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ジョブスキル

「まず根本的な疑問として、お主の仲間はどうした?」


 普通のモンスターならばまず感じられん、圧倒的な威圧感を放つモンスター――フィールドボスの《ダークスケルトンリーダー・アサシン》を、攻撃動作を見逃さぬようにじっと見つめながら、ワシはワシの後ろに隠れた青髪眼鏡に問いかけた。

 というかお主、盾職じゃろうが!? ダメージディーラーの後ろに隠れるでないわっ!!


「そ、それが突然、こいつ俺たちのパーティーの後ろに現れやがって……後衛全員連続技で殺した後、他のメンツも連続クリティカルであっという間に」

「なに?」


 連続クリティカル。そんなバカな……。頭や心臓と言った場所に攻撃を当てるとクリティカル判定が出るというのは、このゲームではよく知られていることじゃが、それがわかっているからと言って実際の戦闘でその個所を狙うのは至難の技じゃ。

 自動誘導(ホーミング)機能がある魔法ならまだしも、ただの短剣使いができる技では……。と、ワシが考えた瞬間じゃった。

 ヌルリと、そんな擬音が聞こえてきそうな薄気味悪い動きをしながら、ダークスケルトンリーダー・アサシン――言いにくいのでDSLA(ダスラ)と呼ぶかのう――の影から真っ黒な物質が伸びあがり、DSLAを包み込んで地面に沈めたのは。


「っ!?」


 瞬間、ワシは得体のしれない悪寒を感じ、ステータスのせいでゆっくりとしたものになるが、それでもワシにとっては精一杯のステップを踏むことでその場から離れる。

 同時に、ワシの背後に伸びておった木の影から、まるで黒い水の中から出てきたかのように黒いしぶきを散らしながら、DSLAが飛び出してきたのは。


「うわっ!?」


 完全にホラーにしか見えないその光景に、ワシが飛ぶと同時にその動きにあわせてついてきた青髪眼鏡が悲鳴を上げる。

 そんな悲鳴を鬱陶しく感じながらも、ワシはワシに向かって突き出されるナイフを何とかハンマーの柄で受けてパリィした。

 器用値が高いと、武器の固い部分を使って相手の攻撃を防ぐこともできるようになる。

 もっとも、これをすると武器の耐久値が凄まじい勢いで減るから、あまりしたくはなかったんじゃが。

 ワシがそんな風に独りごちている間に、不意打ちを防がれたDSLAはわずかに首をかしげながらも武器を引き、後退。

 そして、


『アビリティ《クリティカルライン》』

「っ!?」


 DSLAがそうつぶやいたかと思うと、その体が瞬時に加速する!


「っ!? も、モンスターが……《暗殺者(アサシン)》スキルのアビリティを使っただと!?」

「はぁ?」


 何じゃそれはとワシは、怒涛の勢いで攻撃を加えてくるDSLAに、必死に対応しながらその攻撃をそらす。

 じゃが、もとより素早さに二回り以上の差がある敵。いくら器用値が高くともパリィできる数には限界があり、ワシの体にはいくつかの赤い線を引いたかのようなダメージエフェクトが迸った。

 同時に、


「っ!? ばかな……!?」


 ワシの視界の左端に浮かんでおるHPバーが、攻撃がかするたびに、目に見える勢いで減っていく。

 何じゃこの攻撃はっ!?


「く、クリティカルラインは、相手の弱点――クリティカル判定になるポイントを、一定時間、線状拡大する、暗殺者スキル特有のデバフアビリティだよっ!! 敵はその線に触れるように攻撃をするだけで、相手にクリティカル判定の攻撃を当てることができるようになる厄介なスキルだ」

「いやまて、アビリティの説明はありがたいが、まずはその《暗殺者》スキルというのを教えろっ! そんなもの聞いたこともないぞっ!?」

「はぁ!? 掲示板見てねぇのかよジジイ! ちょっと前に大分話題になっただろうがっ!!」


 そんな偉そうな口をきく前に、まずお主はワシの背中から出てこんかいっ!! と、ワシはよっぽど言ってやりたくなったが、戦闘中にもめている余裕などあるわけもなく、歯ぎしりをしつつ、


