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31/53

鬼畜運営からのお年玉

あけましておめでとうございます^^


今年もよろしくお願いします(`・ω・´)キリッ

《運営掲示版》

スレッド名:【緊急】第二世界調整の問題点について



56:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 ヤヴェ……どうやったってプレイヤーたちがワールドボス倒すまでに調整が終わらんぞ。


57:プログラマーAな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 じいさんようにぱっちあてたのがいたかった……


58:プログラマーBな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 間に合わないものは仕方がありません。土壇場であんな欠陥が見つかるなんて誰も想像していませんし……。今重要なのは、どうやってプレイヤーたちにワールドボス討伐を延期させるかですっ!!


59:グラフィックな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 あ、間に合わせるのはもう諦めるのね


60:プログラマーBな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 無論ですっ(`・ω・´)キリッ


61:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 力強く言ったねェ……あんまりありがたくはないけど、ギリギリ制限だから許すけど


62:プログラマーAな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 なんでちょくせつかかわってないおいしゃさんがうえからめせん?


63:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 こっちにもいろいろあるので……


64:シナリオライターな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 そんなことはおいておいて、現実的な話イベントでもしたら? 正月も近いわけだし


65:モンスターデザイナーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 どう考えても今からイベントモンスター制作とか、間に合わない件!


66:プログラマーCな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 そこは使いまわしでいいだろう? 刃王竜だそうぜ。何気にドロップがおいしいからまた来ないかってプレイヤーたちから要望が出ているんだよ。


67:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 いいですねそれ! でも、前と同じようにやってもまたゴールデンシープの独壇場でしょうし……。


68:プログラマーBな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 じゃぁ、他の雑魚モンスターも合わせて出して、要塞都市防衛イベントにするのは?


69:プログラマーAな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 それだっ!


70:プログラマーCな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 何もしなくてもヘイト値を稼ぐオブジェクトを作って、それを防衛対象化。要塞に攻め寄せるモンスターたち相手に、それを守らせるか……いけるな


71:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 使うキャラクターも使い回しだし、ポップモンスターを一定数に限れば、ソコソコいい感じにはなるかな。せっかくのイベントだし、お年玉代わりにレアドロップ率を上げてもいいな


72:シナリオライターな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 あの女騎士にも活躍してもらおう! 爺さんだけズルイという苦情が殺到していてだな……


73:キャラクターデザイナーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 新しい女騎士五人追加したろうが……まだ引き当ててないのかプレイヤー諸氏は


74:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 まぁ、だいたいの方針はそれでいいか。


75:プログラマーAな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 そうときまればしゃちょうにきかくしょだして、きょかもらってこよう


76:企画制作な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 先に俺ら通してっ!?



              ◆         ◆



「年始イベント?」

「そう。突然告知されて、前線大型クランではてんやわんやの大騒ぎしているわよ? なんでも、あの刃王竜がまた来るんだとか」

「それはずいぶんと派手な年末になりそうじゃのう」


 がん告知を受けてから、はや一か月。明日には年の数字が一つ繰り上がるという大晦日。

 特に体の不調を感じないワシは、今も家で一人のんびり暮らしており、最後の大掃除を済ませた後、家でついてきたというモチを持参してくれた孫を出迎えておった。

 そんな孫を缶詰のあんこを使って作ったお汁粉で迎えつつ、ワシは攻略組がワールドボス攻略を遅らせた理由である、TSOの年始イベントに関しての情報を孫に教えてもらう。


「詳しい内容は都市防衛戦。要塞都市にあの竜が配下にしたモンスターを率いて攻めてくるから、私たちプレイヤーは、そのイベント時に特別にはられる結界の要を守りつつ、攻めてくるモンスターを撃退すればいいみたい」

「なんでもサプライズがモットーなあの運営にしては珍しく情報が出そろっておるな?」


 何かの罠じゃないのか? と、いぶかしみながら、伸びすぎるモチに閉口しつつ汁粉を食べるワシに、「のどに詰まらせないでよおじいちゃん」と孫はちょっとハラハラした様子で注意を促す。


