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騎士団長の亡霊

あまりよろしくないということで、Johnの報酬に関しては編集しておきました。


よければ見ておいてください^^;

『蹂躙、蹂躙、蹂躙である!!』


 ストーリークエスト四章『首無騎士の侵略』ボスモンスター口上より抜粋。




…†…†…………†…†…




「うらぁああああああああああああああああああ!!」


 メルトリンデと、ジョンの盾に押さえつけられたリトルタウロスの頭部に、ワシのハンマーがめり込んだ。

 小さな角が生えている、子牛の頭部に筋骨隆々とした成人男性の胴体を持つそのモンスターは、それによってようやく粉砕。ボス部屋の前にいたモンスターたちを、ワシらは殲滅し終わる。


「ふー。助かりました」


「いやなんの。こっちこそ、不足しておった盾役が来てくれて助かっとるよ」


 フルフェイス兜の面頬をあげ、こちらに頭を下げてくるメルトリンデに、ワシはお互いさまじゃと手を振りながら、リトルタウロスのドロップ品を確認し、舌打ちしているジョンに視線を向けた。どうやらいい素材は落ちんかったらしい。


「というかぶっちゃけ、メルトリンデさえおればジョン呼ぶ必要なかったのう」

「ほんとうね。ごめんなさい」

「おいおい、俺がいなかったら冷化ドリンクの素材集めできなかったろうが」


 わかっておったら、妙な依頼料を請求されることもなかったろうに。と、すこし惜しそうにつぶやくワシに、ジョンはわずかに顔をひきつらせながら肩をすくめよる。


「まぁ、いまさら払うって言ったもんを渋っても仕方ないだろ爺さん」

「それより、ようやくこの場に来たことを喜びましょう!」


 そんなワシをなだめるように肩を叩いたのは、エルとスティーブ。彼らはワシらの眼前にたたずむ巨大な黒鉄の扉を見上げ、感慨深げにため息をついた。


「これでラストだ」

「長かったですね……」

「まだ、最後にワールドボスが控えておるがな」

「なんと、このまま御大将の首まで討ち取りに行くつもりですか?」


 おっと、いけない。と、ワシは驚いたようにこちらを見てくるメルトリンデに、ほんの少し苦笑いをした後「まぁ、そんな感じじゃ」と誤魔化しておく。

 この世界の住人であるNPCに、この世界がゲームと思わせる言動は厳禁。プレイヤーマナーにもとるところじゃったわい。

 じゃがまぁ、長い長いストーリークエスト攻略の道が、ようやくひと段落つくんじゃ。ワシが安堵のあまり口を滑らしてしまうのも、少々なら仕方なかろう?

 ワシは内心でそんな言い訳をしておる間にも、パーティーリーダーであるスティーブが、ワシらの状態を確認していく。


「爺さん」

「装備耐久度は万全じゃ。いつでも行けるぞ?」

「了解だ。エルは?」

「MP回復完了しました。いつでも行けます」

「そいつは上々。YOICHIさん?」

「矢数が少し不安ね。おじいさん即席で作っていくつか譲って」

「素材はもってきておるから幾らでもいえ」

「大丈夫そうだな。ジョンはどうだ?」

「俺はさん付けじゃないの? まぁいいが……。素材は心もとないが、戦闘には支障はない。うまくやりくりするさ」

「オッケー。最後にゲストのメルトリンデさん。気合いはいいか?」

「無論! 要塞騎士団の力、存分にお見せいたしましょう!」


 不敵に笑い、緊張したように頷き、ワシから矢をもらい、アクセサリーアイテムである煙草に火をつけ、装備する盾に剣をぶつけて打ち鳴らす。

 そんなワシらの頼もしい態度を見て、スティーブは一つ笑ってから、


「よし。さっさと片付けて、うちの食堂で祝勝会だ! 予約はもう入っちまっているうえに俺のおごりだからな、お前ら……死んじまってこれませんなんて、情けないこと言うんじゃねぇぞ!」


