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《全能》

 お待たせしましたっ!

「お主のおかげでわれらエルフの里が、《モンスターの都》にならずに済んだ。礼を言おう」

「しかし、お主の戦いはまだ始まったばかりじゃ」

「言われずともわかっておる? いいや、お主は自分が予想しておる以上に長い道のりの入口へと、ようやく入ったところなのじゃ」

「《第一世界》。この世界がそう呼ばれていることに違和感を覚えたことはないか?」

「わざわざ《第一》と区別するからには、《第二》《第三》の世界があるのではないかと」

「お主のその予想は正しい。おぬしをこの世界に転生させた神が保有する世界は、とてつもない数で存在する。そして、その世界全てにおいて、《魔王》……いや《大魔王》の侵略の手が伸びているのじゃ。この世界で魔王軍の指揮をしておる魔物など、ただの使いっパシリにすぎん」

「なぜそんなことを知っているのかじゃと?」

「……ほんとうはお主らの仕事は、我等エルフ族に与えられていた仕事なのじゃ。エルフは長寿の上に高い魔力をもっておる。生身で次元の壁を越え、他の世界に飛べるようになるほどに成長する存在は、ワシら以外ありえなかったからな。初めはこの世界の神も、ワシ等エルフ族に魔王を倒せといい、ワシらもその役目を誇らしげに受け取ったものじゃ」

「じゃがダメじゃった。ワシらは神が求められた強さを得るほどの成長ができず、この世界の侵略に来た使いっパシリにすら歯が立たない始末」

「とうとう神は我等を見限られ、新たにお主らをこの世界に呼んだのじゃ」

「……本当にすまなかったと思っておる。ワシらがもっとちゃんとしておれば、お主たちを我等の世界の闘争に巻き込むこともなかったじゃろうに」

「許してくれとは口が裂けても言えん。だが、この世界を少しでも憐れむ気持ちがあるのなら……どうか、お主たちの力で魔王を打ち倒してはくれぬか?」


――ストーリークエスト一章《エルフの森防衛戦》終了後のエルフの村長の台詞より抜粋。


              ◆         ◆


『くくっ! よく来た転生者よ。ここが貴様等の……』

「フルスイングっ!!」

『げぶっ!?』


 何やら玉座でえらそうにふんぞり返っておった、金髪吸血鬼の顔面に、ハンマーの一撃を叩き込む。

 このゲームは基本的に、相手の台詞パートでも攻撃が可能になっておる稀有なゲームの一つじゃ。当然喋っている間は無防備じゃし、相手に多大なダメージを与えることができるチャンスターンでもある。さっさとストーリーを終わらせたいワシ――GGYとしては、そこをつかない理由がなかった。

 じゃが、問題が一つ。


『は、話も聞かず攻撃とは!? 貴様それでも戦士の端くれかっ!! 恥を知れっ!!』

「村一つ、だまし討ちでグールの巣窟にした奴の台詞ではないのう……」

『やかましい! もはや手加減はないと思えっ!!』


 そう言った途端、第四ボスである吸血鬼の青年は、真っ赤に輝くオーラに包まれ咆哮を上げる。

 そう。台詞パートで攻撃をすると、ボスが常に激怒状態になり、ステータスが最初から最後までクライマックス状態になるのじゃ。

 とはいえ、所詮は第四ボス。前線に入る登竜門と言われておるが、前線でも戦えるワシらにとってはザコでしかなく。


「おらァッ!!」

『っ!?』


 隠行をけし、突然背後から現れたスティーブの短剣を後頭部に食らい、一気にHPを削られる青年吸血鬼。

 怒りの咆哮が苦悶の悲鳴へと変わり、そして、


「おふたりとも~。どいてください~」


 エルの気の抜けた声と同時に、ワシらは慌ててその場を飛び退く。同時に、エルが放った極大の炎が吸血鬼の眼前へと飛来し、


『な、にっ!?』


 このモンスターの死亡時に発せられるといわれる末期の言葉が聞こえたと同時に、その炎は眼前で爆発した。

 メテオフレイム。杖装備のエルが使える最上級火力魔法。

 直径10メートルのエリアを包み込む爆炎を放つ炎の塊を投げつけ、好きなタイミングで爆発させられる高威力殺傷魔法じゃ。


 ましてやエルは『MP超上昇』と『魔力超上昇』のスキル持ち。当然その火球の威力は、物理防御力でいくらか軽減されてしまうワシの一撃をはるかに上回る。

 結論からいうと……吸血鬼が消し炭になった。

 時間経過と共にとてつもない量を回復する高レベルの自動回復スキルと、プレイヤーの行動権をのっとり、無理やり仲間を攻撃させる《魅了》の状態異常が厄介とうわさされておったボスじゃったが、さすがに技を放つひまもなく大威力の波状攻撃を食らえば中層ボスでは話にならん。

