眠る亡霊騎士
リアルが忙しくて更新滞っていました^^; すいませんorz
馬の破壊という形をとった部位破壊を達成したワシらは、ボス戦をかなり有利に進めることができておった。
何せ相手は馬がないと、自身が着込んだ重量級の鎧のせいでまともに動くことはできない。
代わりに防御力は非常に高いが、炎に包まれた断面だけが見える首の部分という、明確な弱点があるため、そちらもたいした手間にはならん。
もっとも、
「ワシ……ダメージディーラーの仕事しとらんな」
「仕方ないだろ、爺さんのハンマー届かないんだから」
馬殺しただけでも大金星だ。と、壊れた盾の代わりに新しい盾を作り出したジョンが、口元に笑みを浮かべながらワシの背中をバシバシたたいてきよる。ただ、手加減がされておらんせんで、
「痛いわ! 年寄りはいたわらんかっ!」
バシバシ叩いてくるジョンの手をはねのけ、ワシは槍の一撃をインターセプトする。
「それにしても、皆さん凄いですね。この調子だとあと少しで団長を送って差し上げられそうです」
メルトリンデは、そんなワシらに笑いかけながら、隠し切れていない憂いの表情をうかべつつ、体勢を崩した騎士団長に片手剣のアビリティをぶつける。
HPはわずかではあるが、彼女の攻撃によって着実に削られ、そして、
「シッ!!」
鋭い呼気が、インターセプトでのけぞったデュラハンの後方から放たれた。弓を引き絞り狙いを定めていたYOICHIが矢を放ったようじゃった。
流星のように、輝くエフェクトを纏った矢は三本同時に飛来し、デュラハンの首断面に直撃する。
同時に、首断面に突き立った矢はそのまま輝きを増し、
「アビリティ、《トライグレネード》」
残心と共にYOICHIがつぶやくと同時に、爆発した。
ごっそりデュラハンのHPが削られ、奴は苦悶の絶叫を上げる。
その悲鳴を聞いたメルトリンデが、思わず顔をそらす中、そんな彼女に遠慮することなくワシらの後方から大魔法がぶっ放された。
「《アイスソーン》!!」
エルの視覚から発動座標を決定した氷の茨が、ボスモンスターの下から生えその体を縛る。
100%の確率で氷結のバッドステータスが着く、上級拘束魔法アイスソーンじゃが、先ほど放った《グランホールド》と同じように、ボスモンスターにはいまいち効果が薄い。
鎧の各所に薄い氷が張りつき、デュラハンの行動をわずかに阻害するが、その氷をわずか数秒ほどで砕け散り、鎧に包まれた剛腕が氷の茨を粉砕していく。
だが、その数秒が命取り。のけぞった状態で拘束され、固定されたのも悪かった。
YOICHIが準備しておった、新しいアビリティが発動する!
「《流星矢》!!」
大体がカタカナの名前をしておるアビリティの中では珍しく、漢字の名前がついた強力な一撃。
会得難易度Sといわれる、とあるクエストをクリアしないと覚えられない《奥義級》アビリティをYOICHIは発動させよった。
放たれた矢はもはや実体を失い、一条の閃光となって宙を駆ける。
その速度は先ほどまでYOICHIが放っておったものと比較にならず、たとえ放たれると分かっていても、避けるのは至難と言っていい速度でデュラハンの首断面を射抜いた!
『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
全てを凍てつかせる茨が、矢が撒き散らす衝撃波で薙ぎ払われる。デュラハンは自身を射抜いたその極光の一撃に、耳をつんざく絶叫を響かせた。
ワシはそれに思わず耳を塞ぎながら、デュラハンのHPバーを確認すると、敵HPはすでに真っ赤に染まっておった。
もはや相手は瀕死の状態じゃ。
「いける……このまま押し切れるぞっ!!」
「大魔法リキャストまであと15秒です!!」
「そんなに時間はかけねぇよ!」
発動準備を始めると同時に、アビリティを示す個所に現れた発動までの所要時間を示すバーを見ながら、トドメの一撃を放つのに、時間がかかることを教えてくるエル。
じゃが、その声はデュラハンの上空に突如姿を現したスティーブによって断ち切られた。
とどめじゃな。と、ワシがほっと一安心しておる間に、スティーブは空中で横回転しながら勢いをつけ、トドメの一撃をデュラハンの首断面に向かって叩き込むっ!!
