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クラン《メーカーズ》!!

遅れてすいませんT―T


14/9/24:本編内の前線装備の平均数値修正。それに合わせて、装備品ステータスの修正を行いました。興味がある方はご確認を。

 第二陣が入ってから、早数週間がたった。

 月はすでに変わり、現在は八月初旬。

 ゲーム内の時間減速は、医者がポロリともらしおった運営のもくろみ通り、現在のTSOの攻略を大きく遅らせると同時に、苦情を言った人々のほとんどが「これなら、現実に支障が出ない」と、ほっと一安心するという結果に落ち着いた。

 もっとも、第一陣に乗り遅れていた第二陣ハードゲーマーたちの中では「第一陣の奴、一日で二十四日もゲームするとか、くそ羨ましい……」と血涙を流す奴も出てくる結果にもなっておるが……。

 そんなわけで、時間流が変わり、新たな住人達を迎えたTSOは、その変貌した環境に適応しつつあった。

 そして、そんな世界でワシは……。


「チッ――!!」


 前線フィールド――《魔王軍占領地》にて、暗い森の中を走っておった。

 ゲームをしまくって多少の改善は見ることができたが、何分素早さを鍛えておらんから、ワシの足は相変わらず遅い。

 そんなわけで、ワシを追いかけておったやつらはすぐにワシのもとに到達した。


『逃がすなっ……』

『逃がすな……』


 木の葉がかすれるような声音で、そんなセリフを壊れたラジオのように繰り返すそいつらに、ワシはいよいよ覚悟を決めねばならんと、ハンマーを抜き振り返る。

 同時に、木々によってできた影の中から、そやつらは飛び出してきた!


『殺せっ!!』

「これよくR18指定にならんかったのう……」


 物騒すぎる言葉を吐いたそれは、森の影に紛れるように全身を真っ黒にした、動く骨格標本じゃった。小学生が見たらトラウマになること請け合いじゃろう……。

 《ダークスケルトン》と呼ばれるこのモンスターたちは、この地域を占領している魔王軍将軍――《スカルジェネラル》の先兵とかいう設定の奴らじゃ。

 ひとつ前のフィールドに出てくるスケルトンに比べると、非常に耐久度も高く、搭載されているAIも高度。オートのアビリティを使いすぎると、逆に自由度が少ないアビリティの隙をつかれてしまう、厄介な敵じゃった。

 何より厄介なのは、


「きちんと役割分担を行ったパーティーで来ることじゃな……」


 ワシがそうつぶやくと同時に、先行して襲い掛かってきた、全身鎧武装の盾持ちの敵がワシに向かって、ヘイト稼ぎのアビリティをぶつけてくる。

 『挑発の絶叫』。前線タンク職の間ではポピュラーなヘイト稼ぎアビリティじゃ。同時にワシのステータス画面に状態異常を示すマークが浮き出る。

 状態異常《視野狭窄》。それによってワシの視界がヘイト値を稼いだダークスケルトンで固定され、動かなくなった。


「まったく悪質な……」


 これで他のキャラクターは、盾持ちダークスケルトン――《ダークスケルトンナイト》以上のヘイト値を稼がない限り、ワシはダークスケルトンナイトとの戦いを強いられることになった。

 仕方がない。


「すぐに潰す」


 そう告げると同時に、ワシはハンマーをふるい眼前に目隠しするように突きつけられた盾に向かって、思いっきり叩きつけた。

 ガラスのような破砕音と共に、粉砕される盾。スカルジェネラルとやら……下っ端とはいえ支給する武器が安物すぎじゃ。と、武器屋としての批評を下しつつ、目を見開いたかのような気がする、フルフェイス越しのスケルトンの頭に向かって、


