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第六天魔王

 銃制作の日々は延々とした試行錯誤の日々じゃった。


 まず弾丸を武器として使える速度で飛ばすのに、必要な最低限度の火薬の品質と量を割り出し、それに耐えられる銃身の制作を行った。

 火薬の研究自体は、カイゾウがロケットブースターのためにいろいろやっていたので、割とすぐに計算して割り出すことができた。

 問題は銃身。この世界も一応はゲームの世界ということで、システム的にこんなアイテムはないと判定された銃身は、試すまでもなく《制作失敗ファンブル》になり砕け散ったから、まだ現実と比べると試行錯誤の回数は少なかったじゃろうが、それでもワシらは4桁を軽く超える実験品を作り、それで弾丸を飛ばして……銃身を破裂させてきた。

 最終的に完成した銃身が、『アイテム名:異世界武器の部品』になったことで、ワシらが作ってきたアイテム『アイテム名:鉄パイプモドキ』が試すまでもなく失敗作だったことが分かった時の虚脱感といったら……正直筆舌に尽くしがたかった。

 と、とはいえ、そんな苦労をしながらもようやく武装に使える部品を作り出したワシらは、銃身ができてすぐ……とうとう目的の第一段階を達成した。


「できたぞっ!!」


 とうとう、それは完成した。


『アイテム名:異世界の火縄投石器

 性能:筋力+250 武装アビリティ《ショット》《リロード(長)》《装備者筋力ステータス無効》

 内容:鍛冶職人GGYが作り出した投石器。この世界には存在しない概念で作られた投石器。本来人力で飛ばすべき礫を、火薬の力で飛ばす。威力は非常に強力だが狙いがそれやすく、命中率は神のみぞ知る領域。また、雨が降ると不発になる。殺気が乗りやすく、攻撃する時敵にみられていると、その軌道が高い確率で読まれるうえ、攻撃時に起こる反動によって、筋力がないものはダメージを負うこともある。

 品質:☆☆☆☆☆』


 色々問題もあり、欠点目白押しのアイテム説明なうえに、品質も☆5と低かったが……ワシらはようやく、火縄投石器=火縄銃の制作に成功したのじゃった!

 そして、


「………………爺さん」

「言われずともわかっておる……」


 ワシは険しい顔でワシに話しかけてきたカイゾウに、背中を向けながら一言、


「もうそろそろ金がつきるか……」


 試行錯誤。新兵器の開発……それらはすべからく、金がかかる行為。

 この世界でも、そのことは変わらんようじゃった……。



              ◆         ◆



「まさかこんなに早く資金がなくなるとはのう……」

「大量の素材をファンブルしまくったのがいけなかったな……」


 ワシは、目の前に並んだワシ以外の職人が作って持ち寄った、火縄銃12丁を見ながら、眉をしかめておった。

 先ほど言ったように予算切れじゃ。さすがに負債を負ったというわけではないが、これ以上の銃研究をするなら、それも覚悟しなければならない……。そういったところまで、ワシら銃開発チームは至っていた。


「この火縄銃が売れれば、もう少しは続けられると言ったところじゃろうが……」

「難しいだろうな。実際個人で扱う武装にするにはいささか難がありすぎる武器だし」


 ワシの傍らで銃の性能を調べておったカイゾウが言うように、銃という武器にはいささか欠点が多すぎた。

 まずは武装アビリティの《装備者筋力ステータス無効》。銃という武器の特性上、予想しておかねばならなかったこの欠点は、銃を武器として使うに当たり、プレイヤーの攻撃力が、銃による攻撃によって相手に与えるダメージに一切繁栄されないというものじゃ。

 つまり、銃で相手を撃っても、相手は銃の攻撃力分のダメージしか与えられない。

 銃という武装を作って初めて分かったのじゃが、銃は品質の悪い武器にしては破格の攻撃力を持っておる。じゃが、わしのような超上昇のスキルを持つものや、加算系+上昇系のスキルを持つプレイヤーの最高攻撃力が300越えだというのを考えると、その攻撃力は高い数値とは言えない。