「まぁ、確かに情報が開示され過ぎているのがちょっと不安要素と言えばそうなんだけど、いきなり決まった企画みたいだし、内容は準備が要の防衛戦。この前の突発的な刃王竜イベントも結構苦情がいったみたいだから、その辺の反省を踏まえてのイベント告知だとするなら、まぁ考えられなくはない範囲の開示だわ」

「むぅ。言われてみれば確かに」


 運営自重しろという言葉が飛び交った前の刃王竜イベントのことを思い出いし、ワシは思わず納得し、「企画運営も大変じゃのう」と少しだけゲームの運営側に同情する。

 あまり情報を開示しすぎると「自分たちで隠し要素を探す楽しみがなくなるだろう!」という苦情が出て、開示しなければしないで「もっと情報をよこせ」という苦情が来るのじゃ。

 どないせぇっちゅうねん。というのが運営の本音なのじゃろう。


「まぁ、そのへんはどうでもいいわ。たとえ罠だったとしても、ゲーマーなんて年末にログインしているやつらなんて、暇さえあればゲームをしているような連中ばかりなんだから、罠があったとしても対応できないような状態にはならないでしょう」

「たしかに」


 ワシも最近はそちら側に入っておるしのう……。と、最近はゲーム三昧の日々を送っておるワシは、孫の耳に痛い言葉を苦笑いで流しつつ、話を進めた。


「まぁ、そんなことはどうでもよくて……。その年末イベントなんだけど、おじいちゃん」

「ん?」

「私と一緒にパーティー組んで、いっしょに刃王竜討伐しない?」

「ほう……」


 思い残したことに孫とのパーティープレイを上げておったワシとしては、寧ろ願ったりかなったりな提案。孫にもどうやらワシが死ぬ前に、いろいろやっておきたいという気持ちがあるようじゃ。だが、


「よいのか? ゴールデンシープの面々は」

「うん。いいの……だっておじいちゃんと一緒に参加できる大きなイベントなんて、もう早々ないでしょ? だから」


 私は、おじいちゃんとの思い出づくりの方を大切にしたい。そう言ってくれた孫に、ワシの涙腺が思わず緩んでしまったのは、仕方のないことじゃろう……。




「まぁ、うちのクランメンバーも、どうもその辺察しているみたいなんだけど……」

「……今度、気を使わせた詫びに何か送るわい」

「ワールドボス戦の前に武器新調したいって言っていたから、そのあたりで」

「了解じゃ……」


 最後のやり取りのせいで、なにやらはめられたような気がしたが、些細なことじゃろう……。



              ◆         ◆



 そして、カウントダウンを終え、孫を迎えにきた娘夫婦と共に深夜の初もうでをすませた――当日。

 イベント開催直前の夕方に、いつもの要塞都市にログインしたワシは、


「なんじゃこりゃ!?」


 いつも以上にごった返しておる要塞都市の姿に、思わずそんな悲鳴を上げた。

 いつもなら活気がある程度の道路には、人人人人!!

 「芋を洗うような」という言葉がぴったり当てはまるようなその光景を見たワシは、あわててメニューを開き拠点移動――工房への転移を行い、何とか人に押しつぶされて死亡という悲劇から免れることに成功した。

 広い街を移動するときに、便利に使われているこの機能を、まさか緊急脱出用に使うことになるとは……。と、ワシが独りごちていると、


「おぉ、お爺さん。無事でしたか!」

「ん? メルトリンデか」


 店の扉をくぐりはいってきた女騎士――メルトリンデの姿に、ワシはほんの少し驚いた。

 今の彼女は、よく武器の整備を頼みに来る警邏中用の軽装でもなく、遊びに来る時に着ている普段着でもない。デュラハンを退治した時のような、重装甲の騎士甲冑に身を包んでおったからじゃ。


「お主、まさか刃王竜討伐戦に参加するつもりなのか?」


 普通ならプレイヤーしか参加できないはずの大規模イベント。だが、メルトリンデの姿は、どこからどう見ても戦闘に行く前の騎士の姿。そこから考察できるメルトリンデの今日の仕事の内容に、ワシはほんの少し驚いた。


