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勘違いの暴走

ようやく更新できた……だがワールドボスに行く前に一悶着。

「それにしても、よくこんなに伸びに伸びたワールドボス討伐戦が、無事に開催できたものじゃのう? ワシとしては思い残すことがないように、いろいろと励むことができて有難いが……」


 ワシ――GGYは、今回の討伐戦に参加するメーカーズの面々と共に、集合場所であるグランウォールの中央にある広場へと向かっておった。

 参加メンバーはメーカーズでもトップを張れる生産技量を持つ六人。


「ボス討伐に必須と思われる《冷化ドリンク》の使用法は封鎖されていましたからね……。余計な抜け駆けの可能性はそれでかなり抑えられていたかと。研究熱心な方がいれば危なかったですが」


 裁縫職人代表――L.L。


「ついでに言うと、単純なゲーマーの技量がトップクランの連中には及ばない連中しかいないってのも、ワールドボス攻略が終わっていない理由の一つだろうな。トップクラン連中に攻略できないワールドボスが、ほかの連中に攻略できるわけがない。本当はもう少し有力な新人がいてくれた方が、こちらとしても面白かったけど」


 料理人&調薬師代表――スティーブン。


「とはいえ、そのせいで不満がたまっていることも事実。最近は冷化ドリンクの使い方開示を求める声が掲示板で高まっているしな……延期するのもここらが限界だろうよ」


 防具職人代表――MA☆改造。


「まぁ、そんなややこしい問題も今日で終わるだろう。パパッと片付けて、次の世界へと転生すればいい」


 小道具(アイテム)職人代表――ケンロウ。


「楽観的。短絡的。危機意識欠如。死亡(フラグ)継続中……」


 そして、変わり種である《魔書使い》というレアジョブスキルを持つ木工職人代表――Alice。陰気くさいローブで全身をつつみ、顔すらフードの影で隠した彼女は、フードから覗く金髪以外、人前で体を晒したことがないことで有名じゃった。

 両手すら薄手の白い手袋で隠す徹底っぷり。ぶつぶつとした切れ切れな発言も相まって、これほど魔法使いらしい奴もそうはいないといわれる、カイゾウと並ぶメーカーズ変人職人衆の一人じゃ。


「Aliceは相変わらず口が悪いのう……。そのぶつぶつした喋り方も何とかならんのか?」

役柄演技(ロールプレイ)。放置請願……」


 そして、武器職人代表であるワシ――GGYが今回メーカーズからボス攻略に参加するメンバーとなっておる。

 物理ダメージディーラーであるワシとスティーブ。

 魔法使い職であるエルとAlice。

 盾職であるカイゾウ。

 回復職であるケンロウと意外とチームのバランスは取れているのじゃが、何分戦闘経験は平均的な戦闘職連中と比べると低い連中ばかり。そのあたりがボス戦でのネックになるかもしれんのう。と、ワシがほんの少し不安を覚えておる時じゃった。

 ワシらが歩いておった道の先に、きらびやかな装備に身を包んだ多くの人々が集まる広場が見えてきたのは。


「あっ! おじいちゃん!」


 路地から歩いてきたワシらに真っ先に気付いたのは、ゴールデンシープの面々と共にいた孫――ネーヴェじゃった。

 ネーヴェはワシがちゃんとこのゲームにログインできたのを見てホッとした様子を見せながら、ワシらに駆け寄ってくる。そして、


「お爺ちゃんを連れてきてくれてありがとうございますっ!」

「いやいや、老人介護は若者の仕事だ御嬢さん。気にすることはない」

「誰が要介護老人じゃ!?」


 ぺこりとうちのパーティーメンバーに頭を下げる。そんな孫にひらひらと手を振って、失礼なことを抜かしたケンロウには、勢いよく肘鉄を食らわせてやる。


「他の参加メンバーたちも集まっておるようじゃのう? まだ決めた集合時刻の10分前じゃろうに……」

「ワールドボス討伐戦に参加する面々のほとんどは、お爺さんたちを除いて戦闘クランだもの。この日を心待ちにしていた連中ばかりなのよ」


 そう言って孫の隣に現れたのは、ずいぶん前にゴールデンシープにスカウトされて、ゴールデンシープ専属料理人になったオカマプレイヤー・アキラじゃ。

 何気にスティーブと並ぶ戦う料理人として有名になった彼女(・・)(こういわんと機嫌が悪くなる)は、料理人特有のスキルである《解体技術》を使ってモンスターをみじん切りにして戦うことで有名じゃった。

