スキル《錬成》
更新遅れてすいません^^; 賢者の石の修正が終わったので、再び投稿開始です!
『い、言っても信じてもらえねぇと思うが、化物が出やがったんだ。
坑道を掘っていたら突然。
嘘じゃねぇ! 他の坑夫連中は、俺が酒でも飲みすぎたんだろうと信じてくれなかったが、嘘じゃねぇんだ!! 確かに俺は昨日の夜、飲みすぎていたけど、酔い覚まし兼、二日酔いを治すための《冷化ドリンク》だって飲んでいた! あの時は酔ってねぇ!
真っ黒な骸骨を巨大にしたような化物で、その叫び声を聞くと誰も彼もが動けなくなっちまったんだ!!
そしたらあいつは、動けなくなった奴らの口から、スーッと煙みたいなもんを吸い出して……仲間たちは。クソッ!!
どういうわけか俺はあいつに気付かれなかったから、無事だったけど……このままじゃあいつらがうかばれねぇ。
あの事件は坑道内でよく起こる《風精霊の悪戯》なんかじゃ断じてねぇ。この坑道に今もあいつは潜んでいる……。みんな、今すぐ逃げ
(血痕によって途切れており読解不能)』
――ストーリークエスト二章《ドワーフ坑道奪還戦》終了後に発見された、ドワーフ坑夫の日記より抜粋。
…†…†…………†…†…
ストーリークエスト。言わずもがなゲームには必ずあるその世界での『ストーリー』――『魔王を倒す』だったり、『世界に安定をもたらす』だったりするアレじゃ――を進めるためクエストじゃ。
じゃが、オンラインゲームにおいて、このストーリークエストというのはなかなかの曲者じゃったりする。
特にTSOのような、NPCにある程度の自我が芽生えるような、高性能なAIが積まれているゲームではなおのこと。
何せ自我があるということは、自分で思考をすることができるということで、そんなNPCが『別の転生者が倒したはずの、ボスモンスターが何度も現れる』を平然と受け入れているという状態は絶対おかしいと、プレイヤーの方が納得できないからじゃ。
実際βテストではそれが平然とまかり通っていたらしく、本来高度なAIが積まれているはずのNPCのとある王様が、ボスモンスター討伐にプレイヤーをお送りだした後、平然と順番待ちしておったプレイヤーに、先ほど送り出したプレイヤーに向かってした説明と全く同じセリフを言いすということが、まかり通っておったらしい。
おかげでβテストに参加したプレイヤーからは『ストーリークエストに出てくるNPCが、なんで数世代も前のAIに退化しているんだ!?』というツッコミが続出。美人エルフの少女や、触れがたい高貴さを感じさせる姫様との、ファンタジー色溢れる会話を自然にできることを楽しみにしておったプレイヤー諸君は、血涙を流し悔しがったらしい。
そこで運営が正式版で打ち出した苦肉の策が、現在ワシらが入り込んでいる『ストーリーエリア』の設立じゃった。
ワシらが今攻略に乗り出しておる『デュラハン討伐戦』を例に挙げると、まずストーリークエストのトリガーとなる要塞都市領主館の門番を務める兵士に話しかける。
この時、話し掛けたプレイヤーか、パーティーを率いるパーティーリーダーの視界に『ストーリークエストに挑戦しますか? YES/NO』という選択画面が出てくるのじゃ。
この時点でかなり興ざめな気がしないでもないが、これがないことには話が進まんので、ストーリーに参加するプレイヤーはYESを。しないプレイヤーはNOを押せばよい。
NOを押したプレイヤーには、門番は軽快な喋りで対応し、まるで生きている人間と会話をしておるのと遜色ない雑談と、町の商店のちょっとしたセール情報を話した後、「じゃぁ、仕事があるから」とプレイヤーを追い返す。
YESを押したプレイヤーはそのまま視界が暗転。そこでプレイヤーは初めてストーリーエリアに入り、『まだ誰もボスモンスターを討伐していない設定になっている世界』へと入り込み、ストーリークエストを進めるのじゃ。
「おぉ、転生者よ。ようやくわが町にも来てくれたのか!」
謁見の間に入ったワシらに対し、領主がさもボスモンスター討伐なんてなかった雰囲気で話し掛けたことが、その事実をワシらにはっきりと教えてくれる。
前線組がワールドボスの攻略に乗り出しておるということは、当然このストーリークエストのボスである《デュラハン》は結構な頻度で退治されておることになる。だというのにこの対応。
なるほど、言われた通り確かにここは『過去の要塞都市』なのじゃろう。とワシはひとり納得しながら、
