戦線復帰
それは、とある魔族との戦場での出来事。
『くそっ!! ここまでか……!』
要塞都市グランウォールは、突如現れた魔族軍によって孤立していた。
もともと魔族の侵攻を止めるために作られたこの要塞だったが、最近では魔族軍の侵攻を押し返し、逆に侵略された領地を奪い返せるようになっていたので、すっかり油断してしまっていた。
魔族たちが作り出した、軍団用特殊転位設備――《ダンジョン》。洞窟型・密林型・山岳型と、様々な形があるそれは、出現された途端、一定時間ごとに魔王軍支配地に控えている軍勢を内部に呼びだす巨大な転位設備だ。
そのため、ダンジョンの出現に気付かなかったり、気づいても内部攻略ができなかったりした場合は、そこに軍勢として活動が可能なほどの魔族が結集し、その軍勢によって人類の防衛に重要な施設にダイレクトに攻撃を仕掛けることができてしまうのだ。
私たち――メルトリンデ含む要塞騎士団が所属する、《要塞都市》グランウォールを攻めている軍勢は、出現に気付かなかったダンジョンから派遣された軍勢だった。
何故気づかなかったのかといわれると、答えは単純で、このモンスターの軍勢が、初めて作られたダンジョンからの先兵だったというだけ。
要するに、この時の私たちはダンジョンの存在など全く知らなかったためにダンジョンの出現を見逃した。そのため今の状況は、突然モンスターが出現し、気づけば要塞都市が囲まれたかのように認識することしかできていなかった。
当然備えなんてしておらず、魔族との戦闘前線もはるか先の荒野に移っていた。今更ここに攻撃が来るなど思っていなかった私たち人類は、要塞都市の一応の守護として残された要塞騎士団三千と、以前前線だった名残として残っていた、要塞都市の巨大な城壁を使って籠城戦を展開することしかできなかった。
しかし、相手はダンジョンによって軍勢を溜めに溜めた魔族軍2万。籠城戦は防御側が有利であるとは言われているが、だとしてもこの数の差は覆しがたく、私たちはとうとう魔族の城内侵入を許してしまった。
城門も、巨大な棍棒をふるう巨人型魔族によって既に歪んでおり、もはや打ち破られるのは時間の問題に思えた。
『部隊長! どうなさいますかっ!!』
『部隊長……指示をっ!!』
指示? この状況で一体何ができる。我々を守っていた城壁はもはや役に立たない。籠城戦をしている間に兵士も随分削られ、もはやこちらの手勢は二千程度。対する相手は城攻めで多大な被害を負ったが、まだ一万五千の兵力を残している。
状況は絶望的すぎた。市街でゲリラ戦を展開すれば、相手の兵力はある程度削れるだろうが、それとて時間稼ぎにしかならない。
バカバカしいほどの兵力差。絶望的なまでの数の差。
前線にいる騎士団の主力からは、主力が援軍として到着にはあと一日かかると、今朝連絡が入った。
一発逆転の目は……もうない。
『兵たちに伝えろ。撤退だ。できるだけ多くの市民を連れて、この町から逃れろ』
『で、ですが隊長! 城塞都市はもう囲まれて、逃げる場所など!』
『だから……何人か私についてこい』
『え……?』
信じがたい言葉を聞いたと言いたげに目を見開く部下に笑いかけながら、
『決死の殿を行う。今破られそうな門を破棄し、あえて門を開く。そこから魔族を入り込ませて、私たちで足止め。こちらの門が開いたと知れれば、敵軍はこちらに集中し反対側の門は手薄になるはずだ。民を率いる部隊はそこから民をひきつれ、撤退しろ。馬はすべてくれてやるから、それに馬車でも牽かせてできるだけ多くの民を連れて逃げるんだ』
『ですが、それは隊長がしなければならないことでは!』
隊長も一緒にお逃げください! そう言ってくれる優しい部下に、私は苦笑いを浮かべながら、兜をかぶる。
『なにをいう。私はお前たちの上司だぞ? 敗北の責任は私が取らねばならん。それとも何か? 私が女だから、殿なんて任せられないとお前は言うつもりか?』
『隊長……』
私の情けなくふるえる軽口に、部下は涙をのみながら敬礼を送ってくれた。
『ご武運を……生きて帰ってきてください』
『無茶を言う……。だが、極力努力はするさ』
そう言って私は陣地から出て、のこった2000の兵を1500と500に分け、1500を民の先導に。
残り500を殿として門の前に配置し、大通りに陣取る。
その場所なら、建物が防壁の代わりとなって側面からの攻撃を受けにくい。そのため、敵も真正面からこちらにぶつかるしかない。
おまけに大通りとはいっても敵軍勢をとどめる目的の方が強い要塞都市の通路のため、大軍の利を生かしにくい程度には狭い。人間の騎士でも橫に並べるのはせいぜい20~25人程度。体の大きい魔族ならば、10やそこらが限界のはずだ。だからこそ、この大通りでは多数の軍勢に揉み潰されず、20対10の戦いを実現できる!