「た、頼むから教えてくれんか?」

「仕方ないなっ! いいか、初めのスキル構成で《ステータス上昇増加》を単体でとるなんて馬鹿な真似をした爺さんは知らんだろうが、《ステータス加算》系スキルをとり、それをカンストした状態で、メインスキルを進化させると、進化させるスキルの選択肢に、ある隠しスキルの項目増えるんだ」

「隠しスキルじゃと?」


 まぁ、上昇増加系スキルにもあったくらいじゃし、何かあるとは思っていたが、まさかそんなものがあるとは……。と、ワシが感心しておる間に何とか敵からかけられた、クリティカルラインの効果が切れたらしい。

 目に見える速度で減っていたHPの減少が、ゆっくりとしたものに変わりワシにも精神的余裕が戻る。

 だが、敵もさすがにCPUが操作する存在と言ったところ。アビリティの効果が切れたのを、人間のように見逃すことはなかったのか、ワシとはけた違いの距離をステップで後退し、森の影の中に隠れる。

 ぬぅ……。追いかけて攻撃は無理か。移動速度に差がありすぎる。

 ワシがそんなことを考えている間も、青髪眼鏡の説明は続いておった。


「別にこれといった正式な名前があるわけじゃない。ただいくつかのスキルを合わせたような効果を持つこのメインスキルは、その効果から前線プレイヤーの間ではこう呼ばれている――《ジョブスキル》と」

「ジョブじゃと?」


 職業を意味するその言葉は、当然ゲームの中でもその意味合いで使われる。

 《ナイト》《魔法使い》《アーチャー》《スカウト》。有名どころをあげれば、きりがないじゃろう。プレイヤーたちはその職になりきり、各種の職の専門分野を鍛え上げてゲームをプレイするわけなのじゃが。


「おかしいじゃろう? この世界にジョブなんてシステムはなかったはずじゃ」

「だから、その決まりをかいくぐるためにスキルにしたんだろ。たとえば前線タンクの俺は、メインスキルに《片手直剣》。サブスキルに《防御力加算》のスキルを入れていたおかげで、メインスキル進化の際の選択肢に《ナイト》と言うスキルが出ていたんでそれをとった。このナイトは典型的なタンク専用職で片手武器のスキル全般と、《盾》スキル。それと《挑発》スキルを併せ持つのと同じ性能を持つ、優秀な壁職スキルだ。そしてそれらすべて、どのアビリティを使っても、このジョブスキルは均等な経験値として受け取り、すぐにレベルアップが可能となる! ステータスの上昇補整も、ジョブスキル前のスキルとは比べ物にならないくらい高く、上昇するステータスの種類も多いし……正直いまだにジョブスキルもっていない奴とかまじ遅れているよねっ! よくそんな状態でこのゲームを続けられるよねっ! 心底恥ずかしいと思うよ、ご愁傷様っ!!」


 ワシが加算系スキルを持っていないことを知っているからか、先ほどまで怯えていたことはすっかり忘れて、ワシのことを指差し爆笑する青髪眼鏡。

 もういっそのことこいつを肉の盾にするかとも思ったが、それではまだ重要なことが聞けぬし、ワシは必死にそれを我慢した。


「なるほどなるほど。おそらくそれが正式な、強くなる方法なんじゃろうな。ところで、ジョブスキルについては分かったんじゃが……肝心の《暗殺者》に関してわかることはあるかのう?」

「………………………………」


 そう。現在対峙しているDSLAの弱点が割り出せるかもしれない、ジョブスキル《暗殺者》に関しての情報じゃ。

 それを聞くために、ワシは今までこやつの暴言を我慢してきたんじゃ。

 そして、ようやく青髪眼鏡の口から、《暗殺者》スキルの詳細が出て、


「いや、《小型系武器》をメインスキルに、《素早さ》と《器用さ》の二つのステータス加算系をカンストさせた状態で出てくる、レアなスキルだというのは聞いたことはあるけど……詳細までは知らないね。レアだから、情報があまり出回らないんだ。まったくもう……そのくらいは察しなよっ! これだからジジイは!」

