初勝利
「一気に初期金額の五倍もらえるとか、ありがたい話じゃのう!」
ようやくゲームらしくなった! と、クエスト画面を何度も見ながらニヤニヤするワシに、「子供みたいな人ですね」とエルは意外そうにつぶやいた。
「何を言うておる。こんな歳でゲームをしておる時点で、子供っぽい性格しておるのは自明の理じゃろうが」
「自分でそれを言いますか……」
「とはいえ、爺さん。喜んでばかりもいられないぜ?」
そんなワシの嬉しい時間に、スティーブが水を差した。
「どういうことですか?」
「だって、俺たちに渡されたのは道具をつくるキットだけだぜ? つまり、材料は自分で集めないといけないわけだ」
「あ」
「ぬ……」
そう指摘され、ワシはようやくワシらの現状が不味いことを悟る。
「ちなみに、この中でフィールドに出たやつって何人いる」
「わ、私職人街探してばかりでフィールドには……」
「ワシは一応出たが、まともに戦えんかったわい……。というか、あそこ今殺気立った戦闘プレイヤーの巣窟じゃぞ?」
滅茶苦茶脅されて逃げ帰ってきたわい……。と、凹むワシに「ひどいですねそれっ!」と一応エルが憤ってくれるが、スティーブは「まぁ、当然だわな」と言って流しよった。
こやつ!? とワシが目をむくのを見て、スティーブの奴は肩をすくめながら、
「戦闘系のトッププレイヤーになれるかどうかは、プレイヤースキルがよほど高くない限り、スタートダッシュをいかに早く決めるかで決まる。廃人連中はもとより、今日は夏休み初日だぜ? 学生連中も廃人たちも、殺気立って狩場確保したのに、そこを明らかに攻撃が当たらないソロハンマー使いがうろついていたら、いらつきもするだろうさ」
「ぬぅ……」
そう言われてしまうと正論以外の何物でもないので、何も言えなくなるワシ。
そんなワシに「だ、大丈夫ですか?」と聞いてくれるエルだけが唯一の救いじゃ……。
「まぁとか言っている俺も、今はステータス的に戦闘に強いわけじゃない!! バリバリ戦闘系のプレイヤーの間を縫って獲物を確保するとか、まず無理だな」
「ステータスさえどうにかなれば……。と言いたげじゃな……」
「まぁ、それに関しては否定しないが……」
「しないんだ……」
自信過剰とも取れるスティーブの言葉に半眼になるエル。そんな彼女の視線から逃れるように、スティーブは視線をそらし、
「というわけで、しばらくゲームか落ちて一時間後にまた集合しないか?」
「なに?」
どういうわけじゃ? と首をかしげるワシをしり目に、「それがいいですかね……」とエルまで頷いておった。
「一時間落ちた程度では混雑具合は変わらんじゃろうが!」
「あれ? 爺さんもしかして知らないの? おいおい、だから《GGY無理すんな》とか言われんだよ」
ハンマーを振り上げるワシ。慌てて止めるエル。もはや鉄板になりつつある光景が繰り広げられる中、スティーブはへらへら笑いながら指を立てる。
「いいか爺さん? 最近のVRゲームっていうのは、脳内の思考速度が加速されて、ゲーム世界での一日がこっちでの一時間になってんの」
「なに!?」
そんな素敵技術が確立されておったのか!? とワシは少し驚く。背後にいるエルからむけられる「え? 本当に知らなかったんですか?」と言いたげな視線は極力無視して……。
スティーブからならまだしも、エルからそんな視線を向けられるのはちょっと嫌じゃった……。
「というわけで、一時間くらい落ちたら、こっちでは一日たっていてフィールドの方も空きがあるだろうって寸法だ!」
ふむ。なるほどな……そういうことなら。とワシは頷き、
「よかろう。ならば一時間後にまたここで」
「リアルの時間は……今19:10です」
「了解! なら20:10くらいに、また会おうぜ!」
そう言ってひらひらと手を振りながら、次々とログアウトしていく二人を見送り、ワシもメニュー画面を開きログアウトのボタンを押す。
同時にワシの体が足元から分解されていき、
◆ ◆
「む?」
ワシは現実世界の自分の部屋で目を覚ました。
「う~ん! 本気で寝入った時と体勢が変わらんわい……」
本当に、体の主導権をゲームに握られておったんじゃなぁ。と、感心するワシ。だがその数秒後、その字面がかなり怖いことになっていることに気付き、少し震える。
「ま、まぁ大丈夫じゃろう。安全性は確立された技術だという話だし……。うむ、何かあったらあの医者を訴えれば」
と言いかけたところであの悪魔の契約書を思い出す。
「……だ、大丈夫!」
ちょっと自信がなくなったが、あくまで政府主導の治験じゃし! と何とか気を取り直す。
そんな時じゃった。歩くのが億劫で寝床の隣に置いてある、電話の子機がなったのは。
「ん? なんじゃ一体?」
ワシがその電話に出ると、
『あ、おじいさん? ゲームやっています?』
「…………………………………………………」
あの悪魔の医者からじゃった。