「えぇ。私は一応この町の防衛を担う騎士ですから」

「いや、確かにそうじゃが……」


 システム的に参加できるのか? と、ワシは思わず無粋なことを考えてしまうが、メルトリンデのきりりと引き締まった顔に何も言えなくなる。

 それもそうじゃろう。プレイヤーたちにとっては美味しいボーナスステージ程度の認識じゃろうが、彼女にとっては長年住んできた町の存亡がかかっておるのじゃ。気合いが入るのも当然と言えよう。


「そういうお爺さんは……やっぱり参加するみたいですね」

「まぁのう。孫と一緒に頑張ろうと約束しておってな」

「お孫さんとですか!? もしかしてそれ、以前話しておられたゴールデンシープの!?」


 どうやらNPCの間でも孫は有名らしい。と、ワシは孫の名前が知れ渡っておることをちょっとうれしく思いながら、妙な虫がつかんようにより警戒せねばとも考える。

 といっても、ワシが生きておる間だけなのじゃが。


「そういうお主は、騎士団として参加か?」

「はい! 防衛結界の起点には、それぞれ騎士たちが配置されています。私もその中の一つを守る人に着く予定です」


 なるほど。どうやら騎士団はプレイヤーたちのお助けキャラとして活躍するらしい。

 もっとも、メルトリンデがそんなことをしていて、プレイヤーたちが黙っているとは思えんのじゃが……。と、考えているワシの脳裏では、メルトリンデにナンパを仕掛ける若いプレイヤーたちの姿がありありと浮かんでしまう。

 不安じゃのう……。いちおう、あの時のデュラハン攻略組も参加しとるみたいじゃから、絡まれておるようじゃったら助けてもらえないかと、御願いしておくか。と、ワシは内心で考えつつ、メニュー画面からスティーブたちにメールを送っておく。

 そんなことをしている間に、


「よ、ようやくついた……。無事? おじいちゃん」

「孫こそ……よく無事に辿りつけたな」


 店で待ち合わせをしとった孫が、げっそりした様子でようやく来店した。

 予定より10分ほど遅れておるが、外の様子を見る限りそれも仕方ないといったところ。むしろよく10分程度の遅れで済ませたな。と、少しだけワシが感心しておると、


「あ、あなたはっ!?」

「む?」

「え?」


 メルトリンデが目を輝かせて、孫に食らいついた。

 まるで瞬間移動のような速度で孫の目の前に移動すると、その両手を握りぶんぶんふるうメルトリンデ。その姿はまるで憧れのアイドルに握手してもらった、ファンクラブ会員が如く……。

 意外とミーハーな奴じゃったんじゃなぁ。と、おもわぬメルトリンデの一面にワシが驚いておると。


「お、お初にお目にかかります。要塞騎士団の百騎長を務めるメルトリンデですっ!」


 いつの間に出世した!?


「以前の刃王竜討伐戦を見させていただいてから、私たち騎士団はあなたたちのファンでして……。町を守ってくださったあの雄姿、あの強さ! 騎士として憧れるばかりです!!」

「え、そ、その……あ、ありがとうございます!」

「――っ! そ、そんな! お礼を言っていただけるなんてっ!」


 チョット今までの人生であったことがない人種との接触に、対応の仕方がわからないのか、孫は引きつった笑みを浮かべることしかできておらん。じゃが、孫に憧れるメルトリンデとしてはそれで充分なのか、より一層目を輝かせ、