 ついたあだ名が――《解体野郎(ディスマントル)・KAMA》。ワシが思うに結構悲惨なあだ名なのじゃが、本人はどうやら気に入っているらしい。

 なによりスティーブと違ってハズレ料理が出てこないと、料理人としても結構人気じゃったりする。


「おぉ、メーカーズきよったかっ!」

「待ちくたびれたにゃ」


 ワシらがそんな雑談に興じておる時じゃった。大きく手を振り上げながら豪快に笑う巨漢の男と、黒ネコの耳と尻尾を頭と尻につけた十歳程度の少女がこちらに近づいてきたのは。


 漆黒の鎧に身を包み、竜を模した兜をつけた巨漢の男は《覇王龍帝》。前線クラン最大手――《地上竜宮》のクランマスターじゃ。

 黒猫の獣人幼女は《みーにゃん》。猫獣人のみで構成されたクラン――《お猫様信奉会》のリーダーで、全身を猫の模様がついた細身のドレス装備で固めておる。

 二人とも副業で職人をやっており、よくワシらに装備制作に関してのアドバイスをもらいに来るので、ソコソコ気心の知れたメンツじゃ。


「まぁ、お主ら辺りは参加しておると思っておったが……あとは誰が参加しておるんじゃ?」

「有名どころはほぼ全員参加だぞ? 今回のボス戦を主導をしている《連合》――《転生者連合》のトップ連中は言わずもがな。クランマスターの《裁定者》ラクライも本気装備で参戦中だ。そのほかに参戦しているクランは《絢爛道化(ゴージャスピエロ)》に、《円卓の暗殺者》。《爆走一族》に《ヒマラヤの頂》もトップパーティーがそれぞれ一つずつ参戦中だ」

「ソロの中からこの討伐のためにスカウトされた人たちも、錚々たる面子ですよ? 《独り女帝》エリザベス。《第六天魔王》ノブナガ。《魔弾の射手》YOICHI。《状態異女(ペイルライダー)》ニコりん。《人型城壁》ジークフリード。そして……」

「《錬成士》JohnSmithだ」


 悪乗りでつけられた中二臭い名前をみーにゃんが羅列していく中、あまり聞きたくなかった声がワシの耳に突き刺さった。

 ワシは少し驚いた気持ちになりながら、声の聞こえた方を見てみると、呆れた様子のYOICHIが背後でにらみを利かせる、見覚えのある無手(そうびなし)の男が。

 言うまでもなく、ジョンの奴じゃった。


「お主、この攻略には参加しないんじゃなかったのか?」

「選抜されたソロの奴が土壇場で仕事が入ったらしくてな。空きができちまったってことで急遽入れられたんだ。まぁ、正直準備不足感は否めないが、一応冷化ドリンクは確保してあるし、迷惑にはならんよ」

「実力の方は心配しておらんさ」


 ジョンの奴は、確かに実力があるソロプレイヤーではあったのじゃが、何分パーティーを組むと報酬として何かしらのアイテムが取られる相手であることもあって、固定パーティーを組んでおる攻略クランの連中とは折り合いが悪かった。