「お会いできて光栄です領主さま。私めも魔王軍を倒すため、粉骨砕身で働く所存」
「うむ。そう言ってもらえると心強いぞ!」
ワシは一応年長者として、後ろにいる連中に正しい礼儀作法を見せながら、領主殿に頭を下げた。
ここでプレイヤーがとれる対応は結構幅を持たせられているようで、べつに敬語を使わなくてもとがめられることはなく、膝をついて忠誠の礼をとると領主は感激し、「これで奴に挑む準備をするがいい」とちょっとしたお小遣いをくれるらしい。
ちなみに敬語を使わず、許しもないのに胡坐をかいて座ったり、あくびをしたり、鼻くそをほじくったり、明らかにこの世界が「ゲーム」だと認識している言動をすると、「無礼者っ!!」とさすがの領主さまもキレて、領主館の牢屋に投獄。死亡扱いとなり、デスペナルティーを食らいながらストーリーエリアから放り出されるらしい。掲示板に様々な情報を上げてくれる《検証班》が身をもって調べてくれた事実じゃから、まず間違いないじゃろう。
というか、検証班は無駄なところで体を張りすぎじゃと思うんじゃ……。
「では、さっそくで悪いが、お主たちにある依頼を出したい」
「はっ! 何なりとお申し付けください!」
そうこう考えておるうちに、早速きたストーリークエストの受注依頼。
ワシはその依頼の詳細を聞くために耳を澄ませる。
ついでと言ってはなんなのじゃが、せっかくストーリークエストを一から始めておるのじゃからと、前線プレイヤーたちから「そっちでもボスモンスター攻略の糸口がないか調べといてくれ」と言われておる。
こういうNPCの何気ない一言に、攻略の糸口が隠されておるかもしれんと、ワシはジッと聞き耳を立て、
「城壁を広げるための工兵部隊が、最近よく夜襲を受けておる。そこで城壁外部にたむろする『夜襲狼』を狩ってほしいのじゃ」
「……承りました」
「ん? 何かおちこんでおらんか?」
「いえいえ、まさかそんな……」
特に重要なヒントが隠されているわけでもない、ごくごく普通な依頼を聞き、ワシの目の前に、
『クエスト:夜襲狼の討伐
内容:夜襲狼の討伐×30
報酬:控え以外保有スキル経験値5000 報奨金3000』
というクエスト受理確認画面が出たのを見て、ワシはそっと嘆息しながら「受領」のボタンを押すのじゃった。
…†…†…………†…†…
「まぁ、ワシらの主な任務は、さっさとストーリーをクリアすることじゃからのう」
「前線組が探してもなかなか見つからないヒントを、俺たちが早々に発見できるわけないだろう」
「大人しくモンスター狩りをするしかないわね」
「ですね~」
領主からの依頼を受け、城塞都市を出たワシ等5人――ワシ、スティーブ、YOICHI、エルはそんな会話を交わしながら、芝生の上に敷物を広げ、目の前で五匹の狼たちと対峙しておる《全能》JohnSmithこと――ジョンの戦いを眺めておった。
本人はこの呼び方が好きではないようで「名無し」と呼んでくれと言っておったが、ややこしいのでワシはジョンと呼んでおる。
「だいたい名無しと呼んでほしいなら『ジョン・ドゥ』じゃろうが。何故JohnSmith?」
「JohnSmithでも『名無し』って意味があるらしいわよ。一般的な『名無し』として知られる『ジョン・ドゥ』を使うのは、「一般的な名前とか、俺の矜持が許さない!」とかなんとか言っていたけど。要するにちょっと特別なことがしたかっただけでしょう。あいつは」
変わってんのよ。悪い意味で。とYOICHIは吐き捨てるように呟きながら、
「でもまぁ、腕は確かだから本人が言うように、今回はお手並み拝見して、どんなふうにパーティーで役立ってもらうか考えた方がいいんじゃない?」
「YOICHIがいうなら任せるけどさ」
「一応ここ前線ですよ?」
と、いくら周りから二つ名をつけられるようなプレイヤーであっても、平均的にモンスターのスキルレベルが高い前線エリアであるこの場所で、単独戦闘をさせることに不安を覚えておるスティーブとエル。かくいうワシも不安を覚えておる人間の一人で、完全に無手の状態で狼たちと対峙するジョンの実力は、所持する武器で、相手の実力をある程度割り出すワシにとっては未知数すぎた。
そうこう言っておるうちに、ジョンに対峙しておった狼の一頭が、ジグザグに走り出しジョンをかく乱しながら、襲い掛かってくる。が、