 おのれ~。というありきたりな悲鳴と共に、炎の中でボスモンスターがポリゴンとなって砕け散るのを眺めながら、ワシはピコーンという音共に、視界の右上で光り出した「クエストクリア」の文字を見て、ため息をついた。

 これでようやくストーリークエストの攻略がほぼ終わった。残った最後のボスは、前線にいるボス。ワールドボス一歩手前ということもあって、かなり厄介なレイドボスじゃという噂じゃが、ゴールデンシープが五人で狩ったという話もあるし……。


「いえ~い! さすがエルちゃん!! 相変わらず魔法が核兵器みたいになってね?」

「し、失礼すぎませんかっ!? いくらなんでも核はないですよっ!! せいぜいモビル○ーツのグレネードです!!」

「それもう人間が生身で放っていい威力ではないと認めとらんか……」

 まぁ、このメンツなら大丈夫じゃろう。と、ギャーギャー騒ぎ合うスティーブとエルの声を聴きながら、ワシは苦笑いを浮かべた。



              ◆         ◆



「脳波も正常。MRIの結果を見たところ、脳の異常も見受けられませんね。オッケーですよ。きちんと現状維持ができています」

「それはよかったわい」

 目の前で、自分の脳が輪切りにされた図を見せられながら、特に問題ないことを医者に告げられたワシは、ほっと一安心しながら帰りの準備を始める。

 今の時刻が午前11時半を少し過ぎたところかのう? ワシはちょうどあの胡散臭い医者の定期健診に来ており、脳の状態を確認してもらっておった。

 もっとも、そんなに心配せんでもワシの認知症が進んでおらんことは、スティーブやエルと、違和感なく会話できておることからわかっておった。最近は物忘れが激しいどころか、やけに記憶力がよくなっている気さえするが。


「ふむ。頻繁に使われるようになって脳が再活性化しているのかもしれませんね。慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症以外の認知症が治癒するなんて、そんな話は聞いたことないので、多分勘違いでしょうが」

「もしワシの証言が事実じゃとしたらどうするんじゃ?」

「ははは。万一それが本当だったら、政府お抱えの医者が来て、おじいさんの脳細胞取っていきますよ。結構面白いことわかりそうだし」


 その不穏すぎる医者の一言にピタリと固まるワシを見て、医者は小さく笑みを浮かべる。


「冗談ですよ。さすがにそこまで人権を無視した行動を、政府が取るわけがないでしょう?」

「本当じゃろうな?」


 おぬしが言うと妙にリアリティがあって怖いんじゃが……。と、ワシは顔をひきつらせながら、からかわれたことに対する抗議を含めた鋭い睨み付けを飛ばす。


「おぉっと、許してくださいよ、お爺さん。ビビらしたお詫びと言ってはなんですが、次のボスに関しての情報を教えてあげましょう。おじいさんたちが最近、怒涛の勢いでストーリークエストクリアしていると、話題になっていましたし」

「なんと……うわさになっとったか」

「職人掲示板では特に。ストーリークエストクリアしておかないと転生ができないという話が広まってから、職人の人たちも慌てて伝手を頼ってストーリークエストをクリアし始めているみたいですから」

「あぁ……ワシらの真似をさせてしまったから。ちゃんと前線来る前にクリアするよう言っておけばよかったのう」

「まぁ、お爺さんたちと同じように始まりの町で、職人としての腕を鍛えた後、前線にひとっ飛びしてくるルートを選んだのは個人の意志ですから、そんなに気に病む必要はないと思いますけど?」