 続いては命中率。手で放つ矢や、投石器と比べるとこの命中精度がけた違いに低かったのじゃ。

 雑賀の古文書にあった銃をそのまま再現したがゆえに、飛ばす弾丸は爪の形をしたものではなく球状の鉛玉。以前の失敗から考慮し、ライフリングを刻む工程は鋳型から出してからにしたため、ライフリングを刻むための器具も制作しておったのじゃが、そちらは現在未完成。そのため、この12丁の火縄銃の内部に、螺旋を描く溝が刻まれておらんのもいたかった。

 いくら器用値補整で神がかった照準をしようと、有り余る筋力値で銃の反動を抑えようとも、銃口から吐き出された弾丸は他の遠距離武器のようにまっすぐ飛ばす、ランダムで曲がってしまうのじゃ。

 もう、隠しステータスに幸運値でもあるんじゃないかと、ワシらのチームの間でささやかれるほどの外れっぷり。現在は爪型弾丸と、ライフリングを刻む器具の制作を急がせているが、これほどの命中性のなさをどこまで改善できるか、正直ワシもわからんかった。

 続いては説明文にもあった『殺気が乗りやすい』という一文。

 これはどうも銃のチート化を防ぐための機能らしく、銃を装備しているプレイヤーを、敵対しているプレイヤー、もしくはモンスターが見ると、銃口から赤い光の線が伸びているように見えるらしい。

 言うまでもなくそれは銃から発射される弾丸の、弾道を示す線じゃ。それに当たらないよう体を動かせば、敵対者は銃の弾丸にあたることなく、平然とその攻撃をよけることができる。下手をすると銃を撃つ者よりも、銃を向けられている方が弾道予測を正確にできるこの鬼畜な制限に、ワシは思わず目の前が真っ暗になりかけた。

 どう考えても、あのアサシンに当てられんじゃろうっ! と。

 これでは当初の目的の達成は不可能じゃ……と、ワシが思いもういっそ銃開発を止めるかと考えてしまったのも仕方がないことじゃろう。

 そんな時じゃった。頭を抱えるワシとカイゾウがいる工房に、一人の男が訪ねてきたのは。


「すいません……ここ銃を開発している工房だと聞いたのですが、工房長はいますか? 火縄が完成したと掲示板で見たので、良ければ売ってほしいのですが」

「ん?」


 突然聞こえてきたワシを尋ねる声にワシが振り返ると、そこには真っ黒なローブに身を包み、片手に長い杖を持った男が佇んでおった。

 見たところメインジョブは魔法関係の何かか? じゃがこいつは今……。

 ワシはその人物の驚くべき言葉に、聞き間違いかと首をかしげながら対応をする。


「工房長はワシじゃが……。聞き間違いかもしれんから問うておこう。火縄銃を売れと、今そういったのか?」

「はい。お値段はそちらの言い値でかまいません」

「??」


 やはりおかしい。と、ワシは首をかしげる。掲示板で火縄銃の完成を知ったというのなら、他の連中がその欠点も包み隠さず記載して、改良案を募っておったことも知っておるはずじゃ。

 その改良案を募ったのがつい昨日の話。今日火縄銃を買ったところで、ろくに武器として使えないこの欠点だらけの銃しか買えないことは知っておるはずじゃ。


「どういうつもりじゃ? 作ったワシが言うのもなんじゃが、こんなもの買ったところでろくに使えんのは知っておるじゃろう?」

「いいえ。僕はちょっと裏技を持っていて……その銃が使えそうなんですよ。ですからぜひともそれを売っていただきたく!」

「裏技?」


 何じゃそれは? とワシが再び首を傾けたとき、その人物はローブを脱ぎ去り顔を露わにしながら、名刺を飛ばしてきた。

 眼鏡をかけたいたって純朴そうな青年……だが、ソコソコの人生経験を積んだものが見れば、どういうわけか腹の底で何かをたくらんでいそうな雰囲気を放つ、そんな腹黒そうな印象を受けてしまう青年じゃった。