「トレース・○ン」
「……………………いまト○ース・オンって言わんかったか?」
「気にしないで。ただの中二だから」
チョット聞き捨てならない呪文が聞こえた気がしたワシの指摘に、YOICHIは顔をひきつらせながら、聞かなかったことにしろと言ってくる。
だが、その中二発言をトリガーに起こった現象は劇的な物じゃった。
なんと、無手だったはずのジョンの右手に、いつのまにか盾が出現しておったのじゃ。
「ふぁ!?」
思わず変な声を上げるワシをしり目に、スティーブは冷静に先ほどの現象に関しての考察をする。
「さっきのエフェクト、『均一生産』によってアイテムが生み出される時の光だな。でも戦闘中は生産スキルを使えないはずだし、何より生産メニュー画面操作をしているようには見えなかったぞ? どうなっている」
「それがあいつが《全能》って言われる理由よ」
飛びかかってきた狼を、作り出した盾で防ぎながら、再び突然左手に現れた短剣によって、狼の腹を突き刺すジョン。
それによって赤いダメージエフェクトを飛び散らせながら、後退する狼。同時に後詰として襲い掛かってきていた狼二匹が、突然出現したジョンの盾に激突し、頭上でヒヨコを旋回させた。
どうやらめまいのバットステータスを食らったらしい。
「あいつは初期キャラ設定のころに『何でも一人でできるキャラ』をコンセプトに、専用武装スキルを取らないで《武装心得Lv.1》をメインで取っちゃってね。まぁ、私やお爺さんたちと同じようにはぶられちゃったのよ」
「それはまた……」
「何ともフォローのしがたい」
スキル《武装心得》とは、いうなれば『武器の装備制限をすべて外すスキル』じゃ。普通のプレイヤーが取っておる専用武装スキル――ワシの《ハンマー》や、スティーブの《短剣》といったスキル――は、基本的にその武器の装備制限しかはずしてくれん。そして武器制限がかかっておる武装をプレイヤーが装備すると、《スキル不適合武器》ということで武装性能の5割を削られるという、バッドステータスを食らうんじゃ。
武装心得はそのバッドステータスを緩和するスキルで、初めのうち性能二割減。レベルを上げていくごとに、バッドステータスの数値が下がり、最後にはプラスに転じるというスキルじゃ。
とはいえ、プラスになるのはLv.10を超えてから。そのプラス補整も、現在の最高値レベルである30までいっても、専用武装スキルのLv.10段階にようやく届くといった程度。完全な威力不足じゃ。
おまけに、装備できる武装を選ばないというのは利点と言えば利点じゃが、その中には魔法の行使は含まれておらず、杖を持っても魔法を使うためには魔法を行使するスキルが必要となるのじゃ。
そのため、基本的にこのスキルを持っているプレイヤーが扱える武器は、物理武器限定。せいぜい武器の間合いを、自由自在に入れ替えられる程度しか、アドバンテージはない上に、威力不足以外にももう一つ欠点がある。それは
「アビリティも使えんのじゃろう?」
「武器の扱い習得するの結構苦労するらしいですし……」
「あいつもそのあたりでは苦労したみたいね。初めは訓練所にこもって武器の振り方を一から学んだみたい。おかげでスタートダッシュに乗り遅れて、初めのうちは初級プレイヤーに紛れて活動していたみたいよ」
そう。武術を習ったことのないど素人が、まともにモンスターと戦えるようになる最大の理由――アビリティが使用できないのじゃ。
そんなわけで、初期のメインスキルに《武装心得》を選んだプレイヤーは、ワシや、弓を使っているYOICHIと同じように『常識も知らないはずれプレイヤー』として、周りからはぶられてしまっておった。
「じゃが、結構うまく戦っとるのう?」
「威力不足であるという感じでもないですし、いったいどうなっているんだ?」
モンスターと激突することによって、瞬く間にボロボロになっていく盾。当然そんな盾はすぐに壊れてしまい、耐久度限界を突破。ポリゴン片となって砕け散る。
だが、同時その盾に激突した狼たちも痛手を負っており、盾が砕け散ると同時に、ぶつかった瞬間盾に弾き返され、バッシュによる反射ダメージを受けていた狼も、ポリゴン片になり砕け散った。
同時に、砕けた盾の代わりにジョンは新しい盾を作り出し、空いた手に握る。
それが延々繰り返されており、先ほど挑みかかってきた五匹の狼は、すでにその数を一匹になるまで減らしていた。