「「「「「おうっ!!」」」」」


 一斉に返答を返したワシらに背を向け、ジョンは黒鉄の扉に手をかけ、勢いよくその扉を開いた。




…†…†…………†…†…




 扉を開いた先に待ち受けておったのは、玉座にもたれかかるように座った、どこか見覚えのある白銀の甲冑に身を包む騎士じゃった。頭上には《Sir(サー) Durahan(デュラハン)》という名前が浮き出ておる。

 ただし、前情報の通り奴には首がなくその断面には、鎧の各所から吹き出ている炎と同じ、黒紫色に輝く炎が漏れ出ておった。

 鎧に隙間がないとはこういうことか……。と、鎧の各所から噴き出る炎が、かなりの勢いであることから、あそこに攻撃をしても、なまなかな攻撃では押し返されることがうかがえる。


『おぉ、我が神よ。新たな強敵の来訪感謝する!!』


 いつも通りボスモンスターの口上が始まる。じゃが、今回は邪魔をすることはない。一時のダメージ欲しさに、常に強化状態にしていい敵ではないからじゃ。

 さすがは前線ボスの一体といったところか、このサーデュラハン。機動力と防御力を併せ持つ凶悪な敵じゃ。前線のプレイヤーであっても、パーティーメンバー全員をダメージディーラーにしても、HPを削りきるのに30分はかかったという凶悪なHP総量と、防御力をもっておる。

 いくらワシとエルの攻撃が強力じゃからと言って、吸血鬼のように強化状態を瞬殺できる相手ではない。

 ここはセオリー通り、盾によってデュラハンを押さえつけながら、ワシらが側面、エルとYOICHIが後方から魔法と弱点狙いの狙撃でHPを削っていくしかないかの。と、そんなことをワシが考えながら、スティーブの指示を待っておる時じゃった。


「あ、あぁ……!」


 ワシらの前で、ジョンと共に盾を構えておった、メルトリンデが突然顔面蒼白になり、震えだしたのじゃ。


「どうしたっ!?」


 さすがに何かがおかしいと思ったワシは、慌ててメルトリンデに駆け寄り話し掛ける。まさかデュラハンに《恐慌》の状態異常を使う能力があったのか? とも思ったが、そんな前情報は聞いておらんし……。と、ワシが考えていると、


「あの鎧……あの徽章は……まさか、あれは……半年前に行った魔王軍への反撃作戦で戦死された、《セイヴェルン騎士団長》!!」

「……なに?」


 なんじゃそれは? そんな設定あったか? と、ワシが後ろを振り返っても、他の面々も同じように顔をひきつらせて首を振ってきた。どうやら全員知らんかったらしい。

 じゃが、確かに言われてみればあの見覚えのある全身鎧は、メルトリンデが装備しておる、騎士団の甲冑に似ており……。


『騎士団長?』


 デュラハンの方も反応しておった。


『騎士団長……ちが。我は……俺は、せいヴぇるん・ヴぃ・れじなんど……ちが、さーでゅらはん。おれは、騎士団長では……我は、』


 まるで壊れたラジオのように、交互に一人称が変わり、デュラハンの体ががくがく震えはじめる。

 そして、


『あ、あぁああああああああああああああ! ちがう、ちがう! 魔王軍幹部などでは……やめろ、おれをこれいじょう、殺さないでくれ……あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』


 長い長い絶叫がボス部屋内部に響き渡る。そしてそれは唐突に終わり、デュラハンの全身から漏れ出ていた炎が、さらに勢いをまし、両肩と両足の付け根から噴き出る炎が、まるで翼のように広がった。


「ちょっ!?」

「いきなり激怒状態とかっ!?」


 どういうことじゃ!? と、ワシとスティーブが悲鳴を上げた瞬間、デュラハンが絶叫する!


