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閑話・魔法の弾丸

「フー。フー」


 細く、小さく、呼吸を漏らしながら、一人の男が透明になりながら、気配を殺していた。

 彼の姿を消している力は、スキル《隠行》のアビリティ。その名前がスキルそのものである《隠行》の効果だ。

 高レベルの隠行はプレイヤーの気配を殺し、その姿を周囲の景色と同化させる。

 とはいえ、その隠行による迷彩も確実に完璧だというわけでもなく、音はしっかりとたってしまうし、間近で見れば、そこに人がいると分かってしまう程度の迷彩しか行えない。

 なにより、最近ではこの隠行があっさり破れる道具・魔法が開発されてしまったせいで、この隠行スキルもあまり役に立たなくなってきていた。

 だからこそ、姿を隠していた彼――スティーブは、こうして物陰に隠れながら、敵の出方を見ていたのだ。

 敵は中央にたたずむエルフの女性――L.L。

 いま彼女が持っている武装は、いつもの長い木製のワンドではなく、左右の腰につられたホルスターに収まっている二丁の拳銃だ。


『アイテム名:異世界の六連式投石器

 性能:筋力+344 武装アビリティ《リロード》《ショット》《装備者筋力ステータス無効》

 内容:鍛冶職人GGYが作り出した投石器。この世界には存在しない概念で作られた投石器。本来人力で飛ばすべき団栗型礫を、火薬の力で飛ばす。これによって飛ばされた礫は高速回転を行い、装備している人間が狙った場所を正確に貫く。

 6連続のショットが可能ではあるが、6発打ち終わったらリロードをしなければならず、12発以上撃つと30秒のクールタイムが必要になる。殺気が乗りやすく、攻撃の軌道が高い確率で読まれるうえ、攻撃時に起こる反動によって、筋力がないものはダメージを負うこともある。

 品質:☆☆☆☆☆★★』


『アイテム名:異世界の自動装填投石器

 性能:筋力+347 武装アビリティ《リロード》《ショット》《装備者筋力ステータス無効》

 内容:鍛冶職人GGYが製造した投石器。この世界には存在しない概念で作られた投石器。本来人力で飛ばすべき団栗型礫を、火薬の力で飛ばす。これによって飛ばされた礫は高速回転を行い、装備している人間が狙った場所を正確に貫く。

 10連続のショットが可能ではあるが、10発打ち終わったらリロードをしなければならず、15発以上撃つと30秒のクールタイムが必要になる。殺気が乗りやすく、攻撃の軌道が高い確率で読まれるうえ、攻撃時に起こる反動によって、筋力がないものはダメージを負うこともある。ごく低確率で薬莢が排出口に挟まり、再びリロードしないと、ショットが撃てなくなることがある。

 品質:☆☆☆☆☆★★』


 確か二つの銃の性能はこんな感じだったはずだと、スティーブは先ほど見せてもらったその性能を思い出しながら、顔を引きつらせる。

 いくら所持者の筋力ステータスが反映されないからと言って、完全インテリ系の魔法使い職が、筋力+200オーバーの武器を振り回すのは何かが間違っていると思うスティーブ。しかも異世界武装の制限として、《異世界武器》のスキルを持っていないものが異世界の武器を扱うと性能が三割減するという制限ありきで、その数値だという。

 だが、それよりも恐ろしいのは、


「ショット!」

「っ!!」


 その銃口から、何気ないといっても差し支えがないくらいあっさりと放たれる、本来そこそこの時間、呪文を唱えないと発動しない多彩な魔法の数々だ。


『アイテム名:黒骨の魔力薬莢

 性能:武装アビリティ《魔法封入》《反動消失》

 内容:鍛冶職人GGYが作り出した特殊な薬莢。魔力を吸い込み保存する黒骨を材料に作られており、中級魔法以下の魔法を封印することができる。封印された魔法は特殊な武器で打ち出すことができる。