「そんなもんかのう……。で、その情報とやらは、制作サイドからの情報か?」

「まさか。普通に掲示板に出ている情報ですよ。ただお爺さんは知らないでしょうから。掲示板まだ読めないみたいですし」

「……………………………」


 否定できんのがつらいんじゃが。と、思わず医者の言葉に黙り込むワシにむかって、苦笑いを浮かべながら医者は言う。


「次のボスはお爺さんお得意の騎士型ですよ。ただし騎乗しています」

「騎乗? 馬に乗っておるのか!?」

「えぇ。名前は確か『サー・デュラハン』。『首なし騎士卿』といった感じですかね? 騎馬による高速突撃を得意としていて、倒すならまず馬をどうにかしなければならないといわれています。馬から落としさえすれば、鎧の重さのせいで全く動けない、木偶の棒になるみたいですし。ただ、騎乗時の機動力はすさまじく、馬に乗りながら攻撃よけるために10メートルほどの高さまで跳び上がったり、一瞬幽体になってすべての攻撃を受けない状態にしてからの瞬間移動とか、移動系のアビリティが結構充実している相手のようです。おまけに着ている重装鎧は完全に隙間がなくしてあるようで、打撃系の攻撃でもあまりダメージが入らないようです。唯一の弱点が炎に覆われた首の断面のみ。その首の断面もモンスターのスケールが、馬や騎手のサイズが通常の2倍化しちゃっているせいで、跳躍スキルや遠距離攻撃スキルを持っている面子がいないと全く届かない位置にありまして」

「むぅ……」


 それは確かにワシらにとっては、かなり厄介な相手になるじゃろう。攻撃が当たればかなりのダメージを期待できるが、攻撃速度そのものが致命的に遅いワシのハンマーや、ボスモンスターのHPを一気に削る大規模魔法を使うとなると、かなり長めの詠唱が必要になるエル。唯一その機動力に対抗できそうなのはスティーブじゃが、短剣持ちの連続攻撃型ダメージディーラーでは、重装備の敵に対するダメージはあまり期待できない。


「普通はそのボスはどうやって倒すのじゃ?」

「タンクが一人でもいれば、突撃は何とかなるみたいですね。距離さえ取らせなければ突撃の威力は半減するようで、タンクにボスの目の前に張り付いてもらって、ひたすらタゲを取ってもらっているみたいですよ? 近接で来る攻撃は、騎馬による踏み付けか、騎乗手からの突撃槍の刺突くらいのようですし。あとは、断面を直接狙うことができる弾道射撃系の魔法を持っている人や、弓系のスキルを持っている人が重宝されているようですね。不遇だった弓スキルがようやく日の目を見たって、この前ちょっと騒ぎになっていました」

「なるほど。つまりワシらではどうにもならんと……」


 まぁ、さすがに最後のボスも、ワシら三人だけで行けるとは思っとらんかったから、いいかげん助っ人を呼ぶにはやぶさかではなかったが。


「あてはあるようで?」

「弓兵の方は何とかのう。問題なのはタンクの方じゃ」


 盾や剣の整備を任せてくれている、前線タンクの面子はごまんといるのじゃが、そいつらは今ワールドボス攻略のための情報集めで忙しいから、できれば邪魔はしたくない。

 そうなってくると、頼れるタンクの人脈というのは限らてくる。


「最悪Lycaonの奴を呼びつけるか。武器作ってやると言えば嫌々言いながらも食いつくじゃろうし」

「あぁ、あのお爺さんとケンカしたっていう騎士君ですか? あの子ワールドボスの調査班に名前入っていますよ? 攻略にも参加するとか」

「なにっ!?」


 なぜ、あんな口のきき方がなっとらん若造がっ!? と驚くワシに対し、医者はカルテを記しながら、口を動かす。


「あれ、お爺さん知らなかったんですか? あの子たち職人のバックアップもないのに前線で戦い続けているって、割と好意的な意見も貰っているんですよ。クソ生意気なところもまたかわいいっていうお姉さま方からの人気爆発中だとか。ぜひとも躾けたい男の子№1らしいです」

「ば、ばかなっ!?」


 それにその評価はLycaonの貞操の危機では……。と、ワシが首をかしげておるなか、カルテを打ち込み終わった医者は再びワシに向き直り、


「まぁ、そんなわけでLycaon君たちをつるのは難しいかと。タンクに関しては職人街のつてを頼って探すしかないでしょうね」

「むぅ……。そうか」


 これは次のボス攻略まで時間がかかりそうじゃのう。と、ワシが大きくため息を漏らした。

 その時、医者がワシの見えないところで、ガッツポーズをとっていることにも気づかずに。


              ◆         ◆


《運営掲示板》

スレッド名:雑談なんでもトトカルチョpart15

21:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 結果報告! 次のGGYたちのレイドボス攻略に、新しいメンバー追加確定!!