『やらねばならぬ、諸君(・・)!! 蹂躙、蹂躙、蹂躙であるっ!!』


 誰もいない背後を振り返り、狂ったように叫びながら、デュラハンは虚空から全身黒紫色の炎に包まれた巨大な馬を呼び出し、それに騎乗する。するとデュラハンの体はみるみる巨大化し、目算で四メートル近い高さになり、ワシらを見下ろしてきた。


『戦争だ!!』


 最後の言葉と同時にボス部屋に、戦意を高揚するようなBGMが流れだし、敵が攻撃を仕掛けられるようになったことをワシらに主張してくる。じゃが、


「そんな……勇敢で偉大だったあの方が、あんな……あんなことにっ!!」


 そうなってもメルトリンデがへたり込み動いておらん!


「くそっ! カバーはいれ、ジョン!! YOICHIとエルはメルトリンデ引きずって、予定通り安全圏まで! 爺さんと俺で、デュラハンがそっちに行かないようにカバーするぞ!」

「わかったわ!」

「は、はい!」


 スティーブから慌てたような指示が響き渡り、YOICHIとエルが慌てたようにこちらに駆け寄ってきた。じゃが、


『死ぬがよい……』


「っ!!」


 前に立つジョンを完全に無視し、ワシやメルトリンデと、後方に離れていたスティーブたちに割り込み、デュラハンが突然出現した!


「っ!?」


 驚愕に目を見開くワシの脳裏には、あの医者に教えてもらったデュラハンの能力が思い浮かんでおった。


《一瞬幽体になってすべての攻撃を受けない状態にしてからの瞬間移動》


「開幕早々にそれ使うとか、幾らなんでも鬼畜過ぎるじゃろうがっ!!」


 とはいえ、相手はすでに《激怒》状態。常に全力で戦ってきよるのじゃから、何をしたっておかしくないが……。と、ワシが内心で考えている間にも、ワシの体は即座に動いておった。

 年寄りの体は、考えるよりも先に条件反射が先に立つ。ものを考える力が弱っておる代わりに、長年の癖が知らず知らずにうちに出よるのじゃ。

 今回はそれが幸いしよった。


「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 一喝と共に、馬上から振るわれた円錐型の穂先を持つ突撃槍の一撃を、ワシのハンマーが見事に迎撃し、その一撃を押し返した!


『小癪なっ!』


 驚愕の声とともに悪態をつく騎士は馬上でのけぞり、馬も棹立ちになって隙だらけの姿を見せる。

 そこに現れたのは、背後に回られたことに気付き、ワシらの前まで走ってきたジョンじゃった。


「そっちこそ、正々堂々戦おうってしている盾役を無視して、戦意喪失者狙うなんて……大した騎士道だなっ!!」


 同時に、手に装備していた片手剣を盾にぶつけ、甲高い音をボス部屋全体に響かせた!


「こっち向けよ……クソ野郎!」


 今回の戦いのために、ジョンが控えスキルから引き出しよったスキル、《挑発》のアビリティ《ハウリング》じゃ。

 これによって聴覚を攻撃されたデュラハンは、耳などないじゃろうに律儀にジョンの方を振り向き、そちらに向かって突撃槍を繰り出す。

 火花を散らしながら、ジョンがその攻撃を盾でいなす間に、YOICHIとエルが到着し、ワシと共にメルトリンデを出入り口付近の後方まで下げてくれた。

 怒涛のような突撃槍による刺突と、瞬間移動と跳躍による多彩な方向からの刺突を、ジョンはよくしのいでおった。

 盾が砕けた瞬間はいささかひやっとすることもあったが、いつのまにか隠行で姿を消しておったスティーブが、ジョンの盾が砕けた瞬間、弱点である首の断面まで跳躍し、全力の短剣攻撃を決めることによってヘイト値を重ね、タゲをジョンからそらし、槍の攻撃を軽やかによけながら、ジョンが再び盾を制作するまでの時間を稼ぐということを繰り返すことで、何とかその攻撃から逃れておった。