「今回は我々騎士団も防衛に参加します。もうあなた方だけに苦労をさせることはありません! 絶対に、この町を守って見せましょうねッ!」

「は、はい! 私も微力ながらお力添えをさせていただきます」


 見たことがないくらいかしこまる孫に、ワシは思わず吹き出すが、孫の殺気立った視線をぶつけられ慌てて目をそらすことになった。

 なんじゃい。助けなかったからと言ってそんなに殺気立つな。


「ではまた戦場で! お爺さんも、ご武運をお祈りしておりますっ!」

「まぁ、一応ワシも転生者じゃからのう。そんなに心配せんでもええよ。そっちこそ、死ぬんじゃないぞ」

「わかっていますよっ!」


 最後にワシとメルトリンデは激励を交わしあい、店から出ていくメルトリンデをワシは見送った。

 そんなメルトリンデの姿に、まるで嵐にあったような顔をしていた孫は一言。


「おじいちゃん……もしかして再婚するのっ? 若いお姉ちゃんにコロッとやられちゃったのっ!?」

「邪推はよさんかっ!」


 死ぬ前に妙な勘違いをされたままでは、死んでも死にきれんじゃろうがっ!? と、ワシは思わずそう叫んだ。



              ◆         ◆



 今回防衛に使われる結界の起点は全部で五つ。球形に五芒星が描かれたオブジェがそれじゃ。

 このオブジェは、町を取り囲むように展開されている綺麗な円形の城壁の上に、五芒星を描くような形で均等に配置されている。

 騎士団やプレイヤーたちは城壁の上でそのオブジェを守る護衛班と、城壁の外に出て攻め入ってくるモンスターたちを撃退する防衛班に分かれて、要塞都市に攻め入ってくるモンスターたちからオブジェを守る。

 肝心の刃王竜はイベントの最後辺りに出てくることが告知されておるが、どのあたりに出てくるのかは一切謎。

 あの意地悪な運営の事じゃから「公平を期すために」なんて馬鹿な理由で、それぞれの拠点に対して一体ずつという、レイドボス五体同時出現をさせるかもしれんと、トップクラン達は警戒しており、イベントに参加したプレイヤーたちに、極力均等に分かれるように呼びかけておった。

 じゃが、


「なんかここすいているわね」

「原因は分かっておる」


 プレイヤーよりも騎士団の方が多いというちょっとした過疎状態にある東防衛拠点。ワシと孫はそこにやってきて、あまりの人の少なさに驚いておった。

 もっとも、その理由は割とすぐに判明して……。


『爺さんが言っていたみたいに、ちょっとした騒ぎになってんぞ。メルトリンデちゃん。あと見たことがない女騎士も一人いる』

『こっちにもいるわね女騎士。みんな一生懸命話しかけて、フラグ立てようと必死よ?』

「若いのう……」


 歳よりのワシにはもう持てんバイタリティーじゃ。と、ウィスパーチャットを送ってきた、南西拠点を守るスティーブと、北西拠点を守るYOICHIの報告に、ワシは思わず顔をひきつらせた。


 そう。どういうわけか運営はフルフェイスの兜をかぶる騎士団の中に、顔を無防備にさらした美人女騎士や美男イケメン騎士を配置し、そこにプレイヤーを誘導したらしかった。

 出会って仲良くなることができれば、いっしょに冒険すらしてくれる、人間と何ら変わらないNPC美人騎士。プレイヤーがそんな面白い要素に食いつかないわけもなく、ここぞとばかりに彼女たちの近くに行き、イベントで好感度稼ぎをしようとしておるのじゃろう。

 まぁ、それはいい。若い子は美形に引っ張られるのは世の常。ワシもあと30……いや20年若ければ!!


「おじいちゃん? 何考えているの」

「いや……別に」


 最近孫が、婆さんみたいに、ワシ限定の覚り能力を手に入れつつある気がして、ワシは思わず震えあがりながら邪念を切り捨てる。

 イマハダイジナイベントノサイチュウジャカラ……ウン!


