まずは……金
ワシらが職人街卒業を言い渡された翌日。
現実での日課である朝の散歩を終え、テレビをつけながら昼食を作っていた時じゃった。
『ついに、あの話題のVRMMORPGのソフトが、第二陣販売開始っ!!
発売直後数時間で売り切れたあの伝説が、あなたに!!』
「ん?」
もしかしてこれ? と、ワシが思いながら料理の手を止めてそちらを振り返ると、テレビの画面では、やけにかっこよく装飾された文字が躍っておった。
『welcome to 《TENSEI online》!!』
やっぱりとワシが思っておると、文字が消え映像が現れる。
明らかに使いにくそうな、身の丈すら超えている巨大な戦斧を操り、モンスターをなぎ倒す少女がおった。
ローブで顔を隠した魔導師が、一撃必殺の巨大な火の玉を作り出し、多くのモンスターを焼き払っておった。
地面に現れたサークルの範囲内に、十字架の形をした杖を掲げ、光の雨を降らせ味方を回復するシスターがおった。
巨大な大剣を叩きつけてくるボスモンスターに一歩も引かず、巨大なタワーシールドで、大剣の攻撃を、火花を散らしながら受け止める騎士の姿があった。
深い森の中で、弓を引き絞り、静に、しかしするどく矢を放つ弓兵の姿があった。
そして、場面は変わり荒野にて。乱戦になっているモンスターとプレイヤーの達の間を潜り抜け、うまく場面をつなぎ、さきほど弓兵が放った矢のように見える矢が、ひとりの女プレイヤーを射抜きかけたとき!
『君は、このゲームで生まれ変わるっ!』
文字入りの暗転。それはすぐに切り替わり、再び乱戦シーン。
さきほど射抜かれかけた女プレイヤーは、するどく振るった短剣で、その矢を見事迎撃し、矢じりごと矢を二つに引き裂く。
火花が飛び散り、裂けていく矢。再び暗転。
『真の自由を、手に入れろっ!』
映像。矢は完全に引き裂かれ、後方に流れる。暗転。
『英雄になるのは……君だっ!』
そして、女プレイヤーの顔をカメラは写し……かけた直後。カメラの映像は女プレイヤーの短剣に引き裂かれ、暗転した。
その暗転画面に、堂々とした白文字で、
『《転生online》。第二陣……発売中!』
そしてCMが終わり、
『はい! 本日のグルメスポットはこちら!!』
お昼のバラエティー番組を再開したテレビ画面を見ながら、ワシは一言。
「いや、最後の絶対孫じゃし……」
何やっとるんじゃ孫……。全国区CMに出るとか物騒な。と、ブチブチ呟きながら、ワシは湯がいたそうめんを鍋から揚げ、氷をたっぷり入れた水が張ってあるボールへとブチ込んだ。
取りあえずしばらくこの局の番組を、無差別に録画し、あのCMを保存することを決めながら……。
◆ ◆
『お爺さん? ゲーム楽しんでいますか? 掲示板じゃぁ結構話題になっているみたいですけど?』
「耳が早いのう……」
もしかしてこいつもゲームしとるんじゃ……。と、ワシは内心で思いながら、そうめんをすすりつつ、テレビ電話にして机に置いてある携帯に向かって話しかける。画面の中にはあの医者が映っておる。
「次の定期健診はまだじゃと思ったが?」
『いや、暇なので熱中症とかで倒れていないか確認を。ゲームをするときは意識がなくなるんですから、クーラーをきちんと入れてから、ダイブしてくださいね? 今は夏真っ盛りですから。知ってます? 昨日のここらの気温って、今年の最高値記録したんですよ?』
「わかっとるよ、そのくらい。ゲームしていて死にたくないしのう。というより医者が暇って……。いや、いいことなんじゃろうが」
どうなんじゃよ? とワシは呆れながら、先ほど見かけたCMについて思いだし、すこし医者と意見交換することにする。
どうもこいつ言動を見る限り、運営とつながりがある気がしてならんのじゃ……。
『あぁ、あのCMですか。まぁ言うまでもなく第二陣が来るってことですよ。売り切れで買えなくなっていたあのゲームのソフトが、新しく作られてふたたび販売されるということです』
「つまり、新規のユーザーが入ってくるというわけか?」
『それに合わせてメンテもするみたいですよ? 今日は夕方5時までログインできませんから注意してくださいね。詳しくは運営の公式サイトをチェケラっ!!』
「なんかテンション高くないかの? って、なに!? 今日は昼はいれんのかっ!?」
それは知らんかった……。と、ワシが愕然とするのを聞きながら、医者は画面の向こうから苦笑いを届けてきよる。
『きっと見ていないと思っていましたよ……。攻略掲示板みたいに情報量が多すぎるわけじゃないですから、運営の御知らせくらい見ておいた方がいいですよ? と、言うことは仕様の変更も知らない?』
「何か変わるのか?」