しかし敵も前線モンスター。伊達にプレイやたちの最高峰が挑む、フィールドにいるわけではない。
『アォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
突然最後に残った一匹の狼が、虚空に向かって咆哮した。
同時に、ワシらがおるフィールドのあちこちから同様の遠吠えが響き渡り、フィールドのあちこちから、再び五匹の狼がリポップ。最終的にその場に残った狼は六匹になった。
モンスターだけが持つスキルであるスキル《リンク》。それによってこの狼は、MPが続く限り仲間をリポップさせることができる。じゃからこそ、本来ならば一か所に集めて、魔法使い職の範囲魔法で一気に倒すのがセオリーなのじゃが。
ソロ近接プレイヤーがやっとると、キリがないのう……。とはたから見ていたワシがそんなことを考えておるうちに、YOICHIの説明は続く。
「威力不足に関しては簡単。あいつがスキル《捨て身》を持っているからよ」
「《捨て身》? それってもしかしてあのネタ扱いされている?」
「あぁ、あの自爆スキルですか!?」
スキル《捨て身》。文字通り、スキル所有者の筋力値を一定条件で跳ね上げるネタスキルじゃ。そのパワー上昇値はレベル30にもなれば、ステータス加算系の数値すら上回るといわれておる。じゃが、問題なのはそのスキルを発動する際の条件じゃ。
その条件とは、『装備武装の耐久度低下上昇』。おまけにレベルが上がるごとに、減少数値は増大していくというおまけつき。すなわちこのスキルは、所持者の筋力値を無理やりあげることを代償に、武器の耐久度の減少を一気に加速させる。
いくら《均一生産》で作られた武装とはいえ、☆五つもあれば耐久度はかなりの物じゃ。それがあんなに勢いよく砕かれまくっているということは、そのスキルによって筋力値を上げる代わりに、耐久度を犠牲にしておるからか。
当然、一度武器を失ったプレイヤーは、メニュー画面を開いて予備の武器を取りだし、装備しなおさない限り戦うことはできない。普通ならいくら攻撃力が上がるとはいえ、そんなスキルをとることはないのじゃ。
じゃが、目の前の男はそれをとり、そしてその弱点を補う力をもっておる。
「トレース・○ン」
「じゃからその詠唱やめぇって」
「かっこいいだろっ!?」
著作権上まずいし。とワシがいれたツッコミにジョンは反論しながら、砕け散った左手のナイフの代わりに、ワシが作った6連式リボルバーを片手に出現させる。
襲い掛かってきた狼たち。それを再び盾のバッシュで混乱させている間に、銃に弾丸をリロード。そして装填された弾丸すべてを、盾のバッシュによって混乱している狼たちに叩き込む。
弾丸をすべて吐き出した拳銃は、役目を終えたといわんばかりに砕け散り、次の瞬間ジョンの手には片手直剣が握られる。
弾丸によって三か所、それぞれの体に穴が開いた狼二匹は情けない悲鳴を上げて砕け散り、のこっていた狼たちはややたじろいだ様子を見せたが、
「おらっ!!」
ジョンの一喝と共に、投擲された直剣に一匹の狼が貫かれるのを見て、戦うしかないと悟ったのか、一斉に襲い掛かってくる。
ちなみに剣に貫かれた狼は、破棄されたとみなされ直剣が砕け散ると同時に、のこっていたHPを根こそぎ削られ、砕け散った。
《捨て身》は武器が壊れるときに合わせて攻撃を入れると、ジャストアタックボーナスとして、武器が持つ上昇筋力値の二倍のダメージを相手に与えるからのう(検証班調べ)。その特性を利用したとんでもないコンボじゃ。
ワシがそう思い冷や汗を流している間に、ジョンは盾で狼たちの攻撃をいなしながら、盾に食らいつこうとする狼に向かって、左手に作り出したメイスで一撃。悲鳴を上げて飛び上がる狼の側頭部に、さらに一撃叩き込みその狼のHPを削りきる。
「それに関してはあいつが持っている《鍛冶》スキルの進化版が関係しているらしいね」
「進化版?」
鍛冶スキルの進化先にあんなにてっとり早く武器を生成するものはなかったと思うが。と、ワシが首をかしげる中、YOICHIはそのスキルの名前を教えてくれる。
「スキル《錬成》。それが、あいつの操る鍛冶スキルの上位互換の名前だよ。あいつはあくまでハンドメイドにこだわったあんた達とは違って、《鍛冶スキル》はあくまでおまけと割り切って生産をしていたそうだ。つまり生産スキルは全部《均一生産》であげたらしい。そうしたら鍛冶スキルの進化経路にそれが出てきたんだと」