「まぁ、楽しんでいるかと言われると微妙ですが、やっとりますよ?」
『よかった。ちゃんとやってくれているみたいで! 治験の確実性を上げるために、毎日ログインしてくださいねっていうの忘れていたんで、慌てて電話をかけたんですよ。でも楽しんでないってどういうことで?』
「掲示板を見てくれればわかりますわい。確か攻略掲示板って、こちらのネットとリンクしておるんじゃったよな?」
『あれ結構な速度で流れるから、見るの大変なんですよね。ほら、こちらとゲームの経過する時間が違うわけですし』
「あぁ……そう言われてみると。とにかく見てください。ワシのキャラクターはGGYで登録してあるので」
『GGYって……。もうちょっとキャラクターの名前大切にしてあげてくださいよ』
『ああああ』くらいひどい名前ですよそれ? と、ワシのセンスを全否定してくる医者。
いや、確かに適当につけたけどほっといてくれんか!?
ワシが内心でそう叫んでいるうちに、例のスレッドを見つけたのか、医者が受話器の向こうで苦笑いするのがわかった。
『あぁ……まぁ、どこのゲームでもモラルの低い若者というのはいますから。若いもんには負けんっていう気持ちで頑張ればいいかと』
「無論そのつもりですが……とはいえ、最近のネットゲームは大体あんな感じなのですかな?」
『いや、まさか。リアル割れした相手の立場をあげつらって、バカにするような連中はそうはいませんよ。もっとも、今回はあなたと一緒にいたプレイヤーの方が問題だったようで』
「はぁ? 孫……もとい、ネーヴェがですか?」
『えぇ。彼女VR業界では結構な有名人なんですよ? 実力も見た目もきれいな女性プレイヤーってなかなかいませんから。あ、ちなみに見た目綺麗というのはリアルのですよ? とある事件で彼女顔割れしていますから』
「なんと……孫は事件に巻き込まれたことがあるんですかっ!?」
そっちの方がワシとしては大問題じゃ!? 娘や孫は、わしに心配かけまいとそういう情報は伏せてしまうからのう……。ワシが驚くのを以外そうに聞きながら、医者は苦笑いを浮かべてあるニュースサイトの記事保管サイトを教えてくれる。
その記事を見ると、なんでもネット上での孫の人気に目を付けたアイドル事務所が、しつこく孫を勧誘して、最終的には誘拐まがいのことまでしたと書いてある。どうやらあまり素行のよろしくない事務所じゃったようじゃ。
最終的にゲームでの友人に助けてもらって事なきを得たみたいじゃが……。
『まぁ、そんなこんなで彼女はいろいろと有名でして。スタートダッシュを決めなければならないこの時期に、彼女を自分のパーティーやギルドに引き込んで、箔をつけようとしたんでしょう。でも、そのためには彼女のお荷物になりかねない見慣れない爺さん……つまりあなたが邪魔だった。だから、あなたを故意に貶めて、カノジョから引き離そうとしたみたいですよ? まぁ、結局その件で彼女に顰蹙をかって、その場にいた人たちは彼女の勧誘に失敗したみたいですが……』
当然じゃ。そんな下心がある連中をうちの孫が気に入るわけがなかろうっ! と、ワシは憤りながら、医者の話を聞いていた。
『まぁとにかく、ゲームは極力長続きするように楽しんでやってくださいね? 最低でも一年くらいはもたせてください! そうすれば定期健診でより確実なデータをとることができますから』
「……先生、ワシのことモルモットとして見ていませんか?」
『ははははは。治験ですから』
否定せんかい……。と、ワシは思わず顔を引きつらせるが、医者にそれは伝わらなかったのか、受話器の向こうで愛想笑いをしている医者はそのまま、二つ三つ治験に必要な注意事項を述べて電話を切りよった。
時間を見るともう30分もたっておる……。あの医者どんだけ伝え忘れとったことがあったんじゃ。と、半眼になりつつ、残り30分どうするかの? と考えて……。
「あぁ、そうじゃ。攻略掲示板みとかんと」
いいかげん情報の大切さを身に染みて覚えたワシは、慌てて情報の収集をしようとして、
「……いや、多すぎじゃろ!?」
VRではない時代のゲームとは比べ物にならないほどの情報量に、思わず膝を屈するのじゃった……。
◆ ◆
「なんと、本当に一日たっておる……」
それからさらに三十分後。約束通りログインしたワシはゲーム内の時間を確認し、本当にログインしたときから一日たっていることを確認した。
なるほど。確かにこれだけ時間が早まっているなら、頭も普段より使っている状態になるわい。と、ワシが独りごちていると、
「う~っす。一時間ぶり~」
「こっちじゃ一日ぶりですけどね」
と、スティーブとエルが続けてログインしてきた。
「掲示板見て推移観察していたけど、上位陣は見事に次のフィールドに移ったみたいだな」
「ということは、町周辺の簡単なフィールドは今なら空いているってことですか?」