もっとも、兵力差は歴然としているため、時間をかければかけるほど、敵は我々の周りの建物を打ちこわし、戦場を広げてくるだろう。そうなってしまえば戦いには負けるが、もとより私たちの目的は時間稼ぎの殿。敵の侵攻を遅らせられるのなら、たとえ未来が敗北しかないにしても、その策をとるべきだと私は判断していた。
『ここなら最大限にまで時間を稼げる。さぁ、来い魔族……人間の最後の意地を見せてやるっ!』
私はそう叫び剣を掲げる。それに堪えるように要塞騎士団の仲間たちは剣を掲げ、鬨の声を上げてくれた。
そんな頼もしい彼らに私は心の中で「ありがとう」と呟きながら、
『門を開けろぉおおおおおおおおおおお!!』
騎士団として誇りある戦死をするために、城門に控えていた兵士たちに指示を飛ばし、城門を開こうとした。
だがその前に、要塞都市の門が一つ目の巨人の一撃によって吹き飛んだ。
なだれ込んでくる魔族軍を、隣に並ぶ騎士と共に必死に盾で防ぎながら、盾の隙間から剣をつきだし、敵の魔族の心臓を貫く私。
だが、その間に城門をこじ開けたサイクロプスがこちらにやってきて、巨大な城門を吹き飛ばした棍棒を振り上げる。
『アビリティ用意! 何でもいい、防御力を少しでもあげろっ!!』
たとえアビリティの力を借りても、はたして人間が耐えられる一撃だろうか? と、私は内心で少し不安を覚えながらも、それでも少しでも時間を稼ぐために、腹に力を入れ、腰を落とし、盾を握り締める。
その時だった。
『待たせたなっ! 同胞諸君!!』
戦場に一つの声が響き渡り、一騎の騎馬に騎乗した一人の騎士が、私たちを守っていた家屋の屋根から飛び降りた!
唖然とする私の眼前を跳躍したまま通り過ぎたその騎馬は、私の眼前に着地し、
『叩き切れっ! 魔剣グラムっ!!』
振り下ろされた巨大な棍棒を、敵の腕ごと斬り落とす。サイクロプスの腕は真っ赤なしぶきをあげ、私たちの宙を飛び越え誰もいない大通りに轟音を立てて落下した。
激痛に悲鳴を上げるサイクロプスを背景に、騎馬に騎乗する獅子のような髪とヒゲを真っ白に染めた、老境の騎士は振り返る。
『あ、あなたは?』
『王都から援軍に参った。十二近衛騎士団《ライダー騎士団》。騎士団長セイヴェルン・ヴィ・レジナンドだ』
彼――セイヴェルン団長が、王都に詰めている《最強》と言われる十二の騎士団の一つを名乗ると同時に、まるで瞬間移動でもするかのように、無数の騎馬に騎乗した騎士団が町の屋根の上に出現し、魔族に向かって頭上から襲いかかってきた。
その数5千以上。数はまだ相手の方が勝っているが、騎士団のメンバーは騎馬と一体になり、人並み外れた跳躍や瞬間移動によって敵軍を翻弄。統率のとれた団体行動で敵魔族軍を蹂躙していく。
対するセイヴェルン団長は、もだえ苦しむサイクロプスの首を一刀のもとに落とし、
『諸君!! 蹂躙、蹂躙、蹂躙であるっ!! 我が国の領土を、ぶしつけにも侵略してきた愚か者に、我等が騎士の力を見せつけてやれっ!!』
瞬く間に騎士たちによって一掃されていく魔族たち。私はそれをしばらく唖然とした表情で見つめていたが、
『もう大丈夫だ。よくやった! お前は素晴らしい騎士であったぞっ!!』
セイヴェルン団長にそう労われ、私はようやく自分たちが助かったのだと知り、
『う、うあ……ああああああああああああああああああああああああああ!』
心の中で何度もお礼を言いながら、死ななくて済んだということに安堵するあまり、情けなく涙を流すのだった。
その後、要塞都市や他の人間領各所も、ダンジョンのせいで安全ではなくなったといこともが判明し、魔族との前線は強制的に要塞都市まで戻されることとなった。
そして、人類防衛の要である要塞都市をまもるために、機動力が最も高い十二騎士団の一つ《ライダー騎士団》が要塞騎士団に編入。その団長、セイヴェルンが新たな要塞騎士団の団長として私たちを率い、魔族との全面戦争の前線を支えてくれた。