 なんでこんなキャラクターメイクを? とワシは頬をひきつらせながら、飛ばされてきた名刺をうけとりそれに目を落とす。

 そこには、


「ほう……《召喚士サモナー》かっ!」

「えぇ。召喚するモンスターマジ使えない。モンスター召喚にコストかかりすぎ。モンスターに武装付けられるとか、逆に金がかかり過ぎワロタ!! と掲示板でたたかれまくっている、あのサモナーです」


 まだおったのか。と驚くワシに、好青年然とした……しかしやはりどこか腹黒さがぬぐえてない笑みを浮かべて、青年――ノブナガは肩をすくめた。



              ◆         ◆



 詳しく話を聞こうということで、ワシとカイゾウは一時的に工房を閉め、スティーブの店で飯を食べつつ話を聞くことにした。


「いやぁ、事情っていうほどの物じゃないんですけど、名前から察していただけるとありがたいかと」

「あぁ、火縄銃に憧れとった口か」

「どちらかというと信長にだろ、爺さん?」


 ワシはグラタンをスプーンですくいながら、恥ずかしげに頭をかく信長が銃を買いに来た理由がある程度分かった。


「三段撃ちをする気じゃな? 確かにあれができれば面制圧が可能じゃろうが、サモンモンスターにそこまでのことができるのか?」


 ワシがそう尋ねるのは理由がある。先ほども言ったように、サモナーは魔法使い職の中でもかなり使えないことで有名なメインスキルじゃ。

 初期のあいだに召喚できるモンスターはせいぜいがスライムかスケルトンといった、雑魚モンスター。レベルが上がれば召喚できるモンスターの種類も改善できるらしいが、その召喚コストも馬鹿にならない。

 魔法使いが切り札として使う前線で使われている大規模魔法の、さらに倍近いコストでようやく中層で通用するモンスターを一体召喚できるかといったところらしい。

 一応、その不遇っぷりを救済するためのアビリティ――《サモンアーム》という物があり、召喚したモンスターに武器や防具を装備させることで強化できるらしいが、それによってできる強化にも限度という物がある。

 なにより、


「搭載されているAIが、フィールドモンスタークラスだという話じゃろう? せめてNPC程度のAIがあったら、三段撃ちなんて戦術もできるじゃろうが……」


 フィールドモンスターのAIは、手ごわくなりすぎてプレイヤーがモンスターを狩れなくなると困るということで、従来の《繰り返し》行動ルーチンを採用しておると聞く。一定条件下一定の決められた動きをして、それを繰り返すというあれだ。とはいえ、それでも十分複雑な動きをするところを見ると、モンスターたちに詰まれているAIも、普通のゲームと比べると十分高いものなのだろうが……戦術行動がとれるかと言われるとそれはまた別の話で。


「悪いことは言わん。やめておけ若いの。もうしばらくしたら、火縄の方の改良に着手できる予定じゃから、欲しいならそれを待って自分の分だけ買えばええ」

「そうそう。どんな裏技もっているのかは知らないけど、本気で使えないからこれ……」


 と、ワシとカイゾウは、そう言ってノブナガの野望を打ち砕こうとする。

 一応ゲームの中とは言え、ワシらは鍛冶職人として生きておる。半端な武器を持たせて、買った相手を死に追いやるようなまねは、職人のプライドかけてするわけにはいかなかった。

 じゃが、


「お金がご入り用なのでしょう? 資金が尽きて銃の改造ができないのでしょう?」

「!?」


 突然そう言われて、ワシらは思わず凍りついた。

 何故それを知っている!? と。


「最近僕が期待していた、銃制作が熱いと聞いて、僕はずっとあなた方の動向を掲示板で見ていましたよ。チームで事に当たっているためか、あなたたちはこれ買った、あれ買ったと、ずいぶんと細かく報告し合っていましたね。それを見ればお金の支出を知るのは容易でした。そして、僕が計算したところによると……あなた方が銃開発に費やしたお金は、だいたい6,500,000G。いくら前線のプレイヤーに高く評価されている、職人街の人達であっても、この金額はさすがに馬鹿にならないはずだ」

