YESロリータ! YESタッチ!!
注:副題を実行した場合は犯罪となります。よい子のみんなはマネしないでね?
「くくっ! よく来た転生者よ。ここが貴様等の墓場だ」
「破竹の勢いでここまで来たようだが、その快進撃もここまで。貴様らが得意とする奇襲も我には通じぬ」
「なぜなら我は、あの方と同じ《魔眼》を持っているのだから」
「たとえどのようなスキルを使い、身を隠そうとも、この我には通じぬぞ」
「さぁ……存分に踊り狂え。あの方の野望をことごとく打ち砕いてきた下等種族どもが。あの方の真の忠臣であるこの我が、貴様らの希望……粉々に打ち砕いてくれるわっ!!」
ストーリークエスト三章『死者の呼び声』ボスモンスターの口上より抜粋。
…†…†…………†…†…
ジョンの無双によって、夜襲狼を一蹴したワシらは、再び要塞都市の領主館へと戻ってきておった。
「ありがとう。転生者諸君。おかげで夜襲狼の被害も沈静化した」
「それは何よりでございます」
相変わらず折衝役はワシじゃ。他の連中は跪いてはいるものの、あくびをかみ殺したり、ジョンに払う報酬を捻出するために、脳内でそろばんをはじいたりしておる。
まったく。ワシのような頑固ジジイに折衝させていい気なもんじゃ……。と、ワシはそんな二人――エルと、スティーブに嘆息した後、
「……」
ええかげんに変わらんか? と、最後の希望じゃったYOICHIとジョンにも視線を向けてみる。
結果は盛大に目をそらされて、口笛を吹かれたが。
おいおぬしら。変わってくれんのはいいから口笛はヤメンか、貴族に対する礼うんぬん以前に、人として失礼じゃろうが。
「だがしかし、根本的な解決にはまだ至っていないのも事実」
「おっと。といいますと?」
いかんいかん。まだ話の途中じゃった。と、ワシは領主の言葉が続いていたのを聞き、慌ててそちらに視線をもどした。
ワシの視線の動きには気づいておったのか、領主は物凄く胡乱げな瞳でワシを見つめておったが、何とかセーフラインにはとどまっておったのか、特に投獄を申し渡されることもなく話を続いた。
「あの夜襲狼たちはもともとはただの狼だった。それが唐突にモンスターになり、我らの工兵隊を組織だって襲うようになったのだ」
「それはまたどうして?」
「原因は分かっておらん……」
それの調査どころではなかったからな。と、領主は嘆息しながら、「人手が足りんかったのだ」と言い訳をする。そんな彼の姿に、どことなく現実の苦労している会社の社長のような雰囲気を感じとり、ワシは思わず同情の念を抱いた。
ワシが務めて負った会社の社長も、昔は社長のくせに現場に出てきて働いておったからのう……。ワシが入社したころはうちの会社も中小だったし。上場企業になれてからは社長も何とか落ち着けるようになったみたいじゃけど。
と、ひとり若いころの苦労を思い出しておる間に、話は進んでおった。
「そこでだ、夜襲狼の被害がひとまず沈静化したのを機に、なぜ普通の狼がモンスターになったのかを調査したい。とりあえず、お前たちが退治し回収してきてくれたこの夜襲狼の素材を、ある男のもとにもって行ってほしいのだが」
お願いできないだろうか? と、領主がそう言うと同時に、ワシの目の前に再びクエスト受諾画面が出よった。
無論ワシらに否が選べるわけもなく、ワシはさっさとYESのボタンをタップし、領主に頭を下げた。
「かしこまりました。必ずや迅速に届けてみせましょう」
「助かる。そうじゃ、道案内にわが騎士を一人つけよう。あ奴と会うなら色々と役立ってくれるだろう」
だが、その瞬間、突然攻略掲示板には載っていなかった台詞を領主が発し、ワシは思わず固まってしまった。
先ほどまで興味なさそうにしておった後ろの面々もワシと同じようで、「何が起きている?」と言いたげに目を見開き、ワシの背中に視線を突き立てておった。
いや、ワシなんもしとらんって!