また、その団長の手によって、突然魔族の軍勢が現れる理由――ダンジョンの存在が明らかになり、魔族との前線は再び押し返せるようになった。
私たちはそんな偉大なセイヴェルン隊長を誇りに思い、人類の守護神として絶大な信頼を寄せていた。
つい半年前、いつもの魔族ゲリラを鎮圧するために、出陣し……行方不明になるまでは。
◆ ◆
「あの方は……本当に偉大な騎士で。私も、あんな騎士になれればいいなと。だから、たとえ変わり果てた姿になったとしても、あの方に刃を向けるなんて、私にはできません!」
「そうか……」
涙ながらにセイヴェルンとの思い出を語るメルトリンデにワシ――GGYは、そっと嘆息をしながら、なぜ彼女が戦えなくなったのかを理解した。
「あやつのことを本当に誇りに思っておったのじゃな」
「はい。初対面の女騎士である私に、嫌な顔一つせず、騎士としての生き方を、普通の男性騎士に話すように話してくださって」
「じゃが今は、要塞都市を攻める魔族軍の幹部じゃ」
「…………………………」
ワシのその一言に、メルトリンデは顔面蒼白になり、スティーブたちが戦っておる方向に視線を向ける。
そこには、炎を噴出しながら、瞬間移動や大跳躍を繰り返し、スティーブたちを翻弄するデュラハンと、それに何とか食らいついていき着実にダメージを積み重ねているスティーブたちがおった。
とはいえ、攻撃役のワシが抜けておるということが痛いのか、デュラハンのHPは予定よりかなり残っておる。
おまけにワシらには回復役がおらんせいで、HPやMP回復は基本的にスティーブの回復薬頼りなのじゃが、それの使用頻度も随分と上がっておるようじゃ。
ワシのインターセプトで相手の体勢を崩せないことと、攻撃を無効化できないのが痛いのじゃろう。
いますぐ負けるということはないじゃろうが、回復薬が切れたらジリ貧になるしかないのも確か。
じゃからワシらは早めに戦闘に戻らねばならんのじゃが、
「わかって……います」
そう返答を返しながらも、メルトリンデの手は震えておった。
まぁ、あの話し方から見るに、相当尊敬しておったのは分かったからのう。おまけに命の恩人と来ておる、この反応は当然か。と、ワシは内心で考えておった。じゃが、
「それで納得できるかどうかは、話は別じゃ」
「え?」
「のう、メルトリンデ」
じゃからワシは告げてやる。人生の先達として……先に逝くものとしての気持ちを、メルトリンデに。
「お主がここで剣を取り落すなど……あまりに、セイヴェルンという騎士団長が救われんではないか」
「え?」
メルトリンデはワシの台詞に思わずといった様子で絶句した。
「ワシはセイヴェルン騎士団長ではない。生まれも育ちも違う、転生する前はただの商人じゃったし、今も戦闘よりも鍛冶に重点を置く製作者じゃ。決して騎士の思想がわかるとは言わぬ。じゃが、先に逝くものとしてセイヴェルン殿の気持ちを読み取ることはできる。よいか、ワシらは大概のことにもう怯えることはない。もう十分生きた年齢じゃ。やり残してしまったことも多いが、それでもおおむね満足のいく人生を送ってきたと自負しておる。失うもの得るものも少なく、ただの蛇足としてノンビリ生きていく人生よ。その中から怖いものなど、見つける方が難しい」
じゃが。と、ワシはそこで言葉を切り、メルトリンデの瞳がしっかりワシの方を向いていることに確認する。
いま、メルトリンデは勝手に申し訳ないと思い込み、刃を向けることができぬと嘆いた幻の騎士団長ではなく、ワシが語る『死んでしまった騎士団長』をみておるのじゃろう。
「そんなワシらでも、はっきりと恐れているといえるものがある」
「それは……なんです?」
「若い奴らの、邪魔をしてしまうことじゃよ」
「――っ!」
ワシのその一言に、メルトリンデは電撃に撃たれたような顔をした。
そんなに意外じゃったかのう? と、ワシは小さく苦笑しながら語り続ける。
