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残酷な真実

皆さんに名前に関して言われたので。


「この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません」

「ふむ。ようやく見つかったか……」


 最近ようやく、断片的にだが、掲示板から欲しい情報を拾えるようになったワシは、最近掲示板をにぎわせておる、ある情報を思い出しながら、朝の散歩をしておった。

 その情報とは「ワールドボスの攻略方法について」。

 他のプレイヤーに先を越されないよう、情報が書き込まれたスレッドには、第一回攻略に加わる面子しか入れないようにするパスワードが設置されておったが、ワシは攻略に参加するので、問題なくそれを読むことができた。

 いざ見ようとしたときにパスワードを忘れてしまい、同じく攻略に参加する孫に泣きついたことは内緒じゃ……。

 とにかく、その情報によるとなんでもワールドボスを攻略するのには、ワシらが見つけたあの《冷化ドリンク》がカギを握っておるようじゃった。

 詳しくは攻略の時に話すと言っておったから、スレッドではそこまで詳しいことは分からんかったが、とにかく冷化ドリンクの量産を早急に済ませてくれと、スレッドを通してメーカーズに依頼が入っておった。どうやら相当重要なアイテムらしい。


「明日から調薬組が忙しくなるじゃろうな……。ゲーム内で過労に成ったりせんじゃろうな、スティーブの奴」

「何の話をしているんだお前は?」

「ん?」


 ワシがそんな風に、うちのクランマスターの身を案じていると、突然後ろから声がかけられた。

 誰じゃと振り返ると、そこには「その年で独り言とは……とうとう脳の劣化が危険な領域に……」と、かなり失礼なことを言ってくる古本屋がおった。


「なんてことをっ! ワシとお前は同い年じゃろうがっ!! ワシが危なかったらお前も相当に危ないわいっ!!」

「俺は毎日本読んでるから、お前みたいに脳みそ使わない生活はしてない」

「なにおうっ!? ワシだって最近よく頭使うようになったしっ!!」


 主にゲームで。というと、半笑いで鼻を鳴らされそうじゃから言わんけど……。こいつ、いまだにワシが小中高と本嫌いだったことをからかってきよるのじゃ。学生時代に「本の虫が。ずっと家にこもってたら脳みそ腐るぞ」と言ってからかったことを根にもっておるらしい。

 まったく、みみっちい奴じゃわい。


「って、ん? それどうしたんじゃ。風邪薬か?」

「あ? あぁ……最近いった健康診断で、ちょっと血圧が高めって言われちまってな。それを抑える薬を処方してもらってるんだよ」

「……お前の方が結構重症じゃないかの?」


 大丈夫か? と、やや不安そうに尋ねるワシに、古本屋はひらひらと手を振った。


「お互い年なんだ。多少体にガタがくるのは仕方ないだろう。まぁ、今日明日ぽっくり逝くということはそうそうないらしいから、心配することはないない」


 それに、いいこともあったしな。と、小さく笑う古本屋に、ワシは首をかしげる。

 珍しく、古本屋が心の底から嬉しそうな顔で笑っておったからじゃ。


「それはまたなんじゃ?」

「俺の体調が思わしくないって、定期連絡で息子たちに告げたら、ちょうどこっちの高校に受験したいって言ってる、孫を送ってくれることになってな。暫くは孫と二人暮らしをすることになった。まぁ、孫の方は寮生活をするつもりだったみたいで、電話の向こうで膨れていたが」

「そりゃまた……」


 ワシらにとっては孫と一緒に暮らせるというのは、確かにうれしいことじゃろうな。孫は子供よりかわいいというのはさることながら、お互い女房に先立たれて、天涯孤独の身じゃし、突然の発作で死んだりしたら誰にも気づいてもらえず、腐り果てるまで放置されてしまうという可能性もある。ワシらが学生時代のころから社会問題になっておる孤独死というやつじゃ。

 息子さんも古本屋の孤独死を危ぶんだのじゃろう。孫が来てくれて毎日顔を出してくれるというのなら、たがいにいろいろ安心できるというもんじゃわい。


「とはいえ、あこがれの一人暮らしを邪魔された孫は気の毒だと思うがなぁ。あのくらいの年だと、保護者の目がいろいろ鬱陶しくなるもんなんだろう? なぁ、バリバリ反抗期だった爺さんや」

「や、やかましいわっ! 若気の至りの黒歴史を掘り返すでないっ!!」


 つっ○ることがおとこの~、たった一つのじゅ○じょぉ~。と、言いながらニヤニヤこちらを見てくる古本屋に、ワシは思わず青筋を浮かべる。ワシの方が血圧上がりそうじゃった。

 あの時代を思い出すと、今でも天国の親父とお袋に土下座したくなるんじゃから、やめてくれんかっ!?