「中級や出遅れた連中はまだいるらしいが、殺気立った連中のせいで狩りができないなんてことはないだろう」
スティーブが掲示板画面を開き、記事をスクロールしながら裏付けをとっていく。職人街の件、奴なりに反省しておるのじゃろうと、ワシはそれを見て思った。
「うっし! 掲示板の話題のメインは、今は町の周りの草原じゃなくて、草原の向こうにある森や山に移っているな。早い奴は街道を抜けて次の町に到着しているみたいだな……」
「それはまたなんとも……。ずいぶんと急いでおる連中がおるんじゃな。いわゆる廃人というやつじゃろう? 何がそこまで奴らを駆り立てるのやら」
「ちなみに、爺さんの孫が入ってるパーティだぜ、そのチーム」
「流石わが孫っ!! ゲームであろうと手は抜かんのうっ!!」
「お爺さん……」
うっ。エル、その微妙な感情を込めた視線を向けるのやめてくれんか……。
「まぁ、とにかく、狩場は空いているんだっ! このままフィールドに出て、とりあえず俺たちがどの程度戦えるのか確認しようぜ!」
「了解じゃ!」
「素材回収もしないとですしねッ!!」
フンス! と可愛らしく鼻を鳴らすエルに呼応し、ワシもハンマーの柄に触れる。
とはいえ……。
◆ ◆
「現実とはかくも厳しいモノじゃ……」
「お、お爺さん! まだ、まだ始まったばかりですから」
ピョンピョン元気に跳ねるスライムの隣で、膝を抱えて座り込むワシをエルが必死に励ましてくれる。が、正直もうワシは心が折れそうじゃ……。
「う~ん。重量があるのは何ともならんしな……。いくら武器を振る速度が筋力依存だからって、槍みたいな長さの柄に重量のあるハンマーをつけたウォーハンマーじゃ、あたるものも当らんか」
結局ワシの攻撃は相変わらず当たらずじまい。
ピョンピョン跳ねるスライムにあっさり避けられること数十分。ワシはもう気力を失っておった。
おまけに隣にいるスティーブの短剣や、魔法使いじゃったらしいエルの魔法はバンバンあたるし、もうやってられんわい……。
「ハンマーっていうのは基本的に重量武器だからな。他の武器と比べると威力が高い分攻撃速度が遅い。まぁ、そのおかげでそこそこの速さで動くモンスターに、攻撃は当たりづらくなっている」
こりゃザコ狩りはやめた方がいいかもな。と、スティーブがつぶやくのを聞き、
「じゃぁ一体何を狩れというんじゃ?」
「う~ん。近場だったら……あれかな?」
スティーブがそう言って指差すのは、町周辺に広がる草原の草を食んでいた、アルマジロのような殻をもった犀のような動物じゃった。
「アーマーライノスって言うらしい。斬撃系の武器の攻撃が通りにくいって事で、剣士には嫌われているキャラだけど、動きは遅いし打撃系や魔法攻撃がよく通るから、爺さんみたいなハンマー使いや、エルみたいな魔法使いには美味しい相手だぜ? それに、あいつが落とす肉は上手く調理できたら結構おいしいらしい。おまけに殻は粗鉄が混じっているらしいから、爺さんの素材集めにはうってつけだぜ?」
「へぇ、いいじゃないですかそれ! だったらスライムはやめて、あれを倒しましょうよ、お爺さん! ねっ!? ねっ!?」
励ますようにワシに必死に話しかけてくれるエルの言葉に、ワシもちょっとだけ落ち込んだ精神を立て直すことができた。
確かに……このままスライム相手に戦いを挑んだところで、大した成果は上がりそうもないしのう。だったらいっそのこと、獲物を変えるのもまた一つの選択か。
ワシはそう考え、スライムを狩ることをあきらめ、スティーブたちが言うとおりアーマーライノスを狩るために立ち上がった。
その時、
「ぶっ!?」
「え!?」
突然ワシをおちょくるように飛び跳ねておったスライムが、ワシの背後から突進を仕掛けてきて、立ち上がりかけていたワシに膝をつかせたのじゃ。
幸いなことに攻撃力自体は大したことがないのか、視界の左上に浮かぶHPバーが、わずかに減った程度じゃが……。
「ふ、ふふふふふ……」
「お、お爺さん?」
「あ~あ」
笑いが突然止まらなくなったワシを、エルが不安そうに、スティーブが呆れたような視線で見てくるが、もうそんなことはどうでもいい。
このスライムは……初心者用のモンスターは、このワシのプライドを痛く傷つけよった……!!
「ぶっ殺したるぁっ!!」
「お、お爺さん落ち着いて!! 興奮しすぎたら体に悪いですって!!」
「まぁ、苦手の克服はいずれ必要だろうから、今やるって言うなら止めないけどさ」
じゃぁ俺たちは素材集めのために、アーマーライノス狩っておくぞ? と、告げてくるスティーブに、かまわんという意味を込めて手をひらひら振りながら、矢鱈と小刻みに飛んでこちらを挑発してくるスライムに、ワシは向き直る。
そして、
「どりゃぁああああああああああああああああああああああ!!」
ワシとスライムの……熱き激闘が始まった!!
◆ ◆
《攻略掲示板》
スレッド名:平原攻略進捗板