「でも、こんな露骨な誘導があるってことは……かなり怪しくない?」

「あぁ。拠点が一つ落とされたところで結界の維持には問題ないらしいが……」


 結界自体は、拠点がすべて破壊されない限りは消える(・・・)ことはない。運営からの確定情報としてそれは知らされておるが……。


「結界は消えなくても、一定以上の強さを持つ存在の侵入は阻めないとか……そういう可能性がありそうじゃの」

「あぁ、あの意地の悪い運営が考えそうな裏設定ね……」


 どこからともなく「なんだとぅ!?」という抗議の声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいじゃろうとワシは流す。

 その時じゃった。


『転生者諸君! 奴が来たっ!!』


 とつぜん暗雲立ち込めておった街の上空に、雲に大きな穴をあけながら、光り輝く翼を生やした天使が出現し、警告の叫び声をあげた瞬間に消える。

 それが開戦の号砲となったのか、暗雲の中から無数の黒い煙が、雨のように降り注ぎ、要塞都市周辺の平原に無数のモンスターたちを出現させた!


「これはなんとも……」

「運営気合入りすぎ」


 その中で、どういうわけかワシらの目の前に現れたモンスターたちは、


「数が多すぎるわよ!?」


 孫が思わず顔をひきつらせてしまうほどの数をそろえて、城壁の外で防衛に当たるワシらを睨み付けた。

 こちらの兵力は騎士団を合わせてせいぜい50かそこら。美男美女騎士が集まっておる所は1000人体制ぐらい余裕なのじゃろうが、そのせいで過疎化しておるこちらにはその程度の人数しか集まっておらん。

 対するモンスターたちの数は、美男美女騎士たちが集まっておる所と余裕で張り合える数を用意しておって……!


「アホかぁああああああああ! 撤退じゃ! 城壁付近の跳ね橋わたって、堀の向こうまで逃げ込めっ! こんなもんまともに相手できるわけないじゃろうっ!」


 ワシが悲鳴と共に、孫と踵を返して叫ぶのを聞き、プレイヤーと騎士団が血相を変えて逃走を開始する。

 どうやらワシらの拠点は、初戦からかなりの苦難を強いられることになりそうじゃった。



              ◆         ◆



『一応トップクランの連中に呼びかけて、援軍送ってもらえるように言っているんだが……観戦に来ているプレイヤーが結構町にいてな。道路状況的に大軍が交通できねえから、その拠点は諦めることになった。爺さんもさっさとそこから引いて、人数が多い拠点に逃げ込め』

「むぅ。それが一番賢い判断なのじゃろうが」


 運営の悪質さを考えると、どうにも拠点を一つ犠牲にするのができなくてのう。と、ワシは独りごちながら、ウィスパーチャットを送ってきたスティーブに「もうちょっと粘ってみる」と答えながら、跳ね橋を渡ってきたダークスケルトンをハンマーで叩き潰す。

 傍らではワシと同じようなパワーアタッカーと思われる、膨れ上がる筋肉によって着用しておる鎧を押し上げている騎士が、巨大な斧で厚い甲羅のような装甲を持つ猪――グラトニーボアを両断しておる。

 NPC騎士らしいのじゃが、ずいぶんといい動きをする。おまけに、


「おぉ、爺様! 貴殿も中々よい一撃を放つ! さては吾輩と同じ筋肉を愛好する者であるな」

「いや、べつに愛好はしとらんよ!?」


 妙に人間臭い変態じゃった。きっと掲示板で「ハズレ」扱いをうけておる筋肉騎士じゃろう。と、ワシは何となく察しながらハンマーを横なぎに振るい、突撃してきたグラトニーボアを橋の上からたたき落とした。

 プギューと情けない悲鳴を上げて、猪は水が入れられている堀の中に落下。重たい体と装甲が災いしそのまま水没した。その後、溺死として経験値とアイテムに変化し、ワシのアイテムボックスに収まる猪を確認しながら、モンスターの影に隠れて次々とその頸動脈を切り裂きクリティカルダメージを与えている孫に視線を向けた。

 幸いなことにヘイト値はすべてオブジェに集められておるのか、ワシらのようなパワーアタックプレイヤーか、ヘイト管理を得意とするタンクプレイヤーでもない限り、ヘイト値がプレイヤーに移ることはないが、それであっても限度がある。

 一度こっちに戻すべきじゃろう。と判断したワシは、孫にウィスパーチャットを送り、筋肉騎士に護衛を頼みつつ孫と共に後退。他のプレイヤーや騎士に跳ね橋の防衛を任せ、孫と一緒にHPとMPの回復に努める。