「……………………………………………」


 こなかったので、ワシは思わず黙り込んだ後。


「ふんっ!」

「うをっ!?」


 取りあえず怒りに任せて、目の前にいるバカ野郎の頭をわしづかみにし、ちょうどいいタイミングで背後の影からズルリと出てきた、DSLAに向かって、ぶんなげておいた。



              ◆         ◆



 鎧がナニカに激突するような盛大な音が響き渡った。

 ワシの筋力値で全身鎧の人間を投げたせいか、DSLAのHPが目に見えて減っておる。

 もとよりフィールドボスは、条件さえ整えば一人でも倒せるようになっているボスだ。中ボスや、ワールドボスと言ったレイド級の戦力が必要になるモンスターと比べると、いささかステータス的には劣る。

 とはいえ、正式な攻撃ではなかったせいか、システムアシストの恩恵を受けておらん人間爆弾攻撃は、その重量の割には大したダメージを与えておらんが。せいぜい満タンじゃったHPが一割くらい削れた程度じゃ。


「何しやがるテメェ!?」

「むしろよく今まで我慢したと褒めてほしいくらいじゃが」


 とはいえ、憂さ晴らしにはなった。と、怒声を上げながら慌てて立ち上がり盾を構える青髪眼鏡の殺意の入った視線を流し、ワシはつぎのDSLAの行動を見つめておった。

 すると。


「ふむ。やはりあの陰から影へと渡るアビリティは連発できんようじゃのう」


 クールタイムが終わっていないのか、自分の身を守るために必死に盾でDSLAを押しとどめる青髪眼鏡の前で、DSLAは苛立たしげに何とかその防御を抜こうと体を左右に振っていた。

 青髪眼鏡はそれに気付いていないのか、DSLAの足の動きを盾の下から見ながら、それに合わせてただ必死に、盾の位置を小刻みに変えている。


「青髪眼鏡に攻撃せんということは、ヘイトはワシがもっておる状態か。ふむ、これでは前に出ても攻撃が当たらんのう。仕方ない」


 遠距離からの援護射撃が妥当か。と、判断したワシは、右手に暗器銃を装備し(・・・)、それを発砲。盾越しにのぞくことができるDSLAの体にむかい、弾丸を放った。

 銃を開発し始めたときからとっておった、《ハンマー》スキルの進化スキル《騎士鎚》が役に立ってくれた。

 騎士鎚は本来《盾を片手に装備し、もう片方の手でハンマーを操る》という行為のアシストをするスキルで、ハンマーを片手で持っていても、ハンマースキルのアビリティを使うことができるという優れものじゃ。

 ワシはそれを利用し、盾を持たない代わりに右手を空け、いつでも銃を装備できる状態にしたのじゃ。

 おかげで本来使えるはずじゃった、盾を使ったアビリティが使用不可能になってしまったが……。

 そんな、ワシのちょっとした発想が生み出した、奇跡の遠距離攻撃の効果はっ!!


「やはり避けよるか……」

「あぶなっ!?」


 青髪眼鏡の鎧に弾丸がかすった音が響き渡ると同時に、先ほどまで狙っておった体の一部を見事に盾の向こうへと隠し、弾丸の一撃をDSLAが回避するのがほぼ同時じゃった。

 弾丸が飛ぶ速度は、この世界ではせいぜい弓より少し早い程度。前線でも十分通用する素早さを持っているらしいDSLAにとっては、避けることは簡単だったのじゃろう。

 この距離でこの銃の弾丸を当てるのは難しい。そう判断したワシは、再び銃の装備を解除(・・)し、どうやって目の前の敵に致命打を与えるか考える。

 そして、


「おい、お主」

「なんだよクソジジイ!? というかHPちょっと減ったんだけど、何攻撃かすらせてやがるんだっ!?」

「そんなところに立っとるおぬしが悪い。というか、今そんなどうでもいいことは端においておいて、すこしワシとパーティーを組め」

「はぁ!? この状況でハイって言うと思ってんのかっ!?」

「えぇから、力をかさんかい若いのっ!」


 ギャーギャー喚くキレる十代を押さえつける、きつい声音を発しながら、


「このまま死にたいか、ワシと協力してこのDSLAに勝つか……好きな方を選べっ!!」

「だ、DSLA? なんだよそれ!?」

「ダークスケルトンリーダー・アサシンの略じゃ」

「わかるかっ!?」


 ワシの叫びを聞いた青髪眼鏡も、一応ゲーマーであったのか、ワシの提案に思わず暫く迷った後、


「ほ、本当に勝てるんだろうなっ!」

「少なくとも、今よりかは、勝率は上がるはずじゃ」

「くそったれっ!!」


 一しきり罵り声をあげた後、


「死に戻りしたら、真っ先にお前にデュエル挑みに行くからなっ!!」


 そんな捨て台詞を告げながら、ワシが送ったパーティー申請にイエスのボタンを押した。


『システム:パーティー申請が受諾されました。

 キャラクターネーム:Lycaon(リカオン)