 それが攻略に呼ばれたということは、それほど今回のボス戦が難しいということか……あるいはジョンの評価が呼ばれなかった以前の物とは大幅に変わったからか。


「まぁ、なんにせよ頼もしい奴が一人攻略に参加してくれる事実には変わらんじゃろう。いざとなれば守ってくれよジョン」

「ははは。何を馬鹿なことを、爺さん。老い先短いアンタ守るくらいなら、あんたの周りにいる美人さん守るわ」

「よしわかった。おぬしは攻略が始まる前にいっぺん死にたいようじゃな!?」

「お爺ちゃん落ち着いて!?」


 背中から引き抜いたハンマーを振り上げるワシを、孫が必死に止めてくる。

 そんなワシの姿に周りの連中が肩をすくめて苦笑いを浮かべていた時じゃった。


「げぇ、爺さん!?」

「ぬぅ?」


 明らかに嫌そうな雰囲気がにじみ出た声が聞こえた。

 こちらはジョンとは違う意味で、この場で聞く可能性を考えておらんかった意外な人物の声で。


「ぬっ? Lycaon? バカな……どうやって潜り込んだ?」

「実力だよバカ野郎!? 何勝手に裏口参入扱いしてやがるっ!」


 ギャーギャー喚きながらこちらに武器を振り上げるのは、いまだに犬猿の仲の青髪眼鏡――Lycaonじゃった。

 そんなLycaonを羽交い絞めにして押さえつけているのが、Lycaonのクランメンバーであるカリンちゃんじゃ。


「こらLycaon! これから一緒に戦う仲間に噛みつかないっ! ただでさえ今回の攻略は難しいんだからっ!! スイマセンお爺さん。うちのリーダーがホントばかで」

「いやいや、気にせんでおいてくれカリンちゃん。《雑踏舞踏》は、品質の高い武器を装備していないために起こる戦力低下を、プレイヤースキルで補うようになって、かなりの実力派集団になったと聞いておるしのう。むしろワールドボス討伐の参戦は当然じゃろう」

「てめぇ、ジジイ! わかってんなら初めから俺を馬鹿にするような言動を取ってんじゃねェ!」


 ギャーギャー喚く動く騒音物質を完全に無視しつつ、ワシはお得意様に成りつつある少女との友好を深め、そして、


「お爺ちゃん。もしかして学生くらいの若い女の子が好みなの? 孫としてそれはちょっとやめてほしいんだけど」

「はっ!?」


 何やら孫に多大な誤解を与えてしまっておった……。

 慌てて誤解を解こうと弁明するワシを指差し、ザマァと嗤うLycaon。そんなLycaonの頭をひはたいて《混乱》のバッドステータスを与えた後、Lycaonを引きずり離れていくカリン。

 そんなカオスな空間が、ワシの周りで展開された時じゃった。


「諸君。どうやら最後の参加メンバーが来たようだ。これより、ワールドボス討伐戦の最終ミーティングを行う!」


 広場中央に設置された、巨大な円形の壇上に、ひとりの青年が上ったのは。

 群青色に稲妻のような黄金の模様が入った重厚な甲冑に身を包み、それと対比を成すように翻る紅のマントを羽織ったその青年の名前はラクライ。《裁定者》と名高き、メーカーズを凌駕する数のプレイヤーが所属しておる大規模クラン――《転生者連合》のクランマスター。

 まるで伝説の勇者のような圧倒的カリスマを放つ彼が壇上に立ったのを見て、周りにいたプレイヤーたちは雑談を瞬時に止め、真剣な表情に成り彼の一挙手一投足を注目する。

 なんというか……あいつはリアルでもたぶん人の上に立つ仕事をしておるんじゃろうな。と思わせるラクライの圧倒的な求心力に、一サラリーマンじゃったワシは感心しながら、わくわくする気持ちを抑えることができないでいた。

 それはそうじゃろう。なぜなら、待ちに待った、


「最後の思い残しが、果たせるのじゃから」


 ワシがそう呟き、ラクライがミーティングを始めようと口を開く。

 じゃが、そんな厳かな空気は、


「まてよ、お前らっ!!」

「ん?」


 とつぜん広場に響き渡った、品性のかけらもない暴力的な怒声によって引き裂かれた。

 ワシが声の発生源へと目を向けると、そこにはワシらと同じように完全武装をした、プレイヤーの集団の姿があった。


「何勝手に進めてやがる。ワールドボス討伐戦……俺達も一枚かませてくれよ!」


 そして、その集団に立つ盾を持った戦士職の男が、凶悪な笑みを浮かべながらとんでもないことを言い出した。



              ◆         ◆



「途中参加希望か? 申し訳ないが、今回のワールドボス討伐レイドはすでに人員が決まっている。途中参加の枠はないので、今回は遠慮していただけないだろうか?」


 そんな無粋な闖入者たちにも、ラクライは丁寧な口調を崩さず、丁寧に接した。

 たとえゲームの中であったとしても、他者に対する礼を失してはいけない。オンラインゲームはゲームであっても他人と協力するゲームなのじゃから。

 じゃが、そんなオンラインゲーマーとしての基本的なことすら守れないのか、乱入してきた人間たちは、丁寧に断るラクライに歩み寄りガンを飛ばす。


「おいおい、いまさらそんな断りの言葉で俺たちが引くと思ってんのか? 頭がおめでたい方ですか、お前は? こんな奴に頭抑えられて、ワールドボス討伐ができなかったのかと思うと、反吐が出るぜ?」