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
短剣アビリティ《ヒットマンソウル》。このアビリティを使って敵弱点部位に攻撃を当てた時、自身が与えたダメージを二倍にする、短剣使いの強力な一撃。
その一撃は赤い光を伴い、デュラハンの首に向かって振り下ろされ、
『まだだ……まだ終われないのだっ!!』
「なっ!?」
突如叫んだデュラハンが、リキャストされた瞬間移動によって部屋の端に移動することによって、躱されてしまった。
赤い閃光を伴ったまま、何もなせずに地面に着地するスティーブ。
周囲に凍りつくような沈黙がおりた。
「……おいおい、ちゃんと決めろよ、リーダー」
「かっこよかったぞ? つい数秒前までは」
「い、今のは私もちょっとないかなと……」
「ま、まぁ、人生山あり谷ありじゃってスティーブ」
「あ、あの……大魔法撃てるようになりましたけどどうします?」
「うるせぇえええええええええええ! 今話し掛けるなっ!!」
ジョンとYOICHの白い視線と、フォローしようとしてできなかったメルトリンデの沈痛な面持ち。そして、ワシの気遣いと、エルの確認を聞いた瞬間スティーブの心が折れた。思わず膝を抱えうずくまるリーダーを必死に宥めているさなか、壁際に移動したデュラハンは何かを喋っている。って、ん?
「またんかい、瞬間移動は確か騎乗時にしか使わぬはずでは?」
「いや、べつに団長は騎乗しなくても《テレポートウォーク》を使えますよ?」
「いや、そういう生前話ではなく」
攻略情報では確かに……。と、ワシが首をかしげ取る間に、
『まけるわけには……負けるわけにはいかないのだ。まもらねば……守らねばならないものがあるのだぁあああ!!』
狂ったように叫びながらデュラハン槍を振り回したあと、地面に穂先を叩きつける。
もしかしてこれは、
「イベント!?」
「おいおい、これ以上何が起きるって」
いうんだ? と、ワシが最悪の可能性を口にすると同時に、スティーブはうずくまったままデュラハンに視線を向けた。同時にデュラハンは、大喝する。
『目覚めよ、我が同胞たちよ。故国を守る……旗を掲げよっ!!』
同時に、槍の柄が引っこ抜かれ、そのまま長い棒になる。同時にその棒の頭部にはエフェクトによって作られた蜃気楼のような旗が作り出され、風もないのにはためきだした。
「あれは……うちの騎士団の団旗!?」
「いや……まて、問題はそこじゃない!?」
驚き目を見開くメルトリンデの言葉に、一瞬旗に注意が行きかけたワシ。じゃが、その前に響いたYOICHIの大声によって、ワシはその視線を慌てて下に下げた。
旗の下。デュラハンの足元。
そこから、真っ青な輝きを纏った骨だけの腕が飛び出していた。
「っ!」
「え……なにあれ?」
ワシらが驚くのをしり目に、その腕はどんどん増えていく。
いや、腕どころではない。腕はそのまま地面からはい出し、髑髏を胴体の骨を、地面から引きずり出し完全なスケルトンになる。同時にその下からは白骨化した青く輝く馬を生み出し。その上に騎乗した。
そんなスケルトンたちが次々と増えていき、槍など長柄の武器を装備して、デュラハンの前に整然と並びだす。
こ、これは、
「雑魚召喚か?」
「い、いえ……ステータスバーが見えません。それにあのエフェクト……あれは全部アビリティで作り出された幻影です!」
「んなバカな!?」
エルが告げた信じられない一言にワシらは目を見開く。
そして、最悪の事態が起こる。
『諸君!! 蹂躙、蹂躙、蹂躙であるっ!! 故国を土足で踏みにじった不埒ものどもを、打ちのめし、叩き斬り、滅ぼせぇえええええええええええ!!』
『おぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉお!!』
地の底からはい出てきた亡者たちは、騎馬に騎乗した状態のまま整然と整列し、ワシらに向かって突撃してきよった!!
無論ワシらはそれを迎撃するために、
「エルっ! 大魔法!!」
「はいっ!! 《コロナメイク》!!」
スティーブの指示と共に、ワシらに向かってきた亡霊騎士たちの前衛に、巨大な球形の炎の塊が生み出された。
悲鳴も上げずに、亡霊騎士たちはその炎に飲み込まれる亡霊騎士たち。当然、大威力の魔法を食らい無事でいられるわけもなく、一時的に騎士たちは消滅したが。
『おぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉお!!』
「っ! 食い破られた!?」
「なんて物量!?」
デュラハンの足元から次々と湧き出る亡霊騎士たちの突撃に、コロナメイクは耐えきれず瞬く間に粉砕。蹂躙される!
