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黒小人の造形鎚

「神器級武装を作ろうと思う」


「……は?」


 突然のワシの言葉に、話を聞いていたジョンとノブナガは、不思議そうに首をかしげた。


「いきなりなんだよ、爺さん。すくなくとも、今のエリアでは神器級の作成は不可能だって結論が出ただろ? まさか、新しい設計図を見つけたのか? だとしたらくれっ!」

「おやおや、ただで物をもらおうとは少々図々しすぎやしませんかね、《手抜職人》」

「黙ってろ、《魔王》。PK狩りでもしてこいや」


 この二人はたまたま居合わせただけ。この場にいるのは本当に偶然じゃった。

 ノブナガは、最近進化したスキルのために、新しい武器を買い求めに。

 ジョンは新しい神器級の設計図がワシのもとに来とらんか確認に。

 じゃが、思い残したことのうちに『神器級武装の製作』を入れておったワシにとって、二人の来訪は渡りに船といえた。

 何故なら神器級の作成には、この二人の協力が欠かせんからじゃ。


「う~ん。いちおう新しい神器級の設計図は仕入れておるんじゃが。うちの職人が「手に終えんから暫く封印」と言って持ってきよったからのう。メーカーズの倉庫に死蔵されておる」

「まじかっ!?」

「でも作れないのでは?」


 ワシの言葉に首をかしげるノブナガに、ワシも然りと頷く。


「で、その神器級の武器が作れない理由については、お主ら知っておるかな?」

「え? それは……」

「この世界にはない製造法が使われていることと、この世界にはない素材が使われていること。この二点が主な『神器級が製造不能』といわれる理由だな」

「………………………」


 ノブナガの答えにかぶせるようにジョンは言葉を放つ。発言を邪魔されたノブナガは若干不機嫌そうな顔になるが、ジョンは全くその視線を気にした様子もなく、ニヤニヤ笑って「ドヤァ」と言いたげな態度で、ノブナガを見返した。

 PK狩りによって鍛え上げられた、対人戦闘のプロフェッショナル相手によくやるわい……。と、ワシはそんなジョンの態度に呆れながら、


「しかり。じゃが、最近手に入ったこの神器級の設計図……は少々特殊でな」


 ワシは話を戻すために二人を引き離しながら、サブクランマスター権限を使い、倉庫に死蔵されていたあの神器級の設計図を引きずり出す。

 そこに書かれている製造法は、


「ひたすら鍛造。これに尽きる」

「ん? てことは……」

「あぁ、製造法はこの世界にもしっかり存在しよる。恐らくはこの世界でも製作が可能な神器級武装なのじゃ」


 もっとも、その分必要なアイテムが隠されておるという、鬼畜仕様じゃが……。と、素材アイテムの項目にすべてモザイクがかかっている設計図を見て、ワシは思わずため息をついた。


「製造に必要な条件は素材のみ。そこでワシはおぬしたちに少々力を貸してもらいたいと思ってのう。おぬしたち――独力でこの世界以外の素材を作り出すことに成功した、時代の先駆者たちに」


 ワシのその一言に、ノブナガとジョンは意外そうな顔で、互いの顔を見合わせた。




              ◆         ◆




「まさかアンタも、妙な金属を作り出しているとはな……」

「そちらこそ、神器級の速攻精製など反則級なアビリティを持っているとは……」


 それから数時間後、ワシらは店の外に出てスティーブと対峙しておった。

 理由は至ってシンプル。ジョンのアビリティも、ノブナガのアビリティも、戦闘時でしか使えないものじゃからじゃ。

 なので、ワシらは誰かほかのメンツと決闘状態になり、そこで神器級の武装を製造するという手段を選んだ。

 もっとも、外に出せる製作道具は限られているので、きちんと神器級武装を作れるかは、神のみぞ知る領域。なにより問題はそれだけでない。


「問題点は多いぞ、爺。俺のアビリティ――《完全錬成パーフェクトメイク》は、確かにエフェクトによって神器級の製造工程が記されている」


 そういってジョンは指折り、その製造工程を数え上げていく。


「『全素材アイテム変換錬成』

 『全MP完全消費』

 『代償支払。バッドステータス《MP回復不可3600秒》付与』

 『変換素材アイテム、全消費』……爺さんはこの『全素材アイテム変換錬成』をつかって、この世界にはない素材を作り出そうとしているわけだが、正直オートで動くアビリティを途中で止めようなんて、正気の沙汰じゃない」


 工程を踏むアビリティはシステム的にオートで動くものじゃ。そこに人の意思は介入できないし、プレイヤーの胸先三寸でそのアビリティーを途中で止めることなどまず不可能。もしできるのなら、ジョンは好き勝手に好きな素材アイテムを錬成できることになるのじゃから、それも当然といったところ。


