表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/53

対物ライフル

風邪ひいてました。最近なんか体調崩しやすい……。

 照明が落とされた真っ暗な会議室。

 普通なら人間が座っているはずの会議室の座席には、人の姿を隠す巨大な衝立(ついたて)が佇んでいた。

 その衝立には赤く光る塗料によって《SOUND ONLY》という文字が書かれているのだが、実際に会議の参加者は衝立の後ろに座っている。

 ようするにこの光景は、この会議に参加するバカ達の趣味が生み出した悪ふざけだった。


『諸君、とうとう新年があけてしまったな』

『あ、いまさらだけどあけおめ』

『ほんとに今更だな……』

『刃王竜イベントどうだった?』

『とりあえず新兵器のお披露目は上々。我等の新兵器の評判もよく、掲示板では相変わらず『メーカーズ自重しろっ!!』の言葉が飛び交っている』

『あ、あのあの! それって、評判良くないのでは……?』

『三番。こういうのは言ったものがちだ』


 気弱そうな声を上げる№03に、空白の上座の左わきに座っていた№02が衝立の後ろで肩をすくめる。


『だがしかし、あの兵器では実用性に乏しい。今回の様に砦などの防衛戦になら、初戦で大活躍できる可能性を見いだせたが……』

『プレイヤーにもたせるのはちょっとといった感じでしたね……』

『弾の装填も一発では使い勝手がなぁ……。実戦に耐えうる仕様にするには、MPを消費することによって勝手に弾丸を作ってくれる《MP薬莢》の開発を急がないと』

『くっ。リアルの会社さえなければ……』

『もう、会社辞めてここに専念したら? 俺も学校に行かずに、生産に専念しているし』

『いや、学校には行けよ』

『あの、あの! 高校くらい行っておかないと、本当に後悔することになりますよ?』

『なんでそういうところだけ常識人なんだよお前らっ!?』


 ギャーギャー喚く№04に、衝立の向こうから白い目を向けるメンツ。確かに彼らはゲームの中ではハッチャケているが、それは現実世界とゲーム世界の線引きがきちんとできているからだ。

 現実をしっかり見据えている分、ゲームの中では精一杯楽しみ、現実でできない自分たちのやりたいことをやっている。

 そう言った大人の切り替えが、中学生である№04にはまだまだできていないようだった。


『まぁ、若いころはいろいろあるからな』

『そうそう。いろいろあるよな。親と進路でもめたり、勉強なんかよりもやりたいことがあるんだって言ったり……最終的に就職試験でろくな点数取れずに、ブラック企業に入るしかなかったり……』

『おいやめろ、トラウマが……』

『お前ら、会議はどうした?』


 呆れきった声音で突然歌いだしたメンツに鋭い指摘をしたのは、№05。自重を知らないこのメンツの中で唯一、苦言を発しメンバーに自重を促せる常識人だ。だが、


『五番か? 遅かったな』

『今日はこった夕食を作っていてな。鍋だ』

『こってねェ!?』

『鍋に食材突っ込むだけだろうがっ!?』

『なっ! バカを言うな貴様らっ!? 本気で美味い鍋を作ろうと思えば、出汁と食材の黄金比率を割り出さねばならんのだぞっ!?』

『相変わらず変なところでこっていますぅ……』


 呆れたような№03の言葉に、『なにおう!?』と憤る№05。このように彼は根が真面目なため、よく他のメンバーたちに煙に巻かれて、結局まともなセーフティとして機能したことはなかった。

 掲示板などでは《役立たずセーフティー》というあだ名までつけられてしまっている始末である。

 そんな混沌とした様相を見せる会議という名の雑談会に、さらにもう一人参戦者が現れた。

 会議室の扉を開き、真っ暗だった会議室に一条の光をもたらした、その人物は、


「また電気消しておるのかお主ら。目が悪くなるから電気ぐらいつけろといつもいっとるじゃろうが」

「あぁ!? 何でつけるんだよ爺さん!?」

「せっかく、せっかく作った雰囲気が!?」

「この胡散臭い会議の魅力がわからないとは……所詮おじいさんですかっ!? №01!!」

「目がぁ! 目がぁあああああああああああああああああ!」

「バ○スwww(わらわら)


 一気に混沌とした様相を見せる会議室に№01――GGYはそっと嘆息した後、


「お主ら、黙らんかったらスティーブからもらってきた差し入れの鍋に、汚染アイテム《クァwセdrftgyフジコlp!?》を流し込むぞ?」

「「「「マジサーセンっしたぁ!?」」」」


 湯気を立てながら美味しそうなにおいを提供してくれる、GGYが取り出した鍋。その上に、GGYが一緒にとりだした、真っ黒な瘴気を放つ瓶が置かれるのを見て、その場にいた面々はためらうことなく衝立から飛び出し、GGYに向かって土下座を敢行するのだった。