「何おじいちゃん?」

「援軍は無理そうじゃ。というか、防衛本部はこちらの拠点を見捨てることにしたらしい」

「そう……」


 まぁ、運営がナニカ企んでいるかもというのは、あくまで私たちの予想であって確定情報じゃないしね……。と、孫は嘆息しながら、どうすると言いたげにワシに視線をぶつけてくる。

 このままここを放棄すれば、運営のたくらみはほぼ達成したと言っていい状態になるじゃろう。

 かといって、それが致命的な被害になる可能性は、今のところ低い。

 いくら運営の意地が悪くとも、プレイヤーに公式掲示板で誤情報を流すようなことはしないじゃろう。そこから考えるに、拠点が一つ落ちたところで結界の維持管理には何ら支障がないことは確か。

 ここで無駄に死んでデスペナルティーを受けるくらいなら、別の人数の多い拠点に移るのが最善じゃ。

 じゃが、


「ぬぅ! 仕方があるまい。戦略的撤退もまた必要なものである!」

「お主はどうするんじゃ筋肉?」

「うむ! 吾輩はこの拠点を死守するよう騎士団長に厳命されておる! たとえどのような状況であろうとも、動くわけにはいかんな!」

「……そうか」


 NPCが死ねばどうなるのか。それは場合によりけりじゃと思われる。実際デュラハン戦ではこの筋肉は何度も見捨てられているようだし、死んだあとで違うプレイヤーの前にまたあらわれることもあるようじゃ。

 じゃがしかし、この場でNPCが死んでもワシらと同じように復活するかどうかはかなり怪しい。

 衆人環視の前で死んだことになったキャラクター。リアリティを極限まで追求することを志すこのゲームにおいて、そのキャラが平然と復活するのは問題があるじゃろう。そのため、特別なエリア空間でもない限り、死んだキャラはそのまま死亡扱いになりかねないとワシは考えておる。

 実際中級プレイヤーたちが集うボリュームゾーンでは、死亡が確認されたNPCが何人かいる。

 薬屋の店主に、傭兵団の団長。そのすべてが衆人環視のもと死んでしまったキャラクターじゃ。

 薬屋の店主は娘が死んだ父の代わりに店を切り盛りするようになり、団長を失った傭兵団はそのまま解散した。

 この筋肉騎士も、ここでワシが見捨てたら死亡扱いになり、二度とゲームには出てこなくなるかもしれない。たとえそれが人に作られたNPCであったとしても……それはいけない。人間は大往生するべきじゃ。

 たとえそれが一分一秒死を遅らせる悪あがきじゃとしても、まだ65歳(ていねん)を迎えていないような奴が死ぬのは、もうすぐ死ぬワシとしては看過できなかった。

 じゃから、


「仕方ないのう。付き合ってやるわい」

「ぬ?」

「はぁ、おじいちゃんならそういうと思っていたわ」


 ワシがそう言ってふたたびハンマーを構え直し、跳ね橋の迎撃に再び参戦しようとするのを見て、孫は小さく嘆息しながら同じように短剣を構えて、隠行スキルを使用。その姿を宙に溶け込むように消した。


「よいのであるか?」

「かまわん。どうせワシら転生者は、お主らと違って死んでも甦るんじゃ。この安い命、自分の好きなように賭けて(はって)何が悪い」


 ワシはカラカラ笑いながら、大丈夫かと言いたげな筋肉騎士に、大見得を切ってやる。


「ワシは《メーカーズ》副クランリーダー・GGYじゃ。若者が命を懸けて守ると言っているのならば、ワシもこの老い先短い命を、賭けて(・・・)やるさ」

「……ふっ。メルトリンデが懐くはずである」


 職人にしておくのが惜しいくらいである! と、筋肉騎士はフルフェイスの甲冑の下で笑いながら、ワシと共に跳ね橋にかけてゆく。

 姿を消した孫がワシらより先に飛び込んだのか、必死に跳ね橋をまもっていた騎士やプレイヤーたちの目の前で、モンスターたちの首を真っ赤なダメージエフェクトが埋め尽くした。