そんなワシらの反応をしり目に事態は進んでいき、
「メルトリンデ。この者達を《探究薬師》の元まで連れて行け」
「御意。すべては我が主の命のままに」
王を守るように謁見の間の両側に並んでおった騎士の中から、ひとりの騎士が歩み出てきて王の前に跪き兜をとった。
兜の中からあふれ出たのは、さらりと流れる美しい金の髪。鎧を着ていたためかわずかに汗ばむその顔は、健康的な色気を男性に提供する。そして、その騎士はワシらの方を振り返り、
「では転生者殿。短い間だがよろしく頼む。《要塞騎士団》の十騎長を務めている。メルトリンデ・アスカロン・ヴィ・リーニアだ」
その凛々しい顔から誇らしげな雰囲気をだし、ワシに手を伸ばした。
言うまでもない。それはファンタジーの王道として多くの男性プレイヤーが憧れる、
「お、女騎士じゃとぉおおおおおおおおおおおおお!?」
「? 女の騎士がそんなに珍しいか?」
よくある女騎士設定の「性別による差別を嫌う」一面を見せつけるがごとく、ワシの言葉に不機嫌そうな顔をする女騎士――メルトリンデに、ワシは固まることしかできんかった。
…†…†…………†…†…
「このクエストにこんなイベントがあるなんて、知っておったか?」
「んなわけねぇだろ爺さん。というか、あんな美人のNPCが一時的にパーティーに入るなんて、判明していたら掲示板で祭りになっているよ!!」
「スティーブさんの言うとおりです。あんな綺麗な……くっ。ゲーム内だからって、あんなに完璧美人にするなんて。現実の自分がみじめになります……」
「エル。気を確かにもちなさい。ゲームキャラに劣等感抱いてどうするのっ!? それで、普通のルートのことなんだけど……確か、案内なんてなくて普通に地図を渡されて終わりだったと思うわ」
「隠し要素キタ━━━━━━━━━━━━ !!!!!」
「むぅ……。ジョンの言うとおり、間違いなくそれではあるのじゃろうが、トリガーがわからん」
領主館から出てしばらく。NPCしかおらんストーリーエリア内の要塞都市を歩きながら、ワシらはたがいに額を突き合わせて、ワシらの前を先導するメルトリンデに関して意見を交わし合っておった。
何分今まで前例が発見されておらん、ストーリークエストの隠し要素じゃ。もしかしたらこれがワールドボスを倒すためのヒントになるかもしれんしのう。ワシらの興奮もひとしおじゃろう。じゃが、
「あの……先ほどから何の相談を?」
「あ、いや……」
「すまん。ちとパーティー内で意見の統一をな!」
「??」
NPCであり、この世界の住人そのものであるメルトリンデには、そんなことは関係ないのか、不思議そうに首をかしげてワシらの方を見ておった。
NPCたちは基本的に『この世界がゲームの世界だ』と知らないように――というかまったく知らずに普段の生活をしている。よほど外の世界の認識がないとまずい存在――課金アイテムの販売員など――は『もう一つの世界』という形でワシらの《現実世界》のことを口にするが、それ以外のキャラクターはゲーム内の世界観を壊さないように、この世界がゲームだと思わせるような言動はしないし、知らないゆえにできないようになっておる。
じゃからこそ、プレイヤーたちも基本家にNPCにわざわざ現実世界の話は振らんし、ゲームの攻略法云々の話もしないようにするのが、TSO内でのマナーなのじゃ。
とはいえ、今回はワールドボスが攻略できるかどうか瀬戸際で見つかった、隠しイベントじゃ。極力情報を集めたいのも事実。
そこでワシらは腹をくくり、メルトリンデに言葉を選びながら話し掛けることにしたのじゃ。
「のう、メルトリンデ殿。先ほど言うておった《探究薬師》というのはいったんなんなのじゃ?」
まずは基本情報の確認じゃ。
普通のルートでは、この段階でワシらが訪れるべき場所は、領主館内にある領主が運営する研究機関だったはずじゃ。
じゃがしかし、ワシらは今、領主館から外に出て、要塞都市の外周部に向かっておる。
正直どこに行くのかもわからなかったから、極力早くに聞いておきたかったのじゃ。
「あぁ、そういえば詳しい説明はまだでしたね。《探究薬師》殿は、もともとは領主さまに仕えていた薬剤研究師なのですよ。ただ、最近はお年を召されたということもあって、去年の末ごろに職を辞され、今は町の郊外でのんびりとした老後をお過ごしなのです」
「ほう。その引退した人間のもとにわざわざワシらを送りつけるということは、よほど優秀な方なのでしょうな」
定年退職してもなお頼られる人物ということで、ジジイとして若干のシンパシーを感じておった、ワシは若干誇らしくなる。そんなワシに、メルトリンデは苦笑いを浮かべ、