 放置しすぎると、薬莢そのものに魔力を徐々に奪われていき、最後には込めた魔法は消えてなくなる。

 火薬で魔法を飛ばすわけではないので、反動は起きない。

 品質:☆☆☆☆☆』


「厄介なもん作りやがって!」


 魔法使いの真骨頂と言われる上級魔法を封じられないというのが、救いといえば救いか。また作った薬莢も、時間が経つごとに威力を減らし、最後には空の薬莢になるというのも、長期戦が得意なプレイヤーにはありがたいだろう。

 だが、近接高速戦闘による短期決戦が主な戦闘手段であるスティーブには、あまり関係のないことだし、撃っている人間は《魔力超上昇》のスキルを持つエルだ。中級魔法しか使えなくとも、前線にいるフィールドモンスターなら、一撃で消滅させる力を彼女はもっている。

 その魔法が、詠唱のタイムラグなしで、乱舞するように襲ってくるのは十分脅威だ。

 近接戦闘を得意とする短刀使いのスティーブとしては、これほど厄介な敵はいない。

 そして、その厄介な攻撃は銃口から解き放たれた途端、真っ白な霧の津波となって、あたり一帯を覆った。

 中級広範囲水魔法『ミスト』。本来は後衛である魔法使いがモンスターにタゲられた際、そのタゲを外すために一時的にモンスターの視界を奪う魔法だ。だがこのミストや、煙幕などと言った煙系の魔法には、新しい効果があるということが最近分かった。

 その内容は、スティーブの体を包んでいた迷彩が、音もなく消えたことで、わかってもらえるだろう。

 隠行の迷彩は、あくまで視覚的にスティーブを見えなくしたにすぎず、存在を消したわけではない。

 そのため、動いたときに発生する空気の流れで、隠行中のプレイヤーの居場所を教えてしまう、煙系の魔法や道具を使うと、隠行は『隠行発動不可能』と判断し、勝手に隠行を解いてしまうのだ。

 当然、そのことはスティーブも知っており、彼は舌打ちしながらミストの中から飛び出す。

 だが、敵はそれすらも予想していたのか、霧の中からスティーブよりも早く飛び出し、スティーブを待ち構えていた。

 霧から飛び出したスティーブの額に、真っ赤な閃光がぶつかる。銃特有の殺気による攻撃軌道の顕在化。

 それを悟った瞬間、スティーブは腰に収めていた短剣を手に取った。


「ショット!」


 その言葉と同時に、エルが銃の引き金を引き、新しい魔法を瞬時に発動する。

 打ち出されたのは中級炎魔法ファイヤーボール。銃口から飛び出した時は、ほんの小さな弾丸サイズだったそれは瞬く間に元のサイズに戻り、スティーブに向かって襲い掛かる。

 だが、


「おせぇ!」


 もとより攻撃速度は全武装最速の短剣を使っているスティーブ。おまけに彼が持っているステータス超上昇は、《器用》と《素早さ》だ。

 遠距離武器の中で最速の攻撃速度を誇る銃弾による攻撃。だが、火薬で飛ばしているわけではない魔法弾にはその速度の恩恵はなく、普通に杖で使った魔法と同じ速度で飛来することも功を奏した。

 スキル《食材知識》と《鑑定眼》が複合進化することによって生まれた《食材目利》。そのアビリティである《解体眼》が教えてくれる、刃を通しやすい場所として示されるラインに向かい短剣をふるったスティーブは、スキル《魔法干渉》のアシストも借りて、見事に飛来する火球を両断して見せた。

 同時に、空いているもう片方の手から放たれるのは、GGY謹製の鉄串だ。

 それを《投擲》スキルによって、まるで手裏剣のように投げつけ牽制としながら、スティーブは有り余る素早さを使い一気に敵に接近する。

 だが、敵もそのことは予想していたのか、先ほどまで使っていたリボルバーとは逆のホルスターにつってある、オートマチック銃を手に取り、飛来する鉄串に向かって引き金を引く。