 クリティカル判定。それによってポリゴンに成り砕け散るモンスターたちに、思わず固まる騎士とプレイヤー。そいつらに向かい、


「助かったわい! 交代じゃ!」

「うむ! 後方に回り回復に努めるがいい!」

「おっ! 爺さん復活!」

「いっちょ、やっちゃってください!」

「百騎長! 勢い余って橋壊さないでくださいよ!!」

「筋肉筋肉ばっかり言ってないで、ちゃんと戦ってくださいよっ!」


 ノリのいい言葉とともに下がっていくプレイヤーたちには、既に広域チャットでこの場に援軍がこないことを教えている。そのため、すでに少なくないプレイヤーたちがこの戦線を離脱し他の戦場に向かっておるが、それでもこの場に残っておるのは不利な状況をなによりも楽しむ、生粋のゲームバカ共じゃ。

 軽い囃し立てのような言葉を発してはいるが、その動きはよどみなく的確。

 騎士団たちも、流石職業戦士といったところか、筋肉騎士に野次を飛ばしつつも、しっかり指示には従った。

 そして、残ったのはワシと筋肉騎士の二人。

 孫が姿を消したまま、適度にモンスターを間引いてくれてはいるのじゃが、それでも少なくないモンスターたちがワシらに向かって襲い掛かってきよる。

 そんな敵を目の前に、ワシと筋肉騎士は笑いながら、


「では行くぞ、若いの。年寄りに後れを取るなよ」

「心得ているご老体。そちらこそ、あまり無理をして腰を痛めるなよっ!」


 たがいに拳を合わせたのを合図に、防衛線に到達したモンスターたちを、


「フルスイングっ!!」

「フルスラッシュっ!!」


 斧と槌の一撃で、橋の上からたたき落とした!

 ワシらの一撃に恐れをなしたのか、一瞬橋の上のモンスターたちの進軍が止まる。その隙を見逃すことなく、ワシと筋肉騎士はさらに一歩前へ進み出る。


「どけぇえええええええええええええええ!!」

「退くがいい!! ここは人の領域であるっ!」


 気合一閃。目の前の敵を叩きつぶすワシと、

 一喝一撃。旋回する斧によって、固い装甲をものともせずにモンスターを両断する筋肉騎士。

 跳ね橋にすすんでおったモンスターたちの波が、徐々にではあるが後退していく。

 ワシらが苦手な高速攻撃を得意とする軽量モンスターは孫が素早く間引き、ワシらは目の前の敵を叩きつぶすことだけに集中する。

 時々孫が取りこぼした奴が出てきよるが、その場合は袖に隠しておいた小型拳銃の弾丸を、至近でたたき込んだ後、のけぞった敵を蹴り飛ばし、筋肉騎士の斧の攻撃範囲に放り込んだ。

 筋肉騎士も、近づいてきた敵を拳の一撃でのけぞらし、ワシのハンマーの旋回に巻き込ませる。

 戦い方が似通っているせいか、まるで長年連れ添った相棒のように、相手の殺傷範囲をミリ単位で予想し、連携しながら敵を屠っていくワシらに、叶うものなどいなかった。

 そして、ワシらが橋の中ごろまで、敵を押し返した時じゃった。


『クイックサモン! 5~10』

「っ!」


 城壁の上から聞き覚えのある声が聞こえたと思うと同時に、ワシ謹製の黒金の剣が、流星が如く城壁の上から降り注いだ。

 とんでもない勢いで落下してきた剣の一撃は、その武器が持つ重量と攻撃力が相まって、大地に小さなクレーターを作り、そこにいたモンスターたちを大きなダメージと共に吹き飛ばす。

 中には飛来した剣に貫かれ、継続的な貫通ダメージを食らっておるモンスターもおった。

 こんなことができる奴は一人しかいない!