「えぇ、まぁ……優秀な方ではあるのですが」
「ん?」
奥歯に物が挟まったように、わずかな言いよどみを見せるメルトリンデに何かを感じ取ったのか、今度はスティーブが口を開いた。
「なんだ? 何か問題でもあるのか? もうボケが進み始めているとか?」
「…………………………認知症じゃぞ?」
「固いこと言うなよ、爺さん」
「ほう、ならお主の固い頭を今ここで砕いてくれようか?」
「落ち着いてお爺さん!?」
まったく。せっかく政府が言い方治した意味がないじゃろうが。と、怒り狂うワシをエルが必死に押しとどめる。
そんなワシらに任せていては話が進まないと思ったのか、小さく嘆息した後YOICHIが、一言。
「まぁ、認知症云々はともかく、問題はあるのね?」
「……口さがなくいってしまうとそうなのです」
と申し訳なさそうにしながらも、それでもはっきりと問題ありと口に出すメルトリンデに、ワシは少し驚いた。
そして、礼儀正しい騎士に見えたメルトリンデに、そこまで言わせる相手に少しどころではない不安も同時におぼえ、
「なぁ、いきなり核心になるけど、その問題ってのはなんなんだ?」
「いや……そのぉ」
ジョンが焦れたように核心をつくのにあわせて、ワシは首を縦に振った。その時、ワシらは町の出口に到着し、そこから見えるなだらかな緑の丘陵を視界に入れた。
そこは城壁内の小さな牧草地帯で、緑の丘陵にはヒツジや牛などがのんびりと歩いておった。
そして丘陵の上には、煙突がちょこんと出た小ぢんまりとした小さな家が建っていて……。
『………………………………………』
「……あぁ言った感じでして」
その小さな小屋の窓からは、毒々しい七色の輝きを放つ煙が噴き出ておった。
その光景にワシらが思わず絶句する中、小屋の中から小さな爺さんが飛び出してきて、ゲホゲホむせながら小屋に向かって悪態をつく。
「かーっ! なんじゃなんじゃ、ちょっと調合間違えたくらいで、妙な反応起こしよって!! 《冷化ドリンク》作ろうとしただけじゃろうが! ばーかばーか!! しゃーない。《冷化ドリンク》が期待できない以上、二日酔い治すための最後の手段をとるかのう。……迎え酒じゃ!! 煙が収まるまで町の酒場で、飲んで飲んで飲みまくってやるわい!!」
「…………………………………」
そんな、明らかにダメ人間まっしぐらなことを言って、酒瓶片手にフラフラと歩き出す老人の姿は、どこからどう見てもアル中爺そのもので、
「あれが《探究薬師》かのう?」
「あれが《探究薬師》殿です」
乾いた笑みを浮かべるメルトリンデの答えに、ワシは思わず頭を抱えた。
…†…†…………†…†…
「領主からの依頼だと? 引退した爺に何させようというのじゃ、あの小僧」
「あ、あの……一応領主さまですので、そういった暴言は慎んでいただきたく」
「はっ。こちとらあの小僧が母親にオシメ変えてもらっているときから、生きてるんじゃぞ。敬語なんぞかったるくて使ってられるかい!」
とにかく話だけでもしてみようという意見に落ち着いた、ワシらとメルトリンデは、酒場に行こうとする老人――探究薬師を何とか捕獲。そして室内に蔓延した毒煙を、マスクをしながら窓を開け、換気することによって何とか排除し、酒を飲みに行くのを止められ不機嫌そうにする探究薬師に、何とか話を聞いてもらっておった。
対する探究薬師の態度が、その言動になるわけで。
「ワシは今二日酔いで頭が痛くてロクに頭が回らんのじゃ。いきなりそんな話を聞かされて、狼の素材を渡されたところで、何かができるわけないじゃろうが」
そう言ってキーキーと叫ぶドワーフの老人――《探究薬師》ことオズワルド・ストリングスは、「じゃから迎え酒じゃ」と言ってさっさと小屋を出ようとしよる。
当然メルトリンデやワシらとしてはそれを許すわけにもいかず、小柄な体のどこにこれほどの力を隠していたのかと思えるほど、力強くワシらを引きずりながら歩き出すオズワルドを必死に止めなければならんわけで。
「酒なんて飲んだら今度は酔ってまともな調査ができんと言うじゃろうが!」
「当然じゃ!」
「ためらうことなく認めやがったぞ、このジジイ!?」
「うぅ。なんで私たちだけこんな苦労を……」
「隠し要素めんどくさいわね」
「だな」
「いっとらんで手伝わんか、傭兵組!?」
ギャーギャー云いながら自分に縋り付いてくるワシらを、オズワルドは鬱陶しげな眼でこちらを見てくる。
まぁ、定年退職したのに元の職場から「また仕事してくれねぇ?」といわれたら、うれしい云々以前に、めんどくさいという気持ちが先に立つのは分かるがのう!?