『スタートダッシュキャンペーンで行っていた時間流の加速を、減速するらしいです。要するに、現実世界の一時間は、ゲームの中では一日だったのが、現実世界の1時間は、ゲームの中では三時間くらいまでに下がるらしいですよ?』
「一気に下がったのう……」
『まぁ、初めにやってきていたコアゲーマーたちには、『たくさんゲームができるっ!』と喜ばれはしたんですが、それ以上の数『現実世界での予定を忘れてしまう』や、『用事でしばらくログアウトしたあと、ログインしたときの置き去り勘が半端ない……』とかいう苦情が多々あったらしいので、あちらとしてもこのままの時間流の設定は、まずいだろうと思ったらしいです』
「その言い方じゃと、もともとの予定ではこの時間流のまま行く予定じゃったと、言いたげじゃな……」
『ははは……。まさか。コアプレイヤーたちがこっちの予想を超える速度でゲーム攻略しだしたから、引き伸ばし策に出たとかそんなことはありませんよ~』
ここまで言われると逆にどこまで本気なのかがわからんのじゃが……。と、ワシは明らかな愛想笑いをうかべながら、わざとらしく目をそらす医者に半眼を向ける。
『まぁ、あんまり時間流加速させすぎると、脳の働き的にも危険ってことが、医学的にもわかりましたし……』
「ちょっとまて、それどこからのデータなんじゃ!?」
プレイヤーの中で治験に参加しておるというやつは、ワシ以外に聞いたことがないから、もしかしたらワシのモニタリングで発覚したんじゃないじゃろうなっ!?
『それよりお爺さん』
「それより!? 結構重要な話じゃぞっ!」
『ははは、違いますって。そんな危険なこと、お爺さんにさせるわけないじゃないですか……』
「だったらいつまで目をそらしとる気じゃ!? こっち見ろ、こっちを!?」
ずっと目をそらしながら、なにやらカルテ的な物をぺらぺらめくる医者に、ワシは顔を青くしながら食って掛かる。
そんなワシの態度に、医者は肩をすくめて、
『このゲームとは関係ない別口の治験ですってばぁ。人間の脳は果たしてどこまでの思考加速に耐えられるのかっていう。お爺さんやTSOには関係ない実験です。政府主導の実験で、検体にぽっくり逝かれるわけにもいきませんからね』
「ほ、本当じゃろうな……」
『ほんとうですって。そんなことよりお爺さん、クラン作るんですって?』
「どこから聞いた?」
『これまた掲示板から。おじいさん、自分たちの噂くらい、掲示板さらって集めておいた方がいいですよ? お爺さんが昨日開いたパーティーに参加した職人たちが、どこに店かまえるんだろうって喧々諤々の論議交わしています』
「暇な奴らがおったもんじゃなぁ……」
とはいえ、あの話はまだ話をしている段階にすぎん。実行に移すにはまず……。
「土地を買う金が足りなくてのう……。ワシらが作ったありったけの商品を、今日オークションと露店に出す予定じゃが」
『あぁ。クラン作るって言ってもお爺さんたちのクランの主な目的は、作った商品の販売ですからね。他の戦闘クランが金をためるまで《ハウス》は後ってできるのに、お爺さんたちはハウスありきの活動ですから、それはお金がかかる……』
《ハウス》とは、クランが所有し拠点とできる、クラン所有の建物のことじゃ。宿の代わりにもなるし、クランメンバーの金や貴重品を預けることもでき、会合などにも場所を気にする必要がなくなるということで、結構人気がある、クランだけが持つことができる巨大アイテムじゃ。
土地を買って、大工を雇えば割とすぐにできるものなのじゃが、現実と同じようにバカ高い金がかかる代物で、ほとんどのクランが戦闘クランである現状では、もっておる連中は少ない代物じゃ。
とはいえ、生産クランにとってその設備は魅力的じゃった。
土地さえあれば、ゲームならではの不思議異次元設定で、いくらでも部屋の増築が可能じゃし、生産設備だって入れ放題。つまり、自分の好きな工房を作れるということじゃ。
ワシらが生産クランを作るなら、ぜひとも欲しい。スティーブとエルも同じ意見じゃったのか、とりあえずクランを作るに当たりまずは金を貯めようと、昨日の会議で決まっておった。
「とはいえ、きちんと売れるかどうかが不安でのう……」
『あぁ、それだったらこちらからでも書き込みできますし、掲示板で宣伝……』
「してくれるのかっ!?」
それは助かるわい! と、ワシが喜んでおると、医者が何とも言えない顔でこちらを見ておった。
な、なんじゃい!?
『自分でしようとは思わないんですね?』
「こんな年寄りに、あんな速度で動く掲示板を使いこなせるわけがないじゃろうが」
『さも当然みたいに弱音吐かないでくださいよ……。はぁ、わかりました。書き込んでおきますから、どのあたりで露店するのか教えてください』