「いちおう俺のアビリティには、ランクが下の素材をいくつか掛け合わせて、上位の素材に変える《合成素材錬成》があると言えばあるが、それだってこの世界の素材限定だ。異世界の素材の生成なんてまず不可能」


「それはこちらにも言えることですね」


 ついで声を上げたのはノブナガだった。


「私が異世界の素材を作り出す方法は、《アームドサモンモンスター》を《融合召喚(ユニゾンサモン)》することによって、作り出す方法です。たとえばこの世界の《聖銀》と《練磨鉱石》でつくられた剣のゴーレムを、融合召喚して《ミスリルソードゴーレム》といった具合に」


 ノブナガの新たなスキル《武装召喚師(アームドサモナー)》は、武器の形を持つゴーレムたちの召喚に特化したスキルじゃ。

 そのゴーレムたちは、基本的にこちらの世界で製造された武器に武装召喚士のアビリティを使って刻印を刻み、ゴーレム化することによって生まれる。そのゴーレムたちがとる行動は、召喚された瞬間相手に向かって攻撃する《バレット》と、召喚された瞬間サモナーの周辺を滞空し、近づいてきた敵に向かって間断なく攻撃を仕掛ける《ガード》の二パターンしかないのじゃ。

 サモンモンスターの自由度が根こそぎ失われる代わりに、操作の単純さと、召喚の速さ、そして魔法使いがあまりできない、豊富な種類の物理攻撃と、30近い武器の乱舞による物量攻撃が売りの魔法使い職スキルだった。


「ですが、召喚されたゴーレムたちを溶鉱炉に放り込んだところで、それがきちんと素材アイテムになるかどうかは未知数です。実際、私が戦闘で酷使しすぎて、耐久度がなくなったゴーレムたちは、《破損アイテム》として、ポリゴンになって消えますし」


「確かにのう……。システム的にそういった機能を付け足されていないといわれてしまえば、それまでじゃし」


 実際はそちらの可能性の方が高いと言えば高いのじゃろう。何せこんな抜け道を使って、神器級のアイテムが作られてしまえば、本来なら最後の世界辺りで使われるはずのチート武器が、世界にあふれかえることになってしまう。


 ゲーム運営する側としても、ゲームバランスが崩れかねないそんな抜け道は、許しておかれるはずがないと、普通に考えれば想像できる。


 じゃが、


「まぁ、できればいいといった程度のもんじゃし。少し試すくらいはいいじゃろう?」

「はぁ、まぁおじいさんがそう言うなら……」

「失敗しても、設計図はちゃんとくれよ、爺さん」

「わかっておる。写しはもう用意しとるから心配するな」


 ワシはもうすぐこのゲームからいなくなるのじゃから、多少の奇跡を期待して悪あがきするくらいはいいじゃろう。と、ワシはひとりごちながら、スティーブに視線を飛ばした。


「ではクランマスター。よろしく頼む」

「あいよ。決闘方法は《HP全損対決》でいいな? これは制限時間がないし。じゃぁ、奮闘を期待しているぜ?」


 スティーブのその言葉と同時に、決闘受諾のウィンドウがワシの眼前に現れる。

 同時にワシはメニュー画面からアイテムボックスを操作し、あるアイテムを実体化。

 地面にたたきつけるように、そのアイテムを設置した。


「開くぞ……《簡易工房》!」


 地面に置かれたそのアイテム。防熱素材で作られた、長方形の小さな溶鉱炉は設置された場所から魔法陣を広げ、戦闘エリアを侵食する。



              ◆         ◆



 簡易工房とは、ワシらメーカーズが技術力の粋を結集して製作した、「バトルゾーンでも使える製作キット」じゃ。

 基本的に製造とはバトルゾーンではない安全地帯――町などの工房で行うものであり、ひとたび戦闘状態に入ると、製作用のアビリティなどにはロックがかかり、一切使用ができなくなる。

 じゃが、そうなってくると生産スキルばかりあげているプレイヤーには戦闘ができないという事態が発生する。

 転生するためには、ワールドボスの討伐が必須と予想されるこのゲームで、その仕様はあまりに残酷すぎる。

 戦闘ができるプレイヤーにくっついていき、クリアするまで端で待っているという手段もあると言えばあるのじゃが、そんな寄生染みた真似をすることを、良しとしない生産職も当然それ相応の数いるのじゃ。

 そこで、ワシらは生産職でも戦闘に貢献できるように、戦闘エリアでも生産ができるようにするアイテムの開発を行ったのじゃ。

 これにより、生産職は生産による後方支援が可能となり、調薬士などは戦闘中に次々と新しい回復薬などを作ってくれるため、重宝されるようになった。

 とはいえ、武装職人などはこれを使っても戦闘貢献ができない状態なわけなのじゃが……今はそれはいいじゃろう。

 とにかく、このアイテムさえあれば戦闘中でも生産が可能だということを分かってもらえればいい。

 そして、ワシはそのアイテムを利用し、


「まずは、ノブナガ……たのむっ!」

「はいはい」


 この決闘の場で、神器級アイテムの製作に取り掛かるっ!