「は?」


 何をわけのわからないことを言っている。そう言いたげにラクライは、バカにされた怒りよりもまず、理解出来ない言語で話しかけられたかのような困惑の表情を浮かべた。

 それは周りにいたワールドボス討伐メンバーも同じじゃった。

 ワシらのせいでワールドボス討伐ができないなど、あり得るわけがない。ごく一部の団体が、ゲーム攻略を妨げるようなまねは運営が許さないし、ワシら自身そんなことをした記憶はない。

 むしろ普段よりノンビリ準備を進めていたために、他の誰かに先を越されないかと恐れていたくらいなのに……。


「申し訳ない。それはいったいどういうころかな?」

「しらばっくれるな! お前たちがワールドボス討伐に必要な条件を隠したせいで、俺達はワールドボスに一度も勝てなかった! あんたたちが邪魔したせいで、俺達はぁっ!!」

「……………………………………………」


 周りにいたトップクランの面々は、男の台詞に声も出ないようじゃった。男の言葉に理解を示したわけではない。その逆じゃ。


「何いっとるんじゃお主ら?」


 ここまで説明されてなお、ワシらはこの男がなぜワシらを恨んでおるのかが理解できなかったのじゃ。

 そんな皆を代表して、ワシは思わず口を開く。


「このゲームは誰にとっても平等じゃ。ワシらが見つけた要素も、お主らがきちんと条件を整えさえすれば、見つけることは可能じゃったはず。それに、掲示板も、この前の刃王竜イベントで出てきた女騎士たちも、おぬしたちは見ておったはずじゃ。おぬしらがあのアイテムを手に入れるすべは、幾らでもあったはずじゃ」

「ふざけるなっ! あんな使えないアイテムがいくつ手に入ったところで、あんな化物に勝てるわけがないだろうっ! あの情報はお前たちが広めた欺瞞工作だ!」


 そんな男の主張にワシは眉をしかめながら、ラクライに「ほんとうかの?」と視線を飛ばすが、当然ラクライは首を横に振った。


「そんなわけないでしょう。ゲームでそこまでする理由がない。お金が絡んでいるならそのくらいはしますが」

「いや、するかい……」

「私の両肩にあなたたちの運命が乗せられていますからね。そのくらいの判断は当然かと」


 下につくものとしては頼もしいが、それ今言う必要あったかのう? と、ワシは内心で嘆息しながら、的外れな推理ショーを披露していた男に視線を戻す。

 男はラクライの言葉を聞き「それみたことか」と言いたげな顔に成りながら、声高に叫んだ。


「そんな何のためらいもなく、人をだますことに抵抗がないというような奴を信用できるかっ! きっと何か他に隠しているに違いない。それを妨害工作と言わずしてなんだというんだっ!!」


 鬼の首でも取ったかのように、そんな主張を展開する男。そんな男に対し、ワシはそっと嘆息しながら。


「まぁ、確かに隠し事をしておるのは認めよう。何のアイテムが必要という情報は垂れ流しじゃったが、それの正しい運用法まではさすがに情報規制がされておったからな。意図的にその情報を流さなかったことは認める」

「ほうっ! つまり自分たちの非を認めるんだな!!」


 勝った。と言いたげに男は笑った。じゃが、それはぬか喜びというもんじゃろう?


「非を認める? なぜじゃ」

「え?」

「ワシらは何一つ悪いことはしておらん。情報を隠したのも、ゲーマーとしてなら当然のことじゃろう?」


 お主らだってやっていることじゃ。と、ワシは嘆息しながら実例を挙げていく。目を曇らせた若者を諭してやるのも、老人の務めじゃからのう。


「たとえば、お主が自分のスキルの隠し要素を見つけたとしよう。その力を使えば、おぬしは現攻略組の力を軽々と上回るほどの実力を身に着けることができる。さて、そんなものを見つけたお主は、素直にそのことを掲示板に上げて、そのスキルを手に入れるための詳細を提示したりするか?」