 スティーブが投げた鉄串は三本。

 当然エルが引き金を引く回数も三回だ。


「ショット!」


 ロクな狙いもつけられず三度引かれた引き金。本来ならばそんな状態で引き金を引いても、弾丸はテンでバラバラの方向に飛んでいくだけだ。

 だがしかし、この銃に装てんされているのは魔法弾――魔法を弾丸にした一撃だ。

 当然飛び出す弾丸もただの弾丸ではない。

 銃口から飛び出したそれは、緑色のエフェクトと共に輝き、小さな三羽の燕に変貌。

 変幻自在な軌道を描きながら、エルに向かって飛来する鉄串を、空中で撃墜した。


「スニークスワローか!?」


 またマイナーな魔法を!! と、スティーブが驚くのも無理はない。

 初級風属性魔法。追尾式生物型魔法スニークスワローは、その名の通り、30秒間、プレイヤーがターゲティングした対象に直撃するまで追いかけるお手軽魔法として知られていた。

 だがそれは初級ゾーンの話。大火力範囲攻撃が次々と出てくる上級魔法によって「追尾しなくても当る」魔法が使われるようになった今の前線で、この魔法を使っている人間は皆無だった。

 だが、確かに飛来する投擲物を迎撃するのに、これほど便利な攻撃はないと今更スティーブは気づかされた。

 投擲物は基本的に衝撃に弱く、何かにぶつかると簡単に飛来する軌道を変えてしまう、弱点を持つ。

 それを迎撃するくらいの目的なら、隙の多い上級魔法でなくとも、威力はなくともMP消費も低く、即効性が高いスニークスワローの方が何かとリーズナブルなのだ。

 そうこう考えているうちに、スティーブは短剣の間合いに入ることができた。

 背後では鉄串が地面に落ちて、ポリゴンになって砕け散るのを感じたが今は気にしている余裕はない。

 左手のリボルバーが即座にスティーブの額に照準される。

 真っ赤なラインが自分の眉間を貫くのを見て、スティーブは即座に腰に差されているもう一本の短剣を振るい、リボルバーの銃身を横殴りにした。

 それる銃身。広がる隙。その隙に向かい、スティーブは素早く短剣をふるう。

 《解体眼》によって見ることができる、対象にクリティカルを与えることができる個所――解体曲線。それに合わせるように振るわれた短剣は、エルの胸部に真っ赤なダメージエフェクトを走らせ、彼女のHPを大きく削った。


「よし! ここに来たら俺の領域だぜっ!!」

「そうですかね!!」


 だが、エルも負けてはいなかった。胸部を切られたことなどなんのその。そんなことはほとんど無視した状態で、彼女は体を旋回させ、回し蹴りをスティーブに放った。

 当然、純粋魔法使い職である彼女は格闘スキルをとっていないため、それによるダメージなど皆無といっていい。せいぜい勢いで、スティーブの動きをコンマ数秒間止めるくらいだ。だが、そのスティーブの動きが止まったことが大きな隙となる。

 その隙にエルは素早くリボルバーを額に当て、引き金を引く。


「っ!?」


 途端に青いエフェクトに体がつつまれたエルを見て、スティーブは盛大に顔をひきつらせた。

 生産にも使える《強化魔法》。エルがLv.30(カンスト)させた、そのスキルが持つアビリティ――中級速度強化魔法ソニックムーブによって爆発的に素早さが上がったエルが、魔法使いとは思えない速度で、スティーブの顎にオートマチックを突きつけた。