融合召喚(ユニゾンサモン)。3と5」


 最初にノブナガが呼んだのは、先ほどの上げていたミスリルを作り出すための金属を合成した、モーニングスター型のハンマーゴーレムじゃった。

 モーニングスターなど全鉄製武器は、再利用する際に多くの金属インゴットを取り出せる武装として有名じゃ。ノブナガもこちらに気を使ってこのゴーレムを召喚してくれたのじゃろう。

 こちらの世界の、一級魔法武装の素材となる木々と、ほとんど変わらぬ魔力を発する純白の金属。それによって作られた棘付きの鉄球を掴み取り、ワシはそれを溶鉱炉の中に放り込む。

 が、


『耐久度全損。破損アイテムとして破棄します』


 そんなウィンドウがワシの眼前に浮かんだ瞬間、溶鉱炉の中でミスリルモーニングスターのゴーレムは砕け散り、虚空へと散った。


「う~ん。やはり無理じゃったか」

「まぁ、仕方ないですよ。普通に考えてこんなでたらめな裏ワザ通じるわけがないんですから」

「まぁ、出来ちゃったら絶対チートだと騒がれるからな。パッチもすぐあたるだろうし」


 やはりゲームはゲームなんじゃのう。と少し落ち込むワシの肩に、ノブナガはポンポンと手を置きながら、慰めるようにそういい、スティーブは肩をすくめて苦笑いを浮かべる。

 その時だった。


「おい……爺さん」

「ん? なんじゃ、ジョン」


 ひきつった顔のジョンが、こちらに向かって話しかけてきたのは。


「で、できちゃったんだけど……。途中で工程止め」

「「「はぁっ!?」」」


 信じがたいその一言に、ワシらは慌ててジョンの手に転がっている金属に視線をやった。

 漆黒の中に無数の星がちりばめられたような、金色の鉱物を内包したその鉄は、


『アイテム名:《疑似》スタークロム

 内容:錬成士JohnSmithによって疑似的に作られた異星の金属。天から飛来してきた岩より抽出された金属と言われており、生産量は非常に限られている。伝説の武器の素材となるが、疑似的なものなので、60分たつと元の金属に戻ってしまう。

 品質:☆』


 品質は低く、製造に使える時間は30分だけという、かなりシビアな金属じゃが……。


「希望が見えてきたか」


 ワシは初めて目の前に現れた伝説の金属に、思わず頬をゆるませた。



              ◆         ◆



 あれから一時間後。

 ジョンの完全錬成について調べたいことを調べ終えたワシらは、もう一度工房内にて集合し、話し合いを再開しておった。


「とりあえずわかったことは、『1.工程の途中で止めることはできるが、止めているだけで中断しているわけではない。工程の停止は解除すると、止めた工程からふたたび再開される』『2.工程が再開されると、いかなる作業の途中であっても素材は完全消費される』『3.素材自体が錬成状態を保っていられる時間は30分程度である(と予想できる)が、工程を止めていられる時間が15分程度なので、錬成した素材を作ってアイテムを作りたいなら、その時間内に済ませなくてはならない』。以上の二点でいいか?」

「その問題を解決できれば、神器級の製作も不可能ではないことが分かったわけじゃが……」

「爺さん、正直なところ聞くが、実際神器級の製造にかかる時間はどのくらいだ?」

「ふむ、設計図に書かれている工程を実際するとして、あの金属を溶かすには炉の火力が少々低すぎじゃ。時間を懸ければ溶かすことは可能じゃし、製造は難しくないじゃろうが……最低でも5時間は欲しい」