「ほれ、まずは壁を排除じゃ」

『っ!?』


 容赦なく縦方向にハンマーを振り下ろす。

 相手はワシと同じ全身武装。当然、想定外の攻撃をよけられるほどの機動力があるわけもなく、相手は頭から腰骨まで、ワシのハンマーで縦一線に粉砕され崩れ落ちた。

 じゃが、敵もさる者。相手はパーティー。

 壁がやられとる間に、ワシに対する次の攻撃に移っておった。

 両側から、片手直剣を持った《ダークスケルトンアタッカー》が、ワシに向かって刺突を繰り出してきよったからじゃ。

 無論装備している鎧は、現段階での最高級品。こやつらが持つ安物の剣の攻撃を食らったところで、大したダメージは入らんが。


「油断していい敵ではないことくらい、何度も殺されればわかっておるわっ!」


 ワシはそう吐き捨てながら、ハンマーを振り下ろした状態から、体重を入れ替え、何とかアビリティを発動できる姿勢に移行。若干斜め上方向に打ち上げるようにハンマーをふるった。


「《ハーフサークルスイング》」

『『!?』』


 それによって、勢いに乗ったハンマーのスイングが赤いエフェクトを放つ。同時にワシの体が半回転し、それに合わせて振るったハンマーが、両側から来ていたダークスケルトンアタッカーを薙ぎ払う。

 当然ナイトほどの防御力をもっておらんこやつらが、ワシの攻撃を食らって無事なわけもなく、上半身の骨すべてを粉々に砕かれながら、HPを0にして消えて行った。

 これで、三体。基本的にダークスケルトンの小隊は、五人パーティーで動くらしいから……残りはっ! と、ワシが目を周囲に走らせた瞬間じゃった。

 いつのまにか背後におったダークスケルトンメイジが、ワシに向かって魔法を放ったのじゃ!


『ファイヤーボール』


 紅蓮の炎の直球が、ワシに向かって襲い掛かってきた。

 プレイヤーが持つスキル《属性魔法Lv.20》級に匹敵する威力の火球。

 なまなかな防御力では耐え切れんじゃろう。じゃが、


「鬱陶しいわっ!」


 ワシとて前線にくる際に魔法の対策をしていなかったわけではない。

 スキル《魔法干渉》。本来魔法以外で干渉できない魔法の攻撃を、鎧や物理武器といったもので干渉できるようにするアシストスキル。

 増えたことに全く気づいておらんかったサブスキル欄を使い取得したこのスキルは、その力をいかんなく発揮し、荒ぶる器用値を駆使して、無理やりふるったハンマーの打撃を火球にぶつけた。

 インターセプトの判定が出る。それにより砕け散る火球に、唖然とするダークスケルトンメイジ。

 ワシはそやつに向かって攻撃を仕掛けるために、一歩前に前進したが。


「ぬぅ!?」


 得体のしれない殺気を感じ、わずかに身をそらす。

 同時に、鎧の隙間を狙って放たれた矢が、ワシの鎧にぶつかり、わずかに儂のHPを削った。


「くっ! アーチャーまでおるのかっ!?」


 厄介すぎるわい! と、ワシが歯噛みをしたとき、


『挟撃寸断』

「なっ!? 六体目じゃとっ!?」


 ごく低確率で出るといわれる、五人以上のパーティーを組んだダークスケルトン小隊。それに行き会ったのだと気付いたときにはもう遅かった。

 前方からとんでもない速度で、敵が疾走してくる。ワシが慌ててハンマーをふるうが、敵にとってハンマーの攻撃如き、止まって見えるのか、その一撃をあっさりと回避。ヘルムと鎧の間を狙って放たれた二本の短剣による斬撃が、ワシの首に突き刺さった。

 クリティカル。同時に特殊効果でももっておったのか、ワシのHPはそのまま見る見るうちに削られ、


「ぐあっ……またかっ!!」


 ワシが歯をギシリと食いしばると同時に、魔法を詠唱しなおした、ダークスケルトンメイジの火球を受け、HPは0に。ワシはこれで15度目のHP全損を経験し、自分の体がポリゴンになってはじけ飛ぶのを眺めることとなった。