 その時漸くワシは、青髪眼鏡のキャラクターネームを知ることになったのじゃ。

 いや、心底どうでもよいがのう。



              ◆         ◆



「《騎士の気迫》!!」

『――っ!?』


 俺――Lycaonは、ジョブスキル《ナイト》がもつヘイト上昇スキルを放ち、ダークスケルトンリーダー・アサシン……あぁ、もう! 言いにくいからGGYが言っていたDSLA(ダスラ)でいいわっ!! とにかく、そいつのタゲを奪おうとしてみる。

 だが、GGYが稼いだヘイト値が意外と高いのか、それだけではDSLAのタゲは変更されない。

 まったく、一回の実害を与えた程度の攻撃でどれだけのヘイト値を稼いでやがる。それとも、あの欠陥兵器の弾丸がそんなにヘイト値稼いだのか? と、俺はそんな愚痴を漏らしながら、足に力を籠め、盾を突き出すような動作をした。

 その動きを合図に発動する、《ナイト》のアビリティ。


「ヘイトバッシュ!」

『ぐぉおおおおおおおおおおおおお!!』


 盾が赤く輝くと同時に、俺の後ろに行こうと、盾の眼前をうろうろしていたDSLA至近距離からシールドバッシュが決まる。

 当然これも敵のヘイト値を稼ぐ効果があり、さすがにここまでされてDSLAも黙っているつもりはなかったのか、木の葉がかすれるような声で悲鳴を上げながら、ようやく俺にタゲを移した。

 これでいい。さっきGGYが言っていた作戦の第一段階は終了だ。


「さぁ、こいよ……!!」


 精一杯の虚勢を張りながら、俺は自分自身に気合を入れるためにひきつった笑みを浮かべる。

 そんな俺にこたえるように、


『アビリティ《クリティカルライン》!』

「うをっ!?」


 DSLAの両眼が一瞬赤く光ったかと思うと同時に、瞬時に加速したDSLAが俺の盾に向かって疾走してきた。

 アビリティ《クリティカルライン》は、情報の少ない《暗殺者》のアビリティの中で、唯一効果が割り出されているアビリティだ。

 今実在する《暗殺者》のスキルもちは、わかっているだけで十二人。そのうち十人がPKプレイヤーなわけだから、そりゃ情報も少ない……。

 その暗殺者スキル持ちのとあるプレイヤーと、ガチバトルをしたノブナガというプレイヤーが「PK対策にどうぞ」と掲示板に上げたこのアビリティは、初撃のナイフにこそその能力のほとんどが宿ると言っていい。

 初撃のナイフが相手の体に接触することによって、その呪いを相手にかけ、クリティカル判定が出る場所を線状に広げる。そこから敵プレイヤーの全身を切りつける連続攻撃が始まり、その攻撃が伸びたクリティカル判定の線に触れることによって、相手の体に高いダメージを与え続けるのだ。

 つまり、この初撃のナイフさえ躱してしまえば、じつはこのアビリティはあっさりと失敗させることができる。

 しかし、ここで問題になってくるのはDSLA自体の速さだ。

 正直ナイトのスキルは、防御系と攻撃力を重点的に上げてくれる以外にも、魔力以外の他のステータスも、そこそこの水準まで上げてくれる、優秀なオールマイティースキルだ。

 だが、そんなナイトの素早さをもってしてもなお、追いつくことは難しい素早さ。

 前線のスピード型ダメージディーラーに匹敵する速度を持つこいつの攻撃を、ナイトの速度で躱すのはまず不可能。初撃は間違いなくもらってしまう。

 そして、続いて行われる連続攻撃すべてに対応し、伸びたクリティカルポイントに一切触れられないよう立ち回り、HPが0にならないよう防ぎきるのはほぼ不可能と言ってよかった。

 そんなことができるのは前線でもトッププレイヤーと言われている、レイド級のボスモンスターの攻撃を、ひとりで防ぎきることができる化物盾職連中くらいだ。

 なんちゃって前線組の俺では、到底できるわけがない。と、俺は自分に正しい評価を下す。そのくらいのことは、わきまえていた。

 だが、


「やらなきゃならないんだろうがっ!!」


 もともと、前線にいるにもかかわらず、初日のごたごたでパッとしないプレイヤーになってしまった、自分たちの境遇を変えるために、突発湧きしたこのフィールドボスを倒そうとしていたんだ。


「ここで勝てなきゃ……俺は一生パッとしないままだろうがっ!!」


 そんなことは、許されない。

 ゲームの中でくらい、英雄でいたいんだっ!! だから!!