「まぁ、かまいすぎんことと、反抗期なんて気にならんくらいの事があればそこまで機嫌は悪くはならんじゃろう。ちなみにこっちの高校って、どこの高校なんじゃ?」

「ん? あぁ、お前の孫が行っている……」

「なんと。ということは将来ワシの孫の後輩になるのか……。そういうことじゃったら、家庭教師として、うちの孫つけてやろうか? ワシのかわいい孫と一緒に勉強できるというのなら、その孫も独り暮らしを邪魔された不満を、漏らすことはあるまいて」

「お、いいなぁそれ。あの年頃は女の子と接点を持てれば、たいていの不満は消えちゃう年ごろだしなぁ。おまけにお前の孫は、本当にお前の血が入っているのか疑わしいほどのかわいい子だし」

「ははははは。それは否定せんけど、他人に言われるとムカつくのう!?」


 目じりとかわしそっくりじゃろうがっ!? はいはい。妄想はそのくらいにしとけよ~。と、学生時代を思い出す言い合いをした後、ワシらはひとまずそのことについて孫に相談することにして別れる。詳しい計画は、孫たちからオッケーが出てからじゃなということで、後々の電話で互いの結果について聞くことを約束して。

 おっと、一つ言うことを忘れておったわ。


「ちなみに、お前の孫がワシの孫に手を出したりなんかしたら……ちょっと人には言えない形状になって、翌日のゴミ捨て場に転がることになるから、覚悟しておけと釘刺しといてね?」

「おいやめろ。うちの孫に何する気だっ!?」




…†…†…………†…†…




「いや~、攻略も順調だし。治験も安定している。これなら、論文を正式発表しても問題はないかな? まったくお爺さんには頭が上がらないよ」


 と、私――とある市民病院の医者は、厚生労働省に提出するお爺さんの治験の結果を記載したレポートを、キーボードを打ち鳴らしながら作成し、口にくわえた禁煙用の電子煙草を揺らす。

 レポート作成している、文章制作ソフトの傍らで開いているウィンドウには、TSOの掲示板。

 医療関係スタッフとしてかかわっている私は、一つ上の閲覧権限がTSOを運営している会社から与えられており、キーロックつきのスレッドものぞき放題だった。

 そこから見るに、どうやらもうそろそろワールドボス討伐の準備が本格的に始まるらしい。

 ここしばらくはお爺さんのクランは忙しいだろうねェ。と、スレッドで飛び交うアイテム作成の依頼に苦笑いを浮かべながら、私は咥えていた電子煙草を、いつもの癖で灰皿に突っ込んでしまい、返ってきた固い感触に眉をしかめた。


「しまった……またやってしまった」


 これ高いから、あんまり雑に扱って壊すと出費がえらいことに……。と、私はひとり嘆息しながら、タバコが吸えない我身を呪いつつ、気分転換に見ていたスレッド画面を閉じ、再びレポートを作成するため、先週とった月一で撮影している、お爺さんの体内輪切り映像を順に見ていく。


 脳以外の部分をCT検査するのは無駄な労力でしかないと思うんだけど、何分今回が初めての治験だから、何が起こっているか常に把握するために、体の方も一応正確に検査しろと言われているからだ。

 もっとも、今までの報告レポートで体の状態に関しては「異常なし」と書くことしかなかったけど……。


「ん?」


 いつみても健康体過ぎるお爺さんの体の映像に、


「え、ちょ……」


 真っ黒な影が見つかってしまい、私は思わず顔をひきつらせた。

 慌てて体中のCTを探ってみると、体のあちこちにその影が見当たって。


「んなばかな」


 先週までは何もなかったのに……! と、私は思わず顔をひきつらせながら、慌てて傍らに置いてあるお爺さんの健康診断書に眼を通す。それを見ると、出るわ出るわ……あの病名を思わせる検査結果。

 先週の診断結果と比べると、まるで別人のような悪化具合に、私は思わず顔を引きつらせる。

 いったい何があってここまで悪化したと。私は思わず頭を抱えた。

 何かの間違いではないかと、カルテの名前を見てみるも、そこにはたしかにお爺さんの名前――山本弘(やまもとひろし)と書いてある。もはやこの結果がお爺さんの物であることは疑いようがない。

 ならば、ことは一刻を争うっ! と、電話を手に取り、お爺さんの家に電話をかけた。

 しばらく誰も出ないコール音が続く。留守電にもつながらないところを見ると、どうも軽い外出中の様だ。

 はやく……早く出てくれ! と、私が必死に祈っていると。


『はいもしもし? どうしたんじゃ医者』

「あ、お爺さん!?」


 こんな時間に珍しいのう? と、ちょうど帰ってきたと思われるお爺さんの声に、私はそっと安堵の息をつきながら、


「いますぐうちの病院に来てください! チョット検査したいことができて!!」

『なんじゃなんじゃ一体』

「いいですか……落ち着いて聞いてくださいお爺さん!」


 と云いつつ、自分が一番慌てているなぁ。と、場違いな思考をする自分に苛立ちながら、私は震える声で、お爺さんに辛い事実を告げた。


「あなたの体に腫瘍が見つかりました……。ガンの可能性があります」

『……はぁ?』


 今言われたことを理解するのを、一瞬脳が拒んだのか、普段と変わらない疑問の声を上げるお爺さんに、私は思わず唇をかみしめた。そして、しばらく後に信じられないと言いたげなお爺さんのその一言に、


『……冗談。というわけではなさそうじゃな。わかった、すぐそっちに行く』

「すいません」


 どこか魂が抜けたような、活力のないお爺さんの返答を聞き、私は謝ることしかできなかった。


更新遅れてすいませんT―T

大学生活も終わりとなるといろいろ忙しくて……。


ようやくラストに向かって進んでいく感じでしょうか? 第一世界攻略編……ですがその前に爺さんが人生の終着点に。ようやく出てきた爺さんのフルネームとか一切無視して、爺さんは人生の終末を迎えそうだという……。


はたして、爺さんの明日はどっちだっ!


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