「は? そんなことするわけないだろう。俺が苦労して俺が見つけたんだ。他の奴も自力で見つけるべきだろう!」

「じゃろう。なら、ワシらがボス攻略のために見つけた、あのアイテム――《冷化ドリンク》の正しい運用法も、また隠されてしかるべきではないのか?」

「――っ!」


 ワシが告げたその言葉に、男はとうとう沈黙を余儀なくされた。それはワシの言葉に、男が思わず納得したことを如実に語っておった。

 もうひと押しじゃな。と、判断したワシは、男のくだらない勘違いに終止符を打つべく、正しい現状を教えてやった。


「なにより、ワールドボス攻略にはどんなアイテムが必要で、そのアイテムの制作に必要なレシピの手を手に入れる方法まで開示されておった。そのうえでボス攻略ができなかったというのなら、それはお主らの努力不足じゃ。ワシらにその責任を押し付けるのは、お門違いという物じゃろう?」

「――っ! そ、それはっ!!」


 ワシの正論に、男は思わず黙り込む。これで大人しくなってくれるとありがたいんじゃが。と、ワシは思いながら男の背後に集まっていたメンツにも視線を向けてみる。

 誰も彼も、前線には入っているもののトップクランには一歩劣るといった位置づけのプレイヤーたち。おおかたトップクランのメンバーよりも先にワールドボスを倒して、トップクランを超えようともくろみ……失敗した連中なのじゃろう。

 だからこそ、トップクランがいよいよ本気で動き出す今日になって、こんなバカなことをしでかした。

 そんな人物たちが理性的に行動できるわけもなく、


「正論だとは認めるが……心情は納得できんといったところか」


 若いのう。と、ワシはそいつらの顔からそのことを察し、思わず嘆息した。仕方ない、


「うるせぇ……うるせぇうるせぇうるせぇっ! そんなこと関係あるかっ! お前たちがトップに居座るために、汚い手を使ったんだっ! そうじゃないとおかしいんだっ!!」

「失せろ《破城鎚》!! 《チート爺》!!」

「あんただって、そっち側の人間なんだろうっ! チート使ってんだろうっ! じゃなきゃ老いぼれのアンタが、トッププレイヤーになんてなれるわけないんだっ!」

「チート使ってるあんたなんかの言葉に、俺達は惑わされたりなんかしない!!」


 聞くに堪えない、醜い罵詈雑言が広場に響き渡る。トップクランの面々はさすがに眉をしかめ、孫などは青筋を浮かべて武器に手をかけておる。

 一触即発。まさにそんな状況と言っていい中で、ワシはそっとため息をつきながら、背中に担いだハンマーの柄に手をかけ、


「これだけ言葉を尽くしても届かんか?」

「言葉っ!? チート使いの言葉なんて、信じる価値はねェ!」

「そうか。なら仕方がない」


 力づくで体に教えてやるしかないのう。と、ワシが覚悟を決めた時じゃった。

 ワシに言い負かされた男の眼前に、決闘(デュエル)の申請画面が出てきたのは。


「聴くに堪えねぇ。見るに堪えねぇ。お前らそれでもゲーマーか」


 申請を飛ばしたのは驚くべきことに、先ほどまでワシと言い合っていた人物じゃった。


「自分で強くなる努力もしないで、攻略本頼りでしかゲームをプレイできない三流どもが」


 ワシとケンカをしたために強力なアイテムを得られない状態になってしまったソイツ。じゃが、そいつはいま泥をすすりながら這い上がって、この場に立っておる。そんな経歴を持つがゆえにそいつは、ワシの孫以上の憤怒が漏れ出る声音を発しながら、ワシを押しのけ前に出た。


「な、なんであんたが……。あんたはつい最近まで俺達と一緒だっただろうがっ!」


 デュエルを申請された男は、本気で驚いたように声を震わせ、視線を泳がせる。だが、ワシの前に出たそいつは、そんな男に言葉を、


「他人の足を引っ張るくらいしかできないお前らと、一緒にすんな!」


 バッサリと切り捨て、


「剣をとれよ、マイクロフト。ゲーマーなら、プレイヤーなら、主張はゲームで押し通せ。そして勘違いしているお前に、俺が教えてやる」


 腰に下げた鞘から、安物の剣を抜刀。抗議をしてきた男――マイクロフトの喉元につきつけた。


「攻略掲示板を頼ってここまで来たところで、自分で道を切り開いてきた連中には勝てないんだってことを。そして、恨み言を吐いたって、誰かの足を引っ張ったって……決して強くはなれないんだってことをな」


 ワシの前に出たそやつの名前はLycaon。

 珍しいことにワシと意見が合致した、ワシの仇敵じゃ。

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