22:プログラマーな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 ば、ばかな!? GGYならきっとあの騎士も、ハンマーの一撃で粉砕してくれると思っていたのに!?


23:デザインな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 熱くなれよっ! もっと熱くなれよジジイ!!


24:ボス制作の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 お前ら……俺が作ったボスになんか恨みでもあんのか……。


25:お医者さんな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 はいは~い。負け犬の遠吠えは良いですから、次の定例会議の打ち上げの時、GGYにかけていた人たち、俺の代金払ってね?


26:ワールドメイドな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 ちくしょぉおおおおおおおおお!?


27:シナリオライターな転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 マジでございますかっ!?


28:営業職な転生者さん♀(**/**/**/………)○○○○○

 あぁ! なんでここにきて大穴引き当てるんですかっ!?


29:サーバー管理な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○

 お前ら、仕事しろ



              ◆         ◆



「というわけで、お主に《サー・デュラハン》戦を手伝ってもらいたいのじゃが」

「それはかまわないけどさ」


 それから数時間後。TSOにログインしたワシは、タイミングよく矢の補充に来ておったYOICHIに、ワシらのストーリークエスト攻略を手伝ってくれるよう打診しておった。

 後ろにはエルとスティーブが縋るような視線で控えており、どうあってもYOICHIを逃がさない陣形を組んでおる。

 前線の中でも名が知れ渡っている、弓使いのYOICHIは本来なら捕まらないどころか、他の前線プレイヤーと同じように、ワールドボスの弱点探しをしておるはずの人間じゃ。

 じゃが、何分彼女はソロプレイヤー。

 一応ワールドボス攻略にも参加する予定ではあるようなのじゃが、ひとりでは調べられることにも限界があるし、他の大規模クランも彼女の調査にはあまり期待していない状態じゃ。

 実際本人も隠された謎を探すのとかあまり得意ではないらしく、ここ最近は適当なフィールドに出て、モンスターを狩りまくるくらいしかしていないらしい。

 だったら! と、最近頻繁に矢を補充に来る彼女に、ワシらの援護を依頼したわけじゃが。


「タンクのツテなんて私にはないぞ。ソロだからな」

「あぁ、そこは初めから期待しとらん」

「そこまではっきり言い切られると逆に腹が立つぞ」


 と、前線に来て装備も変わったのか、使われている生地が上等になった真っ黒なローブと、もの○け姫がかぶっとるような仮面を頭にのせ、浅黒い肌と長い耳を晒す自称ダークエルフ(キャラクターメイク時に肌を黒くしただけ)の少女は、凶悪な笑顔を浮かべる。


 そんな狩人の笑みを浮かべる彼女の視線から必死にのがれながら、スティーブやエルに「心当たりはないか?」と言う視線を飛ばしてみるが。


「う~ん。前線のタンクで、デュラハン相手に立ち回れるようなやつね。心当たりがあるやつは大体ワールドボスの調査で忙しいしな」

「YOICHIさんみたいに、ソロでうろついている人で、連絡が取れる人っていうのも中々。ソロの人って基本的にインが不定期だからクランに所属できないっていう人が大半ですし」