「限界ぎりぎりまで、工程の停止を繰り返し稼げる時間は……このくらいですね」


 ワシがそう告げると同時に、ノブナガが白いウィンドウに記載した表をこちらに浮かべてくる。



              ◆         ◆



『全素材アイテム変換錬成』1秒

  ↓15分

『全MP完全消費』1秒

  ↓15分

『代償支払。バッドステータス《MP回復不可3600秒》付与』1秒

  ↓15分

『変換素材アイテム、全消費』1秒

  ↓15分

『完成』1秒



              ◆         ◆



「だいたい45分2秒か……」

「全然足りねぇよ……」


 予想製造時間の約5分の1。制限時間はそれくらいしかなく、神器級製造は到底不可能に思われた。だが、


「できないわけじゃないだろう?」

「なに?」

「《工程省略》を使うといい」

「っ!?」


 スティーブからの指摘に、ワシらは思わず顔を見合わせ、


「いや、なおのこと無理じゃろう!?」

「そうだぞ、スティーブ」

「実現はほぼ不可能と言っていいですね」


 苦虫をかみつぶしたような表情で、三者三様に否定の意見を発した。

 それも当然といったところ。先ほどスティーブが言った《工程省略》というのは生産職特有のアビリティで、『工程にかかる時間を消す』アビリティじゃ。

 いわゆる生産補助アビリティとして知られるこれを使えば、30分は熱さないといけない素材がわずか数秒で赤熱するようになり、熱を逃さねばならないときには、数秒で製作物が冷え切る。さすがにプレイヤーの手を直接くわえなければならない工程――ハンマーでの整形や、鉄の鍛え上げは省略できないが、他の工程は大体省略できるので、そのアビリティさえ使えばかなりの時間短縮が期待できるはずじゃった。

 じゃが、これには当然欠点があり……かなり高い確率で、最終的な製作物の品質を下げるのじゃ。当然品質が最低値の☆一つを下回れば、そのアイテムはアイテムとして致命的な欠損があるとして、ポリゴン片に成り砕け散るのじゃ。

 その品質低下の確率は、ゲーム世界の数字を割り出すのに情熱を燃やす《統計クラン》が調べたところ、実に9割。このスキルを使ってアイテムを生成すれば、かなり高い確率で完成品の品質が下がる。手抜きの代償と割り切るには、少々代償が痛すぎた。

 それを時間制限つきの神器級の製造で使うとなると、予想できるだけでも15の工程で使わねばならず、その間に品質が最低値を下回り、完成した瞬間アイテムが砕け散るのが目に見えていた。

 おまけにその結果は、アイテムが完成するまでわからない。

 つまり、そのアイテムが砕けるかどうかは、時間いっぱいがんばって、アイテムを完成させないと分からないのじゃ。

 完成したと思った瞬間に、目の前で砕けていくアイテム。1時間近い時間をかけて、魂を込めて作ったものが、一瞬で砂の城がごとく砕け散る光景。そんなものを何度も見続けて耐えられるほど、人間のメンタルは強くない。


「それを使って製作など……現実的ではない」


 その通りとワシの後ろで、ジョンとノブナガが頷く。おおざっぱなジョンと、几帳面なノブナガは、初対面であるにもかかわらず初っ端から馬が合わない様子じゃったが、ことこのことに関しては意見を同じにするようじゃった。

 じゃが、


「おい爺さん。俺達はかなり無理をして、今の段階で神器級武装を作ろうとしてんだぜ? 多少の無理くらいやらないで、その夢が実現できるわけないだろうが」

「う……」


 スティーブはあくまで諦めることなく、ワシの両肩に手を置いて目を輝かせた。その瞳には、「あんたに思い残したことを、作ってほしくない」と言う感情がありありと浮かんでいて、


挑戦(トライ)失敗(エラー)は、俺たち職人の常だろうが。生きている間にそれを何度も繰り返したあんたがいまさら、一万近い失敗に怖気づいて、たった一回の成功をあきらめるのか?」


 なにより、まだ定年退職しとらん若造にそこまで言われて、黙っていられるほどワシも人間ができておらんかった。


「上等じゃ! そこまで言うのならやってやるわい!」

「え? マジでやんの!?」

「あ、じゃあ僕は関係ないのでこの辺で……」

「ちょ、ノブナガっ!?」

「予備ができたら言ってくださいね~。僕のゴーレムにしたいし」


 これは長期戦になると悟ったノブナガはさっさとひとり離脱し、ジョンもそのあとに慌てて続こうとするが、


「おいおい、どこへ行く?」

「ひっ!?」


 当然これをやるのに必要不可欠なジョンを、ワシが逃がすわけもない。ワシはにやりと笑いながら、ジョンの肩をとらえた。


「報酬はもう1枚神器級の設計図をやろう。じゃから最後まで付き合ってもらうぞ? ジョォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」