              ◆         ◆



 真っ暗だった会議室はワシ――GGYの参加から一転。邪魔な机と椅子はどけられ、床に敷き詰められた畳の上には、布団装備の机――炬燵が鎮座し、ゲーム独特の不思議な力でいつまでもぐつぐつに立っている鍋が、その中央に置かれておった。

 というか、


「人んちで勝手にエ○ァンゲリオンごっこすんのやめろと毎回言うておるじゃろうが。机や椅子なんておいたら、せっかくの畳が傷むじゃろう?」

「ばか。イベントでもないのに非戦闘地帯(まちなか)のアイテムの耐久度が減るかよ」

「№02。お玉とってください」

「あいよ~」


 ここに集まっておるのは、ワシと同じ趣味を持ち、銃開発に協力してくれる奇特なプレイヤーたち。ワシの思うとおりの暗殺専門小型拳銃が完成して以来、だいたいのプレイヤーが満足して、この会合から離れて行ったのじゃが、このメンツはさらなる銃の発展を望み定期的に集まっている無類の銃狂いたちじゃ。


 その筆頭である№02こと《改良者》MA☆改造は、№03こと《冶金の女神》Tomoに催促されたお玉を渡したあと、自前の箸で鍋の中から春菊をさらう。

 カイゾウは頭がおかしいくせに、健康思想の持ち主じゃ。手元においてある奴専用の器にも、出汁に浸された野菜各種がバランスよく取り揃えてある。


「ほら、家無し(いえなし)君もお肉以外の物食べる。体に悪いでしょう?」

AUO(えーゆーおー)と呼べと言っておるだろうが!? それに、ゲームでそんなこと気にしてどうすんだよっ!? えぇ、ヤメンカTomo!? 俺の器にガンガン白菜を突っ込むなっ!?」


 そんな叫び声をあげるのは、絶賛中二病中な中学二年生――《自作蔵》AUOこと、調薬師の家無し(イエなし)じゃ。カイゾウから受け取ったお玉で、鍋の中の野菜を大量に掬い、ガンガン器の中に放り込んでくるTomoに半泣きになりながら抗議するその姿は、元ネタの某英雄の王よりも家のない小僧の方がピッタリじゃと思うが……。


「それで、結局新しい銃の改良案は出たのかのう?」

「ここでも鍋とは……まぁ、冬だしな。おっと、改良案だったな? 新しい工作機材が開発されない限り、精密性が要求される機関銃系の制作は無理ってことになったろう? なら、ハンドメイドでも十分可能な、狙撃銃でも作ろうかって話にはなってんだよ」

「初期に作ったライフル型の飛距離と命中精度を上げるのじゃな?」


 №05――《精密機器》ケンロウは、家無しが野菜地獄に封じられたのを見て、チャンスと言わんばかりに豆腐と肉を重点的に鍋からあげながら、ワシの問いに答えた。

 まぁ、確かに今できる改良としては、その案が一番実現性のあるものなのじゃろうが。


「できるのか? 狙撃銃というからには、遠くを見るスコープも必要じゃろう? 作るのはかなり大変じゃろう? 何より実戦で使える状態の物を作るとなると、飛距離100mは最低限必要じゃぞ? 銃が放つ殺気が届かない最低ラインがそこじゃからな」


 現実世界で成功している最長の狙撃距離と比べると、それでもずいぶんと短い距離なのじゃが、火縄銃からどうにかこうにかリボルバーまでもって行った今の段階では、その飛距離を伸ばすのも一苦労なのじゃ。


「だから、より安定して長距離を飛ばせるように、ライフリングをもっと多く……」

「ばか。今以上に回転に力さいちゃったら、火薬の爆発で発生した勢いが回転のエネルギーにとられるだろうが。飛距離は今よりも落ちるはずだ」

「そのあたりのさじ加減を調べるのがあんたら鍛冶職人の仕事だろうが」

「そ、そういう№03は、新しい火薬の開発はどうなのですか!」

「バズーカの火薬使えばいいと思うぞ? あれ今使っているやつより強力な火薬だし」

「その爆圧に耐えることができる銃を作るのが大変なんだろうが! 機構はボルトアクションにする予定だから、火薬の取捨選択は言うほど苦労しなくてもいいけど……レイドボスに数発でダメージを耐えるような火薬を使える狙撃銃なんて、それこそアンチマテリアルライフルくらいの大きさが必要になってくるぞ」


 鍋をつつきながら喧々囂々の意見交換をしあうワシら。そんな中、ワシはケンロウが発した、とある銃の存在に心が動かされた。


「ええのう。対物ライフル」

「え?」

「あ、あの……!?」

「なん……だと!?」

「本気なのか? 爺さん」


 口々にそんな問いを発する四人に、ワシも鍋から肉を引きあげながら首肯を返した。


「反動を殺す機構を作るのは大変じゃろうが、大型化すれば飛距離は自然と延びるし、繊細な作業も減るじゃろう。ただ大型化すればいいというものでもないじゃろうが、今までの銃制作のノウハウはすでに持っておるし、ある程度の応用が利くはずじゃ。なにより、今度の銃改造はゲーム攻略に絶対必要というわけではなく、趣味の範囲で納めてもいい蛇足じゃしな。ぶっちゃけ作ったはいいけど誰にもうてない化物銃になったところで、記念にはなるじゃろう?」