「むぅ」


 ワシら職人はソロの知り合いもソコソコおるが、今日に限ってなぜか全員ログインしておらんのか、リストに載っている名前は黒色=ログアウト中表示だった。

 今日は日が悪いのかのう。と、ワシがため息をついた時じゃった。


「……どうしてもというのなら、タンクを紹介できないわけでもないが」

「何?」


 進んでボッチプレイをしておる、ソロの中でも変り種のお主に知り合いだとっ!? と慄くワシに対し、滔々YOICHIは弓を手に取り先ほどワシが作った矢をつがえる。


「ちょ、落ち着いてくださいYOICHIさん!? 謝ります!! 謝りますからっ!!」

「で、そのタンクって誰よ?」


 慌ててYOICHIに縋り付き、暴行を止めようとするエル。そんな彼女たちを、肩をすくめて眺めながら、スティーブも思いつく人物がいなかったのか首をかしげる。

 そんなワシらに態度に「私をなんだと思っている……」と嘆息しながら、YOICHIはその人物の名前を告げた。


「タンク専門というわけじゃないが、タンクもこなせる《全能》と名高きあいつだよ。あいつは戦闘スタイル故に、あまりここには顔を出さないみたいだがな」

「「「あぁ……」」」


 前線プレイヤーたちの中で、唯一一度もメーカーズに顔を出したことがない男。

 ジョブスキルで《錬鉄士》などという意味不明なスキルを持つその男の名は、


John(ジョン) Smith(スミス)か……」



              ◆         ◆



 その男はたった一人で洞窟の中に潜っていた。

 右手にピッケル。背中にリュックサック。かけている緑の眼鏡は《暗視》の特殊効果を持っている高級品だ。

 テンガロハットを頭にかぶり、さながら西部劇のガンマンのような風体に身をやつしたその男は、この洞窟――ラデシュの坑道にて、現在鉱物採掘中だった。

 その時だ。男は、洞窟の奥にある闇の中に、何かがいるのを感じ取った。


「ふーっ。来客だな。まったくもてる男はつらい」


 きざったらしいというよりも、芝居がかった大げさな仕草で、肩を竦め、首を振る男。

 だが、敵はそんな男の仕草など関係ないと言いたげに、襲い掛かってきた。


「ぐらぁっ!!」


 敵の正体は、大きな体を窮屈そうに詰め込んだ巨大な鬼だった。

 坑道オーガ。主に坑道に住み着き、そこにある鉄分を摂取して体を黒くしたオーガの亜種だ。

 多量の鉄分が含まれた体皮は普通のオーガよりも固く、防御力もそれ相応の物となっている。

 ただでさえ桁外れな体力を持つオークに、防御力が合わさってしまったその頑強さは推して知るべし。おまけに厄介なことに、オーガには吸血鬼並みの自己再生能力がある。

 安全策を取って弱い攻撃をするのは下策。吸血鬼並みの再生能力を前にしては、弱い攻撃など意味はないし、そもそも鋼の皮に通るかどうかすら不明だ。

 だが、だからと言って威力の高い大ぶりな攻撃は、意外なほど俊敏に動くオーガの前では大きな隙となる。巧者ならばパリィなりインターセプトなりでその攻撃を防げるのだが、あいにく男には、そこまで器用なまねはできない。

 主な攻略手段としては、即効発動魔法による滅多打ちがセオリーだが、残念なことに男には魔法の心得はなく。


「あぁ、まぁ……なんだ。見逃して?」


 当然そんな男の言葉を、オーガが聞き入れてくれるわけもなく、真っ黒な行動を震わせる絶叫を上げたオーガは、とてつもない速さで男に向かって突撃してくる。


「はぁ、まぁそうだよね」


 せっかく掘った素材が。と、男は小さく愚痴を漏らしながら、手に持っていたピッケルをオーガに向かって投げつける。


『アイテム名:黒金(くろがね)のピッケル

 性能:筋力+195

 内容:錬鉄士JohnSmithが作ったピッケル。武器としても使えるが主な用途は採掘用。これを装備することで採掘スキルを持つものは、採掘可能ポイントから鉱物を採掘することができる

 品質:☆☆☆☆☆』


 まぁ、ソコソコの攻撃力で、ソコソコの威力だ。大体中層の片手武装の最高威力が筋力+200程度なので、それと同じ程度の攻撃力。

 当然前線ダンジョンのラデシュの坑道のモンスター相手にはいささか威力が不足している。

 投げ方がよかったのか、ピッケルのスパイク部分がオーガの顔面に直撃するが、オーガはそれを鬱陶しげにはねのけるだけで済ませ、そのまま男に突進し、有り余る筋力に物を言わせて片手に持つ棍棒を振り上げる。

 無手の男にそれを防ぐ術はない。

 オーガの勝利はほぼ確定したといっていいだろう。

 そう……普通ならそのはずだった。


「おいおい、あまり大口を開けて叫ぶな。品性が疑われるぞ?」


 モンスター相手にそんな無駄すぎる軽口をたたきながら、男は何もなかった右手をふるい、


「錬鉄アビリティ――《クイックメイド》設計図№1」


 瞬時に現れた(・・・・・・)黒鉄の盾で、オークの顔面を殴りつけた。

 鉄が固いものに打ち付けられるけたたましい音と共に、シールドバッシュを食らったオークの体が一瞬固まる。

 突然男の手に現れた黒鉄の盾を、オークは目を見開きながら見ているようだった。


『アイテム名:黒鉄の大盾

 性能:防御力+223

 内容:錬鉄士JohnSmithが作った大盾。即興で作られたため耐久度にやや難がある。

 品質:☆☆☆☆☆』


 だが、男の理不尽はそれで終わらない。


「《クイックメイド》設計図№4」


 設計図とは、職人たちが武器を作る際のレシピのことをさしている。このレシピを手に入れることで、職人たちは今まで知らなかった武装を制作することが可能になるのだ。

 だが、この設計図。普通なら別に苦労して手に入れる必要はなく、鍛冶スキル、もしくはそこから進化した進化鍛冶スキルの成長によって、制作可能なものが勝手に制作可能項目に登録される。