 あちらは何とかなりそうじゃ。倒せはしなくとも、危なげなく時間を稼げておる。問題なのは、


「メルトリンデ……」

「す、すいません……。いま、今立ちますから」


 いまだにガタガタ震えておる、メルトリンデじゃった。

 彼女は何度も足に力を入れて立ち上がろうとするのじゃが、そのたびに失敗し、わずかに上がった体をしりもちをつくように降ろしてしまう。

 それほどまでに衝撃じゃったか……。と、ワシは思わず顔をしかめる。

 わざわざ騎士団の重要人物を、魔王軍の幹部の一人に作り変えてしまうその悪質な手腕に。

 普通の騎士なら殺して放置をしたであろう所を、あの騎士団長だけは自由自在に操れる亡霊として、わざわざ作り直したのじゃろう。今のメルトリンデのような衝撃を、騎士団全員に与えることができると知っていて……。

 有効な手段じゃ。おそらく敵は恐ろしいほど頭がさえ、冷徹な人物なのじゃろうとワシは独りごちる。じゃが、


「だからと言って手放しで評価してやる気にはなれんが……」

「お爺さん、どうしましょうか?」

「あの二人にばかり任せていられないわ。今のところ拮抗状態を作れているけど、あいつらの集中力がいつまでもつかわからない以上、こちらも早く戦線復帰しないと……」

 そう言ってくるエルとYOICHIに、ワシは目を閉じ考える。

 所詮ゲームじゃ。使えぬやつは放置してかまわん。今のメルトリンデが展開しているストーリーも、恐らくは隠し要素を見つけたプレイヤーに対する、ちょっとしたサプライズ。放置したところで、ワシらの攻略には一向に影響はない。むしろ本来ならばメルトリンデなしでこの戦いに挑むつもりじゃったのじゃから、これが本来の形ともいえる。

 結論として言うならば、このままメルトリンデを安全な場所に放置して、ワシらはボス戦闘に戻るのがベストじゃ。

 じゃが、


「すいま……せん」


 その結論を実行することは、ワシには出来んかった。


「足手まといになってしまって……。こんな、こんなことで……あなたたちの足を、引っ張ってしまうなんて」


 涙を流しながら、許しを請うメルトリンデを放っておくことはできなかった。

 ワシの脳裏に思い浮かぶのは、幼いころの孫の姿。ワシの家にあった何かを壊してしまい、泣きながら謝る孫の顔じゃった。

 何を壊されたのかはもう思い出せん。思い出せんくらいに、大したものではなかったのじゃろう。だが、孫にはワシの物を壊したということがとても大切なことで、とても悪いことに思えておったのじゃろう。

 そんな孫のことを、ワシは放っておくことができんかった。何とか泣き止んでほしいと、四苦八苦しながら謝る孫を許す言葉を重ね、なれない慰めの言葉を必死にかけたのを思い出す。

 そんな孫の姿と重なる今のメルトリンデを、ワシは……。


「YOICHI、エル……すまんが先に戻ってくれ」

「え?」

「いいの? 骨折り損かもよ? たとえそうじゃないとしても、積極的にかかわらなくてもいいことよ」

「かまわんよ」


 YOICHIの冷たい言葉に苦笑いを浮かべながら、ワシはメルトリンデの向かいに座り驚いたように開かれた彼女の目に、視線を合わせた。


「悩んでおる若者の話を聞くのは、年よりの大切な仕事の一つじゃよ」


 所詮ゲームじゃと割り切れん、バカな老人の我儘。

 そう罵ってくれて構わんと、ワシは内心自虐しながら、


「さて、メルトリンデ。茶でも飲んで……と言いたいところじゃが、茶はないからのう。まぁ、ゆっくり話せ。焦ることはない……ワシの仲間はお主とワシが話す時間くらい、ちゃんと稼いでくれる連中じゃ」


 そんなワシの押しつけがましい言葉を聞いても、YOICHIとエルは「困ったお爺さんね」「無理しないでくださいよGGY」と、悪態のような苦笑い交じりの言葉を残し、ワシの言葉に答えてくれる。

 そんな頼もしい仲間たちに守られながら、ワシは一人の女の涙を止めるための、戦いを始めるのじゃった。


デュラハン編思った以上に長くなりそう……。つ、次でラストだからっ!(白目

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