主な能力としてはあげられるのは、戦闘中でも思考操作により《均一生産》が可能なアビリティ――《クイックメイド》。ただしこれには当然制限がある。
生産できるアイテムの品質は均一生産と同じように☆5を超えることはないし、アイテムを生産するためには、自分のアイテムストレージに素材となるアイテムが入っていないといけないのも当然。
さらに、このアビリティで作ったアイテムは、どれほど品質が良くても大幅に耐久度を削られるのも弱点の一つじゃ。おまけに戦闘中でも錬成が可能なものは、事前に七つの錬成スロットに入れておいた設計図の物のみ。
現在ジョンがそのスロットに入れている設計図は、《盾》《銃》《直剣》《弾丸》《メイス》。そして、奥の手が二つ。その一つが、
「そろそろ数に到達だ。終まいにするか」
左手のメイスが砕け散ると同時に出現させた、真っ黒な球体からひょろりと紐が伸びた、明らかに物騒な印象を受けるあのアイテム――手投げ爆弾。つい最近カイゾウが作り出したネタ攻撃アイテムなのじゃが、威力は前線でも使えると折り紙つきじゃ。
無論その紐にはすでに火がついており、バチバチとけたたましい音を立てながら、ワシらに得体のしれない不安をお届けしてきよる。
「アイテムまで錬成が可能なのか?」
「どの生産スキルでも《均一生産》だけで、生産スキルを一つカンストさせれば出るみたいだから、べつに錬成するアイテムは武器に限らないみたいよ?」
なにそれこわい……。と、ワシが慄いている間に、ジョンは手に持ったそれを、生き残った狼たちがリポップさせた18匹の狼たちのど真ん中にそれを投げ入れ、
「よっこいしょ」
盾に隠れて耳をふさぐ。当然ワシらもその仕草に習い、耳を塞ぎ、平原に巨大なキノコ雲が出来上がり、爆風によって狼たちが吹き飛ぶのを眺めておった。
《捨て身》によるアイテム破損時のダメージボーナスもあったためか、宙を舞った狼たちは瞬く間に砕け散り、ポリゴンとなって爆発四散する。
同時にワシの目の前に、
『クエストクリア!!』
のウィンドウが出てきて、ワシはそっと嘆息した。
無双状態も甚だしいのう……。ワシもこっちになればよかった……と、若干後悔をしつつ、
「よぉ、爺さんたち。これで俺の実力はわかってくれたかな?」
「あぁ、嫌というほど理解したよ《全能》どの」
「その二つ名大仰過ぎて嫌なんだけど……」
ワシの呼びかけに苦虫をかみつぶした顔になるジョンを、苦笑いまじりに迎え入れた。
「さて、俺の実力をわかってもらったところで契約の話に入ろう」
「うむ」
そして、YOICHIから聞かされていたこ奴の厄介な点を思い出し、ワシは思考を切り替え顔を引き締める。
このJohnSmithというプレイヤー。実は傭兵のロールプレイをしておる、珍しいプレイヤーなのじゃ。
といっても、さすがに勝手にダンジョンについていったくせに、金を払えだのなんだのと言っているわけではなく、指名の護衛依頼が入った際は、そのパーティーメンバー一人につき一つずつ、彼が望んだアイテムをもらうということをしているらしい。
とはいえ、さすがに装備品よこせとか、相手の奥の手になっているアイテムや、高価なアイテムを強制的にもらうとかではなく、回復アイテムや、素材などといった相手もわりとすぐに手放せるものばかり要求しておるらしい。
あとの報酬と言えば、クエスト中採集・採掘ができそうな場所があったら、ジョンにゆっくり採集・採掘させることと、そのクエストでジョンがもらったドロップ品はすべてジョンがもらうというくらい。
無論レアドロップなどは相談に応じ、それに見合うものを出しさえすればジョンもおとなしく譲ったりするらしい。
きわめて良心的な報酬をきちんと考えてとっていると、YOICHIは言っておった。
とはいえ、商取引は商取引。自分でいろいろ考えて、そろばんをはじくことを忘れると、ちゃっかり足元を見られる可能性すらあるとも……YOICHIは言っておったが。
というわけで、ワシは気を引き締めて、ジョンの四級が娘の依頼にふさわしいものか考えようとして、
「……………がほしいんだが」
「……ん? そんなものでよいのか?」
「あぁ。そっちの方が俺のスキル的にはありがたいんだ」
と、以外すぎる安物報酬に思わず驚き、ジョンはそんなワシの顔を見て笑った。
つくづく食えん男じゃわい……。