「な、なんなんですかあのアビリティ!?」
「運営殺しに来ているな……」
「のんびり言っている場合じゃないでしょ、ジョン!!」
悲鳴を上げるエルをしり目に、ジョンは感心したように口笛を吹く。そんなジョンの頭をYOICHIははたくのじゃが、今はそれどころではない!!
「どうする、スティーブ!」
「どうするもこうするも、部屋の端から端まで埋め尽くす、整列した騎士による突撃攻撃。上空にでも逃げない限り、避けられるわけがないだろうがっ!」
必然選択肢は限られる。
迎撃。ワシらが生き延びるすべはそれしかない。じゃが、
「押し返せるのか? あの大魔法を食い破ったほどの物量を!」
「っ!」
「す、すいません。次の大魔法の詠唱完了時間は1分です。できるだけ短いのを選んだんですけど」
その間にあちらの攻撃が届くな。と、ワシは鬨の声を上げながら、こちらに突撃してくる幻影の騎士たちに視線を戻し嘆息する。
その時じゃった。
「私が……出ます」
盾を構えた一人の騎士が、ワシらをかばうように前に出た。
メルトリンデじゃ。
「皆さんは私の後ろにっ!! この命に代えても……ここは通しません!」
「バカなっ! 下手をしなくとも死ぬぞっ!!」
相手の攻撃はアビリティによって作り出された幻影騎士による、物量攻撃。どれほど強力なステータスと防御力を誇ろうが、たった一人の存在が抑えきるには無理がある。
そんなことはメルトリンデも理解しておるはずじゃった。じゃが、
「お願いです……団長の名をこれ以上穢させないでください。これ以上あの人を、傷つけさせないでくださいっ!!」
「っ!」
メルトリンデは泣いておった。
「さっき、聞こえたんです。『団長を助けてくれ』って……。あの亡霊騎士たちは、団長とともに行方不明になった、騎士団の者達です!」
「なん……だと!?」
あのエフェクトに意志があるのか? と驚くスティーブをと共に、ワシも目を見開いておった。
今、あの騎士団長の心はどうなっているだろう。故国を守るために、自分を信じてついてきてくれた部下たちを守れず、自分は敵に操られ、あまつさえ守れなかった部下すら、武器にするよう作り変えられたあの団長の気持ちは。
ワシなら血涙を流しておる。
守るべきものだったはずの者達の死を、その後の安寧を、無理やりであるとはいえ自分自身が犯してしまった後悔で。
メルトリンデが言うように、騎士団長の心はもはや限界のはずじゃった。
じゃが、
「馬鹿者、それでお主が死んでしまっては意味がないじゃろうがっ!!」
「でも、もうこうするしか、団長を助ける手段が……」
メルトリンデはそう言って、頑なにワシらの前からどこうとはしない。
たしかに、この場で最善の選択はメルトリンデに盾になってもらって、すこしでも被害を減らすこと。盾役ならジョンもおるが、本職ではない以上どうしてもメルトリンデよりも防御力は劣るし、何よりあいつの盾は使い捨て。物量による連続攻撃が相手では、相たえきれる防御法ではない。じゃが……!