1:ちょっと仕切りたがり屋の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
平原攻略スレッドです。
平原攻略で躓いたりしたら書き込んでください。優しい誰かが助言してくれます。
助け合いの精神で、楽しいTSOライフを送りましょう。
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164:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
スキル平均レベル平原帯突破!! 行くぜ~森マジ逝くぜ~!!
165:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ちょ!? 字が違うwwww
166:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
つか、おそくね? 仮にも初日から来ているプレイヤーにしては遅くね? 気合いが足りんなぁあああああああああ!! とか言いつつまだ草原から抜けられない俺がいるっ!?
167:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
なんか草原で物凄い叫び声をあげてる爺がいるんだけど、あれ何?
168:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あぁ、昔いたなそんな都市伝説
169:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
伝説じゃなくてリアルなんですが……
170:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
kwsk
171:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
見た感じ本気でお爺さん。ハンマー滅茶苦茶頑張って振るっているけど、血管切れないか見ていて心配。
というか、ハンマー使ってスライムと戦っている。
172:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ちょ、ハンマーでスライムとかwww
173:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あれ意外と速くて重量武器が当たらんのだよな……。俺も大剣で苦労した
174:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ちなみにそのあとどうしたの?
175:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
諦めて動きの遅いモンスターに行きましたが?
176:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
でもスライムって背中向けると追突してくるよな……。
177:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あぁ、確かにあったわ、追突。でも、HPも大して削られんし、それ終ったらタゲ外すだろ? そこは大きな度量で流さんと……。ほら、どれだけやっても当らん事実に変わりはないわけだし。
178:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
つまりそのお爺さんは?
179:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
おじいちゃん大人げないです!
180:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
というか爺さんのキャラって、もしかしてこのひとじゃね? っ『【我等のアイドル】GGY無理すんな【のジジイ】』
181:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あっ! この人、この人っ! キャラネームGGYになってる!
182:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ちょwww
GGY無理すんなwwww
◆ ◆
「ふーっ」
この数時間で、ワシは目覚ましい進化を遂げておった。
呼吸を整え精神を集中する。
目の前にいるのは青い透き通った体をした憎いアンチクショウ。
プルプル震える体の微細な動きすら、ワシは見逃さんように注視する。
そして、スライムの体が右側にはねようとわずかにたわんだっ!!