 慌てて銃口を払うスティーブだが、素早さが上がったエルに先ほどと同じ、反応速度での対応では、少し遅過ぎた。

 完全に銃口が払われる前に引き金が引かれ、銃から魔法が飛び出した。

 初級炎魔法フレイムバレット。弾速が早く牽制の一撃としてはかなり優秀な魔法で、前線でも使われる初級魔法の代表。

 その炎の弾丸が、スティーブの右耳を削るような赤いダメージエフェクトを走らせ、彼のHPをわずかに削った。

 いかに優秀な魔法であろうとも所詮は初級。エルの有り余る魔力強化を受けてなお、威力に難があるのは当然だ。

 だが、弾丸が当てられてしまった。

 そのことは、この密着した状態で、エルがスティーブと同等の近接戦闘が演じられるという事実を示しており……。


「ちょ、え……エル? 仕切りなおさないか?」

「え? ダメですけど」


 普通の魔法使い職ならもろ手を挙げて賛成する提案を、エルは笑顔で棄却した。

 つい最近魔法使いでも使える薬莢が開発されてから、彼女は新しい自分の性癖に目覚めてしまっていたからだ。

 そんな彼女の態度を見て、スティーブは思わず顔をひきつらせながら、


「このトリガーハッピー娘。それもいいとかファンに言われて、調子に乗ってんじゃねぇぞ」

「べ、べつにトリガーハッピーじゃないですしっ! なんか撃つの楽しいだけですし!」


 十分トリガーハッピーだわ。と、スティーブが言う前に、彼の額に再びリボルバーがつきつけられた。短剣によってふたたびそれは払われ、二人の間に火花のようなエフェクトが舞い散る。

 二丁の拳銃と、二本の短剣。それが演じる超近接の攻撃乱舞が、二人の間を駆け巡った。



              ◆         ◆



 リボルバーの銃口が次々と体にターゲティングされ、真っ赤なラインが何度もスティーブの体にぶつかる。

 スティーブはそれをことごとくはじきとばし、何とか魔法の弾丸に体を貫かれないよう、ギリギリの戦いを演じることとなった。

 さきほどから見る限り、どうもリボルバーには中級の強力な魔法弾が、オートマチックには発動速度が速い初級の魔法弾が詰められているらしい。

 そのため、くらえば一撃でごっそりHPが持って行かれるリボルバーの方をスティーブは警戒し、一撃でも食らうわけにはいかないとこうして神経質に払いのけ続けているのだ。

 だが、対するエルも、リボルバーが警戒されているというのは分かっているのか、先ほどからオートマチックでスティーブの隙をつくように、ちまちまと初級魔法で彼のHPを削っている。

 はっきり言って防戦一方。魔法使い職相手に、なんという体たらく。と、スティーブは内心で嘆きながら、それでも勝つのは自分だという思いを捨ててはいなかった。

 理由は簡単。拳銃が必ず陥る、武器としては致命的な隙があるからだ。

 初級魔法をいくら食らったところで、前線でもやっていけるプレイヤーであるスティーブのHPをそれまでに削りきるのは不可能。

 だからこそ、スティーブは速攻攻撃を得意とする《双短剣》スキル持ちとしてはありえないくらい、粘りに粘って粘り続け……!


「っ!?」


 エルがオートマチックの引き金を空引きするのを見て、口角を凶悪に釣り上げた。

 何が起こったのか? 無論言わずともわかる《弾切れ》である。

 弾倉にある弾丸をすべて出し切った銃など、もはや金鎚以下の鉄の塊だ。

 慌てて《アイテムタブ》に意識を回し、オートマチックのマガジンを取り出そうとするエル。

 《アイテムタブ》とは、戦闘中に使うであろう使い捨てアイテムを登録することによって、アイテム欄を操作しなくてもそのアイテムが使えるようにする機能のことだ。

 そのタブに登録されたアイテムは、プレイヤーが意識をすることによってあらわれ、呼び出されたアイテムはプレイヤーの手に落ちる。

 だが、戦闘中にその隙は大きな隙。おまけに、いくらマガジンを素早くはめ込んだところで、システム的に《リロード》には30秒の時間がかかることになっている。

 それは、高速戦闘を続ける存在には大きな隙だ。


「残念無念また来年! 短剣使いに近接戦闘挑もうとか、ちょっとおごりが過ぎたなエル!」

「――っ!!」


 悪あがきとして向けられたリボルバーの銃口を、最低限の動きでよけながら、スティーブは《解体眼》の指示に従い、彼女の首筋に二本の短剣を走らせようとして、


「ん?」


 アイテムタブから取り出されたアイテムが、オートマチックのマガジンでないことに気付く。

 それは、一発の弾丸。

 先ほどまで使っていた黒骨の弾丸ではなく、団栗型の鉛玉だ。

 そして、その弾丸を手にもったエルは、素早く鉄クズになり果てたオートマチックを足の上に落とし、手に掴んだ鉛玉を指ではじく。


「なっ!?」


 投擲スキルをカンストした際に現れるアビリティ《指弾》。本来手に掴んで投げなければアシストが働かない投擲スキルを、弾にする物体を指ではじくことでも、アシストされるようにするアビリティ。