「目標となれるなら、まだいいわい。超えるべき壁と認識されるなら、これほど誇らしいことはない。じゃが、先へと進み続ける若者の、邪魔をするような老害には……ワシらはなりたくないんじゃよ」
ワシは命を懸けて働いた。ただのサラリーマンじゃったし、そのへんの町で棒でも投げれば、あたった人間がその仕事についているといわれるほどの、普通の仕事じゃった。じゃが、そんなワシでも確かにつないだものがある。社会の歯車と言われても仕方ない普通の人生じゃったが、確かにワシの行いは未来へと何かをつなげたのじゃ。
若いころは自分のために働いた。婆さんと一緒になってからは、婆さんのために働いた。若いころなんてそんなもんじゃ。周りが見えていれば十二分。自分を大切にできていればそれでええ。
そして、年を取り子供が生まれてからは……子供のために働いた。
子供の《未来》のために働いたのじゃ。
「若いころは考えてもおらんかったが、年を取って子供ができてからはそれがよくわかった。ワシらは未来のために働いたのじゃ。子供の時は楽しい思い出を作ってやりたい、つきたい仕事に着けるように、何かを学ぶ選択肢を子供がしたとき邪魔せんようにしておきたい、娘の子供ができたときに苦労を分け合えるようにしておきたい……そのためにワシはずっと働いた。その他にもいろいろあるぞ? 次会社にはってくる後輩が少しでも楽しく仕事ができるように会社を良くしていきたい、この会社を未来に残すためにより大きくしていきたい……。その点は騎士団長殿もワシと変わらんじゃろう。騎士団長殿が騎士団長という身分にあるのに、積極的に戦場に出たのは、おぬしたち若い世代をできるだけ生き残らせて、自分がいなくなった未来で、おぬしたちが活躍できるようにしておきたかったからじゃろう」
若い者にはわかりづらいじゃろう。じゃが、年を取り、自分の死が間近に感じられるようになれば、それは分かる。
満足のいく人生ではなかった。すべてがうまくいったなど口が裂けても言わん。じゃが、
「お主たちがしっかりと、未来に向かって歩けている現状が作れたのなら、ワシらは満足して逝くことができる」
「……………………………」
「それが何じゃお主は。騎士団長に申し訳ない? 尊敬していたから刃はむけられない? 戯けっ!!」
「っ!!」
いつのまにか、ワシの声は震えておった。どうやらわしは珍しく、憤っておるらしい。
「そんなことを誇りある騎士が……おぬしたちが未来へと歩けるように必死に戦った騎士団長が、望んでおると思っているのかっ!!」
「それ……は」
メルトリンデの瞳が、わずかに揺れる。そして、その瞳が一瞬何かを捕えた気がした。じゃからワシは最後に懇願する。もう語れぬ騎士団長の代わりに『先に逝く者』としての懇願を、『未来へ行く者』に切々と訴える。
「頼む……ワシらの最後の生きざまを《老害》にするのはやめてくれ。お前たちの歩みを止めてしまう、醜く薄汚い障害物にしないでくれ。どうかその歩みをとめず、ワシらの屍を超えて……先へ行ってはくれまいか」
「……」
そしてメルトリンデは、
「――――――――――――――――っあ!!」
答えを出した。
◆ ◆
「まずいな」
俺――スティーブはそんな呟きを漏らしながら、わずかだが……しかし着実に削れていくジョンのHPを見て、舌打ちを漏らす。
いくら何でもこなすオールマイティープレイヤーであるジョンであっても、防御専門職でない以上、やはりボス相手に何のアシストもなしに壁をするのは無理があった。
本来なら爺さんが代わりに相手の攻撃をインターセプトして、ジョンの負担を軽減する予定であったし、メルトリンデが入ってからは二枚盾で安定した戦いができると期待していた。
だが、結果はこのざま。予想外も甚だしい。
「運営はまったく悪質なイベントを設けやがる……」
