引きつらせる。
メルトリンデ……もしかしてプレイヤーよりも強くなっておるんじゃ。
「お爺さんっ!」
「爺さんっ!」
「行くぜ爺さん!」
「ご老体! 早くしろっ!!」
「あぁ、もう!」
とはいえ、そんな錚々たる面子がワシを先に進ませるために戦い、道を開いてくれたんじゃ。
答えないわけにはいくまい。
「まったく。年よりはいたわらんか!」
ワシは最後にそう吐き捨てながら、嫌々ながら馬の召喚ができる、イベント限定アイテムを発動させた。
自分の口元に、小さな笑顔が浮かんでいることに気付きながら。
◆ ◆
一分が経過しふたたび破城鎚が叩き込まれる。
それを横目で見ながら私――ネーヴェは、この場にまだ来ないおじいちゃんの姿を探していた。
「ネーヴェ。よそ見していないで攻撃」
「私の攻撃なんてこの城門の前ではハエが止まるようなもんでしょ。それよりクラマス、うちのおじいちゃん見なかった?」
「GGYさんならさっき後方でヒーヒー言いながら走っていましたよ。あの人相変わらず素早さを鍛えていないんですね」
走り込みでもすれば少しはましになるはずなのですが。と、私たちゴールデンシープのクラマス・ヤマケンは苦笑いを浮かべながら城壁の上から降下攻撃をしてくるスケルトンたちを、盾で受け止めて弾き返していた。
火炎瓶攻撃が失敗したスケルトンたちは、自身の頑健な体を使って直接城壁から降下し、私たちにダメージを与える戦略をとってきていた。
実際この戦略は結構効果的で、ほぼ無傷といった状態のスケルトンたちが大量に降ってくるし、落下した先にプレイヤーがいれば激突することによってかなりのダメージを与えられる。
相手も着地する際に落下ダメージを食らうわけだけど、そこは全身骨である特性が幸いしたのか、HPバーが数ドット削れるだけだ。大したダメージもないままスケルトンたちは立ち上がり、私たちに襲い掛かってくる。
ここまで乱戦になってくると魔法使いたちの範囲攻撃も使えないし、破城鎚部隊も数体のスケルトンに取りつかれ、立ち往生している。
他のプレイヤーたちはそれを引きはがしているんだけど、落下してくるスケルトンたちの数が多すぎる。
戦場は膠着状態に陥りつつあった。
「あの赤い骨。いやらしい手を使ってくるわね」
「こうなったら、さっさと城門のHPを削るか、敵指揮官であるあの赤い骨を倒すしかないってブリーフィングでは言っていたけが……」
「あの高さにいる敵指揮官を狙うのはほぼ不可能。城壁のHPとて、あと三割は残っていますし……」
YOICHIさんも頑張っているみたいですが。と、他のクランメンバーと相談しながら、クラマスは盾をわずかにズラして城壁の上を見据える。
そこでは様々なエフェクトを伴った矢が、流星のように飛来しており、城壁の上の何かを狙っていた。
だが、狙った対象になかなか当たらないのか、矢が途切れる気配はいまだにない。
「すこし手詰まりですか」
「でも、おじいちゃんがいればきっと……!」
何とかしてくれますっ! と、私は手を握り締め、唇をかみしめる。
あの人はいつだって、私が困っているときは助けに来てくれた。手を伸ばしてくれた。何とかしてくれた。
だから、きっと今度もっ!
「どけぇえええええええええええええ! 若造どもっ!!」
何とかしてくれる。
そんな私の思いが届いたのか、私が待ち望んだ声が後ろから響き渡ってきた。
同時に、自分たちが相手をするスケルトンを押さえつけながら、プレイヤーたちが左右に分かれ、細い一筋の道を作った。
その間を駆け抜けるのは、真っ黒な軍馬に乗った一人のプレイヤー。
普通の人より少ししわがよりすぎたその顔は、間違いなく……!
「お爺ちゃん!」
「出たなチート爺!!」
「待ってました、元祖《破城鎚》っ!!」
「GGY、俺もこの戦いが終わったら、あんたのこと《破城鎚》って呼ぶよっ!」
「呼ばんでええわ小僧どもっ! 妙な死亡フラグを立てている暇があるなら道を開けんかっ!!」
周りから飛ばされる応援なのか野次なのかわからない声達に怒声を返すお爺ちゃん。
そんな姿に私はクスリと笑みを漏らし、
「いっけええええええええええええええええええええええええ! おじいちゃん、ワールドボスまでの道を、切り開いてぇええええええええええええ!」
「おう! 任せておけ、我が孫よっ!!」
力強く答えてくれた後、開いた道を馬に乗って駆け抜けたおじいちゃんは、背中に担いでいたハンマーを振り回し、
「《ギガント・スレイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア》っ!!」
その名の通り、巨人すら飲み込みかねない巨大なエフェクトを纏ったハンマーを、城壁にたたきつけた。
スキル《騎士鎚》のアビリティ《ギガント・スレイヤー》。
効果は至ってシンプルで、攻撃範囲の拡大と、最終的に敵に与えるダメージ数を25%割増しにするハンマー使い最強の攻撃。
筋力値をカンストしたおじいちゃんの打撃は、もはや人間が放つ一撃に非ず。
ましてやそれによって与えられるダメージを、アビリティによってさらに増やしたのなら、その効果は推して知るべしだった。
さきほどの覇王龍さんの打撃とは比べ物にならない紅いしぶきが大門に迸り、あたり一帯に赤い雪を降らせた。
同時に、城門頭上に浮いていたHPバーの残りが、音を立てて砕け散り、大門はその身を大きくゆがませる。
瞬間、私たちの侵入を阻んでいた大門は音を立てて後ろに倒れ、盛大な土煙を上げながら中にある城を無防備にさらした。
一瞬の沈黙の後、私は確かに耳にした。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「やりやがった、流石じじい!」
「GGY無理すんなっ!」
「いいぞ、破城鎚! もっとやれぇ!」
「噂にたがわぬいい働きだ! 褒めて遣わすっ!!」
あたり一帯に満ちる歓声。イベントのクリアを示すように次々とポリゴン片になって消えていくスケルトンたちの光に彩られながら、おじいちゃんはハンマーを掲げその歓声にこたえた。
そして、
「すまん、近くにいる奴はちとどいてくれ」
「え? なんで……」
「もうげんか……おぼろろろろろ」
『ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああ!?』
口からキラキラしたエフェクトを吐き出すお爺ちゃんに、歓声を上げていたプレイヤーたちは蜘蛛の子を散らすようにいっせいに引いた。
そんなお爺ちゃんの様子を見ていたクラマスは、思わず笑顔のまま固まる私に一言、
「ま、まぁ……活躍したからと言って、必ずかっこが付けられるわけではありませんから。長い人生を生きていれば、こういうこともありますよ……」
「うぅ、おじいちゃん」
せっかくの最後の晴れ舞台なのに……。私は一人涙を流し、苦笑をうかべたメーカーズのメンバーに回収されていくおじいちゃんを見送るのだった。