 だが、それだけでは作れない武装があるのだ。

 制作は可能だが、スキルの制作可能項目には決して現れないものが確かにこの世界にはある。

 たとえば、とあるバカが作ったロケットブースター。

 たとえば、とあるイカレタ自称科学者が作ったロケットパンチ。

 たとえば、一時期とある老人が情熱を燃やしていた、


「銃、とかな?」


 その言葉と共に、アビリティのスロットに入れていた設計図に書かれていた武器が、光と共に顕現し男の手に握られた。

 それは黒光を放つ銃。


『アイテム名:異世界の六連式投石器

 性能:筋力+305 武装アビリティ《リロード》《ショット》《装備者筋力ステータス無効》

 内容:錬鉄士JohnSmithが作り出した投石器。この世界には存在しない概念で作られた投石器。本来人力で飛ばすべき団栗型礫を、火薬の力で飛ばす。これによって飛ばされた礫は高速回転を行い、装備している人間が狙った場所を正確に貫く。

 6連続のショットが可能ではあるが、6発打ち終わったらリロードをしなければならず、12発以上撃つと30秒のクールタイムが必要になる。殺気が乗りやすく、攻撃の軌道が高い確率で読まれるうえ、攻撃時に起こる反動によって、筋力がないものはダメージを負うこともある。

 即興で作られたため耐久度にやや難がある。

 品質:☆☆☆☆☆』


 その武器を盾に隠れた左手に作り出した男は、盾の下から覗くオーガの足に向かって、


「わかっていても、のけぞっている間にそこは動かせないだろう」


 六発の弾丸すべてを叩き込んだ。瞬く間にダメージエフェクトを発する六つの穴が開くオーガの足。

 モンスター名の名前の横には「貫通」の状態異常になったことを知らせるアイコンが点灯した。

 足に走った激痛に、オーガは苦悶の悲鳴を上げ、怒りに燃える瞳を男にたたきつける。

 そして、オーガは再び咆哮し、じりじりと削られていくHPをしり目にためらうことなく男に向かって、棍棒を握っていない手で殴りつけてきた。

 基本的にプレイヤーと比べてもなお高い数値にあるオーガの筋力値から放たれる拳は、盾でしっかり受け止めたにもかかわらず、男の体を滑るように後退させる。


「化物め。どんな筋力してやがる」


 男はそんなオーガの力に思わず苦いものをかみつぶした顔になりながら、自分の手の中で盾が砕け散るのを見た。どうやら即興で作ったせいで、落ちてしまった耐久度があだとなったらしい。

 身を守るものをなくした男に対し、不気味な笑みを浮かべるオーガ。だが、


「まったく。材料だってタダじゃないんだぞ……」


 男がブチブチ愚痴りながら、再び同じ盾を作り出し装備しなおしたのを見て、流石のオーガも驚いたのか、ぽかんと口を開けた。

 瞬間だった。その開いた口に、一本の矢が飛び込みオーガの喉奥を貫いたのは。


「あぁ?」


 突然の援護に驚き、矢が飛んできた方を振り返った男。

 そこには、隠行スキルのアビリティを切り、闇の中からとけるように現れた、自称ダークエルフの弓兵がいた。


「なんだYOICHIか。お前が人助けなんてどういう風の吹き回しだ?」

「私を冷血漢みたいに言うのはやめろ、JohnSmith」


 実際(おとこ)じゃないしな。と、めったに言わない冗談をYOICHIが言った瞬間、矢先に塗られた猛毒によってあっという間にHPを削られたオーガは、ポリゴンになって砕け散った。

 そんなオーガの末路など気にしないのか、二人は特にその光景に目を向けることもなく。


「まぁいい。仕事だJohnSmith」

「……儲けのいい仕事なんだろうな?」


 あくまでビジネスライクに、話を進めることにするのだった。


名前だけでていたキャラ……どれをだそうかと思いましたが、この人が適任かな~と思い追加。

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