そんな風に、ワシらが八方ふさがりの思考迷路に迷い込んだ時じゃった。
「おいおい、お嬢ちゃん。あんたは若いんだから、そう死に急ぐんじゃないよ」
「え?」
ジョンが、メルトリンデの肩を掴み、彼女を無理やり後ろに下げた。同時に、自分自身が前に出る。
「なっ! ジョン!?」
やる気か? ワシが言外にそう尋ねると同時に、ジョンはワシの方を振り返り、
「爺さん、契約の品……先に渡してもらうぞ?」
「なに……。じゃがあれは」
まだ使えんものじゃぞ? と、ワシは首を振る。あのアイテムがこの状況を切り抜けるものになるとは、ワシは思っておらんかった。
じゃが、
「いいから、よこせ」
ジョンは不敵な笑みを浮かべたまま、
「俺は最強の錬成士だぜ?」
負けることなども微塵も考えていない、自信にあふれた笑顔でそう言い切った。
その笑顔に、ワシは思わず息をのむ。
自信過剰。無謀なハッタリ。そう断じて、年よりらしく、若者を諭すのはたやすいが、
「ええじゃろう。賭けてやるわい」
若者を信じてやるのも、年よりの仕事じゃと、ワシはそのアイテムを手渡した。
この世界にはない素材と、製造方法が記された、神々が操る器物を製造する工程を示したといわれる、とある盾の《設計図》を。
◆ ◆
ジョンはワシから設計図をもらうと同時に、即座にアビリティを発動する。
「錬成士アビリティ《完全錬成》」
瞬間、ジョンの周囲に、まるで魔法アビリティでも使うかのような、光の文字が現れた。
光の文字はそのまま帯になって、グルグルとジョンの周りを回り始める。
亡霊騎士たちの突撃はすでに、ワシらが振動を感じるまでに迫っておる。
しかし、ジョンは慌てることなく、手を前につきだしまるで盾を構えるように腰を落とした。
「『全素材アイテム変換錬成』
『全MP完全消費』
『代償支払。バッドステータス《MP回復不可3600秒》付与』
『変換素材アイテム、全消費』」
光の文字は魔法が発動するときと違い、ワシらにも読める日本語で記載されておった。
その文字の凶悪な代償に顔をひきつらせながら、ワシらは奇跡を待つ。そして、
「完全錬成起動。守り……跳ね返せ!! 《鏡の絶対盾》!!」
そして、奴の手のなかに伝説が生まれる。
鏡のように輝く、絶対不破の伝説の盾が。
『アイテム名:神話武装アイギス
性能:防御力+1002 《ダメージ反射50%》
内容:錬成士JohnSmithによって反則的手法によって作られた神話級盾。鏡のように磨かれた盾表面には、失われた技術による魔法陣が描かれており、50%の確率で敵の攻撃を完全無効化し、与えられるはずだったダメージを2倍にして返す。
本来必要な製造レベルは鍛冶系スキルLv.97
品質:☆☆☆☆☆★★★★★※』
でたらめな性能と防御力を誇る盾が、地面に突き立てるように構えられながら、真正面から亡霊の軍勢と激突する。
当然、本来なら最後のエリアでなければ製造不能であったであろうその盾が、高々Lv.30代の敵にどうこうされうるわけもなく、何度亡霊騎士の突撃を食らおうとジョンの体は小揺るぎもしなかった。
HP自体も数ドット単位でしか減らず、いまだにレッドゾーンどころかイエローゾーンにも入らない。
それどころか、アイギスの特殊効果によって突撃のダメージが時々デュラハンに反射され、そのHPを瞬く間に削っていた。
そして、突撃が始まってからの、長い長い耐えるだけの時間がとうとう終る。
青く輝く騎士団旗が、粒子と共にはじけ飛んだ。
それと同時に、狂ったように突撃していた亡霊騎士たちは青い粒子のように分解され、穏やかな雰囲気のまま虚空へと消える。
『あぁ……あぁ。英霊よ、同胞たちよ……逝くな。我より先に逝くな』
その光景を、存在しない首で眺めるようなしぐさをして、デュラハンは杖のように柄をつき、たたずむ。
もはや鎧から噴き出していた炎は姿をけし、残っておるのは首断面を覆う炎だけ。
あれならば、鎧の隙間から攻撃を当てることも可能じゃろう。
そんな彼に対し、ワシはメルトリンデの背中をそっと押し、
「え?」
「いってこい。それがお主の役割じゃ」
「……はい」
彼女はそう答え、デュラハンに向かって疾走する。そして、
『あぁ……残って、残っていてくれたのか。同胞よ』
「はい。団長」
メルトリンデの剣が、デュラハンの鎧の隙間につきいれられ、最後のHPを削りきった。
ボス消滅の前兆である光の粒子が、デュラハンの体から湧き出はじめる。
そんなデュラハンの姿を見て、ワシらに背中を向けておるメルトリンデは震えておった。