「は、ははは……。や、やったるわ、ちくしょぉおおおおおおお!」


 最後は破れかぶれな笑顔を浮かべて、涙を流しながらジョンはそう絶叫した。

 ワシはそんなジョンに、内心で悪いなとつぶやくが……。


「まぁ、やめるつもりはないしのう……」


 死ぬ前に、あのボス戦で見た伝説の輝きを、自分自身で作ってみたいと思ってしまったのじゃから。と、すっかり職人気質になってしまった自分の考えに、苦笑いを浮かべた。


「じゃぁ、始めるかのうっ!」


 そこからワシらの、システムを相手取った根競べが始まった。



              ◆         ◆



 生産は困難を極めた。


 完全錬成は、一回使うごとに1時間ほどのインターバルを必要としたので、その間に完全消費したアイテムを集め、時間が来ると即座に製作に入り、何度も何度も鉄を打つ。

 1時間かけた製作で、完成した途端に砕け散るアイテム。

 それを何度も何度も繰り返し、ワシは鉄を鍛え上げる。

 鋳型を最適化し、絶妙な按排で素材の鉄を混ぜ合わせ、伝説の金属を神話の合金に作り替える。それでも届かぬ神話に、ワシはさらなる情熱を燃やし、炉の中の炎以上の熱を心にともし、鉄を打つ。


 飛び散る火花に体のあちこちを焼かれ、それでも実を結ばない生産を、何度も何度も繰り返す。

 途中でジョンの目が死んでいた気がしたが、気にしている余裕はワシにはなかった。

 ただ一心に、ただ一念のもと……神話の輝きを作り出すと、ワシは槌をふるい続ける。


 途中で、筋力値が上限に達したという、「残念賞の代わりにこれをあげますから、もう諦めたらどうですか?」と言わんばかりのシステムからのお達しが来たのじゃが、それで諦める気は毛頭なかった。

 ただ一途に、ただ一心に……神話の輝きを追い求め、ワシは槌をふるい続ける。


 孫たちが様子を見に来たが、答えることなく槌をふるう。


 攻略組が、攻略の相談をしに来たが、気にすることなく槌をふるう。


 そして、ワシはとうとう……何度もトライ&エラーを繰り返したゲーム内での三日目の深夜に、


「できた……できたぞっ!!」


 神話の輝きを手に入れた。



              ◆         ◆



『アイテム名:黒小人(ドウェルグ)の造形鎚

 性能:筋力+463 器用+450《生産時使用可能》《完成時品質向上10%》

 内容:鍛冶職人GGYが作りだした、神話の小人が愛用したハンマー。正確にいうと武器ではないのだが、武装としても一級品の威力を持つ。

 生産用のハンマーとしても使える、稀有な武器

 品質:☆

 耐久度:5/5』


 品質は限りなく低いせいか、ステータスに対するプラスはあまり高くない。ステータスプラスが4ケタを超えておった、ジョンのあの盾のことを思うと、決して高い数値ではないじゃろう。耐久度もいつも見ておる武装の数値が、平均100であることを考えると、低すぎるといってもいい数値じゃ。

 じゃがワシは、自らの手で何とか作り出した、この星の輝きを持つ戦鎚を、生涯忘れることはないじゃろう。


「死ぬ前に……良い土産話ができたわい」


 ワシは最後にそう笑いながら、死ぬまでにやりたいことを一つ達成した。



              ◆         ◆



《運営掲示版》

スレッド名:【緊急】パッチ必要事案提示板part102


1:プログラマーな転生者さん (**/**/**/………)○○○○○

 GGYが神器級武装の製造に成功しやがったぞっ!?


2:グラフィックな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 まじかっ!?


3:プログラマーFな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 えぇ!? 確率的にどれだけ低い成功率だと思っているんですかっ!? というか、錬成士だって本来ならもうちょっと後に発見されるようなものなのに……。


4:シナリオライターな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 チョットした奇跡を見た気がするぜ……。パッチ云々の前に、まず爺さんに敬意を払いたい


5:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 そうだ……敬意を払えっ!


6:BGMな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 お医者さんテンション高いねェ……


7:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 とはいえできちゃった以上、これ以上後続が出ないように、パッチを当てないとね……。できる奴がいるなんて思ってなかったが故のネタ要素だったのに。


8:プログラマーAな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 おのれ、てんせいいべんとまえに、よけいなしごとをふやしてくれて……


9:営業な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 プログラミング組は大変だなぁ……。俺は関係ないけど


10:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 GGYに敬礼っ!


11:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 医者うるさいっ!


GGYのやりたいことリスト

✕神話武装の製作

 銃の強化強力

 孫とのパーティープレイ

 ワールドボス討伐


 銃強化って書いたはいいけど、まったく案が浮かんでいない……。どうしよう!?


 とりあえず次回は孫かねぇ?

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