 それによって、ほぼ銃を持って打ち出されるのと変わらない速さで飛来した弾丸が、スティーブの腹に突き刺さり大きくスティーブの体を後退させる。

 同時に先ほど弾き飛ばしたリボルバーの銃口からは、どういうわけか弾丸が吐き出されていて、


「なっ!?」


 その弾丸はポンという軽い破裂音と共に、あたり一帯に濃密な霧をまき散らした。

 さきほどもリボルバーで使っていた《ミスト》だ。

 まさかここでその弾丸が込められているとは思っていなかったスティーブは、慌てて先ほどまでエルが立っていた場所に短剣、アイテムタブから取り出した鉄串を投げつけるが、当然反応はなし。目くらましをしたのだから、その場にとどまっているわけもなく、スティーブは視界のきかない霧の中を慌てた様子で見まわすが、当然エルの姿は見当たらない。

 だが、エルにはスティーブの姿が見える。この魔法はそういう使用者に都合のいい効果を持つ魔法だ。

 ミストは魔法である。システム的に使用者の視界を遮らないようにするのは、むしろ当然。ご都合主義的利点があるからこそ、魔法は魔法足りえるのだ。

 だからこそ、スティーブはこのままではまずいとミストの効果範囲内から飛び出そうとして、


「すきだらけですよ、スティーブさん」

「――っ!?」


 体を黄色い閃光で貫かれ、その場にばたりと倒れる。

 中級状態異常魔法パラライズライトニング

 ダメージは与えられないが、敵を確実に麻痺させる雷を放つその魔法を、リボルバーから発射したエルは、ゆっくりと霧の中から倒れたスティーブに近づき、


「やっぱりきちんと視認されていないと、銃から出る弾道予測線って出ないみたいですね。これは新しい発見です。うん、あとでお爺さんに報告しよう」

「……え、エル? チョット待とう! 今度なんか美味いスイーツでも作ってやるからっ!! なっ!!」

「もう往生際が悪いですよ、スティーブさん」


 弾倉を入れ替えている間に拾ったのだろう。魔法弾をいっぱいに詰め込んだオートマチックと、リボルバーを構える彼女の後ろでは、使い捨てられたオートマチックのマガジンと、リボルバーの装弾を手早くするための補助具スピードローダーが役目を果たし砕け散るのが見えた。


「GGY……。これ以上銃関係のアイテムを、充実させてどうするつもりだ!?」

「まぁ、全部使い捨てだからお高くつきますけどね……」


 そんな会話を二人は交わし、


「それでは、ええっと……残念無念また来年?」

「あぁ! それ俺の決めセリ……!!」


 言い切る前に、エルがリボルバーから放った特殊弾丸――《散弾》が魔法を纏いながら、スティーブの全身をまんべんなくうがった。

 散弾は、一発の弾丸に50は詰められている、発射された際飛び散る小さな弾一つ一つに、銃の攻撃力が均等割りされてしまうとっても困った弾丸だったが、その広い攻撃範囲と、近距離で発射した際、相手に《ノックバック》効果を与えることを期待して、GGYが最近開発した弾丸だ。

 もっとも、鉛玉で作った散弾では拳銃が、飛び散る散弾が生む衝撃に耐えきれず、魔法弾でしか実現できなかった欠陥品だが。

 今の世界をクリアしたあとで、この散弾が鉛玉でも使用できる銃を開発しようとしているらしいが、これ以上世界観を壊すようなまねは自重してほしいと思うスティーブ。

 そんなことを考えている間に、スティーブの体には全部で五発……すべて散弾であった。リボルバーの攻撃がめりこんだ。

 それによってスティーブのHPはあっさり空になり、彼は魔法使い職に近接戦闘で負けたという不名誉を背負いながら、虚空へと砕け散るのだった。



              ◆         ◆



「おい、GGY! 武器の整備に来てやったぞ、有難く思えっ!!」

「おぉ、カリンちゃんじゃないか! なんじゃ、この前作ってあげた鉄杖の整備かの?」

「え!? あ、あのお爺さんあとで絶対謝らせますから……」

「おいGGY無視するんじゃない!?」

「あぁ? 何じゃハイエナ。誰がここで貴様に、臭い呼吸する許しを与えた? ワシの目の前からさっさと消えんか!!」

「んだとこらぁっ!? あとLycaonだと言っているだろうがっ!!」


 そのころワシ――GGYは、いつものように自分の店で荒くれ者たちの注文を聞き、鍛冶屋の仕事をしておった。

 そんなときに現れたのが、ゴールデンシープの面々にボコボコにされたにもかかわらず、しつこくワシのもとを訪れるようになったLycaonたち――《雑踏舞踏》の面々じゃ。