「………………………ストー」

「シッ! 爺さん、この類の奴にそれを自覚させちゃいけない!」

「聞こえていますよ~」


 世に聞く危ない奴かの? とつぶやきかけたワシの口を、カイゾウの奴が慌てて塞いだ。そんなワシらに苦笑いを浮かべながらノブナガは「ちょっとした情報戦ですよ!」と抗議した後、自分の目の前に置かれている紅茶に手を付ける。


「掲示板で調べたところ、そちらが制作できた火縄銃は確か12丁でしたね。ならこちらはその12丁を即金で1200万。一丁100万で買わせていただきたい」

「なっ!?」

「なん……だと!?」


 ワシらの間に戦慄が走る。当然じゃろう……その金額はワシらが銃開発で消費した資金を、はるかに上回る値段だったのじゃから。というか、前線のトッププレイヤーとて、そんな金額をポンと出せる奴はいるかどうか……。


「あぁ、嘘くさいと思われているのでしたら、先払いでもいいですよ?」


 思わず沈黙してしまったワシらに、本当に払えるのか疑われていると思ったのか、ノブナガはニコニコ笑いながら、メニュー欄を開きワシらに自分が所持している金の残高を見せつけてくる。

 0が8つついている所持金を見て、ワシはもう言葉も出なかった。


「もう売ろうぜジジイ! この人がいいって言っているんだから、いいよべつに! それで死のうがどうなろうが、俺たちの知ったことではないさっ!!」


 職人のプライドはどこへやら。目をGマークにして、あっさり転んだカイゾウが、手のひらを返したように援護射撃をしてきよる。

 確かに……この金額は魅力的じゃ。正直言うと、ワシだってのどから手が出るほど欲しい……じゃが。


「い、いいや、ダメじゃっ! たとえなんと言われようと、使えぬ武器を売るわけにはいかんっ!!」

「じ、じじい!」


 何言ってやがるっ!? と、戦慄くカイゾウと共に欲望を押さえつけ、ワシは必死の抵抗を試みた。


「そんなに言うんじゃったら、この武器が使えるという証拠を見せてみぃ!」

「ほう、証拠と言いますと?」

「きまっとるじゃろうっ!」


 もう後には引けぬ。そう考えたワシは食堂の出口を指差し、


「ダンジョン攻略じゃ。銃を持ったお主のモンスターで、どこまでいけるか見させてもらう!」


 と、ムチャブリをしてしまった……。



              ◆         ◆



 前線ダンジョン――《地虫の巣窟》は、地面にぽっかり空いた穴からはじまる洞窟型ダンジョンじゃ。

 このダンジョンを説明する最も手っ取り早い言葉は、『モンスターボックス』じゃろう。

 元々《ナイトアント》というモンスターが作った巣という設定のこのダンジョンは、とにかく虫型モンスターが多く生息しており、リポップも早いことで有名じゃった。

 一度倒されたモンスターが30秒たたんうちにまた湧くというと、そのリポップ速度のえげつなさがわかるじゃろう。

 そして、戦闘が長引けば、モンスターの内の一体が金切り声をあげ、近くにいる仲間を呼び寄せるおまけつきじゃから、まぁ大変。普通なら殲滅特化の魔法使いを連れてやってこなければ、どんな強者であろうと死ぬといわれている高難易度ダンジョンじゃ。

 そんなところにワシは……。


「あ、そこでっぱりがありますから気を付けてください?」

「ゲームの中で年寄扱いするな」

「おっと、すいません。つい癖でして」


 殲滅なんて到底無理。というか、まともに戦闘できんの? と言われている《サモナー》――ノブナガと一緒に来ておる。

 ワシたぶん死ぬな……。と、数分前に勢いで「ダンジョンに行こうっ!」とか言ってしまった自分を殴りつけたくなりながら、ワシは薄暗い洞窟の中を歩いていく。

 ちなみに、ワシが作った火縄銃は、《貸出》という形で一時的にノブナガが所持しておる。

 この《貸出》機能は、本来店先で武器の性能を試してもらうために、一時的に武器の使用権限を売り手から買い手に渡す機能なのじゃが、特に制限時間や、使用場所が決まっているわけではなく、貸し出した人物が貸出機能を終了させると、その武器が貸し出した人物の元に戻ってくるといったシステムなので、こういったこともできるのじゃ。