「甘いわっ!!」
ワシはその進行方向に足をつきだし、スライムの跳躍をパリィ! これで奴の動きが止まれば、その隙のワシのハンマーの一撃が叩き込める! じゃが、敵もさる者!!
「な……に!?」
ふっ! そのくらい見通しなんだよ、ど素人がぁあああああああ!! と言いたげに、スライムは自分の体のたわみのパターンを変更し、ワシの足とは反対方向に飛んだ!
フェイントじゃとっ!?
驚くワシの視界を、悠々と外れようとするスライム。じゃが、
「かかったな、ばかめっ!!」
「っ!?」
右足を突き出した状態のワシの体は、左側からハンマーをふるうのに絶好の体勢じゃ。当然、左に飛んだスライムを迎え撃つように、ハンマーをふるう!
スライムの体がブルリと震えた。ばかな……初めからこれが目的で!? といいたげに!!
「そう、お主は初めから、ワシの掌で踊っておったにすぎん!!」
気合い一喝! ハンマーフルスイング!!
スキルアシストによって、より正確な制御が可能になったハンマーの一撃は、狙いたがわず跳躍したスライムを迎え入れ、その柔らかな体をジャストミート!!
スライムは金貨やドロップアイテムをまき散らしながら天高く飛び、そして空中で花火のように、ポリゴン片になって爆散した。
「ふっ。安らかに眠れ、わが強敵……」
一仕事終えたワシは汗をぬぐったあと、敬礼をしながら積年のライバルに敬意を表する。
そんな中、
「何やってんだ、爺さん」
「お爺さん、いろんな意味で大丈夫ですか?」
「おぉ! おぬしら! 狩りどんな感じじゃった?」
アーマーライノス狩りを終えて帰ってきたと思われる、スティーブとエルが後ろから話し掛けてきたので、ワシは満面の笑みで振り返った。
このゲームに来て初めてストレス発散ができた気分じゃ!
「まあ、爺さんが三時間もスライム退治している間に、結構集まったぜ? 爺さんの素材も、俺の素材も。他にもうろついていた兎から毛皮もとったから、これはエルの素材になるな」
「そういうお爺さんはスライム倒せたんですね? これで何匹目?」
「何を言っておる? 今ようやくコツをつかんで一匹倒せたところじゃ!!」
「「…………………………」」
何とも言えない顔になる二人を見て、ワシは気まずくなり目をそらす。わ、わかっとるって……。ちょっと意地になりすぎていましたっ!!
「まぁ、素材自体はきちんとそろったんだし、爺さんの苦手克服にもなったんだから、今回はいっか」
「お爺さん、スキルレベルどのくらい上がったんですか? こっちはメインの『魔法』がLv.3になりましたよ!!」
「俺は短剣がLv.4だな。スキル平均Lv.が5になった辺りで次のエリアいけるらしいから、あとは生産職を上げるくらいだ」
「………………………………………………………そ、そうか。よかったのう」
二人の嬉しそうな顔を見ながら、ワシはダラダラ冷や汗を流す。
い、言えない……。ワシのハンマーレベルが今ようやく2になったところだなどと……口が裂けても言えないっ!!
何やらワシはスライム退治に熱中するあまり、ワシは大切なLv.UPを怠ってしまったようじゃった……。
筋力値はハンマー振り回しまくったということで、結構鍛えられたんじゃがのう……。
そんなわけで、この世界での初勝利を飾ったワシは、スティーブとエルに素材を分けてもらいながら、職人街に帰ることとなった。
ちなみにこの時のスライム退治が、ゲーム後半で必要になってくるプレイヤースキルという物を鍛える訓練になったことなど、この時のワシはまだ知らんかった……。
一時間で1UPということは、スキルの補正をかけて三時間で6UP。
器用さは、スライムを捕まえるために、ハンマーをいろんな体勢で振るったため若干上昇といった感じ。
次回……ジジイの快進撃っ!! かも?
キャラクター名:GGY
種族:ドワーフ
筋力:5 → 13
防御力:4
魔力:1
器用:7
素早さ:1
メインスキル:《ハンマーLv.1》→《ハンマーLv.2》
サブスキル:《鍛冶Lv.1》《鑑定Lv.1》《採掘Lv.1》《器用上昇増加》《筋力上昇増加》
控え:《彫金Lv.1》《染色Lv.1》