 まったく、カリンちゃんに巻き込んでしまった詫びをするために、ちょっと装備を作ってやったら付け上がりよって!! と、ワシは内心憤りながら、ギャーギャー喚くLycaonにデュエル申請を叩きつける準備を始める。

 それをはたから見ているカリンちゃんがかわいそうなくらい震えて「お願いだから謝って!!」とLycaonの頭を引っ掴み、無理矢理下げさせようとしておるが、Lycaonはワシに頭を下げるのが死ぬほど嫌なのか、必死に体を硬直させて抵抗していた。

 こんな奴に情けは無用じゃな。と、ワシが考えデュエル申請のボタンを押しかけたとき、


「お爺さん、これ凄かったですよっ!!」

「ん?」


 ワシの工房に繋がっておる扉から、エルが目を輝かせながらワシの店に飛び込んできたのは。

 その後ろではげっそり疲れ切ったスティーブがおる。その様子から見てどうやら模擬戦は負けたようじゃのう。


「散弾は多少威力にばらつきが出ましたけど、十分実戦で使用可能です! あとの問題は、あんまりたくさんの種類の魔法を使うと、よほど戦略をうまく組み立てないと、使いたい弾丸を使いたい状況で使えないこと。私はもともとかなりの種類の魔法を使い分けてあらゆる状況に対応できるよう鍛えた、《ソロ型》マジシャンでしたから、この銃を無駄なく運用できますけど、普通の魔法使いにはちょっと厳しいかと。そして、この銃自身に『魔力+』がついてくれればよかったんですけど……」

「うむ……。今の素材が実用に耐えうる銃をギリギリのラインで実現しておるからのう。あくまで魔法使い専用の銃を作ろうというのなら、新しい素材が見つかるのを待つしかない」

「そうですか……。あぁ、魔力+さえあればワンドなんて使わずにこっちに乗り換えるのにっ!!」


 ここ数週間ですっかり銃の魅力に取りつかれてしまったエルの言葉に、ワシはわずかにひきながら、疲れ切っているスティーブに視線を投げかけてみた。


(どうじゃった?)

(更生とか無理無理。あれは一種の中毒症だわ)


 視線だけでそんな会話を交わしながら、ワシとスティーブは思わずため息をつく。

 ワシだって、エルのような可愛らしい女の子を、拳銃なんてあんまり褒められたものではない鉄臭い世界に引きずり込んでしまったことを、悪く思っていないと言えばうそになるのじゃ。

 そういうわけで、こうして時たま魔法弾の試射を兼ねた模擬戦をスティーブとしてもらい、何とか更生の余地はないかとさぐっているのじゃが……どうもエルのトリガーハッピーは悪化の一途をたどっとるようで。


「まぁ、なるようになるじゃろう……」

「げ、現実で問題を起こさない程度の分別はあるだろうしな……」


 と、ワシとスティーブはそっと顔を見合わせて、ため息をついた。

 そして、


「え!? その銃魔法使えるんですか!?」

「はい! 撃った時凄く爽快な気分になれるんですよっ!! あとは、筋力値が足りなくていうことを聞かせられなかったプレイヤーを、お手軽の脅せる器具として重宝します」

「そ、それ幾らですかっ!?」


 幼気な女性プレイヤー相手にとんでもないことをいって、魔法銃を布教させようとするエルに、ワシとLycaonは珍しく声をそろえて、


「「やめてっ!?」」


 と叫んでしまった……。


 ようやくラストに近づいてきている感じですかね……。次は最後の騒動の導入になるかと思います。

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