「了解じゃ!」
そういうと、ワシは昨日スティーブたちと決めた露店を開く場所を告げる。そこは前線にいるプレイヤーたちがよくたむろしておる、前線の町の広場と、始まりの町にあるあの広場なのじゃが。
『あぁ、確かにそれは良い手ですね。ついでに、ログインしたら初心者でも使える武装を大量に作ることをお勧めしますよ?』
「ん? なぜじゃ?」
『さっきも言ったじゃないですか』
今日はメンテが終われば、第二陣のプレイヤーたちがやってくるんですよ? と、医者が告げたのを聞き、スティーブが「明日はデカい、商機があるからなっ!!」といって、おったのを思い出し、わざわざ昨日、スティーブたちがワシにクラン設立の相談をした理由がわかった。
◆ ◆
《攻略掲示板》
スレッド名:【TSO】第二の転生者たち……襲来!!【セカンドインパクト】
1:転生者補完計画な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
・第一陣ぶりだな。
・あぁ……転生者だ。
・パターン青! 転生者です!!
・誹謗中傷はやめて、みんなで楽しいTSOライフを心がけましょう。
2:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
>>1最後まで頑張れよwwww
3:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
15年ぶりだな……。
4:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あぁ、使徒だ……。
5:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
いつまで続くんだこのノリwww
6:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
私今始まりの町でクランの新人勧誘中。
でもコミュ障なので誰にも話し掛けられない……(´・ω・`)
7:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ちょ、なぜおまえがいったしwww
8:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
暇ならそっちの実況ヨロ
場合によってはうちのクランも新人勧誘戦に名乗りを上げるぞっ!!
9:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
>>6もしかして、お前ってあの広場の端で三角座りしている人?
10:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ちょ、助けてやれっ!
11:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
生々しくも痛々しい光景が目に……!!
12:コミュ障な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
了解。実況するの。
大型クランの勧誘の声がすごいの。そこに集まっている人も結構な人数。
大体が戦闘ギルドに入るみたいなの。
ただ何人か外れて、職人ギルドに入っていく人と、職人街を探すと思われる人が10数人くらい?
おや、誰か来たようなの?
13:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
>>9だよ! あと名前www
14:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
>>9さん、合流できたようでなによりですwww
15:コミュ障な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
見た感じ、生産職に行こうとする人は少ない感じ?
代わりに、戦闘クランに入ってから「副業したい連中は、生産者ギルド。ガチで職人したい連中は職人街に行け」って言われて、行動を開始した人は意外とおおいの。
16:9な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
ガチ戦闘ビルドの奴は少ない感じかな? 生産との二足草鞋で行く人が多いみたい。あと合流しました。フレンド登録しておきました。
17:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
なまえwww
そしてよくやった!
18:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
もうちょっとひねってwww
19:コミュ障な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
クランメンバー以外で初めて友達ができたの るんo(≧▽≦)oるん♪
露店もけっこうたくさんあるよ? 職人街の人たちが商機だって出張ってきているみたい。
20:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
商魂たくましいな……。
21:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
チョットまって!? GGY来ている!? オーダーメイドで武器頼みたいんだけど、前線に来てんのL.Lさんで……。
22:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
てめぇ! 俺のL.Lタンに会えたのに何の文句があるんだ、クォラァ!?
23:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
吊るすぞ、コラァ!?
24:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
落ち着け、おまいらwww
25:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
運営さん、こっちです。
26:9な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
GGYならこっちで露店しているけど……
27:9な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あ
28:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
どうした?
29:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
タイプミス?
30:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
おーい?
31:9な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あ、ありのまま今起こったことを(ry
32:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
何があったww
33:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
はよいえwww
34:コミュ障な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
新人でたぶんお爺さんの初期評価しか知らないバカが、お爺さん脅して売っている武器強奪しようとしたの。
周りにはこれまた、前線にはいるけど、情報集め中途半端にしかしてないと思われる、プレイヤーがいて……。
35:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
あちゃ~……。
36:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
おいおいどうする? 最近ようやく爺さんがすごい武器作ってくれるようになったのに……。バカどものせいで引退とかされたら困るぞ……。
37:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
仕方ない。ちょっと助けにいくか
38:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
俺もちょっとL.Lタンの好感度上げにいく!
39:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
こらwww
40:コミュ障な転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
そのあとお爺さんがその面子のリーダーと思われる人とデュエルして、インターセプトでリーダーさんの盾粉々にした後、そのままびっくりしているリーダーさんの顔面を、ハンマーで叩き潰してぺちゃんこにしたの……。
41:名無の転生者さん(**/**/**/………)○○○○○
…………………………………え?
◆ ◆
「……ワシ、もしかして強い?」
粉々になった安っぽい鉄の盾と、頭部を真っ赤なダメージエフェクトに変換させ、ぶっ倒れているプレイヤー。
そして、眼前に浮かんだ《YOUR WIN》の文字を見て、いまさらながら孫たちがワシの行動を見てびっくりした、本当の理由を知るのじゃった……。
というか、
「前線タンクのくせに鍛え方が足りんじゃろうっ! なんじゃ一撃って!? おぬしのせいで客逃げちまったじゃろうがっ!!」
「お爺さん辞めて! その人のライフはもうゼロよっ!?」
客がすっかりドン引きしてワシの周りからいなくなってしまい、ワシは思わず怒号を上げハンマーを振り上げるが、さすがにそれはまずいと他の前線プレイヤーが慌ててワシを羽交い絞めにして止めよった……。
こんなつもりじゃなかったんじゃが……。
◆ ◆
後日、半笑いになった医者から電話がかかって来て、言われた掲示板を見てみる。
掲示板のスレッド名は《二つ名きめようぜっ!》
そこでワシにやたらと中二臭い二つ名が続々つけられておったが……精神衛生上、見るのが非情のまずい気がしたので、そのままワシはパソコンの電源を落とした。
あ、ちなみに、露店の商品は前線でクランハウスを建てる土地を探しておったスティーブと変わることで、何とか完売することができたらしい。
キャラクター名:GGY
種族:ドワーフ
筋力:185→204
防御力:13→21
魔力:3→14
器用:119→144
素早さ:14→20
メインスキル:《ハンマーLv.23》
サブスキル:《鍛冶Lv.25》《鑑定Lv.21》《採掘Lv.15》《器用超上昇Lv.5》《筋力超上昇Lv.7》
控え:《彫金Lv.20》《染色Lv.15》
ゴブリンキング討伐で若干上がった感じ?
あと感想欄で書いていますが、スキルスロットが一つ増えていたり……。だがGGYは気づかない。GGYだから……。