「それにしても、ダンジョン行こうといわれて、即座にこれを選ぶとは……。メインスキルのLv.も29と高かったし、お主もしかして結構強いのか?」

「まぁ、前線に出られる程度は……。サモンモンスターたちもよく頑張ってくれますから」

「ふむ……」


 サモンモンスターががんばってくれるのう……。サモナーの前評判から考えると、その言葉はいまいち信用できんのじゃが。

 と、ワシが考えていると、


「来ましたよ、おじいさん!」

「言われずともわかっておるわ」


 わずかなヒカリゴケ程度しかない、うす暗いダンジョンの闇の中から、がさがさと何かがうごめく音が聞こえワシとノブナガは武器を構える。

 そして敵は、


「っ! 上じゃっ!!」

「っ!!」


 ダンジョンの天井を這って現れた!

 真っ白な硬い甲殻に、獰猛に輝く紅い瞳。

 このダンジョンを作ったダンジョン制作人――《騎士蟻ナイトアント》じゃ。

 体長は一メートルちょっとある大きな蟻で、その白い甲殻の防御力はかなりの物。名前の通り、白い鎧をまとう蟻の騎士であり、基本的に5~10匹のパーティー行動をとって襲ってくる。

 ダンジョンに入っている人間の数に合わせて、パーティーの数は変動するが……。


「10匹……フルセットか。ワシら以外にもここに入っておるパーティーがおるな?」

「まぁ、ここの虫の甲殻は固くて軽いから、いい防具の素材になりますしね」


 ワシらがそんな会話を交わしておる間に、ナイトアント達は這っていた天井から飛び降り、ワシらに向かって凶悪な顎を開閉しながら飛びかかってきよる。

 じゃが、


「バカめ。ハンマー相手によける選択肢をとれなくするとは……」


 所詮ザコに積まれているAIか……。と、《黒骨の森》で、さんざん団体で襲ってくる敵と戦っていたワシは、慌てず騒がずメイジ職であるノブナガの前に出て、ハンマーの単発アビリティ《ヒットスイング》を発動する。

 このアビリティは、《吹き飛ばし》効果があるアビリティで、殴りつけた対象を強制的に吹き飛ばし、相手を後退させる効果がある。その効果は、モンスターが死んでポリゴンとなって砕けるまで続く。

 今回もその力をいかんなく発揮したのか、空気を切り裂きながら振るわれたワシの鉄槌が、狙いたがわずナイトアントの頭部をグシャリという音を立てて粉砕した後、のこった体をボールのようにうち返し、あとにつづいていたナイトアント達にぶつけた。