「そう言われるとそうだが……」


 ケンロウがワシの言葉に納得した様子を見せた途端、他の三人の目が輝きだした。


「つまり、ロマンを求めていいわけだな?」

「滾ってきましたっ!!」

「せっかくボルトアクションにするんだから、排莢シーン写真にとろうぜ! 撃った後に、ポーンと出ていくあのシーンが今度のニヤニヤ動画に上げるMAD制作でほしいんだよ!」

「多趣味な奴だな……家無いくせに」

「あるわ!? 絶賛ひきこもり中だわ!!」

「お主はワシらと銃を作る前に、まず親に土下座をするべきじゃな……」


 爺さんまでそんなことをぉ!? と、そんな家無しの悲鳴にワシらは苦笑いを浮かべながら、今後の設計方針を決めていく。

 そんな時じゃった。


「では、それが完成した暁には、ぜひ私に試射をっ!!」

「「「「「…………………………………………」」」」」


 どういうわけか、ワシらの話を聞いておったエルが、満面の笑みでワシの家の扉をけ破り、鍋会議中の部屋にダイナミックエントリーしてきたのは……。


「てめぇ! どこで聞いてやがったこのトリガーハッピー裁縫師っ!」

「盗聴!? 盗聴されていませんかここ!?」

「あぁっ!? 何故追い出そうとするのですっ! さてはあなたたちだけで、試射をするつもりですねッ! 許しません! サブクランマスター権限で私も一枚かませるのですっ!」

「ちげぇよ、あんたが普通に怖いんだよっ!」


 このメンツの中では比較的年が近い若手――家無しとTomoがギャーギャー喚くエルを取り押さえに行く中、年長組であるケンロウとカイゾウとワシは、そっとため息をつきながら、


「銃さえからまなければいい人なんですがねぇ……」

「というか爺さん。この前新聞であいつの名前見たぞ? なんでもサバゲの世界大会で優勝したんだとか……」

「どこへ行く気なんじゃろうな、あの服飾デザイナー志望の裁縫師殿は」


 チョットだけ、銃開発を続けるのが怖くなったのじゃった……。



              ◆         ◆



《攻略掲示板》

スレッド名:【銃バカ諸君】ドデカいライフル作ろうぜ?【新企画だっ!】

1:家のない転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 というわけで、以前爺さんと一緒に銃を作ったバカ共、集まるがいい! 祭りだ!


2:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 ドデカいライフルってことは、対物か?


3:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 何それ滾るんですけど?


4:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 列車砲じゃなかったのか!?


5:ケンジロウの転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 まず列車が開発されてないだろ……。


6:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 ミニミはどうした!?


7:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 機関系は無理だといったではないか……


8:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 もうバズーカ作ったじゃないですかヤダ~。とか言いつつ、ネットで対物ライフル調べている自分がいる……。


9:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 構造分かる?


10:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 武器設計図は一応日本では御禁制ですぜ、旦那……


11:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 あれ? それ考えると爺さんが武器の設計図作っているのはまずいのでは……。


12:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 こ、こまけぇことは良いんだよ(白目


13:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 そ、そうだよ。ゲームの中の話だし……現実では使えないようにちゃんと大切なところは外してあるみたいだし(震え声


14:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 なぜおまえはそれがわかる?


15:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 自分、自衛官ですから(`・ω・´)キリッ


16:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 おまわりさーん! ここに情報漏洩した犯罪者が!


17:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 冗談! 冗談ですよっ!?


18:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 御前ら本題に戻れww


19:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 で、結局参加する奴何人いるの?


20:ケンジロウな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 俺達《拳銃会議》は全員参加


21:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 銃狂いどもが全員参加か……


22:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 でも実際作れるかどうかは別だろ?


23:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 暗殺銃が作れたんだから勝算くらいはあるだろう?


24:家無しの転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 万一撃てなくても、記念みたいなもんだから置物にして飾るって爺さんが言っていた


25:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 乗った! イミテーションにする場合は俺もほしい!


26:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 おう! 俺も俺もっ!


27:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 クランの飾りにするのなら面白いかな? 微力ながら出資させてもらうけど?


28:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 出資者キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!


29:家無しの転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 連絡はこちらにお願いしますっ【ID:************】


30:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 把握


31:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 こうなりゃ俺も参加するか! ワールドボス前の最後の生産祭りだぜ!


32:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 また掲示板が騒がしくなるなっ!


33:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 胸が……熱くなるなっ!


34:カマの転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 やらないか?


35:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 やるわ! 私も参加させてもらうわっ!


36:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 はっ!?


37:カマの転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 ちっ。女はお呼びじゃないのよ


38:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 ホモはお帰りください(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル

続いちゃったぜ……。いつになったらワールドボスに行ける!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