「ノブナガっ!」

『遅ばせながら、参上つかまつりました、お爺さん』

「俺もいるっつうの」


 はるか遠い城壁の上から、ウィスパーチャットを送ってくる魔王と競うように、一人の男の声がワシの背後から聞こえた。

 その声の主はワシが振り返ると同時に、ワシと筋肉騎士の肩を飛び越え、


「シッ!!」


 鋭い呼吸と共に、連続して装備していた槍を突き出す。

 五体のほどのモンスターの急所をえぐりぬいたその槍は、役目を果たしたといわんばかりに砕け散り、同時に装備がなくなった手には手品のように盾が現れ、怒り狂ったモンスターたちの一撃を防ぐ。


「ジョンも来ておるのかっ!」

「マップスキルで、爺さんたちが逃げてないって知ったYOICHIの奴が、俺達にこっちに行くように指示しやがったんだよ。あそこに俺たち三人が集まってんのは過剰戦力だってな」

『いや~。あそこは人が多くて、気持ちよく武器バラまけなかったんですよ。それ考えるとここ天国ですね! ばらまいたらばらまいた分だけモンスターが死んでくれます!』

「あそこにいる魔王は放っておけ」


 連続召喚を繰り返し、まるで爆撃の様に無数の武器を戦場に降り注がせるノブナガの姿に、盾でワシらをまもっておったジョンは顔を引きつらせる。

 おかしいのう? あいつは常識人じゃった気がするんじゃが。と、ワシも同じように顔を引きつらせる中、慌てて隠行を解除して、武器の雨の中を潜り抜けてきた孫が一言。


「危うく死にかけたわよ、魔王っ!」

『ゴールデンシープの《雪幻(せつげん)》なら、きっと避けてくれると信じてましたよっ!』

「やめてぇえええええええ! その中二臭い呼び方はやめてぇえええええ!」


 何やらトラウマを呼び起こしたらしい孫が悲鳴を上げる中、二人の参戦で息を吹き返したワシらの防衛陣営は、後方に下がって回復しておったプレイヤーたちの参戦もあり、何とか時間ぎりぎりまで防衛拠点を守ることに成功した。


 じゃが、過疎化しておる拠点はワシらの拠点だけではなかったようで、


《第三防衛拠点が破壊されました》

《結界機能劣化を確認》

《結界に耐久度数値が設定されます》


 ワシらが何とか目の前のモンスターを倒し切ったころに、そんなシステムアナウンスが町中に響き渡った。そして、ワシらの視界に現れる四本のHPバー。どうやらこれが結界の耐久度の様じゃ。

 そして、


【おのれ……忌まわしき人間どもっ!】


 とうとう、奴が現れた。

 刃の様に砥がれた鋭い鱗に覆われた巨大な竜が、真っ黒な暗雲を伴いながら大地に降り立つ。

 その数なんと……。


「二体、じゃと!?」

「最悪五体出るかもと言われていたことを考えると、まだましな方だけど……」

『だとしてもレイドボスが二体というのはちょっとやり切れませんね……』


 いったいどういう基準でレイドボスの数を決めておったのか。と、ワシが考えている中、暗雲を弾き飛ばし、姿を現した鋼色の刃の鱗を持つ巨竜が咆哮を上げる。


【我が同胞を封じる封印のうち、一つの封印しか解けなかったのは口惜しいが、まぁ良い! 貴様ら如きを蹂躙するのは、我等二頭で十二分よっ!!】


 その言葉からワシはなんとなくレイドボスの出現数を決める方法を悟る。

 なんてことはない。


「破られた封印の数によって、出てくる数が増減しよったのか……」

『結界のHPバーの数を見ると、最悪あのHPバーの数も、無事な封印の数によって増減したかもしれませんね……』

「あぶねぇ、ここ死守しておいてホントよかった……」


 とはいえ、まだ助かったとは言い難い。なにせ、運営の意地の悪さを表すかのように、刃王竜の奴は、


【せいぜいあがくがいい……人間!!】


 もっとも防備が手薄な拠点――ワシらの拠点の目の前に降り立ったのじゃから。

一話で終わらせる予定でしたが、文字数を見て諦める……。


あ、明日にはあげるからっ!

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