 あぁくそっ……。せっかくこの森でしか取れない、貴重な素材手に入ったのに……また失敗か。

 手に持ったナイフを弄ぶ、黒いぼろマントに身を包んだダークスケルトン――《ダークスケルトンアサシン》が『カカカカカカカカカカカカカカカカカ!!』と上あごと下あごの骨を打ち鳴らしながら、ワシをあざ笑いよる。

 そして、しばらくの間、ワシの視界の端で浮かんでいた、復活可能を示すマーカーに出ていたカウントが消えると同時に、ワシが貯めていた経験値が3割と、アイテムボックスからランダムに抜き取られたアイテムがワシの眼前に現れ、はじけ飛ぶ。

 デスペナルティーが、色々な意味で厳しすぎやせんか? と、自分の血と汗と涙の成果が、目の前で見事に砕け散るのを見せつけられながら、ワシはそのまま復活ポイントである、町の神殿へと戻されるのじゃった。



              ◆         ◆



「ぬあぁあああああああああああああ! 胸糞の悪いっ!! あの骸骨ども本気で胸糞が悪いわぁああああああああ!!」

「落ち着けって爺さん」

「怒っても落としちゃったアイテムは帰ってきませんよ?」

「くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 血管が切れるほど怒り狂いながら、ワシ――GGYはモンスターにやられた怒りをぶつけるために、《鑑定》スキルから進化した《玄人眼》によって表示される、緑のサークルを、リズム良くハンマーでたたいてゆく。

 現在整形している金属は、初心に返るという意味と、気持ちを落ち着かせるという意味で鉄じゃ。

 鉄のインゴットを叩くことによって、鉄に含有されている炭素を抜き、真鉄をつくるのじゃ。


『アイテム名:真鉄

 内容:鉄に硬度を与えていた炭素を極限まで抜いた鉄。そのため鉄よりも柔らかくなっており、性能は粗鉄と変わらない……。ただし、粗鉄のもろさがなくなっているため、今まで粗鉄で作っていた武器にこれを使うと、耐久度が比べ物にならないくらい上がる。

 評価:☆』


 という感じの鉄で、粗鉄性の武器の耐久度が上がるかもということで、現在中層では非常に需要の高い金属じゃ。おまけにこれを生成する技術が、中層の鍛冶屋にはないということで、上層鍛冶プレイヤーのいい小遣い稼ぎになっておる。


「でも実際、《黒骨のくろほねのもり》をソロでうろつくのは爺さんには無理だって。というか、前線プレイヤーの連中だってあの森はパーティーで行かなきゃヤバイ言っているんだぜ? 戦闘が本職じゃねぇ俺たちが、切り抜けられる森じゃねぇよ」


 そう言って、ワシの怒号を苦笑いしながら聞いていたのは、ワシが所属しとるクランのマスターになったスティーブじゃ。

 今スティーブは厨房に立っており、昼食の仕込みをしておる。両手に一本ずつフライパンを握り、チャーハンをあおっておるのじゃが……こやつ筋力値は言うほど高くなかったはず。

 ワシがそんな風に首をかしげながら、あっという間にできてしまった真鉄のインゴットを、水につけるのを見ながら、


「お爺さん、今度は護衛をつけて行ってくださいね! 《ゴールデン・シープ》とか、《アルタイル》とか、《不動騎士団》とか、お爺さんを懇意にしてくれているトッププレイヤーのパーティーなんてごまんといるでしょう?」


 と、諭すように告げてくるのは、サブマスターのL.Lじゃ。大所帯になりつつあるワシらのクランを支える寮母的存在であり、対外的にはクランの看板アイドルとしてスティーブに利用されとる彼女も、最近ではトップ裁縫師としての自覚が出てきたのか、初期のころに見せておった自信のなさそうな態度は鳴りを潜めておった。

 代わりにワシが、よくこんな風に諭される羽目になっておるが……。これではどっちが年上かわからんな、と自分で思いつつ、ワシはその注意に首を横に振る。


「あと一回! もう一回だけ挑戦させてくれんか、エル! 虚仮にされたまま引き下がったのでは、ハンマーでの討伐は無理と言われたスライムを、自力で乗り越えたワシの沽券に関わるっ!!」