これでこのイベントクリアしても何もなかったら、掲示板で訴えるぞ。と、俺は内心考えながら、隠行を張り付いていた壁から飛び出し、デュラハンの背後から奇襲を仕掛ける。が、
『小癪な!』
「っ!」
デュラハンはその一喝と共に、俺が襲い掛かった場所から瞬間移動で消失し、エルの背後に現れた。
驚き振り返るエルの背後で、突撃槍を引くデュラハン。だが、俺たちはそれすら予想している。
ちょうど相手の瞬間移動のリキャスト時間だ。俺が背後から急所を狙えば、必ず使ってくると踏んでいた。
「どこ見てんだよ!」
『ぬぅ!?』
当然俺と同じように、デュラハンが移動することを読んでいたジョンは、装備していたはずの大剣を、片手でぶんなげてデュラハンに直撃させた。デュラハンは不意を突かれ突撃槍の攻撃を一時的に止める。同時にエルはその場から飛び退きつつ、置き土産とばかりに地面に触れながら魔法を発動。
「《グランホールド》!!」
アビリティの発動を命じる発生と同時に、大地が双方向から勢いよくせり上がり、まるで大地から巨大な口が飛び出たかのように、デュラハンが騎乗する軍馬を挟み込んだ。
グランホールド。通称トラバサミといわれる地属性の拘束魔法。相手を一定時間拘束できることと、その間継続ダメージが与えられることが特徴で、ボスにも必ず効くという点から攻略前線でもよくつかわれる大技だ。
だが、ボスに効くというだけであって、その拘束時間は一般モンスターに使うよりはるかに短い。
もってせいぜい15秒。その程度しかないので、できることと言えばジョンがポーションを飲んでHPを回復させ、投げ捨てた剣の代わりに新しい剣を作ることくらいか。
MPも時間経過と共に回復していく仕様なため、15秒という時間はMP回復という観点からはありがたいと言えばそうなのだが……。
「クソッ! このままじゃジリ貧だな!!」
「グランホールドのリキャストまであと45秒です」
「他の拘束技も用意しておけ」
「いいですけど、あれだけ早く動かれると、当てるの難しいですよ? 範囲で焼いた方がいいと思います」
「だめだ。転移と同時に相手のヘイト値は完全リセットされるんだぞ。またジョンがヘイト値ためるまで、後衛組は基本的に攻撃禁止!」
そんなことを俺らが言い合っている間に15秒が経過する。
同時にトラバサミを砕きながら、騎馬による疾走の準備動作を見せたデュラハンに、走っていたジョンがハウリングを使う。
だが、
「げっ! しまったっ!! 範囲外か!?」
「なっ!?」
激しい戦いで集中力を欠いたせいか、ジョンがデュラハンとの相対距離を見誤り、ハウリングの効果範囲外でアビリティを発動させてしまった。
当然敵のヘイト値はジョンに振られない。代わりにトラバサミを発動させたエルに、その視線はロックオンされており、
「あ、あれ……?」
「エルっ! 範囲魔法用意!! こっちに来るぞっ!!」
「は、はい!」
こうなったら俺が盾になるしかない。こっちも紙装甲だけど、魔法使いのエルよりかましだ! と、俺は腹をくくり短剣を構えた。
同時に、デュラハンは疾走を開始し、流星のような速度で俺達に向かって突撃してくる。
その時だった。
「はぁああああああああああああああああ!!」
その流星にむかって、大地をかけた疾風が激突したのは。
甲高い金属音と共に火花が飛び散り、疾風が持っていた盾によって、完全に突撃を防ぎきられた騎馬が不機嫌そうにいななく。
同時に、盾からは鼓膜を震わせる澄んだ鐘の音のような音が響き渡り、
「アビリティ《戦士の鐘楼》!!」
ジョブスキル《ナイト》のヘイト値稼ぎのアビリティである《戦士の鐘楼》によって、デュラハンの瞳は完全にその疾風へと向いた。
疾風の正体はもちろん、
「遅くなってすいません! メルトリンデ、これより戦線に復帰しますっ!!」
さきほどの、絶望したかのような顔はどこにも見えない、凛々しい騎士の顔をした女騎士――メルトリンデが、俺たちを守るためにデュラハンの前に立ちはだかっていた!