多分、泣いておるのじゃろう。
顔は見えないが、なんとなくそう思ったワシは、背中を向け座り込んだ。
周りにいた連中はそんなワシの背中を見て、『センチメンタルなじいさんだ』と言いたげな苦笑いを浮かべよったが、お主らもメルトリンデに背中を向けておるから同罪じゃと思う。
『ワシは……お主らの未来を、守れたのか?』
「はい。はい!! あなたは、偉大な騎士でした。だから」
安らかに、お眠りください。と、そう告げたメルトリンデの言葉に、安堵したかのような吐息が聞こえた。
そして、ワシらの目の前には『クエストクリア!!』の文字と共に、本日の戦利品が映し出される。
『SirDurahanを倒した
GGY:デュラハンの残り火 騎士の誇り 壊れた魔剣グラム』
こうして、ワシらの長い長いストーリークエスト攻略の旅はひとまず幕を下ろした。
◆ ◆
最期のストーリークエスト攻略をした翌日の事。
ワシはデュラハンがドロップしたあるアイテム――壊れた魔剣グラムから、新しい設計図を書き上げておった。
この壊れた素材、修復は不可能なアイテムなのじゃが、それを解析して元のアイテムの設計図を描きだすことができるアイテムのようじゃった。正直生産者としては結構値打ちがある代物じゃ。
とはいえ、流石は魔剣グラムといったところ。武装の等級は《神話級》武装になってしまい、現在のレベルと技術ではどうも制作は無理そうじゃった。
まぁせっかく手に入ったものを無碍にするわけにはいくまいと、ワシはそっとその設計図をアイテムボックスに放り込んでおく。
その時、まるで見計らったかのように奴が現れた。
ワシが神話級武装の設計図をもっておると、どこからともなく聞いて報酬に請求してきた、ジョンの奴じゃ。
あのクエストが終わってから、ジョンは頻繁にワシの店に顔を出すようになった。
新しい神話級武装の設計図が目当てなのか、それともワシが製造しておる武器から設計図を新しく立ち上げようとしておるのか、それは分からんが……。とにかく、来ても商品を冷かして雑談をして帰るだけのこ奴は、正直鍛冶屋としては迷惑千万な客なのじゃが、話し相手になってくれるというのは老人的にはうれしいことなので、何とも追い出しにくく……クエスト以来ずるずると、こやつとの関係を続けておった。
「おっ、爺さん。また神話級武装の設計図作ったのか? くれ」
「やらんわ、ド阿呆。おぬしをこれ以上チート化してなるものか。どうせ作れんじゃろうと、あっさり渡してやるんじゃなかったと今では思っとるわい……」
「別にチートじゃないだろう? あの後戦闘が終わったらすぐ砕け散ったの見ていただろうが。それに要求レベルが高すぎて、正直あの盾持ち上げられなかったし……」
「そう考えると錬成スキルも難儀よなぁ。《戦闘専用アビリティゆえに戦闘時しか使えない》《戦闘が終了ししだい制作アイテムは壊れる》《武器を扱うのに必要な要求ステータスの数値は減少されない》じゃったか。盾を構えるくらいならできたみたいじゃが」
あの戦闘で、神話級武装の再現錬成という、とんでもない奥の手を見せつけてくれたジョンじゃったが、錬成もどうやら万能ではなかったらしい。もうちょっと砕けるの待ってくれれば、きっと盾を動かせずうなり声をあげて引きずろうとするジョンという面白いものが見られたじゃろうに。とワシが、少し盾が砕け散るのが早すぎたことを惜しんでいると、
「なんか変なこと考えてないか?」
「まさか。戦友にそんな不埒なことを考えるわけがないじゃろう」
「ホントか?」
ワシに向かって訝しげな視線を向ける失礼な奴に、ワシはそっと肩をすくめながらその視線から逃れ、いつもの仕事に戻る。
最近ストーリーにばかりかまけておったから、依頼がたまっとるんじゃよな。
「それにしても、ワシが神話級武装の設計図をもっておるってよく知っておったな?」
「おいおい爺さん。もうボケが始まってんのか? ちょっと前にスティーブ通してあんたらのクランの掲示板で揉めてたろうが。スレタイはたしか《なんか製造しとったらわけのわからん設計図が出てきたんじゃけど?》だったっけか? そのせいで結構噂になってんぜ。爺さんがお宝もってるって」
「メーカーズの……他クラン掲示板をわざわざ覗いておるのか? 暇な奴らもおったもんじゃのう」
基本的にクランの掲示板というのはクランの身内同士で使われるものであって、情報交換や雑談に使われることを主としている。そのため身内ネタが多く、他人が見てもわからないものが多いため、めったに他の人間にのぞかれるものではない。