 空中で仲間の体をぶつけられ、失速するナイトアント達。これで奴らのヘイトはしばらくワシ以外には向かんだろう。と、判断したワシは、


「さて、ノブナガ……お前がいう裏技とやら、見せてもらおうか?」

「了解です」


 後ろを振り返り、後方で呪文の詠唱中であることを示す、リング状の光る文字の帯に囲まれたノブナガを見た。

 ノブナガはそんなワシの問いかけに、不敵に笑いながら返答を返し、


「《クイックサモン》1~6!!」


 ワシの眼前に、六体のスケルトンを召喚した。



              ◆         ◆



 雑魚モンスタースケルトンは、始まりの町周辺の森から、中層前半にある墓地に出現する、アンデット系モンスターじゃ。

 黒骨の森にいるダークスケルトンと比較すると、その骨は非常にもろく折れやすい。

 ただ、全身が骨でできているため刺突系の武装が当てにくいことで知られており、一番初めに弓使いの心をへし折る、アーチャーキラーとしても有名じゃった。

 とはいえ所詮ザコはザコ。剣で斬られればバラバラになり、打撃武器で殴れば粉みじんになる。

 そんなモンスターを今ここで呼ぶのか? と、ワシが首をかしげておると、そのスケルトンたちはワシが貸し出している銃を構えた。


「こやつらに装備させているのか?」

「えぇ。《サモンアーム》で装備をいじって、スケルトンたちの武装は全部これにしています。サモンモンスターにはステータスによる、武装制限がありませんから」


 ほう、それは初耳じゃ……。と、ワシが考えておると、ワシが吹き飛ばしたナイトアントがポリゴンになって砕け散り、それにぶつかられたナイトアントの残りが、紅い目に怒りをたぎらせながらワシに向かって前進してくる。

 ヘイト管理はきちんとできているようじゃな。と、ワシはひとまずうなずき、


「で、どうするのじゃ?」

「無論撃ちますよ」


 そう言っている間に、スケルトンたちが火縄銃の引き金を引く。武装アビリティ《ショット》。大仰に言っているが要するに引き金を引いて、弾丸を発射するのをシステム的にアシストするアビリティじゃ。このアビリティがないと《銃》という武装スキルがない現状では、システム的に発砲は不可能じゃ。

 火薬が炸裂する音が六連。ほぼかぶって響き渡った。

 同時射撃。召喚されたスケルトンすべてが、銃を撃ち放った。

 ダンジョンが狭いことと、六発の弾丸が同時に放たれたことで、火縄銃の命中精度の低さは、今回は意味をなさなかった。たとえ殺気による予測線が見えたとしても、避けられるスペースがなければ意味はない。弾丸のほとんどが突撃してきたナイトアント達に食らいついた。

 なるほど。確かに、こういった場所で数をそろえて火縄銃を使えば、命中率云々の欠点は無視できるか。ワシはそう考えながら、ナイトアント達の被害を確認する。

 貫通……まではさすがにいかない。伊達に前線のモンスターではないということか。遠距離物理攻撃武装ということで、攻撃力が高めとはいえ、所詮は中層の平均評価大剣程度の威力。前線モンスターの固い甲殻を貫く威力はなかった。

 弾丸を食らった衝撃でHPは2割ほど減っておるが、まだまだ動ける。体のあちこちに潰れた鉛玉を付着させながら、ナイトアント達は前進してくる。

 銃は弾切れになると武装アビリティ《リロード》を使って弾丸を込めなおさないと攻撃ができない。

 ちなみに、火縄銃のリロードは(長)と書いてあるように長い。大体30秒くらいリロード時間が必要となる。


「って、おい……これでは三段撃ちにならんじゃろうが。どうするんじゃ?」

「まぁ、見ていてください」


 ドンドン近づいてくるナイトアント達に、ワシが慌ててハンマーを構えると同時に、


「《アンサモン》1~6!!」


 盾にするべきスケルトンを、ノブナガはどういうわけか送還してしまい、


「おいおい。どうするつも……」


 りじゃ? とワシが言い切る前に、


「《クイックサモン》7~12!!」


 再びの召喚。ワシの目の前に全く同じ(・・・・)スケルトンが現れ、突撃してくるナイトアント達に向かい、火縄銃を発砲した!



              ◆         ◆



「サモナーの召喚可能なモンスターの選択は、スキルの扱いに似ています。初期の場合は全部で3つのスロットがあり、そこに召喚可能なモンスターを登録して先ほどのように、『《サモン》1!』みたいに番号で呼び出すわけです」