「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺は絶叫を上げ、DSLAの攻撃を受け止めた。

 クリティカルポイントが、相手の視界でぐんと伸びたのが何となくわかる。

 同時に発生する敵の連撃。

 GGYはこの攻撃にどう対応していた? ハンマーの柄を使って器用に攻撃をパリィしていた。

 あれは極限まで上がった器用値と、敵の攻撃を冷静に見極める胆力がないとできない所業だ。

 そう。攻撃は見える。

 早すぎて見えない攻撃なんて……そんなよけようも防ぎようもない攻撃を放ってくる敵がいるゲームはクソゲーだ。

 早いが、するどいが、DSLAの攻撃は確かに見える。

 だから、


「づっあぁっ!!」


 気合いの声と共に、まず俺は初撃の直後に俺の体に食らいつこうとした攻撃を盾で防ぐ。

 同時に、盾の下から覗く敵の足が、信じられない速度で右方向にスライドしたのを確認した。

 このアビリティは、攻撃動作中も動くことができることで有名だ。

 さすがに移動補助系のアビリティを同時に使うことは無理らしいが、これだけの速度を出せるのなら、そんなものがなくても十分俺の盾の防御範囲からは逃れられる。

 一つの攻撃が俺の腕をかすめる。クリティカルポイントにあたったのか、俺の鎧の防御力なんて無視して、HPがごっそり減った。

 クリティカルは敵の鎧の防御力を無視したうえで、ダメージを1.5倍ほどにして与えてくる。タンク職だろうが、くらえばHPがごっそり減らされてしまうのは当然と言えた。

 だが、まだ俺のHPはなくなっていないっ!!


「うらぁあああああああ!!」


 怒号を上げながら、俺は足を後ろに下げ《ナイト》の防御アビリティを発動する。

 《騎士の魂》。自分の基礎防御力を一瞬だけ二倍近い数値に上げてくれる、ナイトの奥の手だ。鎧の防御力を無視するクリティカルも、さすがにプレイヤーのステータスに表示される基本防御力を無視することはできず、俺のHPの減り具合は一瞬だけましになった。

 その間に足の入れ替えで何とか体を旋回させ、DSLAに追いついた俺の盾は、再びDSLAの攻撃を防いだ。

 盾にぶつかった短剣が火花を飛び散らせ、紅く輝いているDSLAの瞳がわずかに見開かれた気がした。


「どうだ、化物。ビビったか?」


 錯覚だ。ボスモンスターとはいえ所詮はモンスター。そんな人間臭い動作をするAIは詰まれていないと、わかっていながら、俺は思わずそんな声を漏らしていた。

 そして、そんな俺の言葉を生意気だと思ったのか、


『アビリティ《シャドウスルー》』


 DSLAの体が真っ黒な影に包まれ、地面に沈み込む。

 だが、生意気なのはそちらの方だ。


「それを待っていたんだよっ!」

「あぁ、ようやってくれたわい」


 到底盾の旋回が間に合わない背後に現れたDSLA。たとえ連撃が終わっても、《クリティカルライン》のクリティカルポイントの拡大はまだ続いている。そこに攻撃を仕掛けようとでも思っていたのだろう。

 だが、


「先ほどからあの影から影への移動は、プレイヤーの背後にある影への移動しかしておらんかったからな。つぎもそうなるかは賭けじゃったが、うまくいってくれて助かったわい」


 不本意ながら、俺は一人じゃない。と、俺が内心苦々しくつぶやくのと同時に、俺に向かってナイフを振り上げたDSLAの側頭部に、黒金の鉄槌がめり込んだ。


 銃を活躍させらんなかったよォT―T


 つ、次こそは必ずっ!

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