うちのクランは新商品宣伝とかをたまにやるので、そのあたりで割と顔をのぞかせる奴は多いようじゃが……。
「バカだな、爺さんたちのマッドサイエンティストバリの商品開発日記とかで、結構人気あるんだぞ? あんたらの掲示板。最新の武器とかアイテムをそろえようと思うなら、まずはメーカーズの掲示板覗けって言われているくらいだし」
「それ本当かのう?」
だとするなら、掲示板に多少の閲覧制限をつける必要が出てくるのじゃが……。と、ワシはプライバシーの侵害にちょっとだけ慄きながら、炉に入れた金属のインゴットが、見る見るうちに真っ赤に染まっていくのを眺めながら、打ち出すのに最適な温度になるのを待つ。
「あぁ、その掲示板なんだが……また荒れたんだって、爺さん? いや、羨ましいな。今回のクエスト、一番いい報酬をもらったのはあんたじゃないのか?」
「報酬って、そんな言い方するもんじゃないぞ」
物や何かじゃないんじゃから。と、ワシは思わず眉をしかめながら、へらへら笑うジョンに苦言を呈する。じゃが、ジョンはそんなワシの言動に肩をすくめて、
「でも実際そんなもんだろう? 他の奴らはなかなか女騎士を引き当てられなくて悲鳴を上げているみたいだし……いや、新手の通い妻を爺さんがゲットするなんて、正直予想外」
「誰が通い妻だ」
「いだっ!?」
そうこうしておるうちに、あのクエストでできたもう一人の知り合いが店に入ってきて、ジョンの頭を鞘に入っておる剣で殴りつけた。
頭を押さえて悶絶するジョンに、その人物は鼻を一つ鳴らしながら、ワシにジョンを殴った剣を渡してくる。
「ではお爺さん。剣の砥ぎを頼みます!」
「昨日もきたじゃろうが。そんなに何度も砥ぐ必要はないじゃろう! だいたい騎士団の仕事はどうした?」
「今は巡回中です。この町の各商店の見回りをしているんです」
シレッと、悪びれもなくそんなことを言ってのける彼女――メルトリンデの姿に、ワシはそっと嘆息をする。
どうやらあのクエスト以来懐かれしまったらしく、彼女も頻繁にワシの店に顔を出すようになっておった。おまけに、いつのまにかフレンド欄にも名前が載っており、いつでもパーティーに呼べるようにしておる徹底ぶり。
一応スティーブ達のフレンド欄にも彼女の名前は載っておるらしく、どうやらあの特殊イベントをクリアした報酬は、彼女のフレンド登録だったようじゃとワシらは結論付けておる。
最近は、前衛がほしかったYOICHIとよく冒険をしているらしく、ワシの店に来たら大体YOICHとの冒険譚を話してくれる。
とはいえ、顧客が増えるのは正直嬉しいのじゃが、何かと理由をつけてワシの店に入り浸りに来て、YOICHIとの冒険を話してくる彼女に不安を覚えないわけでもない。
ちゃんと騎士の仕事しとるんじゃろうなこいつ。
「まったく、こんな年寄りのために若い時の時間を無駄にするなどと……騎士団長殿が嘆かれるぞ?」
「まぁまぁ、そう言わないでくださいよ、お爺さん。代わりに私が宣伝しているおかげで、おじいさんの優秀な冶金技術は領主館でも話題になっているんですよ? ほら、私此処に来た方がいろいろと便利でしょう?」
「最近クエスト画面と一緒にいつの間にか出されておる領主館からの依頼は、おぬしの差し金かっ!?」
おかげで仕事がたまっとるんじゃけど!? と、ワシはため息とともに肩を落としながら、ニコニコ笑って今日あったことを話してくれる女騎士に苦笑いをし、彼女の剣をうけとるのじゃった。
◆ ◆
ちなみに、
「やっぱ通い妻……ぶっ!?」
そんなメルトリンデとワシのやり取りを見たジョンが、懲りずにそんなことを呟いてしまい、メルトリンデのグーパンが食らったのは言うまでもない。
◆ ◆
さらにちなみに、
「はっ!?」
「どうしたのネーヴェ?」
「いま……私の孫ポジションが脅かされている気が!?」
「バカ言ってないで行きますよ。おじいさんたちが持って帰ってくれた新アイテムが、ワールドボスに何らかの効果を及ぼさないか試しに行くんですから」
「あ、まって!!」
ワールドボスが潜む部屋の前で、ワシの孫がそんなことを呟いておったのは、完全な余談じゃろう。
◆ ◆
《攻略掲示板》
スレッド名:【女騎士タン(*´д`*)ハァハァ】デュラハン裏ルート攻略情報【全然でないおショボーン(´・ω・`)】
・
・
・
・
345:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
お前ら……何騎士だった?
346:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
むきむきまっちょめーんショボーン(´・ω・`)
347:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ぱつきんいけめ~ん。うちの女衆がキャーキャー言っている。
リア充爆発しろ(゜Д゜)ゴルァ!!
348:カマの転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
私はかわいいお坊ちゃま騎士だったわ。じゅるり
349:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
にげて~超逃げて~。ショタ騎士超逃げて~!!
350名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
そして私のところにカモンっ!!
351:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ショタコンは黙っててもらえませんかねぇ~!?
352:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
バリエーションが多すぎるぜっT-T
353:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
お巡りさん>>348・350 こいつらです
354:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
まぁ、領主館にいる騎士なんて莫大な数になるからな。というか、よくあれだけモンスターの素材を調べるパターンを、運営は考えついたな。
355:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
そこは俺も評価する
356:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
とはいえ、もうそろそろ重複とかではじめているから、爺さんたちがあった女騎士もきっと……!
357:カマの転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
でも、最後には死んじゃうのよねあの子たち……。私たえられないわっ!!
358:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あぁ、確かに……。最終的にデュラハンの奥義から俺達をかばって死んじゃうんだよな。
359:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あれ見たときは泣いた
360:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
え、マジで? そんなイベントあるの? 俺筋肉騎士だったから、初めに心折れた段階で、戦犯扱いして見捨てちゃった……。そうか、どうりでデュラハンに勝てないわけだ
361:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
おいwww
362:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
筋肉さんかわいそうに。
363:カマの転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ご冥福をお祈りするわ……。
364:飯マズの転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
え? 死ぬの?
365:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
え?
366:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
え?
367:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
!!!!?
368:飯マズの転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
俺らたまに一緒に冒険とか行くけど。フレンド欄に登録されている
369:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
なん……だと!?
370:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
kwsk!!
371:飯マズの転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
詳しくも何も……騎士を連れて、説得して最後まで一緒に戦って、デュラハンをそのまま倒した。
ごくごく普通の事ですが何か?
372:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
常識でものを言えよっ!? ラストの物量攻撃どうにかできるわけないだろうがっ!!
373:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
これだから頭おかしい生産職連中はっ!!
374:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
俺はむしろ滾ってきたぁああああああああ!!
つまり俺達にもそれをこなせば女騎士とお友達になれるチャンスがっ!!
375:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
おい、俺の隣にいるの筋肉なんだけど……
376:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
…………………………
377:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
………………
378:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
なんかいえよっ!?
379:カマの転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
おかまじゃだめかしら?
380:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
お帰りください。悪霊退散(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
◆ ◆
《運営掲示版》
スレッド名:ほぼクリア不能クエストについて
・
・
・
・
550:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
爺さんたちがまたまたやりやがったぁあああああ!
551:デザイナーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
つかだれよ、この段階で神話級武装使えるようなスキル作ったのっ!!
552:スキル担当Fな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
バカ野郎。神話の完全再現は男のロマンだろうがぁああああ!!
553:プログラマーAな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ひとせだいまえのろまんかたらないでもらえます? おれのどりょくのけっしょうが……あんなにあっさり
554:スキル担当Fな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
漢字で文字もうてんような輩が何をぬかす、カナダやろう。メープルシロップでも舐めてろ
555:プログラマーAな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ぶっころ。まほうこそがせいぎだろうが
556:サーバー管理担当な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
仲良くしろお前ら……。
557:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
オタク論争はよそでやってもらえません?
558:シナリオライターな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
なぜ、『ほう』を強調した?
559:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
??「すこし……頭冷やそうか?」
560:シナリオライターな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
???
561:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
突然どうしたんですか社長?
562:営業Fな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
社長、ネタが古いですって……。
563:社長な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ショボーン(´・ω・`)
564:プログラマーAな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
しゃちょう、なかーま
565:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
まぁそれはともかく、もうそろそろ転生イベント起きそうだから、次のエリアの調整は万全に。各員よろしこ~。
デュラハン編はこれで終わり。ようやくワールドボスがきます!