「はっ! か、カッコイイですっ!」
「とはいえ戦犯だからなお前。貴重な戦力2つも削りやがって、あとでなんか奢れ!」
「うっ。す、すいません……で、ですが騎士は安月給でして、手心を加えていただけると」
そんな事実は知りません。というか知りたくなかったわ。と、ようやく帰ってきた人間臭いNPCのイベントキャラに悪態をつきながら、俺はもう一人の帰ってきた戦線離脱者に視線を向ける。
そいつはすでに自分の仕事に入っており、メルトリンデが抑え込んだ騎馬に向かって突撃していた。
狙うは槍を持っていない右方向。
デュラハンは《戦士の鐘楼》で完全にメルトリンデにくぎ付けで、そいつの接近には気づかない。
そして、
「それ、反撃の号砲を受けておけよっ!」
新たにソイツ――GGYがアイテムストレージから取り出したそのハンマーの一撃が、馬の無防備な腹へと叩きこまれた!
『アイテム名:異世界のリボルパイルハンマー
性能:筋力+310 追加ダメージ+35% 《貫通属性付与》 攻撃時MP-10
内容:鍛冶職人GGYが作り上げたこの世界にはない機構を組み込んだハンマー。打撃面にあいた穴からは、打撃の衝撃で着火した火薬によって打ち出される鉄杭がしこんであり、相手に貫通ダメージを与えることができる。ただし火薬は魔力で作られるため、能力発動にはMPが必要。なくなるとこの機能は不発になる
品質:☆☆☆☆☆★★★★★』
まるでリボルバーのような回転機構と、ハンマーを打撃面に仕込まれたスイッチによって倒れる、起き上がった撃鉄が特徴的なそのハンマーは、デュラハンの体に叩き込まれた瞬間、轟音と共に硝煙をまき散らしながら、打撃面にあいた一つの巨大な穴から、鈍色の鉄杭を放出。
馬の体に風穴を開けた!
『ヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!?』
そんな悲鳴なのか鳴き声なのか、よくわからない絶叫を上げポリゴン片になる騎馬。同時にデュラハンはその場に投げ出され、重たい鎧をすべて自分の体で支えなければならなくなった。
一気に動きが鈍くなるデュラハン。それを眺めながら、俺は帰ってきたGGYを見て一言。
「今までさぼっていたくせに、いいところ持っていきやがって!」
「それがワシの仕事じゃし?」
「おまえ、ノーマルクランメンバーに格下げすんぞっ!」
「なっ!? り、理不尽じゃろうそれっ!!」
「お前、さっき若い連中に道を譲るのが老人の生き様とか言ってなかったか?」
「楽できる役職に折るんじゃから、楽できる間に楽するのは当然じゃろう? 若い連中にこんなおいしい職は譲れんっ!!」
「すっかり老害に成り果てているぞ、爺さん!!」
そんないつもの軽口を叩きながら、俺は探検を構え再び隠行で姿を消す。
「よしお前ら、この戦い……絶対勝つぞっ!!」
『おうっ!!』
俺達はようやく、一つのチームに戻った。
終らなかった・・・だと!? つ、つぎこそはっ!
ちなみに異世界武装は品質10になったらオリジナルの名前を付けられるのですが、頭には必ず《異世界の~》がつくシステムになってます。
そうじゃないと分かりませんしね……。