どう説得したものか。と、ワシはオズワルドに引きずられながら、必死に頭を回す。その時じゃった、
「もう、オズワルドおじい様っ! アルコールは断たれると、数週間前に母と約束しましたよねっ!? また母さんに『オジサマ酒臭いですわよ』って、言われたいんですかっ!?」
「なっ!? き、貴様……ミレーナを引き合いに出すとは卑怯じゃぞっ!?」
「?」
誰じゃそれ? とワシが首をかしげておると、メルトリンデがこっそり耳打ちをしてくれた。
「私の母親で、昔オズワルドさまと恋仲だったみたいです。最終的に父と結婚する前に別れたみたいなんですが、仲はいまだに良好で、母もよくオズワルドさまのところに遊びに行っているんですよ。幼いころの私も、よく母に連れられオズワルドさまのもとに遊びにいったものです」
「ほう。それはまた……」
いい感じの弱点じゃな。と、ワシが頷く傍らで、
「これだから男は」
「別れた女をいつまでも好いているとか……みみっちいですね」
「ぐはっ!?」
オズワルドの心臓を、言葉の暴力で貫くエルとYOICHIの姿があったが、怖いので視界に入れないようにしておく。
いや、幾らこの場にとどめる良い手段になるとは言っても、そんな容赦なく抉らんでもええじゃろ!?
「ん? まてよ、確か(設定では)ドワーフは3年で人間の一年に相当する成長をするって話だから、年の差結構開いていたんじゃ」
「はい。お母様の話だと、ちょうど母が12歳くらいの時に付き合っていたという話ですから、オズワルドさまが……」
瞬間、場の空気が凍りついた。オズワルドの年齢を聞く前にじゃ。
え? 12歳……!? 今定年退職しとるんじゃよな? メルトリンデはどう見ても20歳以下ということはないから、そこから母親の現在の年齢を予想し、それつかって逆算すると、オズワルドの当時の年齢は……。
「な、なんじゃ!? ええじゃろ別に!? 本人嫌がっとらんかったし……そりゃ、その時ワシはもう人間でいうと60後半に手が届きかけておるころじゃが、でもドワーフの間では『えぇ、そんな御歳に見えませんね!?』って言われるナイスミドルで」
「そういう問題じゃないじゃろうがぁあああああああああああああああ!?」
というか、60後半間際のくせに12の子供の手を出したんかぁあああああああああ!? と、ワシが思わず怒鳴り声をあげる中、オズワルドは悪びれることもなく、
「は? 貴族は15で成人して婚活を始めるんじゃぞ? むしろセーフじゃ」
「あ、そ、そうですよねっ!? 文化段階が中世なら、三歳くらい十分誤差に」
「エル! 騙されるなっ!? このジジイはっきり言ったから!! 12歳は成人してないって!!」
瞬間的に阿鼻叫喚の騒ぎを引き起こすワシらメーカーズ職人たちをしり目に、ジョンは「話が進まねぇな」と嘆息し、「ロリコン、ロリコン! ロリータにタッチした危ないロリコン!!」と騒ぐワシらを、不機嫌そうに見つめるオズワルドに話しかけた。
「爺さんよ。要するに酒以外の酔い覚ましさえあれば、酒をわざわざ飲みに行くことなく、仕事も十分できる状態になるんだな?」
「む? 確かにそうじゃが、でも酒のほうが……」
「アルコール断ちしないと、可愛い元恋人に嫌われるんだろ。大人しくしてな」
「むぅ……」
さすがにそれを引き合いに出されては反論することはできないのか、オズワルドはうなり声をあげて黙り込む。そして、
「じゃが、その酔い覚ましの方法をお主は知っておるのか?」
「さっきもあんた言ってたじゃないか。《冷化ドリンク》作ろうとしていたって」
「なに? じゃがあれはドワーフしか製造法を知らん、ドワーフの秘薬じゃぞ?」
「だからさ、それの作り方と材料さえ教えてくれれば、俺たちがそれ作って持ってくるって」
「はっ!」
なにをバカな。とオズワルドは言いたげに鼻を鳴らし、
「できるわけがなかろう。あれの調合には、レシピに書かれた工程のほかにも、熟練した薬剤師の長年の勘が必要なのじゃぞ? そんな薬剤師がお主たちの中にいるとでも」
「いるさ」
「なぬ!?」
オズワルドの否定の言葉を、言葉の鉄槌で叩き潰しながら、ジョンは笑った。
「転生者の中では恐らく右に出るものがいないといわれる、最恐の料理人兼調薬師の男が、そこでお前を罵っているよ」
「え?」
そしてジョンの視線はワシの隣――スティーブの方へをむかっていて。
「おれぇ!?」
スティーブがそんな間の抜けた声を上げると同時に、ワシの視界にクエスト受諾画面が開く。
『クエスト名:秘薬・冷化ドリンクを作成せよっ!
内容:清涼草×3とララ泉の聖水×2を使って冷化ドリンクを作成し、オズワルド・ストリングスに納品しよう
報酬:生産系スキル経験値5000 レシピ《冷化ドリンク》』
隠しクエストの発生じゃ!!