 ふたたび呼び出されたスケルトンたちが、迷うことなく銃を構える。

 発射。ナイトアント達に衝撃が走る。だが、まだ前進してくる。


「同時に召喚できる数も制限があり、召喚できるモンスターは一体だけ。スロットに登録したモンスターの中からその一体だけを選び、その場に召喚するわけですね」


 ふたたび召喚されるスケルトン。今度は1~6番。一番初めに呼び出されたスケルトンたちだ。

 そして、そのスケルトンたちはすでにリロードが終わっている(・・・・・・)銃を構え、再びナイトアント達に発砲。

 いよいよナイトアント達の速度が落ちる。体のあちこちに鉛玉が張り付き《行動阻害》のバッドステータスが付いていた。


「そして召喚される際は大抵戦闘中ですので、召喚されるサモンモンスターはすぐに攻撃できる状態(・・・・・・・・・・)で召喚されます。大剣装備のモンスターなら大剣を鞘から抜いた状態で現れ、杖装備のモンスターなら呪文を詠唱できる状態で現れ――弓矢装備のモンスターなら矢をつがえた状態(・・・・・・・・)で現れる」


 火縄銃なら言うまでもなく、すでにリロードされた状態で現れるのじゃろう? と、ワシは内心で返しながら、目の前で広がる一方的な蹂躙劇を見ておった。

 ふたたび召喚される7~12番のスケルトン。その一斉射撃によって、先頭を走っておったナイトアントがとうとう倒れ、ポリゴンになって砕け散った。


「現在僕が持っているモンスタースロットは32。同時召喚が可能なモンスターの数は10です」


 まだまだ余裕があるということをワシに説明しながら、ノブナガはスケルトンの送還と召喚を繰り返す。


「そして、今回の三段撃ちを実現するための要となるアビリティ《クイックサモン》。このアビリティはモンスターを召喚する際のMP消費を半分にする代わりに、アビリティを一回使うとモンスターは《行動不能》のバッドステータスをうけ、送還しないと行動できなくなってしまうアビリティです。一見全く使えないアビリティに見えるこの《クイックサモン》ですが、実はこれにはもう一つ利点があってですね……」


 銃撃。硝煙の臭いがワシの周囲に立ち込め、とうとう半分近いナイトアントが砕け散り、残りのナイトアント達も、張り付いた鉛玉に行動を阻害され、のろのろとした歩みしかしなくなった。


「通常召喚して送還されたモンスターをふたたび召喚するのには30秒のクールタイムが必要なんですが、クイックサモンはそれをなくしてくれるんです。それによって僕はこのスケルトン銃士達の連続召喚が可能になる」


 まぁ、クイックサモン自体に数秒のクールタイムがいるんですが、銃撃っている間にそれはすぐに消費できますしね。と、ノブナガが言うのを聞き、ワシはノブナガがどうやって前線に来るまで強くなったのかを悟った。

 こやつはおそらく、サモンモンスターを操って戦う正統派のサモナーではなく、単発物理攻撃の魔法として扱ったのじゃと。

 クイックサモンを駆使し、大剣を装備させたモンスターをだして相手に攻撃を与えたらすぐにひっこめ、違う武器を持ったモンスターを召喚し同じように攻撃させひっこめる。それを繰り返して、連撃を作り出し、数の力で相手を押し切る。そういう風に戦ってきたのじゃろう。

 最後のナイトアントが倒れた。

 辺りに立ち込める硝煙と、外れた鉛玉が景色を飾る中、最後のナイトアントがポリゴンになって砕け散る。

 殲滅成功。わずか1分で、あれだけの数の前線モンスターを、ひとりで倒してのけたノブナガは、大きく伸びをしながら一言。


「ふむ。弾薬を結構消費しましたね。まぁ、ナイトアントは良い稼ぎになりますし……お爺さん。これで弾薬の補給、お願いできます?」


 そういって信長がわしに見せてきたのは、ナイトアントのドロップが書かれた画面。


『ナイトアント1を倒した

 GGY:ナイトアントの触覚 ナイトアントの甲殻 1500Gを手に入れた

 ノブナガ:ナイトアントの甲殻 蟻酸 1500Gを手に入れた

 スロット1:ナイトアントの甲殻 ナイトアントの節足 1500Gを手に入れた

 スロット2:ナイトアントの~』


 モンスターのドロップアイテムは、戦闘に参加したパーティーメンバーに平等に与えられる。たとえば100Gを落とすモンスターを二人パーティーで倒すと、50:50の山分けになるわけではなく、それぞれに100Gずつ支給されるのじゃ。