「虚仮だけに?」

「いや、そういうギャグではないんじゃが、スティーブ……」

「まぁなんにせよ、そんなもん、あんたの沽券にかかわらせるなよ……」


 もっとましなモンがあるだろう? と、スティーブは呆れながら、出来上がった料理をアイテムボックスに放り込み保存する。

 アイテムボックスの便利設定で、放り込まれたものの時間は凍結されるため、こうして保存することによっていつでも、注文を受けた料理をホカホカの状態で出すことができるのじゃ。

 相変わらずいい裏技を見つけよるなぁ……。と、手慣れた仕草で作った料理を次々とアイテムボックスに放り込むスティーブに感心しながら、ワシはいまだに心配そうにこちらを見つめてくるエルを、安心させるために、


「なぁに、ワシとてすぐに行くとは言うておらんさ。今回の襲撃でワシに足りんものがはっきりとわかったしな。先ずはそれを何とかしてから、リベンジするよ」

「……無理は絶対しないでくださいよ? あなたはわたしと同じサブマスで、うちのクランの主力なんですから!」


 そのワシの言葉に、一応の納得はしてくれたのか、エルは小さくため息をついて、メニュー画面を開く。

 時刻は早朝8時。開店の時間じゃ。


「マスター、サブマスお二方。下の店が開いたぜっ!」


 同時に、ワシら専用の作業スペースに顔を出したのは、第二陣が入ってきてからすぐに、職人街を卒業してワシ等のクランに入りに来たカイゾウじゃ。


「了解じゃ!」

「おk。料理運ぶわ」

「私も布製品コーナーに行かないと」


 カイゾウの知らせを受けワシらはおのおのの売り場へと足を向ける。

 スティーブは作業場の後ろにあるシャッターを開ければすぐにある、厨房に。

 ワシとエルは、それぞれの店に繋がっておるワープドアを使って。

 そして、作業場とは全くちがう店に出たワシを出迎えたのは、


「おっ! GGY!!」

「頼んでいた大剣取りに来たぞっ!!」

「刀の制作状況どんな感じ?」

「あの、この店初めてで……依頼を頼みたいんですけどっ!!」

「こらGGY、自重してっ!! また黒骨の森で、ナイト一撃でつぶすGGYが出たって、掲示板に書いてあったぞっ!!」


 と、やかましくワシの店の前にたむろしとった、プレイヤーたち。奴らが口々に放つそんな言葉に半眼になりながら、ワシは叫ぶ。


「やかましいぞ、小僧どもっ! ワシは聖徳太子じゃないぞ!! 喋るなら一人ずつにせんかっ!!」


 そしてワシは叫びながら店先に出て、客たちに並ぶように言いながら列の整理を行っていく。

 同時に、自分の周囲を少しだけ見渡し、


「思えば大きくなったもんじゃ……」


 と、今や前線の安全地帯である大要塞都市――《グランウォール》の三割近い面積を使い、広がる大職人街。前線プレイヤーたちの要望の声が高まり、募金という名の資金援助をもらったがゆえにつくることができた町型・・クランハウス。

 ワシとスティーブとエルがともに作り上げた、クラン《メーカーズ》が保有するこの町が、今のワシの拠点じゃった。


キャラクター名:GGYジジイ

種族:ドワーフ

筋力:204→355

防御力:21→58

魔力:14→34

器用:144→287

素早さ:20→32

メインスキル:《ハンマーLv.23》→Lv.30(カンスト)

サブスキル:《鍛冶Lv.25》→Lv.28時スキル進化《武装鍛冶Lv.26》

      《鑑定Lv.21》→Lv.25時スキル進化《玄人眼Lv.22》

      《採掘Lv.15》→Lv.30(カンスト)

      《器用超上昇Lv.5》→Lv.25

      《筋力超上昇Lv.7》→Lv.28

      NEW!!《魔法干渉Lv.18》

      NEW!!《製図Lv.5》

控え:《彫金Lv.20》→《染色Lv.20》との統合進化《金属細工Lv.22》

   《   》未決定

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