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U.N.K.O  作者: 若羽
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第五話 決着

「雲仙君!」

 

 火神の叫びは既に遅く、黒き炎の奔流が雲仙を飲み込み、漆黒の旋風を巻き起こさせる。雲仙が立っていた足元のアスファルトは完全に溶解され尽くし、巨大なクレーターさながらの地形となっている。周囲の建物は尽く炎上し消滅していた。


 やがて炎が収まり、次第に消失すると――


「ば、馬鹿な!」


 その光景に唖然とする中島。

 そこには、激しい稲光を纏い、蒼き発光体となりながら悠然と立つ雲仙の姿があったからだ。天は完全に暗雲に包み込まれ、天と地双方で龍を彷彿とさせる咆哮が鳴り響く。


「無駄だ、今の俺は(いかづち)そのもの。どんな攻撃も届きはしない」

「ち、チート過ぎるだろ! それ程の力……どうやって、一体お前にはどんなトラウマが!?」


 全力の一撃が通じず、得体の知れない恐怖が中島の体を駆け巡った。顔を引きつらせ、僅かに後ずさる中島。


 すると、雲仙は深く目を瞑り、ゆっくりと口を開く。


「俺はな、中学二年の時――」

 

 これだけの力を有する雲仙のトラウマ。その告白に、今度は中島が生唾を飲み込む。


「授業中にうんこを漏らした」

「「なにーーーーー!!」」

 

 とんでもない告白に、黒炎から避難し遠くから様子を伺っていた火神と、中島の声が重なる。


「あの日、俺は朝から腹の調子が悪かった。しかし、学生における便意の恐ろしさをまだ経験していなかった俺は、正露○を服用することもなく普通に1時限から4時限まで授業を受けた。給食を食べ、牛乳を飲み、運が悪いことにその日はインフルエンザで三人の欠席者がいたことから牛乳が三本余った。勿体無い精神から俺はそれを全てたいらげた。そして6時限目、運命の時はやって来た」


 雲仙の話に、再び音を鳴らして生唾を飲み込む火神と中島。


「凄まじい腹痛、しかし中学生というのは学校でうんこする奴を馬鹿にするというふざけた風習がある。ましてや授業中にトイレ等もってのほか。だが6限目が終われば家に帰れる。だから俺は耐えると決めた、耐え抜いて自宅で排便する――その判断が間違いだったと気付いた時には既に遅かった、何もかもが」

 

 雲仙は遠い目をしながら続ける。


「防波堤が一度決壊すればもはや誰にも止めることは出来ない。俺はその場で、とてつもない音量を響かせながら放便した。教室中に響き渡り、耳を劈く程の轟音は正に稲妻のようだった。そして俺はその日から、中高一貫の学校を卒業する五年間『雷様』というあだ名で呼ばれ続けた」

「ば、馬鹿な! 中学生という思春期において教室でうんこを漏らすというトラウマだと!? しかも五年間も虐げられてきたというのか? そ、そんなトラウマを有する覚醒者が……存在するだと!」

「雲仙君……あなた」


 雲仙の独白に、中島は驚愕し、火神は涙で頬を濡らしていた。

 

「中二病だ? 殴られ蹴られただ? ニートだ? くだらねえっ! そんなもんトラウマでも何でもねえっ! しかも全部てめえで招いた種じゃねえか!」

 

 雲仙は纏う稲妻を更に激しくさせ、言い放つ。


「お前に解るか? そんな訳ねえのに一年二年経っても臭うと言われ続ける気持ちが! 給食にカレーが出る度に謝罪させられる苦しみが! 雷が鳴ると決まってこっちを見てくすくす笑われる痛みが! てめえごときに解ってたまるかああああああああ!!」


 突如湧き上がる憤怒、その怒りに呼応するように、天空の雷が全て雲仙の元に集う。やがて暗雲は消え去り、陽光が中島を照らす。

 刹那、雲仙は一瞬で天空に舞い上がると、極大の霹靂(へきれき)そのものとなって中島に降り注ぐ。


「うおおおおおおおおおおっ!!」

 

 咆哮もまた雷鳴となりて、雷光と共に中島に激突した。


「馬鹿な、この俺があああ――」

 

 その一撃は雷と言うよりは、まさに隕石の如く、周囲の建物ごと中島を消滅させた。




* * *




「……ん」


 煙る土埃の中で火神が目を覚ますと、自分を抱き起こす雲仙の姿があった。

 体を起こし、周囲を見渡すと、直径一キロはあろう巨大なクレーターが出来上がっていた。


「私、生きて……」

「ああ、俺が稲妻となって中島に激突する瞬間、その衝撃より早くあんたを抱えて退避させた」

「ってことは中島は」

「倒したよ」


 巨大で、底が見えない程のクレーターの中心には中島が居たのだろう。もはや生存を確認することは不可能だ。否――する必要すらない。

 するとばつが悪そうに、雲仙は後頭部を掻いていた。


「ちょっとやり過ぎちまったかな」

 

 戦いに巻き込まれ大損害を被った町並みを見ながら、雲仙は呟く。


「ううん、あの中島を倒す為だったんだもの仕方無い。それに誰もあなたを責めたりしないわ、中島を放っておいたら日本中が、下手をすれば世界中がこれ以上のありさまになっていたかもしれない。雲仙君には心から感謝する」


 火神の言葉に、雲仙は救われたかのように、優しい微笑を浮かべた。

 

 終了した激闘、救われた世界。雲仙と火神は何を思うのだろうか。

 二人は暫く、破壊されながらも悠然と姿を保つ町を眺め続けいていた。


「でもね、雲仙君一つだけ言わせて」

「なんだ?」


 すると、突然火神が真剣な表情で雲仙に言う。


「うんこ漏らしたのだってあなたが招いた種じゃない?」

「今それ言う!?」




~Fin~


 









 


 


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