 そして、サモナーが召喚するモンスターは、どうやらその戦闘に参加したパーティーの中に含まれるようじゃ……。


「おぬしが金もっておったのはこれが理由か!!」

「ははは! このことは秘密ですよ? せっかく不遇職頑張って育てたんですから、このくらいの役得はあってもいいでしょう」


 ふたたび腹黒そうな笑顔を浮かべて、口に人差し指で封じるジェスチャーをしてくるノブナガに、ワシは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。


「じゃが、最後に一つ気になったんじゃが……」

「ん? 何でしょう?」

「いくらなんでもあれだけの数のスケルトンを連続で召喚してMPが足りるわけがないと思うのじゃが?」


 サモナーの欠点として挙げられる代表的な物は三つ。

 サモンモンスターに搭載されているAIでは、まともな戦闘ができないということ。

 サモンモンスターの強化に金がかかりすぎるということ。

 そして、圧倒的なMPコストの高さ。

 信長は一つ目の欠点を、『まともに戦わせない』ことでクリアし、

 二つ目の欠点を、連続召喚によってモンスタードロップの均等配布で解決した。

 だが三つ目の欠点は? どうやって解決したのじゃ? いくらクイックサモンでMP消費が抑えられているといっても、あれだけの数と回数の召喚じゃ。普通の魔法使いなら確実に数秒で干上がる。

 MPは自動で回復するとはいえ、幾らなんでも早すぎじゃ。

 もしかして……チートかの? ワシがそんな疑いを、ノブナガに抱いた時じゃった。


「う~ん。申し訳ありません……これはちょっと企業秘密にしておきたいんで。ただチートじゃないのは信じてください。運営の方にも確認してもらって構いませんから。せめて、僕から言えることは……《ステータス上昇増加》系スキルには、無限の可能性が秘められているというだけです」

「………………………………………」


 うん……しっとる。と、ノブナガが何をしたのか大体把握したワシは、乾いた笑みを浮かべて「そんなこと考えとらんよ」と、気まずくなった空気をとりなした。



              ◆         ◆



 そして、その数日後。

 信長が火縄銃を買ってくれたことにより、資金を得たワシらは、再び銃改良に着手していた。そんな風に、同好の士と、いよいよリボルバーの制作に入ろうとしたとき、ワシの耳にある情報が入ってきた。


「GGY、今日の掲示板見た?」

「ん? ワシが掲示板苦手なのは知っとるじゃろう、スティーブ」

「なんかスゲー、サモナーがいるらしいぜ? 賞金首ばかりの大規模PKクランに単身で挑んで、虐殺して帰ってきたって!! ついたあだ名が《第六天魔王》ノブナガ!!」

「…………………………………」


 また弾薬の補給に来るなと、ワシは心を無にしながら、今日の作業に弾丸と火薬の生成を組み込んでおいた。


気が向いたので今回でてきたキャラクターのステータスを書いてみた。


え? そんなことよりネーヴェのステータスあげろ? さーせん(´・ω・`)。



キャラクター名:ノブナガ

種族:ヒューマン

(MP:1034) 一般的魔法使い(MP:750)

筋力:39

防御力:81

魔力:298

器用:45

素早さ:84

メインスキル:《サモナーLv.29》

サブスキル:《詠唱簡略化Lv.28》

      《待機時間(クールタイム)減少Lv.30》

      《MP超上昇Lv.28》

      《気配察知Lv.30》

      《俯瞰風景Lv.30》(視点を俯瞰状態に変えることができる。レベルが上がるごとに見える範囲が広がる)

      《魔法干渉Lv.24》

      《強化(アシスト)魔法Lv.30》

控え:《意思疎通Lv.15》(モンスターに細かく指示が出せるようになる)

   《異世界武器Lv.1》(異世界の武器を使いこなせるようになる)

 

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